白米をそのまま食べるより「牛丼」にしたほうが健康にいい…「体に悪い」とされる食品の意外な効能
プレジデントオンライン / 2023年10月3日 11時15分
■AGEが蓄積されるほど、病気になりやすくなる
これまで魚から、野菜ジュース、ヨーグルト、納豆、アイスまで、健康や美容にいい選び方・食べ方を伝えてきた。今回は体に悪いとされがちなのに、意外とそうでもなかったというユニークな研究を取り上げたい。
その前におさらいになるが、老化する・しないという視点で食を考えた時、体内で老化を促進する悪玉物質「AGE」が発生するかどうかが鍵になる。AGEが多量に発生し、骨に蓄積すれば骨が老化して折れやすくなり、肌の奥にAGEがたまれば、コラーゲン繊維の機能が低下して硬い皮膚になったり、シワが刻まれやすくなると前回までに述べてきた。
老化の促進にとどまらず、AGEが蓄積されるほど、病気になりやすく寿命が短くなることも多くの研究で報告されている。
そして体内でどういう時にAGEが発生しやすいか? といえば、血液中に糖がたくさんある=血糖値が高い時だ。熱を加えることで糖とタンパク質が結びついて変性すると、「糖化」=老化現象が起きる。この時、AGEも発生してしまう。
■急激に血糖値が上昇すると、AGEが発生する
「ですから糖、要するにいかに炭水化物(主食)を管理するかが重要なんです」
![同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之氏](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/9/1200wm/img_69780bfa4586d7d2be2cbb416076963e258893.jpg)
と、同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之氏が説明する。ちなみに炭水化物は主に「糖質+食物繊維」で構成される。メカニズムの話が続くが、後半につながるので、もう少しお付き合いいただきたい。
「私たちの身体の約16%はタンパク質でできています。脳や内臓、神経を含め、体のあらゆる部位を作る上でタンパク質が欠かせません。またエネルギー源である糖も必要。つまり体内ではタンパク質と糖が共存する状態にあるのです。適度に糖を摂取し、代謝している分には問題ありませんが、多量に摂取してしまうと……。人の体温によって体のタンパク質と余分な糖が温められ、糖化現象が起きてしまいます」(八木氏)
誰しも食事をすれば血糖値が上昇し、膵臓(すいぞう)から分泌されるホルモンでブドウ糖を細胞の中に取り込ませる。しかし、急激に血糖値が上昇しすぎたり過剰に糖分を摂取すると、その働きが追いつかず、血液中に糖があまって高血糖状態になる。それが糖化現象を起こし、老化の元凶であるAGEを発生させるということだ。
■ヨーグルトには血糖値を下げる効果がある
この状態を避けるために、かつて糖質制限(炭水化物ダイエット)がブームになったこともあった。
しかし八木氏の研究はもっとシンプルだ。第3回の記事(血糖値を下げ、老化を防ぎ、免疫力を高める…最強の健康食品「ヨーグルト」で唯一注意するべきこと)で紹介したように、ヨーグルトそのものが、糖化を抑制する作用があることを突き止めたのだ。簡単にいえば食前にヨーグルトを摂取すると、血糖値が急上昇しない。なぜヨーグルトが血糖値を下げるのか。
「今わかってきているのは二つです。一つはヨーグルトの上ずみ液(ホエイ)中に含まれるタンパク質の分解物に、血糖値を下げるインスリンの分泌をよくする働きがあること、もう一つはヨーグルトを作る乳酸菌が『乳酸』という物質を作り出しますが、これに胃の消化液を抑える作用がある。すると胃から腸へ送り出すスピードが落ちる、結果的に血糖値の上がりがゆるやかになるのです」
乳酸だけではなく、柑橘類に含まれるクエン酸、お酢に含まれる酢酸など、「酸」には同様のメカニズムで血糖値を下げる働きがあるという。
■「米飯だけ」より「米飯と肉」のほうが血糖値が上がらない
ここでようやく本題の研究の紹介だ。八木氏の研究の原点は「牛丼」という。白飯単独で食べるのと、牛丼にして食べるのでどちらが食後血糖値が下がるのかを比較したのだ。
「すると、牛丼にしたほうが下がったんです。牛丼のほうがトータルで糖質量が増えるのにもかかわらず、です」
![牛丼](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/5/1200wm/img_e56dbe8dca34ca00f108e31c46a98834411690.jpg)
部位によって異なるが、牛肉は100gあたり5g程度、またタレにも糖質は含まれるから、「牛肉+米飯」にすれば全体の糖質量は多くなるはず。何が血糖値低下に影響したのだろうか。次に八木氏は、牛丼に使用される具材を比較実験した。
健康な男女19名の空腹時血糖値を測定した後、米飯にプラスして4種類――1)生だれ 2)煮だれ 3)肉 4)玉ねぎ――のいずれかを食し、白米のみの食後血糖値と比較した。すると、一番血糖値を上昇させなかったのは「肉」という結果だった。
「肉の次に血糖値上昇を抑制できたのは、玉ねぎでした。主たる栄養素は食物繊維ですね。実際にはもう少し細かく実験を行っているのですが、簡単にまとめると食物繊維よりもタンパク質や脂質のほうが血糖値を下げるのに効果があるということです。よく油を取りすぎると『胸焼け』がするというでしょう。それは結局、胃から腸にすぐに送られず、滞留しているとも言い換えられる。分解しづらいものがきたという感じで、体はゆっくり消化するんですね。だから血糖値があがらない。もちろん脂質ばかり摂取していたら、それ自体が糖化を起こしやすくなるので油物ばかりは厳禁ですよ。ただし、適量の油はむしろあったほうがいいということです」
![画像=Glycative Stress Research 2016; 3 (4): 210-221 より引用。同志社大学生命医科学部糖化ストレス研究センター客員教授の八木雅之氏らの論文より。牛丼のほうが白米より食後血糖値の上昇を抑えていることがわかる。](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/0/1200wm/img_60e9ab245e6eedf0afa9e6294480c7f4327804.jpg)
■おかずを一緒に食べたほうが血糖値が下がりやすい
もう一つ、肉にはタンパク質も含まれるが、この分解物にヨーグルト同様の血糖値を下げるインスリンの分泌をよくする働きがある。だから肉と米飯を一緒に食べれば、米飯単独よりも血糖値を上げにくいのだ。
さらに八木氏は米飯と比較して、唐揚げ定食や餃子定食なども比較研究している。
「その結果、餃子や唐揚げをプラスしたり、また酢飯にしたりすると、どれも米飯単体よりも食後の血糖値上昇が抑えられ、糖化は起きにくいという結論に達しました。つまり基本的にはごはんだけを食べるよりも、副菜(おかず)を一緒に食べたほうが血糖値が下がりやすくなるのです。その副菜の内容は、タンパク質、脂質、酸を含むものであればなお良いということ」
世の中で悪いと切り捨てるものを本当にそうなのか? という視点で実験を続けてきた、と八木氏は言う。結論として、メタボになるから悪とされる「牛丼」も「唐揚げ定食」も、食後血糖値の観点からそんなに悪くないということだ。食後血糖値が急上昇すれば、老化や病気の原因となる糖化が進むわけだから、これらのおかずが健康や美容の目の敵ではないともいえる。
■「米飯」より「羊羹」のほうが血糖値が上がらない
もう一つ、食欲の秋でもあるので「おやつ」について取り上げたい。
八木氏は「羊羹の摂取が食後血糖値に及ぼす影響」を研究し、2022年に発表している。
![健康検定協会理事長で管理栄養士の望月理恵子氏](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/1200wm/img_7e3c2d22ea22741301cd2d1c9b8db523493223.jpg)
研究では20歳~30歳の男女を対象とし、A)米飯、B)羊羹(砂糖、小豆、寒天が主原料)、C)砂糖水を比較した。糖質量は50gに揃えて摂取し、その後の血糖値の推移を検証すると、米飯より羊羹のほうが血糖値が上がらなかったのだ。羊羹には砂糖が多量に含まれているイメージがあるので意外である。羊羹の原料である「寒天」には食物繊維が、「小豆」には15種類のフラボノイド(ポリフェノール)が含まれ、抗酸化作用もあるため、これらが良い影響を与えたのではないか、と八木氏は分析する。食べ過ぎなければ血糖値をあげないだけでなく、アンチエイジングの作用もあるという。
「餡って『練る』行為をするでしょう。砂糖を入れて混ぜ続ける。実はこれ、糖化を進めているんです。糖とタンパク質が結びつき、変性した糖化=メイラード反応が起きていて、本来なら老化を進めるものなんです。しかし不思議なことに、これ自体に抗糖化作用があることもわかってきました」
練らなくても、小豆は非常に優秀な一品だ。
「小豆には赤ワインの1.5~2倍ものポリフェノールが含まれ、豆類の中でも抗酸化作用が強いです」と健康検定協会理事長で、管理栄養士の望月理恵子氏が言う。
「その働きは大きく三つあり、血糖値や血圧の上昇を抑え、コレステロール値や中性脂肪値を下げ、便通を促進します。また食物繊維もごぼうの約4倍と多く、腸内環境を整え、老けない体づくりをする食品の一つといえますね。特に日本の小豆(エリモショウズ、しゅまり)は輸入品小豆よりも抗酸化性が高いです。ぜひ国産小豆を原料にして選んでください」
■「老けないおやつ」の上位は、肉まん/あんまん
私は以前、食品成分表をもとにして「老けないおやつ」のランキングを作ったことがある。ランキング作成にあたっては、熱に強くて加工しても栄養素が失われにくく、アンチエイジングに欠かせない「食物繊維とタンパク質が含まれるもの」を指標とした。タンパク質は肌、筋肉、血液、髪の毛、ホルモンなどのもとになり、食物繊維は糖質の吸収をゆるやかにして血糖値の上昇を抑え、不要な物質を体外に排出して、腸内環境をよくする働きを担っているからだ。腸内環境を良好に保てなければ肌荒れにつながりやすい。
![ほかほかの肉まん](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/1200wm/img_def8b2cf9e3c3ca99458ce61ff01667a463022.jpg)
そのような条件下で作成した「老けないおやつ」上位にランクインしたものは、きんつば、あんまん、甘納豆、蒸し饅頭、草餅、大福もち、笹だんごと、大半に「小豆」が含まれているのが特徴だった。
ほかにも、タンパク質と食物繊維が多いもので考えると、おやつと謳っていなくても間食向きなものがある。例えばタンパク質が多い食品としてチーズ、ゆでタマゴ、サラダチキン、魚肉ソーセージ、ヨーグルト、食物繊維が豊富なものとして果物、茎わかめ、酢昆布、こんにゃくゼリーなどはおやつに食べやすいだろう。
副菜も、おやつも、要は栄養成分の組み合わせだ。できれば単品よりも品数を多く、しかしたとえ一品でもその中に糖質以外の栄養素がどれだけ含まれているか。そんな視点で目の前の食を見ると、情報や広告に惑わされない、選ぶ目が培われるかもしれない。
![【図表】老けないおやつ ベスト10](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/2/1200wm/img_2297b3f9233d98ccb3116f07ad8df1c2498948.jpg)
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『実録・家で死ぬ 在宅医療の理想と現実』(中公新書ラクレ)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)
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