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3位は「おちょやん」、2位は「カーネーション」、1位は…平成令和の「NHK朝ドラ」ランキングベスト5

プレジデントオンライン / 2023年9月30日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mirko Kuzmanovic

1961年の開局以来、NHKで放送されている朝の連続テレビ小説、通称「朝ドラ」。平成から令和にかけて放送された「朝ドラ」の中で、最も評価されるべき作品はどれか。ドラマ偏愛コラムニストの吉田潮さんが選んだ「NHK朝ドラ」ベスト5とは――。

■独断と偏見に満ちた20項目でベスト5を選出

極端に好みが分かれる朝ドラ。ここ十数年、ある1作を「ぶっちぎりのベスト」と思っていたが、改めて観直すと意外な伏兵がいたと気付く。もう一度、確認しておこうと思った。

今回は2段階でセレクト。日々つけているドラマ視聴ノートでメモをとった箇所が多い作品をピックアップ。さらに、20項目(5点満点)を設けて、点数を合計してみた(表参照)。え、そんなとこ? と思うだろうよ。ええ、独断と偏見に満ちた項目で合計点が高かったベスト5をお届けします。

【図表】独断と偏見に満ちた「NHK朝ドラ」ベスト5

■「新奇性」ではベスト作品

5位 朝ドラの定番を踏まえつつも新風を吹き込んだ

とにかく笑える「あまちゃん」(2013年) 51点

最も軽妙でやみつきになる明るさの異色作。地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もないヒロイン・天野あき(能年玲奈)がアイドルを目指す物語。

ダメな大人も厄介な大人も多数、脇を彩る役者陣のほぼ全員に、個性や人となりを表す見せ場があるのも凄いし、女の連帯も秀逸だ。祖母(宮本信子)と母(小泉今日子)含めた天野家3世代の物語は、朝ドラの定番を踏まえつつも、家族の距離感をアップデートした描き方だった。不運が重なる友人・足立ユイ(橋本愛)との友情も山あり谷あり嫉妬あり。嘘臭さを打破した関係にリアリティがあった。

合計点は低いが、特筆すべき点が2つ。戦禍などの歴史的悲劇はないが、東日本大震災をどう描くかが注目され、宮藤官九郎の配慮ある手腕が高評価だったこと。口パク・バーター・出来レースなど、今もなおはびこる芸能界の因習を軽妙かつ辛辣(しんらつ)に、しかも朝ドラで描いた点も評価したい。「新奇性」で言えばベスト1だ。

■朝ドラで生涯独身を貫いたヒロインはいるのか

4位 3世代・100年にわたる母娘の恩讐

満足度の高い連係に拍手喝采「カムカムエヴリバディ」(2021年) 66点

上白石萌音・深津絵里・川栄李奈とヒロイン3人体制で、大正から令和を描く壮大な物語。ジャズとあんことラジオ英会話で繋がってゆく緻密なストーリー。

出典=NHKオンデマンド「カムカムエヴリバディ」
出典=NHKオンデマンド「カムカムエヴリバディ」

思わず叫んだほど重なる不運と悲劇に、歯がゆさとやりきれなさを覚えた「安子編(上白石)」、自分を捨てた母親への思いを消化しきれないまま、弱くて脆い男(オダギリジョー)を支える「るい編(深津)」、コメディ調だがすべてのわだかまりが解けていく「ひなた編(川栄)」と緩急のついた運びでまったく飽きさせなかった。

3世代モノが続いたところで、閑話休題。独身のヒロインや子供がいないヒロインはいないのか? ググってみたら、生涯独身を貫いたヒロインは「いちばん星」(1977年、高瀬春奈・五代路子)、「オードリー」(2000年、岡本綾)、「とと姉ちゃん」(2016年、高畑充希)だそう。もちろん、ヒロインが若くて結婚や出産まで描いていない作品もある。「ファイト」(2005年、本仮屋ユイカ)、「瞳」(2008年、榮倉奈々)、「つばさ」(2009年、多部未華子)、「てっぱん」(2010年、瀧本美織)、「おかえりモネ」(2021年、清原果耶)などだ。

また、結婚はしたが、ヒロイン自身は妊娠・出産せず、夫の連れ子の母として生きる作品としては、「こころ」(2003年、中越典子)、「芋たこなんきん」(2006年、藤山直美)など。時代を反映するといっても、朝ドラでは依然として「恋愛→結婚→子育て」が王道である。

あと20年くらいしたら、生涯独身のヒロインの割合も増えるだろうか。個人的にはアセクシュアルのヒロインが登場してもいいと思うんだけど。恋せぬ朝ドラ。ということで、ベスト3へ戻ろう。

■このクズ父には本当に呆れた

3位 ほげた(口ごたえ)が得意な頑張り屋

クズ父にたかられ続けた「おちょやん」(2020年) 74点

大阪局制作のいいところ(表現も笑いも直球)も悪いところ(悪ノリコント風)も感じていたのだが、ポイントとして高かったのは「クズ父に絶望」「貧乏との闘い」「女の連帯」「夫の裏切り」、そして「見事なまでの女のプライドと引き際」があったからだ。毎田暖乃と杉咲花の名女優2人が演じたおかげで、モデルとされる喜劇女優・浪花千栄子の生涯にきっちり思いを馳せることができた。

まずクズ父・テルヲ。演じたのはトータス松本。酒浸り&借金まみれで娘を売り飛ばしておきながら、金の無心に訪れては騒ぎを起こす。朝ドラ名物「父と娘の確執」は好物だが、多くは「家父長制を打破する娘の奮闘」だ。前代未聞のクズ父には本当に呆れた。呆れたが、塩対応と諦観を見せた千代のセリフには感動した。

「憎いとか嫌いやとかそんなんとっくに通りすぎて、心の中はなんや妙に冷たい干からびたもんしか残ってへんのや」

肝臓を患ったテルヲの最期を(ナレ死だけど)、ある意味でちゃんと突き放した千代の心情風景は見事だったと思う。ま、死後もやたら写真のテルヲが出てはくるのだが、「親に対する絶望と断絶」は朝ドラではまれなほうではないだろうか。

■女の覚悟に号泣した

しかも、夫の天海一平(成田凌)が浮気、劇団女優との間に子供ができた後の千代が何と冷静なこと! 怒りと悲しみを飲みこみ、女の意地を見せた千代。慣れ親しんだ道頓堀を離れる潔さは弱さの裏返しでもある。その覚悟に号泣した記憶が。

モノは投げるわ、罵詈(ばり)雑言吐くわ、ムチャブリ(四つ葉のクローバーと新聞の誤字脱字を毎日探せ、など)するわの暴君師匠・山村千鳥(若村麻由美)は、千代と似た境遇(父に追い出されて孤独)であることもわかり、芝居だけでなく人生の師匠にも。

また、幼少期の千代を排除した継母の栗子(宮澤エマ)は千代の許し難き宿敵と思いきや、後半で驚きの事実が。そして、女たちの優しい連帯が始まる。想像をはるかに超えてきた展開に膝を打った次第。続いては、名作中の名作。

■感銘を受けた濱田マリのセリフ

2位 時代を変える発想力、過酷な労働も根性で乗り切る

巻き舌で啖呵きる有言実行の女「カーネーション」(2011年) 91点

コシノアヤコと3人の娘(ヒロコ・ジュンコ・ミチコ)の怒涛(どとう)の半生を、震えるほど完成度の高い人間ドラマに仕上げた傑作。ずっと不動のマイベストだった。なんといっても、ヒロイン小原糸子を演じた尾野真千子に魅了された。

出典=NHKオンデマンド「カーネーション」
出典=NHKオンデマンド「カーネーション」

大阪・岸和田のだんじり祭りが大好きでも、女は神輿に乗れず。男尊女卑が当たり前の時代、呉服屋を営む父(小林薫)は頑固者で、ことあるごとに父とぶつかる糸子。頑固者同士の意地の張り合いには迫力と見ごたえがあり、どこか滑稽でもあり。

アッパッパを縫って売れた喜び、着物から初めて洋服を着て街を歩いた気持ちのよさ、糸子が体験する快感と発見を我が事のように感じられたのは、尾野の熱演のお陰だ。糸子が努力と根性と商才で父親を超えていく姿は気持ちよかったし、実際に超えたときの一抹の寂しさもよくわかる。親の老いを病気や死ではなく寂しさで表現することで、ヒロインが自らに課す大黒柱の責任感に重みが出ていた。

元気で猪突(ちょとつ)猛進なヒロインではあるが、精神的な責め苦もしっかり用意してあるところは、さすが渡辺あや脚本。戦争で心病んだ幼馴染・勘助(尾上寛之)を元気づけようとした糸子は、勘助の母(濱田マリ)から絶縁される。

「世の中みんなあんたみたいに強かない。あんたみたいにずっと勝ってない。あんたの図太さは毒や!」。あのシーンは「努力と根性のある強者だけが光輝く物語」ではないことを示唆していて、深く感銘を受けた。

それだけではない。浮気していた夫(駿河太郎)へのやり場のない怒り、既婚者・周防(綾野剛)との願っても叶えてもいけない恋の後始末、身内や親しい人からつるし上げに遭う地獄……。

そもそも糸子は近年の朝ドラヒロインの中でも、もっとも過酷な肉体労働を自らに課す。「一晩でパッチ100枚」「300坪のタバコ栽培に使うテント」のムチャブリ注文を引き受け、自分の祝言の日ですら「制服10着」を縫って縫って縫いまくる。精神的にもしっかり追い込む要素があって、ご都合主義では決して終わらせない不屈のヒロインを完成させた作品でもあった。そんな傑作「カーネーション」を僅差で上回った作品がある。

■朝ドラ史上最も濃密な夫婦関係

1位 ドのつく貧乏、厄介な父親、女であることの壁

夫婦は「同志か、男と女か」を世に問う「スカーレット」(2019年)93点

陶芸家・神山清子をモデルに描いたフィクションで、主役の川原喜美子を戸田恵梨香が演じた。戸田は中学生から晩年までを違和感なく演じきったし、劇中で情熱や執着、嫉妬や覚悟といった感情の暗喩に使われた「燃え盛る炎」が実にしっくりくる女優でもあった。尾野真千子同様、なにくそ根性がすごいんすよ。私の大好きな要素がてんこもりで、20項目中15項目が5点だったのである。

出典=NHKオンデマンド「スカーレット」
出典=NHKオンデマンド「スカーレット」

まず、お人好しで酒飲み、金のトラブルも多いが、基本は働き者の父(北村一輝)。「おなごに学問は必要ない」の一点張り、口ごたえすればちゃぶ台をひっくり返す典型的な昭和のクソオヤジである。

ただし、喜美子はそんな父にずっと従ってきた。家はド貧乏、絵を描くことが好きだったが進学できず。父が見つけてきた就職口は大阪の下着会社の社員……ではなく、その社長がもつアパート「荒木荘」の女中、要するに下働きだ。少ない給金で家計を支え、父の借金を肩代わりし、自分のやりたいことをやるためにはいちいち父の許しを請わなければいけない。あまりに不自由で不憫だが、喜美子には試練だけでなく、ソウルメイトと遭遇するご褒美も与えられた。それが十代田八郎(松下洸平)である。八郎は父とは真逆、「男女対等の精神」と「共通言語」の持ち主だったのだ。

たぶんこの夫婦の対話は、朝ドラの中でも最も濃密で深いものだったのではないだろうか。いちゃつくふたりも可愛らしかったし、欲望を口にする素直さもよかった。これで喜美子の苦労も報われると思いきや……別れるのである。お互いが次第に息苦しさを感じていく。陶芸家としての才能や情熱、相互扶助の考え方、並んで歩くはずがふたりの歩調がずれていく。

■ベスト5のうち4作品が大阪局制作

夫婦は「同志か、男と女か」。喜美子はさんざん「女であることの不自由」に耐えてきたため、八郎には同志であってほしかったのだろう。八郎は愛情の深い優しい男だが、喜美子が抱えてきた「性差による不自由への抵抗」まで慮ることはできなかったように思う。嫌いになったわけでも憎んでいるわけでもない、ほんの小さな亀裂だが修復不可能な溝へと広がる様子が痛くて切なくておいおい泣いた。

かいつまんだつもりが結局長くなっちゃった。ということで、10月2日からは趣里がヒロインを演じる「ブギウギ」が始まる。今回書いた5作品中4作品が実は大阪局制作……。どんだけ大阪局好きやねん。メモをとる準備は万端だ。

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吉田 潮(よしだ・うしお)
ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。

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(ライター 吉田 潮)

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