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3歳から九九、5歳からサイン・コサイン…高学歴親の"異常な早期教育"がとんでもない結果をもたらす理由【2023上半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2023年10月8日 7時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

2023年上半期(1月~6月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。教育・子育て部門の第3位は――。(初公開日:2023年3月4日)
勉強や習い事は何歳から始めればいいのか。早く始めるほど効果が出るのか。『高学歴親という病』(講談社+α新書)の著者で、文教大学教授の成田奈緒子さんは「過度な早期教育は、子供の成長に悪影響を及ぼす。親同士で張り合ってはいけない」という――。(第3回/全3回)

■「うちは二次関数でもうダメよ」

(第2回から続く)

――書籍の中では、5歳の子どもにサイン・コサインを習わせている親御さんがいるというお話もインパクトがありました。

【成田奈緒子】3歳の子どもに九九を教える幼稚園の話でのお話ですね。さらに私が驚いたのは、もう一人の親御さんが「うちは二次関数で、もうダメよ」と言ったことです。

――信じがたい光景ですね……。

【成田】疑いたくなるのももっともですが、現実です。私に言わせれば、5歳のサイン・コサインも二次関数も3歳の九九も、内容を理解せずに暗記しているだけなので、ほとんど意味がありません。

早期教育に精を出す高学歴親の方々が「子どもは可能性のかたまりだ」と考えている点には、私も同意します。でも、その方法が間違っていることに気付いてほしいと思います。

■習い事のストレスで歯がなくなった子ども

――行き過ぎた早期教育には、どんな問題があるのでしょうか。

【成田】第1回の記事でも紹介しましたが、週に6回の習い事をさせられていた6歳の男の子がいました。その子は夜中に泣き叫ぶ夜驚の症状と歯ぎしりがひどいということで受診されたのですが、口の中を見てみたら、歯がなくなっていたんです。

――原因は習い事のストレスでしょうか……。

【成田】ストレスもありますし、睡眠時間も大きいでしょうね。6歳では10時間は寝たほうがいいですから。この男児は、よく眠るようになってから夜驚も歯ぎしりも一切なくなりました。睡眠はそれぐらい大事なんですよね。

■6歳児なのに会社員より忙しいスケジュール

――そのお子さんの睡眠時間はどれぐらいだったのですか。

【成田】その子は保育園に朝7時から夜6時まで預けられていました。それから習い事に2つ行きますよね。それだけでも夜8時には寝かせられませんし、帰宅が夜10時くらいになることもあります。夜10時に寝て、起きるのが朝6時だとしても、8時間睡眠がギリギリということになります。

机の上にうつ伏せに横たわり、両親を励ます少年
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

――保育園が夜6時までで、それから習い事に行くとなると、会社員のダブルワークのようですね……。

【成田】そうなんです。会社員だってダブルワークをしたらつらいのに、そんな生活を6歳児がしているわけですよ。親御さんは「子どもが楽しんでいるから」と言うのですが、子どもだってほかの子たちと一緒にお遊戯したり、ご飯を食べたりする中で、対人ストレスがあるはずです。だから、おうちではのんびりさせてあげたほうがいいのです。

■父親から「あんたはバカだ」と言われてきた子ども時代

――書籍では「私も親に信頼されない子どもだった」とご自身の幼少期の体験について触れられていました。「高学歴親」のケースでは、ご自身の体験と重なるところもあるのでしょうか。

【成田】そうですね。私自身も医師の父と、臨床心理士の母という高学歴親に育てられました。

幼稚園のときにバレエとピアノの習い事をさせられていましたし、100点を取ってもよく頑張ったねと褒められたことはありません。典型的な起立性調節障害の子どもだったのですが、それを理解されずにとにかく「勉強しろ、勉強しろ」と言われてきました。父親には「あんたはバカだなぁ」としか言われず、「私の人生ってうまくいっていないなあ、つらいなあ」と物心ついたときから思っていましたね。

――まさに『高学歴親という病』のようなご家庭だったんですね。

【成田】子どもたちの話を聞いていると、私が親元を離れるまで感じていた気持ちそのものだなと思いますね。

この環境から逃げたいけど、逃げられない。だから、進学の際は寮がある高校を迷わず選びました。子どもたちにも「私もあなたと同じことをしてたんだよ」といつも話しています。

――それはお子さんにとって心強いでしょうね。

【成田】私と上岡勇二という公認心理師の2人で向き合って、なつかなかった子供はまだいません。ただ、私は自分から子どもには近づきません。「わかるわぁ」とは言いませんし、共感しても「なるほどね、そういう感じね」という程度です。一定の距離を置くことが、子どもにとっては心地いいんじゃないかと思っています。

■まずは睡眠時間を見直したほうがいい

――このインタビューを読まれた親御さんたちに、真っ先に伝えたいことはなんでしょうか。

【成田】まずは「脳育て」をしてください。脳の発達には段階があり、脳育てにも順序があります。

子どもが生まれてから5歳くらいまでは、「からだの脳」を育てる期間です。寝る、起きる、食べる、からだをうまく動かす。そうしたことをつかさどっていて、内臓の働きや自律機能の調節も行います。規則正しい生活や喜怒哀楽といった人間活動の基本となる脳ですね。

――「からだの脳」を育てるには、どうすればよいのでしょうか。

【成田】睡眠時間が重要です。「子どもは8時間寝ればいい」と思っていらっしゃる方も多いのですが、年齢によって必要な睡眠時間や推奨される就寝時刻が決まっています。

子供に必要な標準睡眠時間(出所=『高学歴親という病』より)
子供に必要な標準睡眠時間(出所=『高学歴親という病』より)

■子どもはたっぷり寝かせて、親はとにかく我慢する

「からだの脳」が育つ時期を追いかけるように、1歳から「おりこうさんの脳」が育ち始めます。主に、言語機能や思考、スポーツの技術的なものを担う大脳新皮質のことですね。

「おりこうさんの脳」を育てるときは、親御さんが言葉を伝えすぎず、お子さんから言葉を引き出してください。言葉を発しないと、脳の発達にはマイナスなんです。間違っていてもいいからとにかく言葉を出させる。簡単なようにも聞こえるかもしれませんが、実はこの我慢が難しい。

――能力の高い親御さんほど、先回りしてアドバイスしてしまいそうですね……。

【成田】そうなんです。でも、ここをグッと堪えれば「おりこうさんの脳」の次の発達段階に当たる「こころの脳」も育ちやすくなります。「こころの脳」は人間の論理的思考能力をつかさどる前頭葉のことです。

「こころの脳」を育てるには、「語用論」への理解が大切になります。

■過度な早期教育は子供の“土台”を崩してしまう

【成田】語用論は「なぜ聞き手は、話し手の言葉の意味を理解できるのか」を研究する学問です。そこでは「言外の意味」が考察の対象になります。たとえば、「ラジオの音がうるさいなぁ」と言われたときに、ラジオのボリュームを下げたとします。このときにラジオのボリュームを下げた人は「うるさいから音量を下げて」という言外の意味を理解しています。

こうした言外の意味を理解させるには、日々の生活の中で言葉を通じたコミュニケーションが取れている必要があります。したがって、「こころの脳」に至るためには、「おりこうさんの脳」の段階で、子どもから言葉を引き出さなければいけないんです。

――「からだの脳」から順を追って、育てていくことが大切なんですね。

【成田】これまでご紹介してきた高学歴親は、過度な早期教育や習い事で「からだの脳」よりも先に「おりこうさんの脳」や「こころの脳」を育てようとしていました。

でも、1階が小さいのに2階にモノを詰め込みすぎると、家そのものが崩れてしまいます。2階にテレビやソファを欲しいと思うこと自体が間違いだとは思いませんが、まずは土台をつくることが大切なのです。

■原始人から始めれば、子どもは自然と育っていく

――5歳以上の子はどうすればいいのでしょうか。

成田奈緒子『高学歴親という病』(講談社+α新書)
成田奈緒子『高学歴親という病』(講談社+α新書)

【成田】成長してしまった子であっても「からだの脳」から育て直せば、大丈夫です。私たちは「からだの脳」を「原始人の脳」と呼ぶこともありますが、しっかりと睡眠をとらせて、段階を追って脳を育てていけば、子どもは自然と育っていきます。

――十分な睡眠をとらせるには、どこから手をつければいいのでしょうか。

【成田】親御さんも一緒に、朝早く起きることから始めていただきたいです。家族全員で朝早く起きることを習慣にできれば、夜は勝手に眠くなりますから。

原始的な土台をきちんとつくり直すことができれば、子育てはすごく楽しくなります。子育てに悩んだり、苦しんだりしている方も、それだけは信じて取り組んでいただきたいですね。

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成田 奈緒子(なりた・なおこ)
文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。

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(文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子 構成=佐々木ののか)

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