かかりつけ医に「紹介状を書いてください」と言いだしにくい…そんな人に現役医師がすすめる依頼の仕方
プレジデントオンライン / 2023年10月11日 9時15分
■かかりつけ医がもっともよい理由
海外では受診できる医療機関が制限されている国も多々ありますが、日本の医療機関は原則としてフリーアクセスです。つまり、患者さんは自分のかかりたい医療機関を自由に選ぶことができます。そのため、定期的に通院しているかかりつけ医があるにもかかわらず、気軽に別の病院にかかる患者さんもいます。
もちろん、かかりつけ医が休診であるとか、何か診療に不満があるとかなら理解できますが、まるで「たまには違うスーパーで買い物してみるか」という感覚で、別の医療機関を受診する患者さんもいるのです。スーパーマーケットなら「こちらの店のほうが野菜が安くてよかった」なんてことがありますが、あちこちと病院を替えるのは患者さんにとってはあまりよくありません。
なぜなら、かかりつけ医は患者さんの病状や検査結果や治療の経過についてよく把握していますが、初診で診る医師は受診したときの病状しかわからないからです。もちろん、初診時も患者さんと話して情報を得る努力はするはずですが、他の患者さんがたくさん待っている忙しい外来では十分に時間をかけられませんし、患者さんの自己申告だけだと医学的に正確なのかどうかがわかりません。新規の医療機関で、かかりつけ医以上の適切な診療を受けられる可能性は高くないのです。
■病院を変える場合は必ず紹介状を
そうはいっても「かかりつけ医と相性が悪い」「今の治療でいいのか不安を感じる」「全く症状がよくならない」などのさまざまな理由で、別の医師に診てもらいたいと思う場合もあるでしょう。
そういう場合は、多少の費用はかかりますが、かかりつけ医にいわゆる「紹介状」を書いてもらってください。紹介状は、正式には「診療情報提供書」といいます。その名の通り、診断名、病状の経過、検査結果、現在の処方、既往歴などの診療に関する情報が書かれたものです。この紹介状には、CD-ROMに入れた検査結果などの画像データを添付することもできます。以前、詳しい画像データはレントゲンフィルムで持ち運んでいましたが、現在ではデジタル化されて院内なら端末で閲覧できます。技術の進歩は素晴らしいですね。
こうして検査結果などを持っていくことができれば、次の医療機関で同じような検査をまた一から全部やり直す必要がありません。お金や時間の節約になるだけではなく、合併症のリスクがある検査を二度行うことも避けられます。さらに診療や治療をスムーズに開始できるでしょう。
■頼みづらいと考えなくても大丈夫
もしかしたら診療に不満があって病院を替えたくても、医師が気を悪くすることを心配して紹介状を頼みにくい患者さんもいるかもしれません。ただ、医師側としてはそれほど気にはしません。医師と患者の関係には相性もありますので、医師を替えることも選択肢の一つです。遠慮なくおっしゃっていただいてかまいません。もしも本当の理由を伝えることに抵抗を感じたり、言いづらかったりするのであれば、嘘も方便です。例えば「転居するので紹介状をお願いします」とか「勤務時間帯が変わるので紹介状をください」とか「会社の近くでかかりたいので紹介状をいただけたら」などと適当な理由を言ってもいいと思います。
紹介状は、必ずしも知り合いの医師宛てに書くわけではありません。自分の専門領域ならどこの病院のどの先生がその病気に詳しいか把握していますが、そうでなければ医師を指定せずに「担当医先生」宛てに紹介状を書きます。
また、医療機関名を指定しない紹介状を書くこともあります。たとえば、高血圧で治療中の患者さんが遠方に引っ越すことになったとしましょう。遠方だとおすすめの医療機関がわからない場合があります。高血圧の場合は、だいたいどの内科でも診てもらえますし、宛先なしの紹介状をご用意して、転居先で患者さんご自身が好きなクリニックを受診できるようにします。
■緊急時はFAXで送られることが多い
また、紹介状はこうして患者さんにお渡しすることもあれば、郵送することもあります。お渡しするときは封をしてありますので、何が書いてあるのか気になる患者さんもいるかもしれません。患者さんの医療情報は患者さんご自身のものですので見てもいいはずですが、勝手に開封してまで紹介状を見るのは医師からの信頼を失う可能性もありますのでおすすめしません。私は患者さんが希望されたら、同じものをコピーしてお渡しするようにしています。
例外的ですが、手渡しや郵送ではなく、FAXで送信することもあります。電子カルテは流出やハッキングなどを避けるために通常のインターネットからは分離されていて、電子メールで患者情報のやり取りはしません。先進的な医療情報ネットワークが利用できる病院もありますが、まだ限定的です。
緊急時にはFAXは現役です。患者さんを緊急に搬送するとき、電話で搬送先にあらましは伝えますが、文書としても情報を伝える必要があります。患者氏名、生年月日、住所、電話番号といった診療に不要な個人情報は、黒塗りするなどわからないようにした上でFAXで送信します。
■セカンドオピニオンにも紹介状は必須
紹介状は、セカンドオピニオンでも必須です。セカンドオピニオンとは、主にがんなどの大きな病気のときに主治医以外の医師の意見を聞くこと。「主治医の判断を疑うようで受けたいとは言いづらい」と思う方もいるでしょう。でも、きちんとした医療を提供している医師は、患者さんがセカンドオピニオンを求めることを歓迎することはあっても嫌がることはありません。なぜなら、それが患者さんが主治医の診断や治療が正しいと確信するための手助けとなるからです。
紹介状なしにセカンドオピニオンを求めて受診しても、主治医の診断や治療方針が正しいかどうかの判断はできません。ずいぶん前の話ですが、「別の病院で膵臓(すいぞう)がんと診断されて抗がん剤治療をすすめられたが、診断や治療法は本当に正しいのかどうか意見を聞かせてほしい」と受診された患者さんがいらっしゃいました。
詳しくお話をうかがったところ、自覚症状や病状の経過、持参された採血データは膵臓がんに矛盾しませんでした。腹部超音波検査と腹部CTで膵臓がんと診断されたとのことですが、画像データがなく、その診断が正しいかどうかはわかりません。ステージ分類や予定されている抗がん剤治療の内容も知りたいところですが、詳しいことはわかりません。紹介状さえあれば少しは有用なアドバイスができたかもしれませんが、「主治医ともう一度よく話し合ってください」と伝えるぐらいしかできませんでした。
■医師が提案して紹介状を書くケース
患者さんからの希望があった場合だけではなく、医師のほうから紹介状を書くことを提案することがあります。例えば、より専門性の高い病院で診てもらったほうがいいと判断したときには、かかりつけ医から大学病院などの高次病院宛てに紹介状を書きます。逆に、高次病院で治療がいったん終了して、再びかかりつけ医に戻るときにも、高次病院からかかりつけ医宛てに紹介状を書きます。かかりつけ医と高次病院が情報を共有し連携することで役割分担を行い、より適切な医療を提供することができるのです。
高次病院は専門的な医療を提供する役割を果たしています。以前は「大きな病院で診てもらったほうが安心だから」という理由で、特に専門的な医療を必要としないのに高次病院を受診する患者さんはめずらしくありませんでした。
しかし、そういう患者さんまで高次病院が担うと、専門的な医療を必要とする患者さんへの対応が手薄になります。現在は「選定療養費」といって、紹介状なしで大きな病院を受診すると数千円の追加料金がかかるようになり、気軽にかかりにくくなりました。医学的な理由だけではなく、お金の問題でも紹介状なしで大きな病院にかかるのはやめておいたほうがよいと思います。
■ドクターショッピングは避けるべし
冒頭に書いたような「紹介状を持たず、さまざまな医療機関を気軽に受診すること」を「ドクターショッピング」と呼びます。これまでにご説明したように、ドクターショッピングはあまりいい結果を招きません。
自分にピッタリ合った「理想的な治療」をしてくれる医師を探してドクターショッピングをしても、多くの病院で保険適用の標準治療――つまり現時点で最善とされる治療が提供されますので、さほど大きな違いはありません。標準治療で完治が見込めない場合は、そのように説明されるでしょう。しかし、保険のきかない自由診療で高額な代替医療を提供するごく一部のクリニックでは違う「治療」が行われます。最初は患者さんの気持ちに添うようなことを言ってくれるために満足度が高いのですが、病状が悪化すると対応できず、最期は保険診療を行う病院に戻ることになります。
こうしたことが起こるのは患者さんだけの問題ではありません。医師側の説明不足、コミュニケーション不足の問題もあります。双方でしっかりコミュニケーションをとり、それでもうまくいかない場合は紹介状を持って、別の病院にかかりましょう。
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内科医
医学部を卒業後、大学病院勤務、大学院などを経て、現在は福岡県の市中病院に勤務。診療のかたわら、インターネット上で医療・健康情報の見極め方を発信している。ハンドルネームは、NATROM(なとろむ)。著書に『新装版「ニセ医学」に騙されないために』『最善の健康法』(ともに内外出版社)、共著書に『今日から使える薬局栄養指導Q&A』(金芳堂)がある。
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(内科医 名取 宏)
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