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だから小渕優子氏を選対委員長に就けた…自民党役員人事から透けて見える「本当の目的」

プレジデントオンライン / 2023年10月4日 9時15分

記者会見を終え、撮影に応じる自民党新4役の(左から)萩生田光一政調会長、茂木敏充幹事長、森山裕総務会長、小渕優子選対委員長=2023年9月13日午前、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト

岸田首相が政権発足2年を控えた9月、内閣改造・自民党役員人事に踏み切った。その目的は何か。政治ジャーナリストの小田尚さんは「来年9月の総裁再選戦略から逆算しての体制作りと同時に、その総裁選前に仕掛ける衆院解散・総選挙に向けての新布陣でもある。岸田首相は総裁再選を果たせば、2027年の総裁選に向けて萩生田政調会長を後押しし、茂木幹事長はどこかでハシゴを外されるだろう」という――。

■小渕氏の党4役登用は茂木氏への牽制

ある意味、サプライズ人事だった。岸田文雄首相(自民党総裁)が、9月13日の内閣改造・自民党役員人事で、茂木敏充幹事長(67)を留任させ、これとセットで同じ平成研究会(茂木派)の小渕優子組織運動本部長(49)を、党4役の一角である選挙対策委員長に登用したのだ。来年9月の次期総裁選で茂木氏の不出馬を「期待」するとともに、茂木派が茂木氏支持でまとまらないことを見透かし、小渕氏に地力をつけさせることで、茂木氏を牽制する狙いがあると言える。

今回の党役員人事は、茂木氏が政権の要である幹事長にとどまるかどうかが最大の焦点だった。茂木氏は党内第3派閥を率い、総裁選出馬への意欲を隠さなかったためだ。

幹事長は、選挙対策や国会対策を仕切り、政党交付金の配分を決める権限を持つことで政治力や求心力を身に付け、自らの勢力を広げることもできる「おいしい」ポストだ。

首相やその陣営にとって、次期衆院選を挟んで迎える1年後の次期総裁選を「無風」に近い形で再選されるには、どちらが得策か、思案のしどころだった。

■「茂木を令和の明智光秀にさせない」

首相は当初、茂木氏の交代を図ろうとした。茂木氏が、政権運営をめぐって、岸田首相、麻生太郎副総裁との「三頭政治」と称して自身を誇示したり、今年に入って、児童手当の所得制限撤廃や臨時国会に向けた補正予算編成など重要政策の方針を、首相と擦り合わせもなく明らかにしたりするなど、その「前のめり」の言動が鼻についていたからだ。

だが、麻生氏から「茂木を『令和の明智光秀』にさせないから、幹事長を続けさせてやってくれ」と要請され、首相は態度を変える。麻生氏の言い分は、党には、幹事長は自ら支える総裁が出馬する総裁選には出馬しないとの不文律があり、茂木氏は幹事長なら、対抗馬にはなれない、させないということだった。

野党時代の2012年総裁選では、当時の谷垣禎一総裁の下にいた石原伸晃幹事長が出馬に名乗りを上げ、谷垣氏を出馬辞退に追い込んだ。その時、石原氏を「平成の明智光秀」と批判し、その勢いを失速させたのが麻生氏であり、石原陣営に加わっていたのが国会対策委員長の岸田氏、政調会長だった茂木氏という因縁もある。

■「岸田の次は茂木、その次は萩生田だ」

麻生氏は、茂木氏に対しては「岸田の次はお前だ。その次は萩生田(光一政調会長=60=安倍派)だ」とささやきつつ、岸田政権の「2期6年」を支援させようとしている。麻生氏にとって、岸田政権は安倍晋三元首相(昨年7月死去)とともに樹立し、育成してきた、自前の政権なのである。

麻生氏が今後、どこまで「茂木政権」に関わろうとするかは、判然としない。麻生派も、鈴木俊一財務相(70)や河野太郎デジタル相(60)という総裁候補を抱えているほか、茂木氏については、茂木派を完全に掌握できておらず、他派との連携を含めた総裁選戦略が立てられていないように見えるからだ。

茂木敏充外務大臣は、令和2年度外務省予算に関して、麻生太郎財務大臣と折衝を行った
茂木敏充外務大臣は、令和2年度外務省予算に関して、麻生太郎財務大臣と折衝を行った ※肩書は当時(写真=外務省/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

岸田首相も今回、そこを突いた。茂木氏が幹事長として衆院選などを経て政治力を高めても、茂木派が一丸となって押し上げることがないようにする「仕掛け」が、小渕氏の党4役入りだったのだろう。

■森氏が青木氏に替わって後ろ盾になる

小渕氏の登用は、岸田首相がこれまで支援を受けてきた森喜朗元首相、6月に死去した青木幹雄・元自民党参院議員会長の要望(遺言)を受け入れた面もある。

森氏は、8月29日に行われた青木氏の党葬で、遺影に向かって「心残りは小渕恵三さん(元首相)のお嬢さんのことと思う。一生懸命、あなたの夢、希望がかなうように最大限努力する」と語った。安倍派に強い影響力が残る森氏が、青木氏に替わって小渕氏の後ろ盾になるという意思表明でもあった。

これには、森、青木両氏が昨年8月、岸田首相と会食した際、直後の内閣改造・党人事に向け、同席していた小渕氏(当時、組織運動本部長)を幹事長などの要職で起用するよう求め、首相が1年後の課題として引き取ったという経緯もあった。

青木氏は、小渕、森内閣で官房長官を務めたほか、参院自民党で幹事長、議員会長を歴任し、「参院のドン」と呼ばれた。茂木氏に対しては、2018年の総裁選対応で、当時の竹下亘会長らの意向に反して安倍陣営に走ったため、青木氏が「自分さえよければいいのか」などと怒って事務所への出入りを禁止するなどし、その後も了解なしに平成研の会長に就いたことにも強い不満を示していた。青木氏の影響下にあった参院茂木派の幹部らは、今なお茂木氏に対して「面従腹背」の姿勢を取っている。

■首相は「萩生田官房長官」を打診した

最大派閥の安倍派は、会長不在のまま、萩生田政調会長をはじめ、松野博一官房長官(61)、高木毅国会対策委員長(67)、西村康稔経済産業相(60)、世耕弘成参院幹事長(60)の幹部5人が留任した。この5人は、既述の昨年8月の岸田・森・青木会談で、森氏がポスト名を挙げて推薦し、首相がそっくり受け入れたメンバーだ。

今回の人事で首相が最も気を使ったのは、萩生田氏の処遇だった。報道によると、首相は9月11日、人事をめぐって党本部で幹部らと意見交換したが、萩生田氏とはこれに先立って首相公邸で会い、「官房長官か、政調会長留任のどちらがいいか」と打診する。萩生田氏は、政調会長が与党の全政策を仕切る「おいしい」ポストだと自認し、「茂木氏が留任なら、自分も留任したい」とのスタンスだったため、結局、留任に落ち着いた。

このプロセスからは、岸田首相が萩生田氏の安倍派での会長継承、政権取りに向け、経験すべき要職を提供しようと腐心しているのが見て取れる。

平成29年1月28日、日米首脳会談についての会見
平成29年1月28日、日米首脳会談についての会見(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■安倍氏は後継会長に「指名」していた

首相にとって、萩生田氏は、6年前に当時の安倍首相から「将来の岸田政権の官房長官候補だ」と引き合わせられて以来、同志的関係にある。安倍氏からも、将来の自身の後継会長として萩生田氏の名を聞かされてきた。

森氏も、近い将来のリーダーとして萩生田氏を買っていて、岸田政権2期6年後の「萩生田政権」に向け、派内工作を進めているとされる。萩生田氏のバックには、ほかに麻生氏や菅義偉前首相もいる。萩生田氏の強みは、こうした首相や首相経験者らからの信頼と引き立てだ。今後、派内で広範な支持基盤をどう築いていくかが課題になるだろう。

政界は「一寸先は闇」とされ、何が起こるか分からないが、今回の人事をめぐる攻防から展望すると、岸田首相は総裁再選を果たせば、2027年の総裁選に向けて萩生田氏を後押しし、茂木氏はどこかでハシゴを外されることになるだろう。

■女性5閣僚でも支持率は上がらなかった

内閣改造・自民党人事で、内閣支持率は上がらず、政権浮揚につながらなかった。読売新聞緊急世論調査(9月13~14日)によると、内閣支持率は前回8月調査と同じ35%で、3カ月連続で発足以来最低の支持率を記録した。不支持率も前回と同じ50%だった。

政党支持率は、自民党が31%(前回30%)、日本維新の会が6%(同6%)、立憲民主党が4%(同3%)などで、無党派層は41%(同44%)だった。

女性閣僚を過去最多の5人に増やしたことについて「評価する」とした人は72%に上ったが、小渕氏を選挙対策委員長に起用したことを「評価する」とした人は37%で、「評価しない」が44%だった。

小渕氏については、2014年に関係政治団体をめぐる政治資金規正法違反問題が発覚し、経済産業相を辞任、翌15年に元秘書が有罪判決を受けたという経緯がある。

キャロライン・ケネディ駐日大使は2014年10月14日、千代田区の経済産業省で小渕優子経済産業大臣と会見
キャロライン・ケネディ駐日大使は2014年10月14日、千代田区の経済産業省で小渕優子経済産業大臣と会見※肩書きは当時(写真=State Department photo by William Ng/Public Domain/Wikimedia Commons)

小渕氏は13日の自民党4役の記者会見で、「(15年に地元・群馬で記者会見を行うなど)誠意をもってご説明させていただいてきた。十分に伝わっていない部分があれば、不徳のいたすところだ。心に反省を持ち、忘れることのない傷として歩みを進めていく」と声を震わせ、「今後の歩みを見てご判断をいただきたい」とも語っていた。

■「選挙の顔の1人として活躍いただく」

岸田首相は13日夜の記者会見で、小渕氏について、「高い実務能力と選挙対策への知見を培ってこられたと思う。こうした能力や知見を生かしていただきたいということで、選対委員長をお願いした」と述べていた。政治資金問題には触れなかった。支持率向上のためではなく、「潜在能力」を含めて買ったと言いたかったのだろう。

注目されるのは、小渕氏に対し、「選挙の顔の1人としても活躍していただくことを期待している」「(自民党が目指す今後10年間で)女性議員3割に向けて先頭に立って力を振るってほしい」と述べたことだ。首相はこの新布陣での解散・総選挙を模索している、とのメッセージだと受け取れたからだ。

岸田首相の基本戦略は、来年9月に総裁再選を確実にするには、その前に衆院を解散し、選挙に勝って、総裁選に臨むことにある。衆院選を後に控えた総裁選となると、国民人気がある河野氏や石破茂元幹事長(66)、小泉進次郎元環境相(42)が「選挙の顔」として浮上しかねないからだ。

岸田派内には「次期総裁選に茂木氏が出ず、河野氏を閣内にとどめたのなら、有力対抗馬がいない。その前に議席減のリスクを冒して衆院選を打つ必要があるのか」との声も出てきたが、その一方で、首相はこれまで今秋解散の環境を整えるため、着々と手を打ってきた。

■自公は東京での選挙協力を復活させた

外交・安全保障政策としては、8月18日の日米韓首脳会談で、日米同盟、米韓同盟を強化し、日米韓の安保協力を先端技術協力やサプライチェーンの強化を含む経済安保分野へ引き上げることで一致した。3月の日韓首脳会談の成果がここに実を結んだと言える。

8月24日からは、東京電力福島第一原発の処理水の海洋放出を国際原子力機構(IAEA)の基準に沿って進めている。中国は「核汚染水」放出と断じ、日本の水産物の全面禁輸という嫌がらせに出てきたが、韓国の反発は小さかった。政府は、国内消費の拡大や海外市場の新規開拓で水産業を支援する。

物価高対策としては、8月末のガソリン小売価格が過去最高を記録すると、石油元売り企業への補助金を延長し、10月中に1リットル175円程度の水準に抑える方針を示した。

政治問題的には、8月31日の公明党の山口那津男代表との会談で、次期衆院選に向けて東京でも自公両党が選挙協力を復活させることで合意した。5月に東京28区の候補者調整で決裂し、東京で相互推薦しないことになったが、公明党の要請を受け、首相主導で関係修復させている。

2022年2月17日、会見する岸田文雄首相
2022年2月17日、会見する岸田文雄首相(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■旧統一教会との決別をアピールへ

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への対応についても、10月中にも解散命令を東京地裁に請求し、教団との決別をアピールする。

11月末をメドに、マイナンバーカードをめぐるトラブルの総点検を完了する。

その一方、防衛費5年間で43兆円への大幅増額や異次元の少子化対策の財源をめぐる議論は封印している。自民党内には税収増や国債発行で賄うべきだとの声も少なくない。

岸田首相の「懐刀」である木原誠二前官房副長官(53)が9月22日の自民党人事で、幹事長代理兼政調会長特別補佐に就任したことも、衆院解散戦略に関わる一環だとうかがわせる。

木原氏は、官房副長官として、内政や外交一般で政策を仕切るだけでなく、公明党とのパイプ役を担うなど、政局を動かす立場にいた。だが、妻の元夫の死亡をめぐる週刊文春報道が続いたため、家族への影響を考慮し、8月中に留任辞退を首相に伝えていた。

首相はこれを踏まえ、政局判断や重要政策の連絡役として自ら党に押し込んだ。木原氏は衆院の早期解散に消極的とされるが、首相は翌23日には首相公邸に呼び、「減税」を含む経済政策や衆院選のタイミングをめぐって意見交換したとみられる。

■首相はいつ衆院解散を断行するのか

公明党の山口代表も23日、福岡市内での街頭演説で、解散・総選挙について「岸田首相が『そろそろやりたい』と言う時に『待ってほしい』と言えばチャンスを失う。いつあってもいいよう準備を進めたい」と述べ、解散環境の整備に同調する考えを示した。

公明党・創価学会は、6月に首相が衆院解散機運を高めて以来、全国で選挙態勢を敷いている。当初は衆参両院補選に合わせた「10月22日投票」を想定して臨戦モードに入ったが、その可能性が小さくなっても、支援者の動きを止めていない。

衆院選にまつわる各種情勢調査によると、議席を伸ばすのは野党第1党に迫ろうとする日本維新の会(現有41議席)だけで、政権与党の自民、公明両党は、現有293(261+32)議席から多少減らす程度で、自民党単独で衆院定数465の過半数(233以上)を確保できるのは確実だという。立憲民主党(現有96議席)を軸とする野党共闘は進まず、自民党4役の一人は「いつ解散しても、勝てる」と自信をのぞかせる。

岸田首相は、自らの政権基盤を固めるため、そして、防衛費の大幅増額、原発の再稼働・新増設などの重要政策、看板となる少子化対策を強力に推進させるためにも、早ければ今秋の臨時国会、遅くても来年の通常国会冒頭にも衆院解散を断行するのではないか――という臆測が消えなかったゆえんである。

こうして解散風を煽ってきた岸田首相が、ここに来て、軌道修正を図り始めた。

9月26日には新たな経済対策を10月末までに策定することを表明しながら、財源の裏付けとなる補正予算案の提出時期をあいまいにしていたが、3日後に、10月20日召集の臨時国会に提出する意向を明らかにした。さらに、10月3日の読売新聞インタビューで、「提出する以上は成立させたい」と踏み込んだ。補正予算成立は早くとも11月下旬とみられる。これが本意なら、年内解散は日程的には難しくなった。

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小田 尚(おだ・たかし)
政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員
1951年新潟県生まれ。東大法学部卒。読売新聞東京本社政治部長、論説委員長、グループ本社取締役論説主幹などを経て現職。2018~2023年国家公安委員会委員。

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(政治ジャーナリスト、読売新聞東京本社調査研究本部客員研究員 小田 尚)

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