口頭で受けた指示に従ってはいけない…「私は知らなかった」が口癖の"責任逃れ上司"に事前に送るべきメール
プレジデントオンライン / 2023年10月16日 8時15分
■「人のせいにする上司」はなぜ生まれるのか
ビッグモーターなど、不祥事を起こした会社の記者会見で、社長らが「知らなかった」「部下が勝手にやった」など、自分の非を認めず責任を他者に転嫁する姿を目にします。
ほかにも、たとえば自分のミスで納期が間に合わなかったのに「部下が締め切りを勘違いしてしまった」「部下の能力が低く、期限通りに終わらせられなかった」と部下のせいにする。また、クライアントに言われるがままに難しい納期を受け入れて、「やっといて」と部下に丸投げし、部下が何とか頑張って間に合わせたとしても、評価は上司が全部持って行ってしまう。
上司がこうした、自分の非を認めないタイプの人だと、部下の方は、自分の成果がきちんと評価されなかったり、上司の尻ぬぐいをさせられることになったりするので大変です。
こういった人たちは、なぜ自分の非を認められないのでしょうか。
■高すぎる自己評価、強すぎる自己愛
自分の非を認められない人の多くには、「自己評価が高い」「自己愛が強い」という傾向があります。そのために、自分の判断や価値観が正しいと思ってしまうのです。
自己評価が高すぎたり、自己愛が強すぎたりすると、自分の誤りを認めることはプライドを傷つけ、自分に対するイメージ(セルフイメージ)が崩れてしまいます。また、自分の無能さをさらすように思えて恥ずかしいと思ってしまう。上司であれば肩書もあるでしょうから、地位や権威を失ったり、部下からの信頼を失ったりする恐怖もあって、なかなか認められないのでしょう。
一方で、こうした自己評価が高い人というのは、自信を持って仕事を進められたり、リーダーシップを発揮したりできる面もあるので、成果を上げて評価されることも多い。そうして実績や経験を積むほどに万能感が高まりますし、余計に自分の非を認められなくなってしまうのです。経営者や管理職の中に、自分の非を認められない人が一定数いることは、ある意味自然なことかもしれません。
しかし、周りの人、特に部下にとってはたまったものではありません。
■自己肯定感が低いから非を認められない
一見矛盾するように見えるかもしれませんが、このような上司は、自己肯定感が低いところもあります。自己評価を必要以上に高く保ち、非を認めず、うまくいっていることにしなければ、自分を認められない。あるいは、人から褒められないと自分を受け入れられないのです。
一方、自己肯定感の高い人は、謙虚になることができます。いくら能力が高くても、自分はまだまだだと考えることができ、自分の至らなさも認めることができます。うまくいかなければ、自分のできなかったところに目を向けて改善しようとしますし、失敗したときも「私が至らなかったせいで申し訳ない」と部下に謝ることができます。
■論破しようとせず「フィードバックを求める」姿勢で
では、自分の非を認めないタイプの人が上司になったら、どうしたらいいのでしょうか。
部下の方は、あとから責任を押しつけられないために、あらかじめ防御策をとっておく必要があります。
「この指示は、上司の言う通りやっていると危ないな」「この通りやって、あとでうまくいかなかった時に、私の責任にされてしまいそうだ」と思った場合は、あらかじめ自分の考えをしっかり伝えておきましょう。
ただし、そういう上司は、もともとそうした部下の苦言に対し、聞く耳を持つタイプではありません。「やる前からあきらめるのか」「前もこのやり方でうまくいったから大丈夫だ」などと、言いくるめられる可能性があるので、伝え方にはひと工夫が必要になります。
「○○の工程で最低1週間、△△の工程で最低1週間かかりますから、このスケジュールではどう見ても間に合いません」など、誤りを指摘して上司を論破しようとはしないことです。
「○○の工程で最低1週間、△△の工程で最低1週間かかるので間に合わないように思うのですが、どうすれば間に合わせられるでしょうか」「このスケジュール見積には、どこに穴があるでしょうか」と、フィードバックがほしいという姿勢で話します。
これは、上司と部下の健全なコミュニケーションですから、こういった姿勢で対話を重ねれば、上司も耳を傾けてくれる可能性が高くなります。
■やりとりは記録に残しておく
ただ、ここで返ってくるフィードバックがまた、「普通は1週間かかるかもしれないが、頑張れば3日で終わるはずだ」「何でも私に聞くのではなく、自分で考えて工夫してみなさい」など、実現不可能なものだったり、理不尽なものだったりする可能性はあります。その場合は、「その納期では無理だと思う」と、自分の考えははっきり伝えておいたほうがいいでしょう。
そしてこうしたやりとりは、記録に残しておきましょう。そうでないと、最終的にうまくいかなかった場合に、「(部下が)できると言ったのに」「部下の能力が足りなかったから間に合わなかった」などと、責任を転嫁されてしまいます。記録に残し、責任の所在をはっきりさせておくことが重要です。
メールやメッセージ、チャットなどのやり取りを残しておくことはもちろん、口頭で受けた指示も、あえて「先ほど言われた○○に関して、私は○○や○○などの懸念を持っていますが、ご指示があったので作業を始めます」など、メールなどで送って、自分が懸念点を伝えたことを記録に残しておきます。こうした記録が、のちのち最大の防御となるはずです。
■1対1のシチュエーションで伝えない
普段は、ここまででお話ししたような、「論破しようとしない」「記録に残す」といったコミュニケーションで何とか対応するとしても、他部署や取引先に迷惑をかけ、その責任を部下に転嫁するなど、あまりにひどい場合は、上司に直接進言しなければならなくなることもあるでしょう。その時には、1対1のシチュエーションでは伝えないよう、気を付けてください。
たとえば、1対1で「この納期はちょっときついですよ」と伝えても、「他の人はできている」「みんな頑張っているのに、そんなことを言うのはお前だけだ」などと突っぱねられてしまいます。ですから、同じ思いを持つ仲間を集め、複数で訴えることをお勧めします。問題だと考えている人が複数いることをわかってもらうのです。また、複数の人がその場にいれば、あとで「そんなことは聞いていない」などの言い逃れがしにくくなるはずです。
■責め立てず、下手に出る
伝え方は、非常に難しいところです。部下の側も、これまでの不満がたまっていますから、つい、相手の誤りを責め立てたくなるところですが、この先も上司と部下の関係が続くことを考えると、関係性を悪化させるのは避けたいところです。
こういった上司は、自己評価が高くプライドが高いことが多いので、責められれば感情的になって、余計に態度を硬化させるでしょう。
ここは自分の怒りをぐっと抑えて、下手に出ながら伝える方が得策です。「期待に応えられず申し訳ありません。私もみんなも、あなたの要求に応えようと頑張っていますが、なかなか難しく、疲弊しています。何とかやり方を見直していただけないでしょうか」といった姿勢で伝えてみてください。
■上司の上司に相談するには
最終手段が、上司の上司に相談することです。非があっても反省して改めようとせず、部下に責任を押し付けていることを示す、具体的な事例を集め、できるだけ感情的にならずに伝えるようにします。
この時も、自分1人ではなく複数の仲間と訴えること、記録に残しておいた証拠を用意しておくこと、上司を責め立てるのではなく、「私たちも上司をサポートしようと頑張っているが、どうにもうまくいかず困っている」という姿勢で伝えるなどの、工夫が必要です。
自分の非を認めない上司は、部下の手柄を自分の手柄のように見せていたり、ミスを部下のせいにしたりして、上役に評価されてきた可能性があります。また、無理な仕事を取ってきて、部下に押し付けながら実績を上げてきたことも考えられます。会社にとっては、実態がどうであれ、「仕事をたくさん取ってくる有能な社員」に見えている可能性があるのです。それを覆すためには、証拠を示すとともに、どれだけ複数の部下が困っているかを伝える必要があるでしょう。
自分の非を認められないと、自分のやり方を改善したり、成長したりすることができません。また、自分の非を部下のせいにするというのは、パワハラにもつながりますし、上司としての資質に欠けているといえます。ですから本来は、会社としてこうした人物を上司となる地位につけるのは、組織としてマイナスになるはず。なかなか簡単なことではないかもしれませんが、そういったことを理解してくれる人を探して、訴えることを考えてほしいと思います。
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産業医・精神科医
産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。
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(産業医・精神科医 井上 智介 構成=池田純子)
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