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入り口の掲示物を見れば一発でわかる…わが子を預けてはいけない「ヤバいプリスクール」の見分け方

プレジデントオンライン / 2023年9月30日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Inna Reznik

英語教育熱の高まりを受けて、首都圏を中心に英語などで保育を行う認可外施設「プリスクール」が増えている。国際教育評論家の村田学さんは「人気の施設が突然閉鎖するなど、一部でトラブルも起きている。問題のある施設は見学で見抜くことができる」という――。

■プリスクール人気で全国に800園

来年春からお子さんを幼稚園や保育園に通わせる予定のご家庭にとって、秋は見学の季節です。英語教育や国際教育に関心をお持ちのご家庭であれば、プリスクールもその候補に挙がっているかもしれません。

プリスクールは簡単に言えば、インターナショナルスクールの幼稚園/保育園バージョン。インターナショナルスクールと同様にもともとは外国人の子供たちの通う保育施設でした。でも1990年代以降は、英語教育への需要の高まりとともに日本人を受け入れるところが増えて裾野が広がり、今や日本全国に800施設ほどあります。

一方でインターナショナルスクールの小学校の数(つまり定員)はそれほど増えていないこともあり、プリスクールを出た子供の多くは、普通の小学校へと進みます。つまりプリスクールは「インターナショナルスクールに子供を通わせる特定の層」のものとは限らず、一般家庭にとっても幼児期の教育の選択肢の1つと言って(首都圏では特に)過言ではないわけです。これまでは高い費用がネックでしたが、幼児教育・保育の無償化でプリスクールに子供を通わせる家庭も一定額の給付が受けられるようになったことも追い風になっています。

プリスクールの多くは行政上の区分で言うと、一条校の幼稚園でもなければ認可保育所でもない「認可外保育施設」に該当します。多くはそれぞれの教育理念の下で誠実な運営が行われていますが、中には問題のある施設があるのも事実です。

■年間保育料500万円の超高級園が経営破綻

実際、プリスクールの倒産は何年かに一度は起きています。例えば2021年には、茨城県つくば市の「つくばインターナショナルナーサリースクール」が経営破綻し、数十人の子供たちが突然、行き場を失いました。今年5月に授業料が年間500万円の超高級スクール「X」が突然閉鎖され、保護者に動揺を与えたことも記憶に新しいと思います。

筆者はこれまでに数多くのプリスクールを見学・取材してきました。実は「X」も取材はしたものの危うさを感じ、記事で紹介することを取りやめた経緯があります。本稿ではその時の経験を交えつつ、プリスクールの見分け方についてお話ししたいと思います。見学の際のご参考になれば幸いです。

■見学ではまず入り口の掲示物をチェック

プリスクールの見学で確かめたいのが、施設の概要を記した書類の掲示の有無とその内容です。私が記事にするのをやめた「X」でも、まず違和感をおぼえたのがここでした。

プリスクールの多くを含む認可外保育施設には、提供する保育内容の掲示、つまり施設の設置者や施設長の名前、年齢別の定員や料金、保育従事者の数や保育室の広さ、提携医療機関といった重要事項について掲示する義務があります。いちばん目に付きやすい正門あたりに掲示せよ、というのが東京都の指導で、多くの施設では雨に濡れても大丈夫なようにラミネート加工して、保護者の目に付きやすい場所に貼り出しています。正門のA4一枚程度の用紙を条例に基づき掲示しているか、いないか。経営者のコンプライアンスの意識が出るのです。

ところが「X」では、玄関の外にも内側にもそうした掲示は見あたりませんでした。この時点で行政の定めた基準や指導に従う意識が低い施設だということが分かるわけです。

基準って何? と思われるかもしれませんね。認可外保育施設にも、設備や運営に関して守るべきさまざまな決まり(「認可外保育施設指導監督基準」)が定められています。行政の立ち入り調査もあり、守っていなければ指導の対象にもなります。

※認可外保育施設指導監督基準

幼稚園
写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

■安全について考慮されているか

玄関から「X」の中に入ると、そこには白を基調としたとてもシックな空間が広がっていました(子供を育てる環境としては色味が少なすぎるようにも思えましたが……)。ただ、入ってすぐのところに地下1階の保育室に下りていく階段があり、幼い子供たちが出入りの際に転がり落ちてしまわないか、危ないなぁと思ったものです。残念ながら、転落防止用の柵といったものは見当たりませんでした。これも国の「認可外保育施設指導監督基準」にある「乳幼児が出入りし、通行する場所に転落事故を防止する設備が設けられていること」に違反しています。

転落防止の柵の例
写真=iStock.com/Brett Holmes Photography
転落防止の柵の例(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Brett Holmes Photography

そもそも、地下に保育室があるということ自体、変わっています。普通は1階とか2階とか、とにかく日当たりのいいところにするでしょう? 先ほどの指導監督基準でも「保育室は、採光及び換気が確保されていること」と定められています。それを無視しているわけですから困ったものです。

保育施設の設備には、それ以外にも細かい基準がいろいろとあります。食事も遊びも同じ空間で行い、トイレトレーニングの終わっていない子もいる中で、子供たちの衛生と安全を守るために定められた決まりです。例えばトイレだけでなく保育室、または通路にも手洗い場を設けなければなりません。消化設備や避難のための階段や非常口、果てはカーテンの防炎処理についても規定があります。

ちなみに、手洗い場がしっかり設置されていたら、その近辺の床が濡れたままになっていないかも見てみてください。登園時、休憩時、外遊びから帰ってきた時も手洗いをするため、教室と洗面台の間はよく濡れます。生徒が滑って転ばないようにこまめに清掃できている園は、安全・衛生意識が高く、授業も質が高い傾向があります。

トイレは職員用と子供用が分けられているかも重要です。職員のプライバシーを守るとともに、性的虐待防止の意味でもトイレは分ける必要があります。

■広さが人数に見合っているか

保育室の広さについても決まりがあります(認可外の場合は1人あたり1.65平方メートル、認可保育所であれば年齢別に定めた規定があります)。入り口の掲示には保育室の面積に関する記載もあるはずなので、広さが人数に見合っているかチェックすることができます。

また、子供たちの成長には外遊びも欠かせません。十分に広い園庭があるところばかりではないでしょうが、お散歩で出かける公園も含めて、外で遊べるスペースが確保されているのかどうか話を聞いてみましょう。

■保育士資格保持者が何人いるか

保育を担当する職員を何人配置しなければならないかという基準ももちろんあり、子供の年齢別に人数が定められています。認可外では全員が有資格者である必要はありません(3分の1の規定あり)が、保育士の資格を持っている人をどのくらい雇っているかは、その施設の信頼度を測る目安になるでしょう。安全や衛生に関する知識や経験があり、指導監督基準を守ることの大切さや意味をよく理解している保育士の存在は重要です。基準を守っていなかったら「何でやってないんですか」と必ず指摘されるはずです(ちなみにXには当時、保育士はいなかったように記憶しています)。私もプリスクールの経営に携わっていた時には、現場の保育士さんから多くのことを学びました。

ただプリスクールの難しいところは、先生全員を日本の保育士資格を持つ人にするわけにはいかないというところです。外国人の先生の割合が小さくなれば、インターナショナルで多様性のある保育環境を作り出すことは難しくなってしまいます。日本人の先生と外国人の先生の比率は1:2~1:3くらいがバランスがいいのではと私は考えています。なお、外国人のスタッフは日本の保育士免許を取得していることは少ないため、外国人のスタッフが海外の保育士資格を持っているか、も聞いておきましょう。

子供たち
写真=iStock.com/Hispanolistic
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hispanolistic

■カリキュラム内容と授業料は妥当か

授業料(保育料)も気になるところです。高いからといって安心できるとは限りませんし、そこそこのお値段でそれに見合うだけの優れた保育や教育を受けられることが大切ですよね。

幼児を対象とした国際的に知られたカリキュラムとしては、国際バカロレアや、イギリスのカリキュラムを基にしたインターナショナル・プライマリー・カリキュラム(IPC)、モンテッソーリ、シュタイナー、レッジョ・エミリアなどがあります。このあたりの認証を取っていればある程度安心と言えるでしょう。

各園の理念に合わせて、自前でカリキュラムを組んでいるプリスクールもありますし、上に挙げた国際的なカリキュラムの「いいところ取り」をしているところもあります。じっくり話を聞いてみましょう。

授業は見学させてくれるかも重要なポイントです。生の授業や生徒たちの様子を見せられる園は、自分たちの保育に自信があります。また、時間割が朝から晩までギチギチに詰まっていないかも確認しましょう。子供の心身の発達のためには、午後3時ぐらいまでで学びは終わり、後は遊びますというくらい時間的にゆとりがあることがとても重要です。時間割がスカスカでも先生の巧みな指導の下、探究的な学びを深めているケースもあります。理解度の向上と脳の発達にはアイドリングタイムが大事なのです。

公園の遊具で遊ぶ子供と支えている母親
写真=iStock.com/O_Lypa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/O_Lypa

こうしたしっかりとしたカリキュラムがある園の授業料で、私の感覚では、年間100万~150万円あたりが妥当な線でしょう。一条校と違って補助金が期待できない認可外保育施設では、経営の安定を考えると安ければいいというものではありません。国際的なカリキュラムの認定を得ている施設の場合、カリキュラムを実践できる教員採用・トレーニング体制が整っているかどうかが経営・運営面からもチェックされていることが多いので、その点でも安心材料になるでしょう。

■本気度がわかる0歳児クラスの人員配置

経営が安定していることの大切さは言うまでもありませんが、ビジネス的にはマイナスになる事柄からプリスクールのやる気が見えてくることもあります。

例えば指導監督基準に従えば、4歳児クラスであれば先生1人で30人の子供を見ることができる反面、0歳児クラスでは子供3人に対して先生を1人配置しなければなりません。つまり認可外保育施設では、1カ月の保育料として10万円もらったとしても、先生1人あたりの「売上」は30万円に過ぎず、小さい子供の教育はやればやるほど儲からないという図式です。それでも定員を守りつつ低年齢の子供たちを預かっている施設というのは、幼児教育に本気で取り組もうとしていると言えるわけです。

■おもちゃの質が良いか

また、だいたいどこの施設も、子供の保育や教育に関して何かしら理念を持っています。その結果、子供たちには少しでもいいものを使わせたいという気持ちが高まって、スコップ1個にしても100均のものじゃなく300円の良質なものにしたい、などと思うようになりがちです。プラスチック製よりも木製のものを、素材感のいいものを使わせてあげたい――。私自身、プリスクールの経営に携わっていた時は、儲けるどころか、自身の貯金を取り崩し、どんどん貧乏になっていました。

親御さんからは見えにくい部分かもしれませんし、ただの自己満足に思えてしまうかもしれません。でも例えば玩具などでプラスチック製のものより木製のものが多かったりすれば、プリスクール運営に対する経営者側の思い入れの深さの目安になるかもしれません。

逆に言うと、壊れたおもちゃや道具が置かれていたり、破れた壁紙がそのままになっている園は子供への想いが足りないと考えていいでしょう。園児の工作物が展示されていることはよくありますが、きれいに整理されているか。飾られていても、埃をかぶったままになっている園は要注意です(Xには埃まみれの工作がありました……)。

幼稚園
写真=iStock.com/Rawpixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

■プリスクールに向いている家庭、向かない家庭

一般の学校に進学するとしても、小学校で英語が必修化され、その後の受験でも英語が得意な子が有利になる中、英語環境に入ることで子供が意識しないで子供がバイリンガルに育つというのはプリスクールの大きなメリットです。

ただ、ご家庭によって向き不向きはあります。プリスクールに合うのは、外国人の先生に対して、「なぜこのような学び方なのですか」っていう質問ができるご家庭です。例えば子供が小さな傷を作ったりした場合でも、「先生、どうしてここに傷があるのでしょうか?」と聞くことができれば、「○○くんと遊んでいる時にブロックで擦ってしまって」で終わる。でも英語だから先生に話しかけづらいと思ってしまう人や、施設のスタッフに訳してもらって話をするような人だと、先生に質問できなくてモヤモヤしてしまいがちです。

あえてプリスクールのデメリットを挙げるとすれば、日本的なお行儀をなかなか身に付けられない可能性があります。アメリカンスクール的なところでは、座り方もトイレに行くのも本人の自由ですから、日本的な文脈に従った行動がなかなか取れないことも考えられます(それが悪いとは一概には言えませんが)。

■うわべのキラキラに惑わされてしまう

問題の「X」は、いちおう魅力的な教育理念を掲げ(カリキュラムが追いついていませんでしたが)、制服もおしゃれなら、随所にこだわり(飲み水はフランス産ミネラルウォーターに限る、といった謎の方針も含め)の見られる施設でした。

かつてはテレビ局のアナウンサーなど有名人のお子さんも通っていたと聞きます。知性も社会からの評価も高い人であっても、わが子の教育となると(子供の教育と未来に夢を抱けばこそ、かもしれません)、言葉は悪いですがうわべのキラキラに惑わされてしまう可能性がある、ということかもしれません。

読者の皆さまには、プリスクールのメリット、デメリットを理解しつつ、注意すべきポイントを念頭に冷静な目で見学していただき、それぞれのご家庭に合った信頼できるプリスクールと出合われることをお祈りしております。

【図表】プリスクール見学 おもなチェックポイント

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村田 学(むらた・まなぶ)
国際教育評論家、国際教育コンサルタント
アメリカ生まれ、日本育ちの国際教育評論家。3歳でアメリカの幼稚園を2日半で退学になった「爆速退学」経験から教育を考え続ける。国際バカロレアの教員研修を修了し、インターナショナルスクール経営などを経てie NEXT & The International School Timesの編集長を務める。

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(国際教育評論家、国際教育コンサルタント 村田 学 構成=村井裕美)

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