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裁判所が旧統一教会の被害救済を認めず泣き寝入りさせた…地裁も高裁も1億献金返還請求に非情"敗訴"の訳

プレジデントオンライン / 2023年10月3日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

解散請求命令が出されるまで秒読み状態になった旧統一教会。教団が恐れるのはそれだけではない。元信者でジャーナリストの多田文明さんは「これまでの高額献金返還の裁判で被害者が敗訴になるケースがあるのは、教団から求められて書いた『献金は私が自由意思で行ったもの』といった念書があるから。しかし、岸田首相の昨冬の衆議院予算委員会での発言により、今後、被害者に救済の道が開かれる可能性が出てきた」という――。

■旧統一教会が恐れる解散請求命令と「念書問題」

旧統一教会の解散請求命令に向けて、文化庁は10月12日に宗教法人審議会を開く方向で調整しているとの報道がありました。40年以上の長きにわたって引き起こされ続けた霊感商法、高額献金の問題解決のための重要な一歩が踏み出されようとしています。

しかし、被害救済に関する問題は山積しています。そのひとつに念書問題があります。

9月27日に、立憲民主党を中心とする国対ヒアリングが開かれました。前半では、平成26年(2014年)に旧統一教会に関わり始め、2022年7月の安倍元首相の銃撃事件以降に脱会した元信者70代のAさん(2500万円以上の被害)と、Bさん(1700万円以上の被害)がご自身の体験を話して、2人の代理人である全国霊感商法対策弁護士連絡会の中川亮弁護士も説明しました。

特にAさんのケースは驚くべきもので、2000万円以上の献金をさせられた後、「先祖解怨のためのお金がない」と教会の婦人部長に話をすると、息子の定期預金から無断で引き出すために「統一教会の男性に委任状を書いてもらえばよい」と指示されたと言います(※)

※参照記事〈悪質な高額献金の手口 息子のお金を引き出すために「統一教会の男性に委任状を書いてもらえばよい」の指示〉

国対ヒアリング後半では、AさんBさんとは別に、被害者家族の60代の中野容子さん(仮名)本人からの話がありました。彼女の母親は、信者時代に1億円以上の献金をしています。中野さんは言います。

「AさんBさんが大変な思いをされて、力を振り絞るようにお話をして下さいました。旧統一教会は本人の承諾なく献金させた。不当としかいいようのない献金行為です。Aさんは金銭的被害だけでなく、つらい思いをさせられた精神的被害を受けていますが、私の母も似たような被害を受けました」

中野さんの母親の献金で大きかったものに、「父親名義の金融資産」があります。

「高齢の父が病気になり、母はアベル(教団の上司)からの指導で父に無断で献金を行いました。父は信者ではありませんでしたので、何も知らないままに行われたことです」

中野さんが記録した資料には次のように書いてあります。

「当時70代の母親は2004年に旧統一教会に入信した後、翌年9月に病気で療養中の父親名義の1億円近い金融資産が母親によって出金され、それが献金、物品購入に充てられました。(金融資産のあった)証券会社での手続きは母が行い、常に運転手兼監視役として女性信者が付き添っていました。(中略)しかし2016年になってから母は、自分が父名義のお金を献金してしまったことを強く後悔して『どうして、あんなことをしたのか』『(あの時は)頭がおかしくなっていた』と話していました」

教団の教義では、信者はアベルの言葉は絶対に従わなければなりません。自分の事情より、教義を優先しなければならず、もし、上からの指示に自分が罪悪感を覚えれば、それ自体、自らを厳しく戒めなければなりません。そのように刷り込みをされていたのです。

■「1億円を返せ」なぜ地裁も高裁も認めなかったのか

教団を辞めた後も苦悩から解放されるわけではありません。教団側の指示とはいえ、かつて信者時代に良心の呵責(かしゃく)を覚えながら多額献金をしたことを思い出すたびに、自分自身の心が傷つけられていきます。その精神的苦痛は計り知れないものがあります。

中野さんが旧統一教会に返金を求めて2017年3月に提訴しました。ところが、教団は「(中野さんの)父親が委任状を書いた」として、「母親に自分名義の金融財産の処分をすべて委ねた」という主張を始めたといいます。

「提訴してから2年経った時に、突如そういうことを言い出したのです。でも、実際には委任状はありませんでした。(資産のあった)証券会社からは、そういったもの(委任状)は一切出てきていません。つまり、この主張自体が虚偽でした。悪質性という点では、Aさんのケースと似たようなことをされました」(中野さん)

最高裁判所
最高裁判所(写真=Big Ben in Japan/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)

裁判はどうなったのかといえば、地裁(2021年5月)の判決に続き、高裁(2022年7月、安倍晋三元首相銃撃事件の前日)でも敗訴します。裁判長は、教団側の依頼により彼女の母親が「献金は私が自由意思で行ったもの」という念書を書き残したことを判決の根拠としました。「念書が有効であるという理由で、高等裁判所で敗訴しています」(立憲民主党・山井和則議員)。中野さんの母親が署名した念書にはこう書かれていました。

〈私がこれまで世界平和統一家庭連合に対して行ってきた寄付ないし献金は、私が自由意志によって行ったものであり、貴団体職員ないし、会員等による違法・不当な働きかけによって行ったものではありません。よって貴団体に関して、欺罔・強迫、公序良俗違反を理由とする不当利得に基づく返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め、一切行わないことをここにお約束します〉

教団側はその時の母親の様子をビデオで撮っていたといいます。敗訴を到底受け入れられなかった中野さんはただちに最高裁に上告しているのですが、この最高裁判決に一定の影響を与えるのではないかと言われているのが、岸田文雄首相が2022年11月29日の衆議院予算委員会にて、以下のように述べた内容です。

「寄付の勧誘に際しての法人等の不当勧誘行為により、個人が困惑した状態で取消権を行使しないという意思表示を行ったとしても、そのような意思表示の効力は生じないと考えられる。むしろ、法人等が寄付の勧誘に際して、個人に対し、念書を作成させ、あるいはビデオ撮影をしているということ自体が、法人等の勧誘の違法性を基礎づける要素の一つなり、民法上の不法行為に基づく損害賠償請求が認められやすくなる可能性がある」

■逆転勝訴なら多くの被害者が救われる道が生まれる

高額な献金をした人ほど、教団側に念書を書かされ署名させられているケースは少なくないと思われます。実際に、前出のAさんも同ヒアリングのなかで「脱会後に、弁護士さんの助けを借りて、統一教会との交渉によって今年(2023)年の8月に示談して、返金されました(筆者註:2500万円にプラス慰謝料300万円で請求)。そして統一教会に言われるままに差し出した『返還請求を行わない』という念書も戻ってきました」と話しています。

このAさんの事例を踏まえ、山井議員は次のように述べています。

「岸田首相は(国会答弁で)逆に『念書は悪質性、違法性の要素になる』とおっしゃいました。その後、念書を書かされながらも、返金されたのがAさんのケースです。さらに、もし中野さんの裁判が今後、最高裁で逆転勝訴となり、ここで念書無効となれば、、全国で泣き寝入りしている人たちの高額献金が戻ってくる可能性がある。大変なシンボリックな話で、統一教会が恐れているのは、解散命令請求と念書無効という流れになることではないか」

裁判所の銘板
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

こうした事例を通じて、多くの読者の方が改めて感じるのは統一教会への献金のあまりの高額さでしょう。Aさんや、中野さんの母親のケースのように、お金が本人になくなっても、家族にあることがわかれば、教団はそれを狙ってきます。そして本来のお金の持ち主である本人に了承を得ないままに、献金をさせる仕向けていると考えられるのです。

加えて、先祖の救いや霊の恐怖などを信じ切った人に、教団は委任状偽造書類を作るなど、社会通念上、絶対やってはいけない方法まで平気で使っています。今後も、こうした事例が全国で明らかになってくると思われますが、他にどんな手法が使われてきたのか、一人ひとりの詳細な状況をみることで、その手口の悪質性をつまびらかにしなければなりません。

前出・中野さんの最高裁の判決が出る時期は未定ですが、その内容によっては、泣き寝入りを強いられている人たちの高額献金が戻ってくる可能性があり、今後、多くの被害者が少しでも救われる道が生まれる。そんな重大な局面を迎えるだけに、今後の司法における、解散命令と念書問題の判決の行方に注目が集まることになります。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
悪質業者への潜入取材経験からジャーナリスト、ヤフーニュースオーサーとして活動。近著に詐欺商法の事例満載の『信じる者は、ダマされる。元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)がある。

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(ルポライター 多田 文明)

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