「おれとジャニーさんは恋人…いや、夫婦だった」元フォーリーブス北公次が初めて性被害を打ち明けた日のこと
プレジデントオンライン / 2023年10月4日 14時15分
※本稿は、本橋信宏『僕とジャニーズ』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■「ほんとはあったんだよ。おれとジャニーさんには」
浅草ビューホテルの部屋で北公次の回想のつづきを聞く。部屋には北公次だけだった。
4日目のときだった。サングラスを外した元アイドルは思い詰めた顔つきだった。
もしかしたら、あまりにも話しすぎてしまったために、今までの話はなかったことにしてくれとでも言い出すのだろうか。
「これまでの話はすごく惹かれましたよ」
沈黙を振り払うように私が話すと、北公次は意外な言葉を吐き出した。
「謝らなくちゃいけない。おれは、ひとつだけ噓をついたんだ。ジャニーさんとのことは……実はあったんだ。これだけは死ぬまで言わないつもりだったけど、別れた女房にも言わなかったことだけど……ほんとはあったんだよ。おれとジャニーさんには」
■「おれとジャニーさんは恋人…いや、夫婦だった」
まさか北公次本人から打ち明けてくるとは思わなかった。
「昨日、村西さんから電話が入ってさ、いろんなこと話したんだよ。あの人も本気でおれのことを応援してくれてる。だからこっちも誠実にならないといけないと思ったんだ」
いったい村西とおるはいかなる説得を試みたのか。
応酬話法という、セールスマンが商品を売るときの必須テクニックがある。村西とおるはこの話法に磨きをかけ、どんな商品でも売ってみせる、という奇跡の話法に仕上げた。
北公次は事務所の社長と4年半にわたり同棲していたと告白した。芸名の北公次は社長の名字の「喜多川」からとったものだとも打ち明けた。
北公次は吐き捨てるように打ち明けた。
「おれとジャニーさんは恋人……いや、夫婦だった」
■ジャニー喜多川が一番愛していたのは自分
ジャニー喜多川が所属タレントの中で一番愛していたのは自分であったという自信と、捨てられた者の憤りが北公次のからだの中でうねっていた。
複雑な感情を今まで封印してきたが、半生を語るこの機会に、唾棄すべき思いが溢れ出てきたのだった。
私は北公次の決壊した感情の汚泥をすべて受け止める役目を担わされた。
恨みをベースに、思い出したくもない体験を吐き出す元アイドル。
被虐の記憶は、心のガードが決壊した北公次の全身からとめどなく溢れ出した。
北公次がまだデビュー前の、ジャニー喜多川社長に拾われたころの、ある秘めた出来事を語る。
それを私は『光GENJIへ』(データハウス)で、北公次の一人称に変換して記した。
■墓場に入るまで黙っていようとしていた
「そこの部屋に寝泊まりするようになって2日もたつかたたないうちだっただろうか、ある出来事がおれの身にふりかかった。そしてその体験はそれ以後4年半にもわたりほぼ毎日続くのだった。
このことは今まで誰にも話したこともなければ、手記に書いたこともない、おれが墓場に入るまで黙っていようとしていたことだ。おそらくジャニーズ事務所のなかでは今もきっとこれと同じことが行われているだろう。すべてをここで書き記すことがこの書の務めであるならば、あの事実を記すこともやはり避けて通ることはできない。
うすい布団に寝ているおれのもとへジャニー喜多川さんがそっとやってきておれの寝ている布団の中に入りこんできた。
『えっ?』
男同士が一緒の布団で寝るなんてことは寮生活でもなかったことだ。一瞬おれの頭のなかに“同性愛”という言葉が浮かんだ。だがまさか……。こんなハンサムな青年が……男と……。」
■「きっとスターになれるんだからね」
やっと16歳になろうかというころ、北公次という芸名もまだないころ、田辺から出て来た少年は夜ごと、寝ている布団の中で世話になっている事務所社長のマッサージとささやきを受け入れた。
「そしてだんだんおれのからだに接する態度が大胆になってくるではないか。
『コーちゃん、がんばるんだよ。きっとスターになれるんだからね、きみは。ぼくも一生懸命応援するよ、そしてジャニーズに負けないアイドルになるんだ』
熱い吐息を吐きかけおれのからだを優しく何度もさすってくる。マッサージと言えなくもなかったが、そのうちに手がおれの下半身に及んでくる。
ジャニー喜多川さんの手がおれの男性器を優しくもみほぐし、巧みな手の動きでおれの男根は意思に反して徐々に波打ってくる。」
■「男と女がベッドで営む行為と同じことではないか」
「中学時代、ふざけて体操部で互いの股間を触って騒いだことがあったが、あのばか騒ぎとも違う、これは男と女がベッドで営む行為と同じことではないか。
怖さといやらしさと不安と……。せっかく芸能界にデビューできる近道を手につかんだと思ったその恩人に今こうやっておもちゃのようにもて遊ばれていることに言い知れぬ感情が渦巻いていった。
『やめてください……。ジャニーさん……。いやですよ……ぼく』」
童貞だった北公次はこのとき、あらためて事務所社長が同性愛者だと知った。
■ジャニーさんの愛撫はまさに生き地獄だった
「16歳のおれは女を知る前に男と性体験をしてしまったのだった。喜劇とも悲劇ともつかない複雑な心境に陥った。おれにもしホモの性癖があるならば、また多少なりとも両刀遣いの素質があるのならば、あるいはこのジャニーさんとのホモ体験も我慢できたのかもしれない。しかしその気がまったくないおれには毎夜のジャニーさんの愛撫(あいぶ)はまさに生き地獄だった。嫌ならばさっさと部屋から出てしまえばいい、何度そう思ったことか。しかし東京で食いつなぎながらアイドルになるためには、ジャニー喜多川氏のもとで生活する以外に手段はなかった。」
これが書かれた1988年秋は、LGBTQの呼称と概念がまだ不分明だったために、文中でも不正確な表現を用いているが、時代性を考慮し、そのままの記述にしておく。
■ぬいぐるみを愛撫するようにまさぐってくる
「ジャニー喜多川氏の求愛は毎夜続いた。おんな(原文ママ)のからだを知る前におれはいやという程男同士のからだを味わうはめになってしまったのだ。
部屋で一人寝ていると黙ってジャニーさんがもぐりこんでくる。そしていつものようにぬいぐるみを愛撫するようにおれのからだをまさぐってくる。
『疲れてるの? じゃあ肩をもんであげようね』
最初は抵抗するおれだが、半分はあきらめの境地、半分はこれもアイドルになるためとわりきってジャニーさんに身をまかせるのだ。」
北公次は具体的な行為を率直に語った。
長年の憂鬱(ゆううつ)を吹き払うかのように。
合宿所名義の部屋でジャニー喜多川氏と共に夜を過ごす生活はそれからも続いた。
いやでいやで仕方がなかったのに、ジャニーさんに身をまかせなければならなかった自分に自己嫌悪を感じたこともしばしばだった。
■ジャニーさんがパンツまで洗ってくれた
「ジャニー喜多川氏の寵愛を得ていたおれは、雑用係でしかないボーヤの身だったがいつも大事にされていた。普通ボーヤがタレントの下着を洗うのがその頃の芸能界・音楽界の常識だったので、おれもタレントの下着洗いはよくやったものだったが、おれ自身の下着は自分で洗うことは滅多になかった。なぜならジャニーさんがおれのパンツまで洗ってくれたからだ。
『コーちゃんー、お風呂に入ろう』
ジャニーさんの誘いで二人一緒にいるときはたいてい湯ぶねに共に入る。きゃしゃなおれのからだをジャニーさんがすみずみまで丹念に洗ってくれるのだ。
それはきっと他人が見れば愛しあう男と女の光景となんら変わることはなかっただろう。
温かくなったからだをジャニー喜多川さんがタオルでふき、おれのくちびるにキスをする。このあとはふとんのなかで互いのからだを求めあうのだ。
どんなに男同士の愛の行為を繰り返してもおれは同性愛者にはなれなかった。ジャニーさんにからだをまかせるのも、芸能界でデビューして必ずアイドルになってやるんだという目的のためだった。」
■「これまで誰にも言ったことがなかった」
北公次が2人の関係を「夫婦だった」と言った意味がよくわかった。
喧嘩ばかりしているよその夫婦よりもよほど愛情深い“夫婦”だった。
浅草ビューホテルの一室で告白を終えたときには、すでに窓の外は漆黒が支配していた。
話し終わったとき、北公次は放心状態になっていた。
部屋を満たすものは沈黙だけだった。
「今、しゃべったことはこれまで誰にも言ったことがなかった。本当に今日がはじめてだよ」
回想が終了すると私たちはロビーに下りていった。
サングラスをかけた北公次は、腕時計の並ぶショーウインドーに立ちすくんだ。
ホテルの宿泊客が通り過ぎていく。
バンダナを巻いた元アイドルは飽きることなくウインドーを見つづけていた。
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ノンフィクション作家
1956年埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。著書『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版/新潮文庫)を原作とした山田孝之主演のNetflixドラマ『全裸監督』が世界的大ヒットとなる。1988年、35万部のベストセラーとなった北公次『光GENJIへ』(データハウス)の構成を担当し、同名の映像作品も監督。また2023年公開されたBBCドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」にも取材協力。主な著書に『全裸監督 村西とおる伝』(新潮文庫)、『出禁の男 テリー伊藤伝』(イースト・プレス)等多数。
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(ノンフィクション作家 本橋 信宏)
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