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「ジャニー」の名前を消しても性犯罪は消えない…「安易な再建策」を選んだジャニーズ事務所の致命的ミス

プレジデントオンライン / 2023年10月5日 11時15分

ジャニーズ事務所の社名変更を発表した東山紀之氏ら - 撮影=阿部岳人

故ジャニー喜多川氏の性加害を受け、ジャニーズ事務所が再発防止策や今後の会社運営について発表した。経営コンサルタントの石原尚幸さんは「社長交代や社名変更といった安易な対策は真の問題点から目を背けており、決してやってはいけない。腐った組織を再生するには、経営陣は総退陣し、外部から経営者を招聘するべきだ」という――。

■「ジャニーズ」の看板を下ろしても変わらない

ジャニー喜多川氏の性加害を受け、ジャニーズ事務所は10月2日、記者会見を開き、

・被害者への謝罪(補償を含む)
・ジャニーズ事務所の社名変更(SMILE-UP.)
・タレントマネジメントを行う新会社の設立

といった対策を発表した。

しかし、単なる謝罪、社長交代、社名変更では今回の問題解決にはならないと断言する。

なぜか? その理由は、真の問題点を特定していないまま、対策ジャンプをしているからだ。

筆者は幾多の組織に乗り込み、組織を改革させることを生業としている。その中には「変われる組織」と「変われない組織」がある。その違いは、「真の問題点」から逃げずに特定しているか否かである。

■部下が転ばないために、あなたはどうするか

こんな事例で考えてみよう。あなたの後ろを歩いていた部下が転んだとする。さて、あなたはこの部下に何と声をかけるだろうか?

ある上司は部下にこう声をかけた。

「おい、大丈夫か。気を付けて歩けよ!」

何気ないこのやりとりだが、この会話の中に、問題を解決できない組織が犯してしまう重大なミスが隠れている。

さて、考えてみてほしい。この部下はちゃんと前を見て歩けば再び転ぶことはないだろうか? はたまた別の誰かが通った時に、転ぶリスクはないだろうか?

私はあると予想する。なぜなら、転んだ理由が転んだ部下の不注意ではなく、ほかにある可能性があるからだ。

■「対策ジャンプ」は問題解決にならない

部下はもしかした残業続きでひどく疲れていたのかもしれない。こうなると転んだ理由は不注意ではなく、労働環境ということになる。はたまた、上司のパワハラが原因でひどく悩んでいたのかもしれない。これだと転んだ理由は、組織風土の問題となる。

さらには、部下本人にではなく外的要因も転ぶ理由となりうる。通路がデコボコで転びやすかったのかもしれない。これであれば、オフィスの修繕不足も問題となる。また、通路に段ボールがおいてあり、その影響でうまく歩けなくなっていたかもしれない。これは業務改善(美化)の問題となる。

先ほどのやり取りを振り返ってみると、上司が部下に「気をつけて歩け!」と声をかけたのは、転んだ理由を「部下の不注意」と断定し、その対策として「部下が注意をする」という対策を選んだことになる。

問題を解決するプロたちは、この上司のように「問題」が発生したときに、その問題を発生させた真の問題点を特定せず、安易な対策に飛びつくことを「対策ジャンプ(対策へジャンプするから)」と呼ぶ。そして、「対策ジャンプ」は問題を解決するためにはもっともやってはいけないこととして厳しく戒められている。

【図表】「対策ジャンプ」はもっともやってはいけない
筆者作成

■社長交代、社名変更も対策ジャンプに過ぎない

なぜなら、問題が発生したときに「真の問題点」を特定しなければ適切な対策は打てないからだ。上記で考察した通り、転んだ理由はいくつ考えられ、その理由いかんによって対策は変わってくる。

病気において、どんなに効くと評判の薬でも真の問題点がわかっていなければ効かないのと同じで、ビジネスにおいても、どんなに素晴らしい対策も、真の問題点とミートしていなければ効果はない。

今回のジャニーズ問題も同様だ。社長交代、社名の変更は、真の問題点を特定しないままの「対策ジャンプ」に過ぎない。

・「謝罪」という対策の前に、なぜこのような犯罪が放置され、なぜ拡大を止められなかったのか、特に見て見ぬふりをした未必の故意についての言及をすべきではないか?

・「社長交代」をしただけで、経営陣・経営幹部・社員に対する言及はない。当事者として問題はなかったのか? 被害者はそれで納得するのか?

・「社名変更」においては言及するまでもなく、会社は法人名を変えたところで何も変わらない

【図表】ジャニーズ事務所の「再発防止策」の問題点
筆者作成

■日本社会は「枕営業」を許容してきた

当事者たちが「世界史上まれにみる性加害犯罪」とまで言われる犯罪はなぜここまで拡大し、そして見過ごされてきたのか。真の問題点を特定する必要がある。

今回の事件の事実を丁寧に拾い集めると、4つの問題点と対策の方向性が浮かび上がる。

【図表】ジャニーズ問題の真の問題点と対策の方向性
筆者作成
問題点① 喜多川氏(加害者本人)という絶対的権限を持った犯罪者の存在

絶対的権力者である喜多川氏の性癖が少年性愛であったことから、この問題は端を発している。だが、喜多川氏はすでに故人であるため、現時点で打てる対策はない。

問題点② 少年への性加害に対する認識不足

被害者の多くがアイドルとして世に出ることを夢見る少年であった。権力を持たない人間が権力を持つ人間に「やめてください」と発言したりすることは簡単ではない。一部で被害者をバッシングする意見もあるようだが、被害者に落ち度はないと考える。

「枕営業」などという言葉が存在するように、ある意味、権力者による性加害を社会が許容してきてしまった面があるのではないだろうか。日本における性加害への厳罰化は最近の動きであり、男性に対する性加害(強姦罪)について罰則が作られたのは2017年のことである。

ジャニーズ事務所としてできることは、加害者として被害者に補償を行うと同時に、特に権力者における性加害撲滅を掲げ、喜多川家・藤島家の私財ならびに売り上げの一部を運営資金に回し、社会貢献を行っていくべきであり、ジャニーズ事務所(新会社を含む)のブランディングにも影響すると考える。

■被害を無視してきたジャニーズ事務所の闇

問題点③ 訴えを握りつぶす組織風土

喜多川氏という絶対的独裁者の下、逆らえば事務所での地位は危うくなったのであろう。そのことは容易に想像がつく。では、絶対的独裁者だけが問題だったのだろうか? 私はそうは考えない。

性被害を受けたタレントの中には、勇気を振り絞って会社に相談した人がいたことがわかっている。「合宿所」と呼ばれた寮での犯行も多くあったようで、目撃者がいないほうがおかしい。むしろ、独身寮に住む同僚たち、寮を管理していた社員、タレントを育成していたマネージャーやスタッフ、さらには喜多川氏の親族など、喜多川氏の性加害を知っていたと考えるのが自然だ。

ではなぜ、これだけの性加害を誰も止めることができなかったのか。ここに真の問題点が眠っている。勇気をもって声を上げた少年の言葉を握りつぶしてしまう組織はどうして生まれたのか? そこには根深い組織の闇がある。この闇に光を当て、組織全体の風土を変えていかなければ、組織が生まれ変わることはない。

■JALとシャープがV字回復できたワケ

組織が機能しなくなってしまった時に取りうる対策はいくつ考えられるが、過去の成功事例と照らし合わせると、経営陣の総退陣が最も効果的である。

「それでは、ジュリー藤島氏から東山紀之へ社長交代したのと同じではないか」との意見があるかもしれないが、ここでいう「経営陣の総退陣」は全く違う。

2010年に破綻し上場廃止となったJALは、京セラの稲森和夫氏を招聘(しょうへい)した。古い経営陣には退陣してもらい、若手に京セラフィロソフィを注入することで意識改革に成功している。その結果、超短期間でⅤ字回復を果たし、わずか2年8カ月で再上場した。

また、2016年に債務超過に陥ったシャープは、台湾の鴻海(ホンハイ)の傘下となった。送り込まれた戴正呉(たい・せいご)社長は、毎月1回「社長メッセージ」を全社員にメール。自らのビジョンや、社員に求める仕事に対する姿勢や考え方を直接伝えることで、わずか半年で黒字化、見事にシャープを立て直した。

■東山氏ではなくプロ経営者を招聘せよ

2つのⅤ字回復事例に共通すること。それは、第三者のプロ経営者を招聘、経営陣を総入れ替え、組織の構成員一人一人の意識を改革することで、それまで変えよう、変えようと思っても変えられなかった組織風土の転換に成功し、それがⅤ字回復の要因となったことである。

黒船が来なければ明治維新は起きなかったように、外からの圧力がなければ変われないのは日本人の体質なのかもしれない。その意味からも経営としては素人の東山紀之氏への社長昇格ではなく、経営陣の総退陣及びプロ経営者の招聘こそが、ジャニーズ事務所が再生する可能性を高める策である。

新会社にとっても、ファンにとっても、旧ジャニーズの看板であり稼ぎ頭である東山氏にはタレントして活躍し続けてもらうことが、ベストな判断ではないか。

問題点④メディアとの関係性

大手民間企業では、不正やコンプライアンス違反があればしかるべき部署へ告発できる仕組みが整いつつある。過去は告発をした社員が排除される事案もあったが、近年では告発する者が不利益を受けないことが制度化され、常識となっている。

しかし芸能界では(少なくともジャニーズ事務所においては)、この常識が浸透していないことが今回明らかとなった。今回の事件を教訓に、メディアに影響力を振りかざし、その黙認の上にあぐらをかく付き合い方から、ビジネスパートナーとしての対等な関係性を再構築するべきである。

ジャニーズ事務所は1つの対策として、チーフコンプライアンスオフィサー(CCO)を設置し、山田将之弁護士を招聘した。同機関が正しく機能することを期待する。

■対策ジャンプが起きる3つの原因

対策ジャンプが怖いのは、対策そのものは間違っていないことである。結果、当事者は対策に対し、間違っているとの認識を持たない。9月7日の東山、藤島両氏の記者会見での堂々とした顔を見るに、自分たちの立てた対策がここまで世論に叩かれるとは予想もしていなかったのではないか。

【図表】対策ジャンプを引き起こすもの
筆者作成

対策ジャンプが起きる時には、3つの原因がある。

① 成功体験
「昔はこれでうまくいった」との自負がどの組織にもある。過去はこれで握りつぶせたという間違った「成功体験」があったのではないか?

② 逃げ
臭いものには蓋をするのが人の常。聞いていたはず、見ていたはずの性加害を知らなかったとする「逃げ」がなかったか?

③ 孤立
裸の王様は裸であることを家来すら教えてくれなかった。東山氏はじめとして経営陣は「孤立」していないか? 経営陣に物申す家来はいるのか?

上記の3つの原因【成功体験、逃げ、孤立】はどの組織にも潜在し、これに起因する「対策ジャンプ」はどの組織においても起こっている事象である。

自社の「対策ジャンプ」を撲滅するために、まずは真の問題点を特定させる重要性を、私たちは今回のジャニーズ事務所の対応から学ぶべきだろう。

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石原 尚幸(いしはら・なおゆき)
経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長
1973年、愛知県生まれ。上智大学経済学部経営学科卒業後、出光興産に入社。2008年、34歳の時に独立起業。2012年法人化し、プレジデンツビジョンを設立。経営者・士業、120社のコミュニティ「五つ星★メンバーシップ」を主宰。「東洋経済ONLINE」、『月刊ガソリンスタンド』などメディア出演多数。著書に『社長! お金は「ここだけ」押さえれば会社は潰れない 2枚のシートで利益とキャッシュを確実に残す!』(ダイヤモンド社)、『父が子に伝える 13歳からのお金に一生困らないたった3つの考え方』(三笠書房)がある。

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(経営コンサルタント、プレジデンツビジョン社長 石原 尚幸)

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