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わが国を代表する優良企業だった東芝は、なぜ上場廃止に追い込まれる「問題企業」に劣化したのか

プレジデントオンライン / 2023年10月2日 9時15分

インタビューに答える東芝の島田太郎社長(左)とジェリー・ブラック社外取締役=2022年9月12日、東京都港区 - 写真=時事通信フォト

■年内にも上場廃止になる見通し

9月21日、東芝は、“日本産業パートナーズ(JIP)”など国内の企業連合による株式公開買い付け(TOB)が成立したと発表した。株主のTOBに対する応募比率は78.65%、成立に必要な66.7%を上回った。今後、必要な手続きを経て、年内にも東芝は上場廃止になる見通しだ。東芝の経営再建に向けた取り組みは一歩前進したといえる。

ただ、重要なポイントは、なぜ、わが国を代表する優良企業だった東芝が、上場廃止に追い込まれることになったかだ。その原因を一言でいえば、経営の失敗といえるかもしれない。一時期、同社の経営者は短期間の過度な利益追求や、不正経理の発生を防ぐことができなかった。世界的に高い技術力を持つ企業であったとしても、経営が失敗すると企業の存続は難しくなる。

上場廃止によって東芝は、“モノ言う株主”など一部の利害関係者の影響を受けづらくなる。JIPを中心とする企業連合の支援もあり、東芝の経営再建は加速するだろう。やりようによっては東芝が思い切った施策を打ち、わが国の産業界、経済にプラスの影響が波及する展開も想定される。先行きは楽観できないが、東芝経営陣がJIPとともに出資者の利害を調整し、早期再建を実現することを期待したい。

■経営難からどうやって大企業に成長したのか

かつて、東芝はわが国を代表する、人々の生活に欠かせない企業だった。1939年、芝浦製作所と東京電気の合併によって東京芝浦電気株式会社が設立された。米国のアメリカのゼネラル・エレクトリック(GE)の出資、技術供与を取り付けることによって事業は拡大した。特に、社外から招いた2人の経営者の功績は大きかった。

第2次世界大戦後の一時期、東芝は経営危機に直面した。戦後直後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ・SCAP)は労働組合の育成を支援した。東芝でも労使の対立は激化した。戦後の経済が混乱する中での賃上げなどは業績悪化につながり、東芝は経営危機に直面した。

その状況下、東芝は社外からトップを招いた。1949年4月に東芝の社長に就任した石坂泰三氏は、就任早々、自ら労働組合側と向き合い、難題の人員整理を実行した。東芝は倒産の危機を脱した。

■当時から経営陣の問題点が指摘されていた

その石坂氏は経営陣の改善を痛感したと書き残している。経営幹部が組合に押しかけられないようにするために、社長さえ誰がどこにいるかわからなかった。石坂氏の後、岩下文雄氏が東芝の社長に就任したが、業績は再度悪化した。当時、日本経済は高度経済成長期のさなかだったが、東芝はそうした追い風を成長につなげることが難しかった。

業績立て直しのために、東芝は石川島播磨重工業(現IHI)から土光敏夫氏を招いた。土光氏は、経営の合理化を断行し再建を果たした。石坂、土光両氏の手腕によって、東芝は成長を遂げた。1969年には、アニメ『サザエさん』の提供をはじめ、名実ともにわが国を代表する優良企業の道を歩んだ。

土光氏の経営手腕も東芝の成長に貢献した。土光氏は、従業員の自主性を尊重する経営風土を醸成した。それは、後のNAND型フラッシュメモリ、ノートパソコンなど世界初といわれた東芝の製品開発を支える原動力となった。1981年以降、土光氏は行財政改革(“土光臨調”)にも取り組んだ。行政改革と民間企業の経営と領域は異なるが、土光氏は改革を本気で進めた。

■厳しい売り上げ目標の裏で1562億円の利益操作

東芝は石坂、土光両氏の手腕によって、より成長期待の高い分野に進出し付加価値を生み出した。社会に貢献するという社風も確立し、後継者を育てた。両氏は、経営者の責任を果たした。

しかし、その後、東芝の経営は停滞した。バブル崩壊やリーマンショックなどの影響もあり、東芝は経営の役割を発揮することが難しくなった。象徴は、経営者からの“チャレンジ”の号令だ。ある時期、同社経営のトップは、ノートパソコンなどの過度な売り上げ目標の実現を厳命した。2008年度から2014年度の4~12月期まで計1562億円の利益操作がなされた(不正会計問題)。

東芝は、新しい領域で付加価値を生み出すよりも、既存の事業の収益を短期間のうちに増やそうとした。経営トップの過去の成功体験への執着、自尊心などは強かった。目先の収益を過度に追い求めるトップに周囲がブレーキをかけることも難しかった。

一方、世界経済のデジタル化や国際分業は加速した。米国ではソフトウェアの開発が加速し、台湾や韓国では半導体やデジタル家電メーカーが急成長を遂げた。東芝は競争力を失った。資産の切り売りによって、事業運営体制は縮小均衡に陥った。

■東芝の経営者は何をすべきだったか

債務超過から脱し、上場を維持するために、東芝は公募増資を実施した。モノ言う株主が増資に応じたことによって、株主との利害調整の難しさは増した。上場を維持することも難しくなった。経営は失敗した。

経営者の役割とは、既存分野から成長期待の高い分野にヒト、モノ、カネを再配分し、無理なく、長期にわたって収益を増やすことと定義できるかもしれない。成長戦略をめぐり株主などと考えが異なる場合、迅速に納得を取り付けられるよう説明責任を果たす。

その上で、組織の士気を高めつつ、最先端分野での成長機会を見出すセンスを持つ人材を発掘し、後継者を育成する。そうした経営者の役割、責任のまっとうが、企業の社会的な責任を果たすために欠かせない。東芝はそれが困難になり、破綻に近い状態に陥った。

東芝デジタルソリューションズのシリコンバレーオフィス
写真=iStock.com/Sundry Photography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sundry Photography

■“オール日本株式会社”のような企業体になる

今後、東芝は上場廃止になる見込みだ。経営再建は新たなステージを迎えた。上場の廃止に伴い、東芝は多くの株主の目にさらされなくなる。

一時、モノ言う株主は東芝株の3割を取得したとみられる。そうした株主は今回のTOBに応じたようだ。上場廃止をきっかけに、経営陣は、これまでのように一部の株主との利害調整にエネルギーを割く必要性は低下するだろう。それは経営の改革を加速するチャンスだ。

また、JIPは、わが国を代表する主要企業約20社から出資を取り付けた。事実上、東芝は、わが国主要企業連合が主導する“オール日本株式会社”のような存在になるといってもよい。非上場化のメリット、出資企業の協力を生かすことによって、思い切った施策を打ち出せる可能性は高まる。半導体などわが国の産業政策が修正されたことも、東芝にとってプラスだ。

■経営再建へ“茨の道”はつづく

今後の展開次第で、東芝の今後の事業戦略がわが国経済に明るい兆しをもたらすことも考えられる。熊本県菊陽町では台湾積体電路製造(TSMC)などが、北海道千歳市では次世代半導体の製造を目指すラピダスが工場建設に着手し、近隣地域で需要が盛り上がった。

東芝が経済安全保障面で重要性の高まるインフラや通信機器の製造拠点などを国内で建設する機運が高まれば、同社の成長期待だけでなく、経済にもプラスの影響がもたらされるはずだ。

これから、東芝トップの意思決定の重要性は一段と高まる。東芝のトップは、投資ファンドを運営するJIPとの連携を強化し、出資企業とのより円滑なコミュニケーションを強化しなければならない。その上で、ヒト、モノ、カネをより成長期待の高い分野に再配分し、収益を獲得できる分野を拡充することが求められる。

先端分野での技術を最大限に生かす意味で、東芝の再建は日本経済の将来がかかっている案件でもある。経営者がその役割を理解し、発揮して再建を成功に導くことを祈りたい。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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