「5年生からの勉強で難関校に合格」は超レア、中堅校も危うい…プロ家庭教師が見た"ゆる受験"の落とし穴
プレジデントオンライン / 2023年10月15日 9時15分
■短い期間で無理なく受験ができる“ゆる受験”
近頃、“ゆる受験”という言葉が浸透しつつある。一般的に小4(小3の2月)からスタートする中学受験の勉強。最近では低学年から塾通いをさせる家庭も増え、首都圏の中学受験は過熱する一方だ。そんな行き過ぎた受験に疑問を感じつつも、「まわりの友達がみんな受験をするから、うちだけしないというわけにもいかなさそう……」「地元の公立中学もあまり評判が良くないし……」と中学受験をさせるかどうか迷っている家庭は少なくない。そんな家庭に刺さるのが、通常よりも短い期間で無理なく受験ができるイメージの“ゆる受験”だ。
「5年生から受験勉強を始めて、難関中学に合格!」
「好きなサッカーと両立しながら、中学受験にも挑戦」
世の中にはさまざまな受験情報が溢れている。なかでも合格体験記は、これから受験を始めようとする親たちの関心が高い。そんな中、ガチで中学受験の勉強をしなくても、第一志望校に合格したという子のサクセスストーリーは魅力的に映るのだろう。
しかし、長年プロ家庭教師として中学受験に携わってきた私の見解は、「中学受験の勉強は、やはり小4から3年間かけて準備をした方がいい――」だ。
それはなぜか――?
■「中学受験をするか」決断を後回しにする言い訳になっている
「小学生のうちから塾通いなんてかわいそう」
「うちはまだ基礎学力が付いていないから、通塾はもう少し待ってみようと思う」
大手進学塾の入塾テストが始まる小学校3年の10月、なかなか中学受験をさせる決断ができず、とりあえず今は見送っておこうという家庭がある。そんな家庭にとって、中学受験の対策に小学校生活の半分にあたる3年を費やすのは「長すぎる」のだろう。
しかし、近年の中学入試は非常にレベルが高く、知識を詰め込むだけでは太刀打ちできない。定型題だけが出ていた親世代の中学受験なら、6年生の最後の1年だけ塾に通うというやり方で合格できてしまう子もいたが、今の時代の中学受験は単に知識を答える問題はほとんど出されず、それらの知識を組み合わせて、自分なりに考えたり、工夫したりする力が求められている。こうした応用力を測る問題はある程度の練習期間が必要になる。それを段階的に身に付けていくのに、3年かけてじっくり勉強していこうというのが今の中学受験だ。
なので“ゆる受験”で難関校に合格できたという子は皆無ではないが、非常にレアケースであることを親は知っておかなければならない。むしろ、“ゆる受験”という言葉が幅を利かせていることによって、中学受験をするか・しないかの決断を後回しにする言い訳に使っている家庭が増えていることを、私は危惧している。
■小学校のテストで90~100点が取れていないと厳しい
では、どういうケースの場合、“ゆる受験”は可能なのか?
まず、“ゆる受験”ができる子の絶対条件として、基礎学力が付いていることが前提となる。基礎学力とは「読み・書き・計算」の基本ができていること、小学校のテストで評価するなら90〜100点が安定的に取れる子を意味する。また、学校の宿題は自分でやる、毎日決まった時間に決められた量の家庭学習ができるといった学習習慣が身に付いているかどうかも大事なポイントだ。そういう子であれば、偏差値55(四谷大塚)くらいまでの中堅校なら“ゆる受験”も可能だろう。
ただし、他の子が3年かけて4教科を学ぶのに対し、2年または1年で挑戦するには、よほど地頭のいい子でない限り、2科入試か適性検査型入試を実施している学校が受験校として選ばれることになる。その中に本人が行きたい学校があれば、“ゆる受験”を選択するのもアリだろう。
そうではなく、中学受験をするか・しないかの決断ができないまま、5年生くらいになって「やっぱりうちも受験させようかしら?」と遅れて受験勉強をスタートさせると、短期集中で仕上げなければならないため、かえって子供には負担になる。また、2科入試や適性型入試で受験をするとなると、思っているほど受験できる学校がないことを知っておいてほしい。特に男子校は2科受験できる学校は非常に限られている。
■入学後に差が出てしまっても不思議はない
また、万が一合格できたとしても、入学後、4教科入試で入ってきた子と2科入試や適性検査型入試で入ってきた子とでは、知識量の差が生じる。中学入試で求められる理科・社会の内容は非常に幅広く、膨大な量の知識が必要になる。さらに難関校はもちろん、近頃は中堅校でも小学生の子供にここまで深い考察力を求めるのかというレベルの高い問題を出してくる。こうした問題に立ち向かってきた子とまったく触れてこなかった子とでは、入学後に差が出てしまうのも当然だろう。
だが、一番残念なのは、中学受験の学習プロセスの中で身に付く教養の深さや考える型、物事の見方といった、その先の将来にも生きる力が十分に得られないまま受験を終えるケースが多いことだ。
■5年夏以降の受験勉強はムリがある
「今から受験をさせようと思うのですが、間に合うでしょうか?」
「習い事と両立しながら受験をさせたいのですが……」
毎年、5年生の夏が過ぎた頃、私が代表を務める名門指導会にはこのような問い合わせが殺到する。中学受験のプロ家庭教師集団と謳っている以上、成果を出したいという気持ちはもちろんあるが、「正直、今のこの学力レベルでこの学校を受験するのは難しいだろう」というケースもある。そのくらい5年夏以降の1年半の受験勉強だけではムリがあるということだ。
■中学受験の価値は「学習のプロセス」にある
それでも挑戦したいというのなら、こちらも全力で指導を行うが、それはあくまでも「合格させる」ため。入試傾向を徹底的に分析し、入試に出ない問題は一切触れないといった割り切りが必要になる。中学受験の目標が「志望校に合格するため」だけであれば、この学校の入試問題はこのレベルの問題しか出ないから、とりあえず限られた時間内にここだけは教えておこうというやり方で、合格させることもできるだろう。
しかし、中学受験をさせる本当の良さは「合格」という結果ではなく、どのように勉強をしてきたかという「学習のプロセス」にあると私は考える。多くの情報の中から条件を整理したり、物事を比較したり、俯瞰したり、手を動かしながら考えたりといった中学受験の勉強を通じて身に付いた学習のやり方は、その後の大学受験や社会に出てからも生かされる力になるし、努力することの大切さ、自分を律することの難しさを知っているということは、人として大きく成長させる。
こうしたさまざま経験を10代の入口で得られることが本来の中学受験の良さであり、将来へとつながっていくのだと考える。だが、合格するだけの勉強では、それを得られないまま受験が終わってしまう。それが“ゆる受験”のマイナス点だと私は感じている。
■基礎学力に自信のない子ほど4年生での入塾がいい
「中学受験をするか・しないか」「3年掛けて準備をするか・“ゆる受験”をするか」は各家庭の価値観によるものなので正解はない。ただ、もし“ゆる受験”を選択するのであれば、“ゆる受験”こそ低学年からの学習習慣が大事であること、意外と受験できる学校が限られていることを知っておき、計画的に準備をしておくことだ。
また、「うちの子はまだ基礎学力が身に付いていないから」と入塾の時期を遅らせる家庭もあるが、4年生になる前の段階で基礎学力、および学習習慣がまったく付いていない子を家庭だけの力で進めていくのは正直難しい。そういう場合は、4年生から塾に通わせて、塾に通いながら同時に基礎学力も高めていくというやり方のほうがいいだろう。なぜなら、4年生のうちは塾の勉強も基礎が中心のため、それほどハードではないからだ。また、集団に身を置くことで成長できるというメリットもある。
年々、学習量も問題の質も高まり、ハードになっている中学受験。そんな中、“ゆる受験”という言葉が魅力的に感じるのも分からなくはない。だが、その言葉の“ゆるさ”に安易に惹かれるのではなく、「わが家はこういう理由でこういう受験を目指す」と確固たる軸を持って臨んでほしい。
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中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員
40年以上難関中学受験指導をしてきたカリスマ家庭教師。これまで開成、麻布、桜蔭などの最難関中学に2500人以上を合格させてきた。
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(中学受験のプロ家庭教師「名門指導会」代表/中学受験情報局 主任相談員 西村 則康)
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