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世界の「ブランドランキング」でユニクロ超え…中国発ベンチャー「SHEIN」が1週間で新商品を売り出せるワケ

プレジデントオンライン / 2023年10月12日 11時15分

2023年7月18日、中国系ファッション通販大手「SHEIN(シーイン)」のショールーム「SHEIN TOKYO」(東京都渋谷区) - 写真=時事通信フォト

イギリスの調査会社が発表した「最も価値のあるブランドランキング2023」で、アパレル分野のトップ5に、日本のユニクロと中国のSHEINがランクインした。高千穂大学准教授でマーケティングが専門の永井竜之介さんは「どちらもファストファッションだが、じつは進んでいる道が大きく異なっている」という――。

■「最も価値のあるブランドランキング2023」の2位と5位

低価格・高品質・ファッション性という3つの特徴を兼ね備えた「ファストファッション」は、日本だけでなく世界中で多くの消費者から支持され、人気を集めている。どんな衣服を選んで着るかによって、人のアイデンティティや価値観などが表されることが研究で明らかにされている。そのため、ファストファッションが浸透することで、人々が自分に合った衣服を自由に選べるようになり、それによって新たな価値観が生まれてくる転機になる、という視点からも注目されている。

イギリスの調査会社・カンターの発表した「最も価値のあるブランドランキング2023」において、アパレル分野のトップ5に、アジアの2つのファストファッション・ブランドがランクインした。それが、日本のユニクロ(5位)と中国のシーイン(2位)だ。この2つのブランドは、どちらもファストファッションだが、じつは進んでいる道が大きく異なっている。

流行よりもスタンダード化を目指し、「世界のスタンダード」への道を進む日本のユニクロ。流行の早さと安さを追及し、「世界一のファスト」を目指す道を突き進む中国ベンチャーのシーイン。じつは知らない、似て非なる2つのファストファッション・ブランドの進む道について、詳しく見てみよう。

■ユニクロの始まりは山口県の小さな紳士服店

ユニクロは、スペインのZARA、スウェーデンのH&Mに続き、アパレルで世界3位の約2.3兆円の売上高を誇るファストファッション・ブランドだ(2022年)。2023年5月末の時点で、世界に2440店(国内807店、海外1633店)を展開する世界的ブランドだが、その始まりは、山口県宇部市の商店街の小さな紳士服店にさかのぼる。

1972年、父の経営する小郡商事(現、ファーストリテイリング)に入社した柳井正氏は、トライアル&エラーを重ねながら会社を変革していった。1984年、35歳の時に社長に就くと、郊外型の店舗で、カジュアル衣料を低価格で販売するセルフサービスの「倉庫」のような店として、広島市にユニクロ1号店をオープンした。当時は、父から引き継いだ会社を潰さないようにすることが第一で、どんなに上手くいっても多店舗展開は30店舗が限度、売上30億円が自分のできる精一杯だろう、と考えていたという。

ユニクロが軌道に乗り、実際に売上が20億円、30億円と伸びていくと、新たな夢がふくらんできて、柳井氏は、世界を狙うようなビジネスにしたいと考えを改めた。それで、1991年に現在の社名に変更し、SPA(製造小売業)として「作って、運んで、売る」というプロセスをすべて自前で管理することで、高品質で低価格な衣服を実現し、全国へのチェーン展開を本格的に進めていった。この頃、「アメリカのGAPを超える会社になる」と宣言する柳井氏を、周囲はまだ失笑して見ていたそうだ。

■フリースで全国的な認知度を獲得することに成功

1998年、都心のど真ん中の東京・原宿店をオープンするとともに、軽くて暖かいフリースに価格破壊をもたらす大々的なキャンペーンを展開し、「ユニクロといえば、フリース」として全国的な認知度を獲得することに成功した。一時の停滞から抜け出して更なる成長軌道に乗ると、売上高1兆円を目標に掲げ、2001年にイギリス、2002年に中国、2005年にアメリカと海外進出を加速させていった。

ユニクロフリース20周年・会見する柳井正社長
写真=時事通信フォト
2014年10月15日、「ユニクロ」のフリース発売20年記念発表会で会見するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長。ユニクロの名を全国に広めた商品フリースは1994年の発売から20年を迎え、全世界で累計3億枚を販売(東京都目黒区の恵比寿ガーデンルーム) - 写真=時事通信フォト

ヒートテック、エアリズム、軽量ダウンに代表される「機能性衣料」という新ジャンルの開拓などを原動力に、ユニクロは飛躍を遂げて、2013年には目標としていた売上高1兆円を、日本のアパレル業界で初めて突破した。そして2021年2月、時価総額が10兆8725億円に達し、ZARAを展開するスペインのインディテックス社を初めて抜いて、「世界一のアパレル」という金字塔を打ち立てた。

■「世界のスタンダード」への道を進む

山口県の小さな紳士服店から、日本を代表するアパレルへ飛躍を遂げ、いまや世界でも五指に入るファストファッション・ブランドになったユニクロだが、長い間、好ましくないブランドイメージが付きまとっていた。「地方のロードサイドの店」というイメージが根強く、「安かろう、悪かろう」のブランドとして、ユニクロを着ていることを隠す「ユニバレ」や「ユニ隠し」といった言葉が生まれていたほどだった。

そんなブランドイメージを、機能性衣料のヒット商品を数多く生み出すことなどを通じて、生活をより良く過ごせるようになる、スマートな衣服のブランドへと更新していった。2010年には、ブランドコンセプトに「MADE FOR ALL」を掲げて、ユニクロが目指す道を明確にした。それが、「国籍。職業。性別。人を区別するあらゆるものを超えた、あらゆる人々のための服」であり、「世界中の人々が、それぞれのスタイルで自由に組み合わせ、毎日気持ちよく着ることができる服」であり、「シンプルで必要不可欠でありながら、ライフスタイルをも変えていく革新的な服」である。

2013年には、作り手視点だった「MADE FOR ALL」を、ユーザー視点の「LifeWear」に昇華させ、「あらゆる人の生活を、より豊かにするための服」、そして「生活ニーズから考え抜かれ、進化し続ける普段着」として、世界中で愛されるブランドを目指している。ユニクロは、国や地域、年齢や性別、好みや価値観に関わらず、誰からも選ばれるブランドを目指して、流行をおさえつつも廃れにくいスタンダードな衣服となる「世界のスタンダード」への道を進んでいる。

■未上場の巨大ベンチャー「SHEIN」

シーイン(SHEIN/希音)は、2021年にAmazonを抜いてアメリカで最もダウンロードされたショッピングアプリになり、2022年にはバイトダンス、スペースXに続いて3社目に企業価値1000億ドルを突破した未上場の巨大ベンチャーだ。

世界150カ国以上でサービスを展開するシーインは、長らく業績を公開してこなかったが、アメリカでの上場を目指して表に出した情報によれば、2022年の売上高は約3兆600億円にのぼり、2025年には約7兆8800億円を目標に掲げており、一躍、世界トップのファストファッション・ブランドに名乗りをあげている。

シーインは、「デジタルネイティブ」と呼ばれるZ世代の若年層をメインターゲットに、店舗は構えず、アプリやECサイトを通じたオンライン販売に特化しているのが特徴だ。女性向けのアパレルを中心に、メンズ・キッズ・アクセサリー・雑貨など幅広いジャンルで、毎日3000点以上の新作アイテムを発売する。「早く安くトレンドを押さえる」、「掘り出し物を見つける」、そして「値段を気にせず、試し買い・衝動買いできる」ファストファッション・ブランドとして、急成長を遂げている。

■ウエディングドレスの越境ECビジネスだった

シーインは、中国・山東省出身の許仰天(クリス・シュー)氏が2008年に創業した会社から始まった。大学卒業後、エンジニアとして働いていた許氏が、勤務先の展開する越境ECビジネスに関心を持ち、「中国で製造されたウエディングドレスを、アメリカに持っていけば、中国での市場価格の10倍以上で売れる」という話を耳にしたことがきっかけだ。友人2名と共に、中国で作ったウエディングドレスをアメリカでオンライン販売するビジネスに着手した。

ウエディングドレス
写真=iStock.com/Silk-stocking
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Silk-stocking

ウエディングドレスの越境ECビジネスで一定の成果を得られたものの、同じ手法のライバルが続々と出てきて競争が激化し、また、ウエディングドレスという商品だけではリピーターが生まれないために限界を感じたという。そこで、2011年に商品ジャンルを女性アパレル全般に広げ、「SheInside」というブランドを立ち上げた。これが、2015年から「SHEIN(シーイン)」に更新されることになる。

シーインは、格安アパレルが無数にある中国国内市場は初めから想定せず、海外市場の開拓に集中して、欧州各国、中東諸国、そしてアメリカなど、ビジネスの展開を海外で拡大させていった。しかし、当初は、中国で製造した安い衣服を、海外で販売するだけのブランドとして、大きな注目は集めていなかった。飛躍を始めたのは、「リアルタイムファッション」と呼ばれるほど、早く安く、圧倒的な商品量を供給できる体制を構築してからだ。

■毎日3000点以上の新商品を、小ロットで売り出す

シーインは、世界一のファストファッション・ブランドであるZARAを、ライバルとして、目標として、徹底的に分析した。200名のデザイナーを抱え、商品の企画・製造・出荷を30~60日という高速で実現しているZARAを超えるために、シーインは、中国最大のアパレル製造の集積地である広州・番禺区に拠点を設けた。そして、製造拠点のすぐ隣に800名ものデザイナー群を配置し、商品の企画から出荷までを最短7日間で実現する、規格外のハイスピードで商品を供給できる体制を構築していった。

商品の企画には、AIを駆使した独自のシステムを開発し、企業のHPから個人のブログ、SNSまで、世界中のオンライン上で注目を集めている画像や動画を自動分析して、現在進行形の流行を探し続ける。世界中から集まった流行の情報は、社内のデザイナーたちのチェックを経て、数日のうちに企画化され、製造へ回される。そうして、毎日3000点以上の新商品が生み出されるが、初回の製造数は、わずか100着という超小ロットになっている。

製造を請け負うすべての取引工場には、共通の受発注システムが導入され、シーインの新商品の売れ行きがリアルタイムで共有される。AIによる売上予測も踏まえ、30着売れるごとに自動で追加発注が入り、その追加発注の回数が基準を超えると「ヒット商品」として生産量を増加する仕組みだ。追加発注が入らなかった商品は、すぐに製造打ち切りとなる。

人と現代の技術の接続
写真=iStock.com/gremlin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gremlin

■世界中で「バズる」企業として飛躍

この体制によって、シーインは、「まず小さく作り、市場で検証し、ヒット商品だけ大きくスケールさせる」というサイクルの高速回転を実現させている。まずは、世界中から集めた情報をもとに、大量の新商品を試しに作って売ってみる。実際に売り出してみて、どれが本当に売れる商品なのかを検証する。そうして、売れなければ、初回の100着のみで打ち切る。売れると分かった商品は、一気に生産を増やし、世界中に広める、というわけだ。

圧倒的な商品の量と早さ、安さを強みにライバルとの競争に勝ちあがり、TikTokをはじめとするSNSを通じたプロモーションや、有名人ではないが影響力・発信力の質に優れた一般ユーザーを重宝するインフルエンサー・マーケティングなどによって、世界中でバズり、シーインは飛躍を遂げていっている。

シーインは、製造プロセスにおける労働環境の問題、デザインやキャラクターなどの知的財産の侵害に関わるトラブル、過度なファスト化による資源環境の視点からの批判など、様々な課題の解決に取り組みながら、「いま、人気の服」がどこよりも早く安く、手軽に手に入る、究極の「ファストなブランド」を目指す道を走り続けている。

【主な参考資料】
・本庄加代子(2020)「マーケティングケース-シリーズ143 新しい『服』を創造するユニクロのブランド・イメージの変化とそのアイデンティティのマネジメントの考察」日本マーケティング学会『マーケティングジャーナル』40(2), 94-103.
・KANTAR「Kantar BrandZランキング アップルが世界で最も価値のあるブランドとして王座を維持」2023年6月16日
・BUSINESS INSIDER「『世界ブランドランキング2023』ユニクロは『SHEINと対極』と評価…トップ100に“常連”トヨタとNTT、ソニー【調査】」2023年6月19日
・ファーストリテイリング「業界でのポジション」
・ファーストリテイリング「グループ店舗一覧」
・日経ビジネス電子版「なぜユニクロは世界一になれたのか」2021年4月22日
・Forbes JAPAN「日本一の富豪 柳井 正が『ユニクロ』ブランドを築くまで」2020年3月12日
・ベンチャー通信8号(2003年7月号)「やる前から考えても無駄 株式会社ファーストリテイリング 代表取締役会長 柳井正」
・経済産業研究所「ユニクロ絶好調の秘密と日本の繊維産業」2001年6月8日
・36Kr Japan「中国発ファストファッション『SHEIN』、22年の売上高は約3兆円 米IPO計画も加速か」2023年2月27日
・東洋経済オンライン「アパレル初!謎の1兆円未上場企業『SHEIN』の正体」2021年9月7日
・BUSINESS INSIDER JAPAN「評価額1000億ドル超えのアパレルEC『SHEIN』。メディアに出ない潜伏戦略はなぜ破られたのか」2022年10月11日
・business leaders square wisdom「中国発EC『Shein(シーイン)』は『究極のビジネス』か? 『売れる商品』を特定し、速く、安くつくる仕組み」2022年8月24日
・中華IT最新事情「SHEINの成功の秘密はイノベーションではなく改善。持続型イノベーションのお手本となったSHEIN」2022年10月11日

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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