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「聞く力」の対象は永田町の政治家だけ…支持率低迷でも岸田首相が「衆院解散」を模索する本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年10月3日 11時15分

2021年10月4日、首相就任後の記者会見に臨んだ岸田文雄氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

内閣改造後も岸田政権の支持率低迷が続いている。フリージャーナリストの宮原健太さんは「今回の内閣改造は岸田首相の来年秋の自民党総裁選再選という、国民からしたらどうでもいい政局が根底にある。そのため、国民からすれば意味不明の内閣改造になってしまった」という――。

■最初に入ってきた情報は「小渕優子幹事長説」

岸田文雄首相が9月に実施した内閣改造・党役員人事は、まさに「人事のための人事」だった。

党内基盤の強化を優先した結果、新しい内閣が何をやりたいのかが見えてこない改造となり、政権支持率は低迷を続けている。

いま、永田町では10月20日に召集される臨時国会の中で、岸田首相が解散総選挙に打って出るのではないかと注目されているが、実はこれも、内閣改造で政権支持率が上がらなかったことの副作用だと言える。

政治の世界で一体何が起きているのか。

内閣改造の中身を振り返りながら、今後について展望していきたい。

今回の内閣改造劇について、永田町を取材していて最初に入ってきた情報は「小渕優子幹事長説」だった。

改造の2カ月以上前である7月からこの話は噂されていて、改造の最大のサプライズとなるのではないかと見られていた。

同時に、茂木敏充幹事長は財務大臣にスライドするという案も浮上した。

しかし、それから程なくして「茂木幹事長が続投を望んでいる」との情報が永田町を流れ始め、そのまま「幹事長続投説」が濃厚になっていった。

■同じ派閥に属する小渕氏と茂木氏の権力闘争

今振り返れば、この裏には小渕優子氏の復権を目指す故・青木幹雄参院会長の意志を受け継ぐ森喜朗氏と、幹事長を続けて将来の総理総裁候補として力をつけたい茂木氏の間で情報戦が行われていたことが分かる。

永田町を駆け巡る情報は意図をもって流されることが多い。

要は、同じ平成研究会(茂木派)という派閥に属する小渕氏と茂木氏の間での権力闘争が背景にあったわけだ。

最終的に岸田首相は茂木氏の続投を選んだ。

これは岸田首相が茂木氏の幹事長続投をのむ代わりに、茂木氏は来年秋の自民党総裁選に出馬せず、岸田首相を応援するという「密約」が交わされた結果だと見られる。

岸田首相にとっては来年秋の総裁選で自身が再選することが最大の目標だ。

茂木氏はそのライバル候補として将来立ちはだかる可能性があり、幹事長を続投させてでも、ひとまず次期総裁選の安寧を選んだわけだ。

そして、この人事が今回の内閣改造の本質だと言える。

■岸田首相は総裁選で敵を作らないことに徹した

名誉職である麻生太郎副総裁の続投は既定路線としても、松野博一官房長官、萩生田光一政調会長、西村康稔経産大臣、高木毅国対委員長、世耕弘耕参院幹事長の安倍派5人衆が全員留任し、2021年の自民党総裁選で岸田首相が戦った高市早苗経済安保大臣、河野太郎デジタル担当大臣も閣内で仕事を続けることになった人事はあまりに露骨だった。

岸田首相は内閣改造で彼らを続投させることによって党内の基盤強化を図り、総裁選での敵を作らないことに徹したのである。

一方で、それ以外の閣僚人事は刷新感の演出に使われた。

麻生派重鎮の鈴木俊一財務大臣と公明枠の斉藤鉄夫国交大臣を残しつつ、ほかは初入閣が目立つ。

それらも派閥の力関係の中で選ばれている者が多いが、国会議員歴10年未満、副大臣未経験の議員から加藤鮎子こども政策担当大臣、自見英子地方創生担当大臣が選ばれたことは話題になった。

これまでも年功序列を無視して若手から抜擢された大臣はいたが、一度の内閣改造で若手が2人も起用されるのは珍しい。

さらに、新しい内閣では女性閣僚の数も5人と過去最多タイとなった。

つまり、今回の岸田首相による内閣改造は、党内基盤強化のために極端なまでに骨格の維持をしつつ、それ以外は刷新感演出のための人事に腐心した。

■国民からしたら「政局」はどうでもいい

だが、早くもそれは「二兎追うものは一兎も得ず」になりつつある。

報道各社の世論調査では、改造直後であるにもかかわらず、内閣支持率が軒並み低迷し、毎日新聞と産経新聞の調査では支持率が改造前よりも改造後のほうが下がる結果となった。

なぜ内閣が新しくなっても支持率は上がらなかったのか。

その理由の1つには、今回の内閣改造が「人事のための人事」だと国民に見透かされたということがあるだろう。

前述の通り、今回の内閣改造は岸田首相の来年秋の総裁選再選という、日々の生活を営む国民からしたらどうでもいい政局が根底にある。

そのため、新しい内閣で新しい閣僚のもと、国民のために何をやっていくのかがメッセージとして伝わらない改造となってしまった。

こうした詰めの甘さは個別的事象にも表れている。

小渕優子氏は茂木幹事長が続投する中で選対委員長にスライドとなったが、これは過去に元秘書が政治資金規正法違反事件を起こしたことを追及されないよう、記者会見が少ない立場につけたと言われている。

しかし、それだけに小渕氏の就任会見は注目を集め、過去の事件について問われて涙を浮かべる様子がニュースで取り上げられ、話題になってしまった。

記者会見で政治資金問題に関する質問を受け、厳しい表情を見せる自民党の小渕優子選対委員長=2023年9月13日午前、東京・永田町の同党本部
写真=時事通信フォト
記者会見で政治資金問題に関する質問を受け、厳しい表情を見せる自民党の小渕優子選対委員長=2023年9月13日午前、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト

■低支持率なのに「解散風」が強くなっている

また、女性閣僚5人の反作用で副大臣・政務官人事では女性がゼロという異常事態を引き起こした。

岸田首相が女性閣僚起用について「女性ならではの感性や共感力も十分発揮してほしい」と述べたことも批判を浴びたが、結局、今回の内閣改造における女性起用はサプライズ要員でしかなかったことが露呈したと言える。

このように、自民党内の情勢や表面的な外見だけを気にして内閣改造をしてしまったため、中身を伴わない新内閣となってしまった。

一方で、岸田首相は来月に召集される臨時国会で解散総選挙に踏み切るのではないかという観測が強くなっている。

政権支持率が低ければ、政府与党が選挙で負ける可能性が高くなるため、解散は見送られることが多い。

しかし、今の岸田政権は支持率が低いにもかかわらず、永田町で「解散風」が吹いている。

その理由は来年秋の総裁選までのスケジュールを見るとわかる。

岸田首相は解散総選挙をしない限り、今の不人気内閣のまま総裁選に突っ込むことになるのだ。

 選挙ポスターの掲示板
写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maroke

内閣改造は一般的に国会閉会中に行われるため、タイミングは2回しかない。

今年の臨時国会が終わった後の冬か、来年の通常国会が終わった後の夏だ。

しかし、今年の冬は内閣改造をするにはあまりにも早すぎる。

そして、来年夏は総裁選が9月に迫っており、再選後の内閣改造を踏まえれば、その前に改造するとは考えにくい。

■早い段階で衆議院を解散したほうがマシ

つまり、解散しなければ今の内閣のまま、下手すれば政権支持率も低迷したまま総裁選に突入し、「岸田おろし」が起きてしまう可能性があるわけだ。

それならば、できるだけ早い段階で衆議院を解散し、組閣しなおしたほうがマシではないか。このような見立てが永田町では広がっている。

早めに解散総選挙を打つことには、総裁選と総選挙の日程を引き離すというメリットもある。

今の衆議院議員の任期は2025年10月で、それまでに必ず総選挙をしなければならない。

そうなると2024年9月の総裁選から1年以内に解散総選挙があると見られ、自民党議員は次期総裁選で選挙を強く意識して総理総裁を選ぶことになる。

岸田首相が低支持率で挑んだ場合は逆風となる可能性が非常に高いだろう。

こうしたリスクを回避するためにも、岸田首相は早めに解散総選挙に打って出るべきだと判断するのではないか。

■「経済対策」に気合いが入っている理由

岸田首相は9月25日に、10月中に取りまとめる経済対策の5つの柱を発表し、「日本経済で長年続いてきたコストカット型の経済から30年ぶりに歴史的転換を図る」と豪語した。

実効的な経済対策になるかは予断を許さないが、気合いが入っていることは確かだろう。

この経済対策で国民の関心を集めることができれば、岸田首相は一気に解散総選挙になだれ込む可能性がある。

しかし、それは来年秋の総裁選再選という岸田首相の個人的な目標のために行われる解散であり、総裁選に向けた基盤強化のために行われた内閣改造と似ている。

改造で支持率が回復しなかったという前例があるだけに、解散戦略も上手くいくとは限らない。

「岸田首相が交代しない限り、もう政権支持率は上がらないのではないか」という評判は自民党内でも少なくない。

果たして、10月から開かれる臨時国会から解散総選挙はあるのか否か。

あまりに長すぎる夏休みを経て、永田町に喧騒が戻りつつある。

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宮原 健太(みやはら・けんた)
ジャーナリスト
1992年生まれ。2015年に東京大学を卒業し、毎日新聞社に入社。宮崎、福岡で事件記者をした後、政治部で官邸や国会、政党や省庁などを取材。自民党の安倍晋三首相や立憲民主党の枝野幸男代表の番記者などを務めた。2023年に独立してフリーで活動。YouTubeチャンネル「記者VTuberブンヤ新太」ではバーチャルYouTuberとしてニュースに関する配信もしている。取材過程に参加してもらうオンラインサロンのような新しい報道を実践している。

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(ジャーナリスト 宮原 健太)

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