「ジャニーズの社名変更」にダマされてはいけない…「少年愛」を報じて左遷された元週刊誌編集長が危惧すること
プレジデントオンライン / 2023年9月29日 17時15分
■会見直後にハワイへ高飛びしていた
今年のNHK「紅白歌合戦」は、ジャニーズ所属タレントはゼロになる。
山名啓雄メディア総局長は9月27日行われた会見で、「現状では」という前提はつけながらも、そう語ったと報じられた。
週刊文春(9月28日号)は、「涙の会見直後にジュリー前社長がハワイで豪遊」「860億円の相続税逃れを画策」と報じている。
おおむねこんな話だ。ハワイのオアフ島の空港から車で約20分。ワイキキビーチから徒歩5分の絶好のロケーションに立つのは「トランプタワーワイキキ」。
4時間超えの会見直後、羽田空港の国際線ターミナルで、ホノルル行きの航空機に飛び乗ったジュリー氏がたどり着いたのはトランプタワーだったという。
「実はジュリーさんはこの高層階にコンドミニアムを所有しているのです」(ジュリーの知人)
ジュリー氏はこの一室を2011年に推定約5億5000万円で購入したという。ここで娘と一緒にリラックスして楽しんでいたそうだ。
ジャニー喜多川も生前、何度もハワイへ足を運んだという。
「ジャニーさんはシェラトン・ワイキキの最上階のスイートを年間貸切りしていた。ジュニアを連れて、一緒にここに泊まっていました」(ジャニー喜多川の知人)
ハワイはジャニーズジュニアたちの「性加害」の現場ともなっていたというのである。
■「午前中からジャニーさんにヤられるんです」
元ジャニーズJr.の大島幸広は当時13歳だった。1998年10月にジャニー喜多川に連れられて、約10人のジュニアとともにシェラトン・ワイキキに滞在した。
集英社が出している雑誌『Myojo』のための撮影だった。
ジュニアたちはホテルで朝食をとると目の前のワイキキビーチに飛び出していった。だが大島だけが、「ユー、ちょっと待って」と呼び止められた。
「午前中からジャニーさんにヤられるんです。ことが終わると、『行っちゃいな』と解放される。ハワイだとジャニーさんは普段より欲望丸出しというか。一日一回どころじゃなかった」
そう大島は語っている。
860億円の相続税逃れとはこういう話だ。
ジュリー氏たちの会見に先立ち、外部専門家による再発防止特別チームが、性加害問題の背景に同族経営の問題があると指弾した。そしてジュリー氏は代表取締役社長を辞任した上で「解体的出直し」を図るべきだと提案していた。
だが、ジュリー氏は代表取締役に居座った。そこには800億円を超える税金問題が絡んでいると、文春は指摘する。
2021年にメリー喜多川社長が亡くなると、メリー氏の株はジュリー氏に渡り、彼女は全株を保有することになった。秋山清成税理士の算出によれば、ジュリー氏が収めるべき株の相続税は860億円と推計できるという。
■支払いを合法的に逃れる“ウルトラC”が存在した
だが、この巨額な相続税をジュリー氏は支払っていない。ウルトラCによって支払いを免れているそうなのだ。
国税庁関係者が「ジュリー氏は『事業継承税制』の特例措置を使っている」と種明かしする。
事業承継税制とは一体、何か? 板倉京税理士が解説する。
「近年、後継者不足を理由に黒字廃業する中小企業が後を絶たない。そこで国は、二〇〇九年から中小企業の事業承継を後押しするため、『事業承継税制』を導入しました。二〇一八年にできた特例措置が適用されれば、株式の相続税や贈与税の納税が猶予され、実質ゼロにできるのです」
そのためには代表取締役に座り続ける必要があるというのだ。
「相続税をゼロにするには、申告期限の翌日から五年間、代表取締役を務めないといけません。(中略)なぜ、五年間かというと、後継者育成に最低五年は必要とされているからです。(中略)つまり二〇二五年五月まで、ジュリー氏は代表取締役を務める必要があるのです」
なぜ、年間売り上げが1000億円ともいわれるジャニーズ事務所が中小企業なのか? 実は、設立以来ずっと資本金は1000万円に据え置かれているから、中小企業扱いになっているのだという。まさに税制の抜け穴をついた究極の節税対策である。
もし今回ジュリー氏が代表取締役を辞任していたら、特例措置の認定が取り消しになり、それまで猶予されていた相続税に利子分を加えて納付しなくてはいけないという。
■「太陽系全域における…」専属契約書の中身
「ジュリー氏が代表取締役に留任した最大の理由は、税金逃れに他ならない。このまま彼女は、性加害の被害者補償を名目に、二〇二五年五月まで時間稼ぎをするつもりでしょう。
事業承継税制を申請すること自体は何ら違法ではないが、きちんと会見で説明すべき。税金逃れを隠して『被害者への補償・救済』へと目的をすり替えるのは、悪質と言わざるを得ません」(国税庁関係者)
10月2日に、社名変更を含めて、社の方針を発表するというジャニーズ事務所だが、根本にある同族経営の問題から逃げていては、信頼回復などできるはずはないと思う。
ところで週刊現代が珍しく2週連続でジャニーズ問題を取り上げている。9月23日号では、「専属契約書」、9月30日・10月7日号では現在も所属している有名タレントの1年間分の「給与明細」を公開している。
契約書の第2条にはこうあるという。
「乙(タレント)は甲(ジャニーズ事務所)に対し、日本を含む全世界を包含する太陽系全域における芸能創作活動のために第三者と交渉・協議する権限を与え」、所属タレントたちが生み出す著作権に関しては、「甲は自由に利用及び処分できる」としている。
■全報酬の25%をグループのメンバーで分け合う
ジャニー喜多川が考えていたのは日本や世界などという狭い世界ではなく、太陽系全域だったというのである。
また、現代によると、事務所側の権利を定めた条文は多いが、タレント側の権利を明記した条文がほとんどみられないという。
「当該の契約書において懸念されるのは、一般的な専属契約で通常規定されている契約期間の定めが見当たらないこと。契約の解除事由についての規定もないことから、事務所がタレントの退所を前提とした話し合いに応じないことも考えられる」(竹村公利弁護士)
また、
「(タレント側が)芸能創作活動に関して第三者といかなる契約をも締結したり、締結のための交渉をしてはならない」
という条項もあり、タレントの権利をまったく認めないで事務所に縛っていたことが、これを読めばよくわかる。
さらに、タレント側に支払われるギャラは、まず事務所側が必要諸経費として50%を差っ引き、その残りの50%も事務所が取り、残りの50%をアイドル仲間で分け合う。
次号では、有名タレントの「給与明細」を報じている。ある年の6月の支払いは、大手食品メーカーの広告出演料→1500万円。7月は大手飲料メーカー広告出演料→1100万円。9月支払い分は大手電機メーカー広告出演料→1100万円。
■テレビ出演はたったの「1200円」
だが、テレビの歌番組の出演料は笑っちゃうぐらい安い。1月分、キー局長寿歌番組→2000円。5月支払い分、キー局人気歌番組→1200円。8月支払い分、キー局人気歌番組→4100円。
テレビに出ることはあくまで宣伝で、稼ぐのは広告や舞台だということがよくわかる。
バラエティだと少し高くなり、10万円から20万円になることもあるようだ。民放キー局のスペシャルドラマに出ると、ギャラは35万円。
これらに加えて、ジャニーズ事務所では楽曲の印税も支払われる。年4回支払いで1回分が200万円から600万円だそうだ。コンサート収入が約340万円。
広告出演が順調なら年収1億や2億は稼げるのだろうが、ジャニー喜多川事件の影響で大手スポンサーが次々にジャニーズ所属のタレントは使わないと宣言しているから、CM収入が大幅に減ることが予想される。
冒頭書いたように、遅まきながらテレビメディアもジャニーズ事務所との関係を見直す動きが出てきた。TBSの佐々木卓社長は会見で、「ジャニーズ事務所に人権の改善を促すため、我々のことも正さなくてはいけない」と述べている。
■NHKの西館7階には「ジャニーズ専用部屋」
「特に1999年から2000年に週刊文春が喜多川氏による性加害を『セクハラ』などとして取り上げたキャンペーン報道を展開した頃や、04年に、事務所側が起こした名誉毀損(きそん)訴訟で、記事の重要部分を真実と認定した東京高裁判決が確定した頃を挙げながら、佐々木社長は『私たちはニュースでこの問題を取り上げてこなかった』と指摘。
『私自身長く記者をしてきて、自分自身の当時を振り返っても、人権意識の乏しさや芸能界のニュースに対する向き合い方を思い出すと、本当に恥ずかしいと思っている』と語った」(朝日新聞デジタル9月20日 20:30)
恥ずかしいのはTBSだけではない。FLASH(10月10日号)は、NHKの本部がある渋谷の放送センターの西館7階にジャニーズ専用の部屋が用意され、子どもたちとジャニー喜多川が自由に闊歩(かっぽ)していたと報じている。
さらに、ジャニーズ事務所が所有する渋谷の7階建てのビルを、NHKは数年前から3フロアほど賃貸契約しているという。賃貸料が年間2億円。だが「あまり使われていません」(NHK関係者)。大家であるジャニーズのタレントたちに出演してもらうために契約しているのではないか、という疑惑まであるというのだ。
サンデー毎日(10月8日号)でミュージシャンの近田春夫が「テレビ朝日の敷地に2階建てのプレハブみたいなジャニーズの練習場があったのよ」と話している。
■なぜ社会は人権侵害を約70年も放置してきたのか
こうしたメディアとジャニーズ事務所との「馴れ合い」の実態にもメスを入れる必要があることはいうまでもあるまい。
ジャニー喜多川事件はジャニーズ側の問題だけではなく、メディア側の責任も厳しく問われなければいけない。
かつて「王国」とまでいわれた渡辺プロダクションは、ジャニーズと同じように人気タレントたちを大量に抱え、テレビや出版を思いのままに動かしていた。だが、それに反発したテレビマンたちが、テレビ独自にスターの卵たちを発掘する番組をつくり、ナベプロ王国を崩壊させた。なぜ、今回はそうした動きができなかったのだろう。
神里達博千葉大学大学院教授は朝日新聞(9月27日付)でこう問うている。
「この問題の第一義的な責任がジャニー喜多川氏と同事務所にあるのは明白だ。だが、ここで改めて問うべきは、なぜ私たちの社会が、この重大な人権侵害を約70年もの間、事実上、放置してきたのか、である」
私も講談社で長年編集長を務めてきた。私にもこの問題をいち早く追いかけながら、そのまま放置してしまった重大な責任があると思っている。
■「少年愛」を報じた直後、婦人雑誌に“左遷”
以前にも触れたが、私が週刊現代でジャニー喜多川の「少年愛」について取り上げたのは1981年4月。タイトルは「『たのきんトリオ』で大当たり 喜多川姉弟の異能」。タイトルを含めて、私がつくった原稿とは似ても似つかないものになってしまったが、業界的には大きな騒ぎになった。
メリー喜多川氏は、「講談社の雑誌にはうちのタレントを一切出さない」と通告してきた。
週刊文春は、この騒ぎを大きく取り上げた。一方、社はジャニーズ事務所に頭を下げ(私の想像だが)、婦人雑誌へ私を飛ばして事態の収拾を図った。私は社を辞めようと思った。だが、生来軟弱なため、それもできずに社の隅でダラダラと過ごすことになる。
このことでジャニーズ事務所は出版社の黙らせ方を学んだのであろう。テレビも同じ構造である。
私はその後、1990年から1997年までFRIDAYと週刊現代の編集長を務めた。その間、ジャニーズのタレントたちのスキャンダルは山ほどやったが、ジャニー喜多川の性癖を追及する記事はほとんどやらなかった。
80年代とは比べものにならない、多くの人気アイドルグループを抱えたジャニーズ事務所と事を構えれば、メリー喜多川氏は以前と同じように「一切タレントは出さない」といってくることは間違いない。
■あのとき追及していたら、多くの被害者を救えたはず
マンガ誌、少年少女雑誌、女性誌の編集長たちと個別に会って説得しても、快くOKしてくれるとは思えない。そうした動きを社が知ったら、ジャニーズ事務所の“腰巾着”役員が、真っ青になってすっ飛んでくるはずだ。
広告部からは、ジャニーズのタレントを使った広告が入らないと悲鳴が上がるだろう。
先のサンデー毎日で、今井照容氏が寄稿した中に、ジャニー喜多川問題追及をした元文春編集長・木俣正剛氏のこんな言葉がある。
「広告と出版からは、木俣は何ということをしてくれたのだ、と。これが文春社内の本音の反応でした。(中略)それでも、社内の誰もが『週刊文春』がジャニーズと闘うことを許してくれたのは、文春には報道の自由を守るという社風があったからです」
残念ながら、私に不正を徹底的に追及するという気概もなければ、社に報道の自由を守るという空気もなかった。この問題をやるには社を辞める覚悟で臨まなくてはならなかったが、またも私は日和ったのである。
文春がジャニー喜多川の連続追及を始めたのは、私が現代を辞して2年後だった。
81年からジャニー喜多川の「少年愛」を追及していれば、多くの被害者を救えたはずだ。そんな負い目もあって、定年間近から最近までジャニー喜多川批判を続けてきたが、何の力にもならなかった。
BBCの取材にも協力し、この問題について長時間のインタビューにも答えたが、見事にカットされた。
■出版社は事務所との関係をどうするつもりか
文春(同)の誌面にも、「メリー氏が元気なときは、ジュリー氏とマガジンハウスなど仲の良い出版社の幹部数人とで、ホノルルのフレンチで食事をする会もあった。一時はゴルフも習っていたので、こっちでもやっていたんじゃないかな」(親子を知る人物)
13歳だった大島氏がジャニー喜多川から性加害を受けたのは、集英社の雑誌『Myojo』の撮影のために行ったハワイだった。
そのほかにも、ジャニーズのアイドルたちの写真集やカレンダーで儲(もう)けた出版社は数多ある。
思い出すのはジャニー喜多川が亡くなった直後の週刊朝日である。表紙に「追悼ジャニーさん ありがとう! YOU、やっちゃいなよ」と大きく打った。休刊しても汚名は残る。
この原稿を書いている時点で、ジャニー喜多川の犯罪を見逃してきたことへの謝罪や、ジャニーズ事務所との関係を今後どうするのかという「声明」を出した出版社はないようだ。それとも出版社はメディアではないと思っているのだろうか。
ジャニー喜多川の犯罪は到底許せるものではないが、ジャニーズ事務所を解体させればすべてが解決するというわけではない。
このままメディア側の責任を曖昧なままにすれば、少年少女たちを食い物にする第2のジャニー喜多川や、ジャニーズ事務所は必ず出てくる。
■「解体すればすべて解決」というのは妄想だ
文春が連続追及し、ジャニー喜多川側が訴えた裁判で、2004年にジャニー喜多川の性加害は真実と認められるとの高裁判決が確定している。しかし、その後も平然とジャニー喜多川はジュニアたちを弄んでいたのだ。
文春だけこの問題を追及し続けたが、他のメディアは沈黙したままだった。外国メディアであるBBCがドキュメンタリーを放送してから、ようやく問題の重大さに気がつき慌てだした。
報道の自由度が低いどころの話ではない。お粗末な国のお粗末なメディアの実態が世界中に知れ渡ってしまったのである。
メディアの責任は重大で、ここで一度立ち止まらないと崩壊に歯止めがかからない。
そこで私はこう考える。新聞、テレビ、ラジオ、出版が応分に負担して、今回の事件のメディア側の責任を徹底検証する第三者委員会を作ったらどうだろう。
半年以上かけて、徹底的な聞き取り調査を行い、問題点を摘出し、その結果を公表するのだ。
ジャニーズ事務所が消えてなくなれば、すべて解決するかのような“妄想”は捨てるべきだ。私はそう考えている。
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ジャーナリスト
1945年生まれ。講談社で『フライデー』『週刊現代』『Web現代』の編集長を歴任する。上智大学、明治学院大学などでマスコミ論を講義。主な著書に『編集者の学校』(講談社編著)『編集者の教室』(徳間書店)『週刊誌は死なず』(朝日新聞出版)『「週刊現代」編集長戦記』(イーストプレス)、近著に『野垂れ死に ある講談社・雑誌編集者の回想』(現代書館)などがある。
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(ジャーナリスト 元木 昌彦)
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