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旧統一教会がブローカー通じ宗教法人"買う"可能性…解散命令後は「ヤドカリ」作戦で復活&潜伏カルト化の恐怖

プレジデントオンライン / 2023年10月11日 11時15分

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)日本本部(東京都渋谷区)=2022年11月7日 - 写真=時事通信フォト

■解散命令請求後、旧統一教会はどう動くのか

政府は近日中にも、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への解散命令請求を実施する見通しだ。

旧統一教会を巡っては、安倍晋三元首相の暗殺事件をきっかけにして、高額の献金問題や「宗教2世」問題などが次々と露呈。文部科学省はこれまで、慎重に解散へのステップを踏んできたが、解散の要件となる「組織性・悪質性・継続性」の3要素があったと認定し、ついに最終段階へ入った。

だが、これは後述するように見方を変えれば、「潜伏カルト」への第一歩を踏み出したともいえる。一定期間をおいて、宗教法人の乗っ取りも考えられる。「宗教法人解散」は諸刃の剣である。長期にわたる監視が必要だ。

政府はこれまで、宗教法人法に基づく旧統一教会に対する質問権を行使してきた。だが、教団側は消極的で質問の5分の1に回答してこなかったという。政府は元信者らに対するヒアリングなどを重ねてきた。

旧統一教会の信者らは、裁判所に請求しないよう嘆願書を提出するなどの抵抗をみせている。だが政府は近く、請求に関する法人審議会を開催。近く、東京地方裁判所に解散請求を行う。

その後は、裁判所の判断を待たねばならないが、旧統一教会の法人解散は不可避な情勢といえる。民事上の不法行為での宗教法人解散がなされたとするならば、史上初の事例となる。そのため、政府は慎重に慎重を期して、手続きを進めてきた。

過去の宗教法人解散は、地下鉄サリン事件などの凶悪事件を犯したオウム真理教と、悪質な霊感商法で詐欺を繰り返した明覚寺のみ。宗教法人が刑法上の罪を犯した事例は枚挙にいとまがないが、先述の2例以外は解散には至っていない。

例えば今月に入っても、宗教法人の不正が明るみになっている。大阪市阿倍野区にある吉田兼好ゆかりの正圓寺の元代表役員ら3人が、電磁的公正証書原本不実記録・同供用の疑いで逮捕された。容疑者らは、老人ホームの建設を計画していたが、資金繰りに行き詰まって寺所有の土地を売買に関して虚偽の登記をしていた。本件は刑法上の不法行為にあたる。

この正圓寺の場合、容疑者の起訴・有罪をもってしても、宗教法人解散とまではいかないだろう。組織ぐるみの犯罪か、悪質な案件であるか、継続的に不法行為がなされているか。社会の安寧秩序を著しく乱している団体かどうかが、解散の最低限の要件となり、慎重に見極めなければならない。憲法20条の「信教の自由」は、それほど重いのだ。権力の宗教への介入は、よほどのことを除いて、原則的にはあってはならないという認識が必要だ。

■潜伏カルト化の怖れ…任意団体に転落でも宗教活動可能

旧統一教会を巡っては、これまでの報道のとおり、反社会的な団体であることは疑う余地がない。文科省が宗教法人法の「質問権」を行使した際にも、誠実に回答をせず、明らかに「公共の福祉」を著しく害している。旧統一教会への解散請求は、世論の多くが支持するだろう。

旧統一教会側は公式サイトで、

「昨年7月の安倍晋三元首相の銃撃事件後の様々なご指摘を受け、深い反省の中で9月に改革推進本部を設置し、更なる改革を断行してきました。それら十数年来の努力の結果として、現在では“教団解散の3要素”とされている『組織性』『悪質性』『継続性』のいずれも当法人には全く該当しないと自負しています」

などとして、反発を強めている。

解散請求後のステップは、裁判所による「解散命令」の可否である。解散命令が出れば旧統一教会は宗教法人格を失い、任意団体へと転落する。任意団体になれば、これまで宗教法人として優遇されてきた各種納税が義務となる。

つまり法人税、固定資産税、都市計画税などが課税される。相続税もかかってくるので、財産を維持しにくくなる。また、収益事業を実施しても、税制の優遇を受けられなくなる。教団運営にとっては相当な痛手となるだろう。

旧統一教会の本部は、高級住宅地として知られる東京都渋谷区松濤にある。当地の固定資産税は相当な額だ。それゆえ、本部の移転や支部の統廃合が進む可能性がある。すでに、旧統一教会は昨春に、東京都多摩市永山におよそ6300平方メートルの土地を取得。教団は東日本最大規模の研修施設にするとの方針だが、こちらへの本部移転も十分考えられる。近隣には国士舘大学や都立高校などが点在し、若者への勧誘活動を心配する声も上がっている。

旧統一教会が任意団体へ転落したとしても、宗教活動ができなくなるわけではない。税制面の特権や社会的信用はなくなるが、宗教活動自体はむしろ自由度を増すと考えたほうが良い。教団を分派化して、名称を変更し、水面下に潜ってしまう「潜伏カルト化」の可能性も視野に入れなければいけない。

操り人形のイラスト
イラスト=iStock.com/tatianazaets
※イラストはイメージです - イラスト=iStock.com/tatianazaets

■既存の宗教法人格を買って法人登記するヤドカリ作戦

鵜飼秀徳『絶滅する「墓」:日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)
鵜飼秀徳『絶滅する「墓」:日本の知られざる弔い』(NHK出版新書)

さらに危険なのは、時間をおいて再び宗教法人格を取得する可能性である。むろん、宗教法人の設立認証を正規ルートで「再申請」したとしても、旧統一教会の場合は受理されることはまず、考えられない。

そこで、既存の宗教法人格を「買う」動きに注意である。宗教法人は、水面下で「売買」されている実情がある。ブローカーを通じ、旧統一教会と親和性の強いキリスト教系の不活動法人や、単立の宗教法人などを買収し、そこに法人登記を移す手法である。あたかも、「ヤドカリ」のように。仮にそんな事態になれば、宗教法人解散は無意味になってしまいかねない。

旧統一教会解散後の、リスクや抜け穴は、あちこちに存在する。監督官庁や社会による長期の監視が必要になるが、それも容易ではないだろう。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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