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「前回より中性脂肪が減って一安心」は大間違い…スーパー保健師が「健診結果で一喜一憂するな」というワケ

プレジデントオンライン / 2023年10月7日 13時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

健康診断の結果はどう見ればいいのか。大阪大学大学院特任准教授の野口緑さんは「血圧や中性脂肪といった項目をバラバラに見て一喜一憂してはいけない。重要なのは、異常値が出た項目からあなたの血管の状態がどうなっているのかを知ることだ」という――。

※本稿は、野口緑『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』(日経BP)の一部を再編集したものです。

■結果の項目をバラバラに見てはいけない

メタボ健診の目的はたった1つのことを知るためにある。

会社や自治体で健康診断を受けた後、あなたはその結果をどのように見ているでしょうか? 結果の表にある1つ1つの値を見て、基準値を超えているかどうか一喜一憂している人が多いように思います。

「血圧が高いんだよね。最近は悪玉コレステロールも増えてきた」
「血糖値はそんなに高くないんだよ。でも中性脂肪がなぁ」

という感じです。飲み会などでも、こうした「健康診断の結果」の話で盛り上がることが多いかもしれません。

しかし、健康診断の結果について、そのように項目ごとにバラバラに見て終わりにするのは、正しい見方ではありません。

■重要なのは「血管の状態がどうなっているか」

そもそも、会社で行う健康診断は、根拠になっている法律から見ても、職場配置における就労の可否や、健康上禁止あるいは配慮すべきことを判断するのが目的です。例えば、耳の聞こえが悪いのに車が往来するような場所で作業するのは危険ですよね。そういう判断材料にするのが本来の健康診断の目的です。

それに加え、40歳以上になると、「特定健診(メタボ健診)」を受ける必要があります。これは、脳卒中や心筋梗塞などの心血管疾患(心臓や血管の病気)の重症化や、糖尿病の合併症を予防する目的で2008年からスタートした制度で、職場の健康診断の場合にはそれと一緒に行われることがほとんどです。

そして、メタボ健診の結果は、項目ごとにバラバラに見るのではなく、そこからあなたの「血管の状態がどうなっているか」を知ることが重要になります。自分の血管を取り出してその状態を調べることはできませんが、健康診断の結果を見れば血管の状態を推測できるのです。

「人は血管から老化する」という言葉を聞いたことはないでしょうか。血管の状態はその人の健康状態を左右します。血管が傷むと、血管の壁が硬くなったり「プラーク」というコブができたりする「動脈硬化」が起き、心筋梗塞など命にかかわる疾患の元凶となってしまいます。

■腎機能の値は「血管に深刻な変化」のサイン

では、健康診断の結果から、どのようにして血管の状態を推測できるのでしょうか。

例えば、中性脂肪の値が基準値を超えたり、肝機能の値(γ-GTPなど)が悪くなったりすると、「血管の問題が潜在的に進んでいる」可能性があります。さらに、血圧やLDL(悪玉)コレステロールの値が高くなると、その次の「血管が傷み始めている」段階になります。そして、尿たんぱくやクレアチニンなどの腎機能の値が悪くなってきたら、「血管に深刻な変化が生じている」と考えられます。

図表1をご覧ください。健康診断で異常値が出た項目にチェックを入れると、あなたの血管の障害がどれぐらい進んでいるかがわかります。

【図表1】健康診断の結果から今の「血管の状態」がわかる
出所=『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』

■基準値を超えていれば病気というわけではない

健康診断では、検査項目ごとに「この範囲であれば大丈夫」だと考えられる「基準値」があります。この基準値は、一般的に、多くのデータを集めて、95%の正常の人が含まれるように決められています。

そして、「基準値を外れたら、即、病気!」というわけではありません。基準値の範囲内でも病気の人が含まれることがありますし、基準値を外れても病気ではない人が含まれる場合もあります。そして、健康診断の結果だけで病気を診断することはできません。入社試験でいえば書類選考みたいなもので、本番はこれからなのです。

■糖尿病予備軍を早めに見つけ出す工夫

例えば糖尿病の検査では、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)をチェックすることをご存じの方も多いでしょう。これはブドウ糖がたんぱく質とくっつく性質を利用して行う検査です。血液中のたんぱく質でできているヘモグロビンが糖とくっついている割合を見るもので、過去1~3カ月の血糖値を反映しています。

メタボ健診ではHbA1cが5.6%未満だと正常とされていますが、その基準値を超えていればただちに糖尿病というわけではありません。血液中のブドウ糖を処理して、血糖値を正常に戻す力(耐糖能)が落ちてきているか、追いついていないということであって、まだ糖尿病とは断定できません。

糖尿病の疑いありとされるのは6.5%以上です。つまり、メタボ健診では基準値を5.6%とあえて低く設定しています。これは、耐糖能が落ちてきている可能性がある人を早い段階で見つけ出して、生活習慣を見直して耐糖能を改善させ、本当に糖尿病になるのを防ごうという意図があるわけです。

■中性脂肪より尿たんぱくが悪いほうがずっと深刻

一般的な健康診断の結果表では、すべての項目がずらっと並んでいるだけで、「重みづけ」がなされていません。しかし実際のところは、例えば「中性脂肪」の値が悪い場合よりも、「尿たんぱく」に問題があるほうがずっと深刻です。

中性脂肪は30~149mg/dLの範囲が正常とされています。ところが、中性脂肪の数値は運動量や食事量で簡単に変動するもの。身体活動による消費エネルギーが増えるか、食事からの摂取エネルギーが減れば、中性脂肪の値はほとんどの場合すぐに低下します。

逆に、焼肉の食べ放題などに行った翌日は、高くなることがあります。

長期間にわたって中性脂肪が高い状態が続くと、動脈硬化を進めるリスクになるため注意すべきなのですが、中性脂肪だけが基準値をわずかに超えていたからといって、それだけで即、致命的な状態だということではありません。

■「腎臓のバリア」糸球体が壊れている可能性がある

それに対して、「尿たんぱく」の項目はどうでしょうか。通常、腎臓の糸球体(しきゅうたい)という毛細血管は、細胞の材料になる大切なたんぱく質をむやみに外に捨ててしまわないよう、2重のバリアで守っています。それなのに、尿にたんぱく質が出ているということは、この血管が傷んでいる可能性を示唆しています。

糸球体はとてもデリケートな血管の塊で、一度壊れると再生しません。つまり、尿たんぱくが出ているということは、糸球体が壊れている可能性があり、中性脂肪が基準値を超えている場合よりも、ずっと深刻だといえるのです。

そのため、先ほどの血管障害の進行の図でも、中性脂肪は下のほうにありますが、尿たんぱくはそれよりも上にあるのです。

■生活習慣の変化は確実に数値に表れる

健康診断の結果を見るときは、前回や前々回の健康診断の値と比べて、現在の自分の状態を判断することも重要です。例えば、血圧やHbA1cが基準値の範囲内であっても、少しずつ上がっている場合は要注意です。

過去のデータとの比較は、現在、体の中で起こっていることが、どのような生活習慣から引き起こされているのかを考える手がかりになります。

野口緑『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』(日経BP)
野口緑『健康診断の結果が悪い人が絶対にやってはいけないこと』(日経BP)

私は、保健指導の面談で、「去年と比べて中性脂肪が上がっていますが、生活の変化など何か思い当たることはありますか?」などと問いかけて、宝探しみたいに生活習慣の変化を一緒に振り返ってみる、ということをやってきました。すると、「ああ、そういえば……」と、日頃気にも留めずに何気なく繰り返していた習慣に気づいたりするのです。

例えば、体重が増えた原因が、「娘が学校を卒業してお弁当を作らなくてよくなったので、自分のお昼ご飯も弁当から外食になった」とか、「職場が3階から6階に移って階段を使わなくなった」ということだと気が付くこともあります。

原因がわかれば、対策も取りやすいですよね。

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野口 緑(のぐち・みどり)
大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授
1986年、兵庫県尼崎市役所入庁。2000年から総務局職員部係長として、メタボに着目した独自の保健指導で実績を上げ、「スーパー保健師」として注目される。環境市民局課長、市民協働局部長、企画財政局部長を歴任し2020年退職。2013年から大阪大学大学院招聘准教授、現在は大阪大学の特任准教授として、生活習慣病予防、保健指導介入の効果や手法の研究を行う。医学博士。

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(大阪大学大学院医学系研究科 公衆衛生学 特任准教授 野口 緑)

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