難関ホワイト企業に入った20代の7割近くが後悔している…入社後にがっかりする意外な理由【2023上半期BEST5】
プレジデントオンライン / 2023年10月6日 7時15分
■ホワイト企業は本当に「理想的」な会社なのか
「ホワイト企業」と呼ばれる企業があります。過労や長時間労働がなく、労働時間が適切に管理されている企業で、福利厚生が整っており、有給休暇が取得しやすく、研修制度が整っているとされています。
毎年春には大量の若者が就職して社会に出ますが、入社早々、徹夜して汗水垂らしながら仕事をするような状況は避けたいものです。しかも給料が変わらずに、休暇がたくさん取れるのであれば願ったり叶ったり……。
ところで、労働環境が良いことは100%「バラ色」であって、デメリットはいっさいないのでしょうか?
人それぞれ価値観があると思うのですが、必ずしも「労働時間が短い=幸せ」という単純な話ではないことが、クロスリバーがホワイト企業に入社した新人を対象に行った匿名アンケートから浮き彫りになりました。
■残念な理由①:仕事が途中でも帰らされる
実際にホワイト企業を目指して入社した新人28人にヒアリングしたところ、「(入社して)がっかりした」と答える人が68%(19人)もいたのです。ため息をつきながら答える人も多数いました。
想定したよりもかなり多く、そこで、その理由についてもヒアリングしました。すると、共通する2つの原因がわかったのです。
2019年から大企業、そして2020年から中小企業を対象に、時間外労働の上限が設定されました。建設業や配送業など特定業種は経過措置が取られ、2024年から対象になります。いわゆる「残業規制」が全業種で行われるのです。
「労働時間は減らすが、売り上げを減らすわけにはいかない」と経営陣は躍起(やっき)になり、ITツールを導入して効率化を進めたり、裁量労働制やプロフェッショナル勤務制度などの人事制度を変えたりするなどして乗り切ろうとします。
しかしながら、現場での仕事の進め方は同じ。仕方なく、管理職が部下の残業を肩代わりしたり、自宅での隠れ残業を黙認したりしています。
このような状況で、新人も残業は許されません。主力の30代・40代の残業を減らすと売り上げ減少に直結しますが、20代の若手社員の残業削減は「影響が少ない」と考えている管理職が少なくありません。
そこで、仕事が終わっていないのに、頭ごなしに「早く帰れ」と指示し、若手は自宅に持ち帰ってやるか、翌朝に早く出社して処理するしかないというのです。
■「スキルを磨きたいのに、会社がそれを許してくれない」
とりわけ20代は、仕事を覚える時期でもあります。このタイミングで、先輩や上司から仕事を教わり、30代で「一人前」の仕事をすることが求められます。
製造業の大手企業に入社した20代の男性は、次のように話してくれました。
「勤務時間中は目の前の業務をこなすことで手一杯。夕方に将来に向けたスキルを磨きたいのに、会社はそれを許してくれないのです……」
また、残業が少ないIT企業に入社した20代の女性は、「大型案件のプレゼンが翌日に控えていたので入念に準備していたら、『残業するな』と帰らされた。会社の業績に繋がる商談なのに、残業しないことが目的となっていて残念です」と、ため息交じりに話してくれました。
労働時間は短くても、自己研鑽の時間が減ると、このままでよいのか不安になる20代が多いようです。
■残念な理由②:重要なプロジェクトから外される
ホワイト企業に入ってがっかりした理由の2つ目は、重要なプロジェクトから外されること。
コンサルティングファームや、グローバルビジネスを展開している企業などでは、「時差がある人」とのやりとりが多数発生します。
高度プロフェッショナル制(注1)や裁量労働制(注2)の導入企業は、グローバルの大型プロジェクトでは技能を持つ社員が登用され、早朝や深夜も働くことになります。
注1:高度プロフェッショナル制/一定の専門知識や技能を持つ高度な専門職に対して、労働時間規制を緩和し、労働者と事業主の間でより柔軟な労働条件を設定することができる制度。
注2:裁量労働制/通常の労働制度では、労働者は所定の労働時間に働かなければならないが、裁量労働制では、労働者は自分の仕事の進め方や労働時間を自由に決めることができる。
しかし、まだ専門スキルも経験も少ない20代社員は労働時間が制限されることで、こうした大型プロジェクトから外されてしまうことがあるようです。
■「このままの働き方で一人前の30代になれるか不安です」
ある外資系コンサルティングファームに入社した男性は、30代に向けて不安を口にしました。
「優秀な先輩コンサルタントは、20代で過酷な状況で経験とスキルを着実に積み上げていたそうです。会社は2018年から働き方改革をはじめ、若手社員の残業を極端に抑制しています。それ以来、大型プロジェクトから若手社員が外されて……。このままの働き方で一人前の30代になれるか不安です」
残業が少ないホワイト企業を探して入社したのに、「残業できない」と訴える若手は矛盾に満ちていると思えるかもしれません。しかし、入社してからわかることもあります。結果としてかえって重要プロジェクトに参画しにくくなる事実を、彼らは入社したあとに知ったのです。
とはいえ、「残業すること」がスキルを伸ばしたり、重要プロジェクトに参画したりするための“前提”になってはならない、とも思います。
■「ゲーム」の条件が変わった
私が20代のころは寝食を惜しんで働きました。日曜日に1週間分のシャツを持ち込んで会社に寝泊まりしていたときもあります。
その当時は、さまざまな仕事を任されて充実していました。ほかでは得られない業務スキルや経験を得ることができ、働きがいも感じていました。
しかし、そうした長時間労働が続いた先に待っていたのは、心と体を壊しての「戦線離脱」でした。限られた時間の中で成果を出し続ける働き方をしないと、長く働くことはできないと実感しました。
![新しいルールと書かれたカードをこちらに見せる男性の手元](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/3/1200wm/img_b3c97d35bebdc63eb6559ebd12cbdeab267558.jpg)
ですから、労働時間になんら制約なく、思う存分働きたいという若手社員には賛同できません。一度でも身体を壊すと復帰が難しいのです。
そこで、相談に来る若手社員には「限られた時間の中で成果を残すという条件のゲームに変わったのだ」と伝えるようにしています。
■58%が残業削減を目的とした働き方改革には反対
クロスリバーでは、2021年4月に「残業意識調査」を実施しました。7万9000人のビジネスパーソンを対象に、「残業削減を目指した働き方改革に賛成ですか」と聞き、匿名で「Yes」「No」を答えてもらいました。
すると、驚くべきことに「残業削減を目指した働き方改革に反対」という人が58%もいたのです。
これは必ずしも「残業したい」ということではなく、そもそも仕事が終わらないとか、目の前の仕事を片付けることに終始してしまい、スキルアップの時間を取れないとか、学ぶ時間がない、という人が大勢いました。
20代の若手社員だけ取り出すと、「むしろ残業をしたい」という人は41%もいたのです。
最初はてっきり残業代を期待しているのかと思いました。しかし調査をさらに掘り下げる形で、追加調査を行ったところ、そうではなく、「一人前の社会人になるために、20代の間にしっかり学びたい」と希望している人が多いことがわかりました。
■企業が気づいていないこと
残業したい理由を自由記入で回答してもらったところ、第3位は「そもそも仕事が終わらないから」という想定通りの回答となりました。第2位は「残業代が欲しいから」と正直に答えてくれました。
予想外に1位であったのは「スキルを磨きたいから」だったのです。
1人前のビジネスパーソンになるために、仕事を通じて経験を積み重ねたり、研修を受けてビジネススキルを高めたりしたい、というのです。
ここでいうビジネススキルとは、文書作成やコミュニケーション能力、ITツールの利活用、会議ファシリテーションやプレゼンテーション能力などビジネスに活かすことができるスキルであり、それらを業務時間内、もしくは時間外でも学びたいと若手は言っているのです。
こういったスキルを身に付けたいという若手社員が増えていることは歓迎すべきことです。しかし残念ながら、多くの企業がこの事実に気づいていません。研修時間を減らし、若手のモチベーションを下げていたのです。
■働き方改革ではなく「学び方改革」を
一方、社員の要望を聞き、働き方改革に成功している企業は、「学び方改革」を推進しています。
社内会議や資料作成のフォーマットを決めて定型業務を減らし、生み出された時間を研修に充てています。
会社側と社員が必要だと思う研修メニューを一緒に作成し、興味を持った講座を社員が自分でピックアップしていました。
会社が社員に受講を強制させる基礎講座と、社員が自分で選ぶ応用講座を組み合わせて、カフェテリア方式で社員の自己選択権を基に、チョイスしていく「学び方改革」を実行しています。
会社の成長に必要なスキルを社員に身に付けさせ、そして社員は自分の成長に必要なスキルを身に付けるわけですから、両者がハッピーです。
■「カフェテリア形式」の研修が効果的
若手人材の流出を抑えたいという企業はぜひ、こうした「学び方改革」を実行してみてください。学び方改革、研修の充実が、若手の離職率改善に影響することは、クロスリバーの39社の行動実験で明らかになっています。
「会社として受けてもらいたい研修」はもちろんあるでしょう。でも、それを一方的に押しつけるだけではだめなのです。
若手社員が自分の成長のために受けたい研修、たとえば開発言語、プレゼンテーション、デザイン思考の勉強などといった希望があります。そのような「受けたい研修」の希望を若手社員の側に出させるのです。
「社員が受けたい講座」と「会社が受けさせたい講座」を、人事部など人材開発部門でミックスさせて、「この中から年間に5つ受講してください」「必須のものは2つ、自由参加は3つです」などとメニューとして提示するのです。いわゆるカフェテリア方式です。
■満足度が向上し、離職率も改善
これをやると、まず研修の満足度が、以前の社内研修に比べて1.4倍から1.6倍に向上します。しかも、その後の離職率が改善した企業は85%(39社中33社)もありました。
中には「この会社に在籍して学んでいたほうが自分の市場価値を上げることができる」と答える打算的な若手社員もいましたが、せっかくコストをかけて若手社員を採用したのに、士気が下がって退職されてしまうよりずっとよいのではないでしょうか。
市場価値の高い人材を育成することができれば、会社の業績にも貢献します。労働時間の増減だけにとどまらず、会社と社員の成長を両立させることを目的として、手段として労働時間の使い方を考えてみてください。
■「自由」は与えられるものではない
一方で、企業側が学び方改革を実行してくれるのをただ待っているわけにはいきません。若手ビジネスパーソンのみなさん個人にも、ぜひお伝えしたいことがあります。
いま見たように、20代、30代を取り巻く環境は難しいものとなる一方です。自分ではもっと学びたいのに、会社が、社会がそれを許してくれない。先輩が自分たちの年齢のころにはもっといろいろな経験ができたのに……と嘆く気持ちもわかります。
![壊れた鳥かごから羽ばたく鳥](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/5/1200wm/img_05c5edda97fb9328ed543afa0865da42271323.jpg)
クロスリバーとして815社の働き方改革を支援する中で、若い世代のビジネスパーソンにもたくさん出会ってきました。
その中で1つ強く感じたことがあります。それは、「Freedom(個人の意向に従って行動する自由)」と「Liberty(自ら勝ち取った自由)」を取り違えている若者が意外に多い、ということです。
■GW明けに「起業したい」という相談が必ず増える…
いまは空前の「売り手市場」になっています。勤めている会社を辞めても、次に行く先は見つけやすい状況です。
すると、「こんな会社に居てもしょうがない」「未来がない」「だったら、起業したい」となる人が多いのです。毎年、大勢の若者が希望を胸に会社に入社しますが、GW明けには「起業するにはどうしたらいいですか?」という相談が殺到します。
思うがままにやりたい気持ちはわかります。しかし、現状のまま40代、50代となったらどうなるでしょう。十分にスキルを磨かず、専門性もないままでいたら、年齢を重ねるごとに市場価値は下がっていく一方です。「若さ」は労働市場で武器になりますが、その賞味期限は想像以上に短いのです。
自社の制度や環境の良し悪しにかかわらず、自らスキルを磨き、本当の「自由」を手にするために、迷える若いビジネスパーソンに勧めたいのは「複業」です。片手間でやる「副業」ではありません。文字通り、与えられた業務のみならず、みずから進んで複数の業務、複数の仕事を遂行し、「できること」をどんどん増やしていくのです。
それは時に、所属企業の枠を超えることもあるかもしれません。
■これからのビジネスの世界はオープンワールド化する
拙著『29歳の教科書』で詳しく述べていますが、これからのビジネスシーンはRPGゲームでいうところの「オープンワールド」化していきます。
![越川慎司『29歳の教科書』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/5/1200wm/img_35dfe853690cb7e3e4e4474f1e00fd17109808.jpg)
マーケットという名のオープンワールドを舞台に、あなたは冒険の旅に出るのです。
所属先がどこであれ、「できること」を明確に持ったプロフェッショナルたちが、「ギルド」で受託した「クエスト」ごとに「パーティ(プロジェクトチーム)」を組んで、職務を遂行していきます。難易度の高いクエストをやり通したパーティのメンバーにより大きな報酬が配分されるのも、RPGとまったく同じ。
しかし、そこで「若さ」に胡坐(あぐら)をかいて時間をただ漫然と浪費し、年齢を重ねただけでなんら「スキル」を持たないキャラクターがいたらどうでしょう。パーティへの参加を希望しても承認されず、誰からも声はかからず、やることが何もない状態になりかねません。
ビジネスパーソンも同じです。会社が業務を与えてくれることが「当たり前」ではないことは、誰もが「そのとき」が来て初めて痛感します。しかし、気づいたときにはもう取り返しがつきません。
だからこそ、20代30代の「いま」が大切です。
■20代で身に付けた習慣で人生が分岐する
現在あなたを取り巻く環境、周囲の上司・先輩は理想的なものではないかもしれません。しかし、そこで他責思考になってはなりません。むしろ、「環境が整っていないなら、自分が作ればいい」という発想になってほしいのです。新しいものごとや仕組みを作り上げる習慣を身に付けましょう。
20代、30代のうちにそうしたアクションを習慣化したビジネスパーソンは、経験と実績を積み重ねることで、文字通り「引く手あまた」の存在になっていきます。年齢を重ねるとともに、持てる才能はますます大きく花開きます。
大きくジャンプするためには、その前に「しゃがむ」ことが必要です。もどかしさを感じるいまは、あなたは「しゃがんでいる」だけなのです。その先にジャンプをするのか、そのまま座り込んで立ち上がることさえ忘れてしまうか、それを決めるのは「あなた自身」です。
『29歳の教科書』は、20代30代のビジネスパーソンが一歩を踏み出すための実践ガイドです。本書も参考にしながら、来る「ビジネスの未来」を見通し、具体的に行動を起こしていただければ幸いです。
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株式会社クロスリバー代表
元マイクロソフト役員。国内および外資系通信会社に勤務し、2005年に米マイクロソフト本社に入社。2017年にクロスリバーを設立し、メンバー全員が週休3日・完全リモートワーク・複業を実践、800社以上の働き方改革の実行支援やオンライン研修を提供。オンライン講座は約6万人が受講し、満足度は98%を超える。著書に『AI分析でわかったトップ5%リーダーの習慣』、『AI分析でわかったトップ5%社員の習慣』(共にディスカヴァー・トゥエンティワン)、近著に『29歳の教科書』(プレジデント社)がある。
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(株式会社クロスリバー代表 越川 慎司)
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