ジャニー喜多川氏は傷害罪で逮捕されるべきだった…「元ジャニーズJr.の告発」を無視し続けたマスコミの大罪
プレジデントオンライン / 2023年10月9日 12時15分
※本稿は、本橋信宏『僕とジャニーズ』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■北公次を主役にしたビデオ版『光GENJIへ』
1989年盛夏。
私は北公次を主役にしたビデオ版『光GENJIへ』(パワースポーツ)を撮りはじめた。自ら監督した作品である。
北公次は『光GENJIへ』(データハウス)という本を成立させる過程で5日間に及ぶ私からのインタビューを受けたが、ビデオ版では吹っ切れたのか、さらに表に出てこなかったジャニー喜多川社長の性虐待行為について、率直に語り出した。
浅草ビューホテルの一室で私に向かって話すのではなく、今回はカメラに向かって話すのだ。
撮影は私が仕事場にしている高田馬場の事務所でおこなわれた。
カメラマンはターザン八木である。
室内の照明だけで撮っているので、北公次の衝撃の告白も、画面が薄暗く不鮮明である。だが暗い画面がかえって北公次の深刻な告白を印象深いものにしていた。
■「机の中に外人のエロ本がいっぱいあるんです」
「行為がだんだん激しくなってきて…………、ときには……浣腸なんかやられたり……、我慢しなくちゃいけないっていう雰囲気つくられちゃって、この人の言うことをきかないとデビューできないんだ。実際に『デビューさせてやる』って聞いてましたから、ジャニーの言うことをきかないと、デビューできないんだと思っていましたから。
その当時、ジャニーズってすごい人気でしたから、自分でも我慢しなくちゃいけないと思っていましたから、正直いって我慢しましたけど、だんだんエスカレートしてきまして……、ひどいのはあの人の机の中に外人のエロ本がいっぱいあるんです。それがちゃんとわかるように部屋に置いてるんですよね。
自分も見るんだけど、“性”というものがわからなくなっちゃって、正直いって女の人とやりたいのに、なんでこんな男の人にやられなくちゃいけないんだろうと、ずっと苦しみましたけど、自分が我慢してフォーリーブスとしてデビューして売れたっていうか、CBSソニーの第1号タレントになれて、レコードも何回もベスト10に入ったし、紅白も出たし……(サイレンの音)」
■メディアに対してもコントロールが利くようになる
この頃はまだジャニーズ事務所は今ほどの規模ではなかったため、ジャニー喜多川社長が愛するのは北公次少年に集中した。
北公次が証言したように、デビューするためにはたとえ嫌なことでも我慢する、という処世術を彼が学習したことが、後のジャニー喜多川社長と所属するタレントとの関係を決定づけた。
デビューと仕事の紹介をほのめかせば、10代少年たちを我が物にすることができる、とジャニー喜多川社長も学んだために、性加害は、長年にわたって継続した。
被害少年たちが訴えなければ司法が動くこともなく、ジャニーズ事務所が大きくなり、有力タレントを数多く輩出すれば、メディアに対しても何かあったら、「うちのタレントを出さない」と圧を加えることでコントロールが利くようになる。
■真実か噓かしかない
山手線の警笛が割りこむなか、私の仕事場で北公次の独白がつづいた。
「今回この『光GENJIへ』という本を出して、いろんな反響がありました。僕は真実を書いた、これだけなんですけど。ジャニーズ事務所か北公次か、真実か噓かこの2つしかないわけで……。僕が今回こういう告白をしたのはひとつのケジメでありまして、今まで本は出したことがあったんですけど、ジャニー(喜多川)との絡みあいがいつも抜けてるんですよね。だから今回は自分の人生において再出発するには、そのジャニーとの関係を出さないと、再出発はあり得ないと思いまして、この『光GENJIへ』を出したんです」
画面に向かって語りつづける北公次。
滑舌はけっしていいほうではなく、口下手なところもあるが、かえってそれが告発者の真摯(しんし)さを感じさせる。
■20年間同じことを繰り返していた
「一番言いたいことは、ジャニーだけじゃなくてメリーにも考えてもらいたいことは、20年間まだ同じことを繰り返してるってこと。僕はそれを言いたい。後からデビューした連中も知ってますけど、同じことなんですよね。たのきんトリオとか、光GENJIとか、同じことが繰り返されてると絶対思う。僕も本を出しまして、ジャニーズ事務所出身の連中がつらい思いをして、僕のところに連絡して、同じつらい目に遭ってるんですよね。彼らたちが偉いと思うのは、僕は拒否したらスターになれないと、そういう信念がありましたから、我慢しました。だけど彼たちは、それは嫌だって蹴っ飛ばして(事務所から)出て行った」
■深夜放送ではピー音で消された
『光GENJIへ』は短期間で35万部というベストセラーになった。
発売当時は居酒屋にいると、隣の席で会社帰りの男たちが北公次とジャニーズ事務所の話をしだしたり、高校の授業の休み時間に、生徒たちがジャニーズ事務所の所属タレントの心配をしたり、キャバクラの席で隣に座ったホステスがいきなりジャニーズ事務所とジャニー喜多川社長の噂をしだしたり、本の影響は大きかった。
その一方で、マスコミはごく一部をのぞき、沈黙した。
地上波は特に露骨だった。
版元や村西とおるとサンドバッグ軍団が『光GENJIへ』の存在をアピールしても、まったく動かなかった。
苦笑いしたり、なかには村西とおるに対して精神状態のバランスが崩れたときをさす放送禁止用語をもって、揶揄した。
ある民放の深夜放送で音楽番組を観ていたら、最近観たライブの話になった。
すると、ピー音が流れた。
話の前後から推理するに、渋谷エッグマンでおこなわれた北公次の復活ライブの話で、ピー音で消された言葉は“北公次”としか考えられなかった。
■新聞各社は取り上げようとしなかった
1989年当時、北公次はあきらかに放送禁止用語だった。
ジャニーズ事務所への忖度(そんたく)だろう。
朝日・読売・毎日・日経・産経といった大手新聞に打診しても、新刊紹介のコーナーにはまったく載らなかった。
長期にわたる事務所代表の性加害を、元フォーリーブスリーダーが訴えているのに、新聞各社は記事として取り上げようとしなかった。何人もの少年が長年にわたって性虐待を受けていても、そんなことは語るにあたらない、という態度だった。
ごく一部の夕刊紙、週刊誌をのぞき、ジャニーズ事務所タレントを起用する媒体をもつスポーツ紙、出版社、テレビ・ラジオ局は無視した。
■元ジャニーズJr.たちも性被害を証言
35万部のベストセラーになりながら、メディアでほとんど無視されたことに怒った村西とおるは、今度はビデオ版『光GENJIへ』でジャニー喜多川社長の性加害を訴えようとした。
「ケツ掘られた当時の未成年を探すんです。その少年たちを登場させるんですよ。ケツ、ケツ掘られたやつを!」
ビデオでは、北公次の証言が終わると、画面が切り替わり、原宿の貸しスタジオで撮影された元ジャニーズJr.たちによる性被害体験の証言がつづいた。
ジャニー喜多川の性加害の被害者たちが、一挙に実名顔出しでカメラ前に立ったのはこのときがはじめてだった。
当時はセクハラ・パワハラ・モラハラといった言葉は存在せず、概念も曖昧だった。
LGBTQという分類もなく、性の概念もおおざっぱだった。
性がらみの人権問題の議論には、どこか腰が引けたり、避けて通る傾向が強かった。
■男同士の性愛を真剣に取り上げることはほとんどなかった
男同士の性愛を真剣に取り上げることはほとんどなく、笑いで済ませるところがあった。
男が男から被害を受けるというのは、恥ずかしくて情けない、とはなから相手にされない風潮があった。
そんななか、登場してくれた彼らの勇気は貴重だった。
『光GENJIへ』を読んで、性加害を受けてひとり悩んでいた元ジャニーズJr.たちが、「実は……」と手をあげて、理不尽な被害を世に訴えようとしたのだ。
だが村西とおるはまだ納得しなかった。
■強制的な肛門性交は当時でも傷害罪が成立
「ケツ掘られた少年が重要なんです。ケツを掘られた少年がもっと他にいるはずです」
村西とおるお得意の露悪趣味でこんな表現を用いているが、このときの発言は実は性虐待問題の核心をついていた。
1989年当時、男性による男性への強制的な猥褻(わいせつ)行為はなかなか事件になりにくかったし、被害者も恥じて訴えようとしなかった。
だが、強制的な肛門性交は当時でも傷害罪が成立するし、強制猥褻にあたるものだった。
これに加えて、小中学生という義務教育中の男子が肛門性交を強制されていたという二重の罪は、法改正前の当時でも逮捕案件だったのだ。
メディアも司法もなかなか問題視しないことに、村西とおるはあえて「ケツケツ」と連呼したのである。
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ノンフィクション作家
1956年埼玉県所沢市生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。著書『全裸監督 村西とおる伝』(太田出版/新潮文庫)を原作とした山田孝之主演のNetflixドラマ『全裸監督』が世界的大ヒットとなる。1988年、35万部のベストセラーとなった北公次『光GENJIへ』(データハウス)の構成を担当し、同名の映像作品も監督。また2023年公開されたBBCドキュメンタリー「J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル」にも取材協力。主な著書に『全裸監督 村西とおる伝』(新潮文庫)、『出禁の男 テリー伊藤伝』(イースト・プレス)等多数。
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(ノンフィクション作家 本橋 信宏)
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