NHK紅白歌合戦は廃止にするのがスジである…ジャニーズ事務所の天下を支え続けたNHKの"大罪"を問う
プレジデントオンライン / 2023年10月14日 11時15分
■ジャニーズ問題を騒ぎ続けているのは一部のみ
ジャニーズ事務所元社長のジャニー喜多川氏による所属男性タレント(実際はスカウトしただけの人も含む)への性加害がマスコミを賑わせている。事務所は10月2日に会見を開いて、被害者救済と今後の事務所の運営方針を説明したが、大荒れだった。さらに、会見の運営を請け負ったPR会社が、特定の記者に質問させないよう写真入りのNGリストを用意していたことが発覚して、混乱に輪をかけることになった。
とはいっても、ながながと騒いでいるのは、例によってテレビのワイドショーやスポーツ紙などで、全国紙などは減税など重要トピックにシフトしている。X(旧ツイッター)などのSNSでは、最初からこの問題の受けとめは冷ややかだ。
とくに、熱心なジャニーズファンでもないZ世代は、SNSを通してニュースに接し、これについて書かれた多くの多角的コメントを読んでいるので、上の世代より反応が薄い。これは「終わった話」だからだ。
■ニュースとしてはすでに「終わった」話
「終わった話」とは、事件として、ニュースとして「終わった」という意味で、被害者救済が終わったという意味ではまったくない。加害者本人のジャニー氏はすでに亡くなっていて、被害者が増えることも、被害が継続することも、拡大することももはやない。被害者たちの心情は察するにあまりあるが、事件としては現在進行中のことではなく、過去のことだ。
ニュースとしてはどうかというと、このスキャンダルは元フォーリーブスの北公次氏が1988年11月に『光GENJIへ』(データハウス)を出版したときから知られていた。この本は約35万部を売り上げ、そのあと『光GENJIへ 最後の警告』(データハウス)など5冊の類書も次々と出された。少なからぬインパクトがこの時点であったといえよう。
1999年には週刊文春がジャニーズ事務所に関する記事を14週連続で掲載し、元ジャニーズJr.らの性被害を報道した。これに対しジャニーズ事務所は、文藝春秋を名誉毀損(きそん)などで提訴したが、2004年2月24日、最高裁判所がジャニー氏による性加害を認定した。ニュースとしては、1999年に週刊文春が連載した段階で、あるいはその後の裁判の判決がでた段階で「終わっている」。
■マスコミとテレビ業界は「共犯者」である
1988年に北氏が告発したとき、マスコミが今のように騒いでいたら、また、遅くとも1999年に、週刊文春に追随して各メディアがキャンペーンを張っていたら、また、テレビ業界などが真相究明に動き、自粛措置をとっていたら、それ以後の性被害は未然に防げたし、犠牲者の数も減っていた。この意味で、主犯はジャニー氏だが、マスコミとテレビ業界も立派な共犯だ。
性被害、セクハラ、パワハラは、主犯だけではなく、共犯、つまり、もみ消そうする組織、見て見ぬふりをする周囲の人間がいないと成り立たない。企業や大学などの組織は、しばしば問題が世間に知られないようもみ消しにかかる。また、これらの組織にいる人間も、問題を知りながらも、組織に異議を唱えることはせず、我がことではないとして、傍観を決め込む。
レイプが不同意性交罪となって適用しやすくなっても、パワハラ防止法で防止措置が企業に義務づけられても、セクハラ・マタハラを防止する関連法が施行されても、組織がこれらの人権侵害行為が表ざたにならないよう動き、内部の人間も見て見ぬふりをすれば、本人が勇気を奮い起して告発しても、犠牲者がさらに深い傷を負うだけに終わる。この現状をしっかり認識して、再発防止のため、さらなる法律強化へと向かわなければならない。
■ジャニーズ記者会見が気持ち悪い理由
マスコミの攻撃の矢面に立たされた藤島ジュリー景子、東山紀之、井ノ原快彦各氏は、ジャニー氏の性被害とどう関係しているのかわからず、もみ消し工作に加担していたのか、あるいは傍観していたのか定かでない。
だが、一方のマスコミやテレビ業界は、あきらかに、もみ消す側、または傍観する側に立っていた。彼らがすべきことをしなかったこと、つまり、テレビ業界がジャニーズ氏との対決も辞さずに自浄作用を働かせようとしなかったこと、マスコミが見て見ぬふりをして報道しなかったこと、それが被害を継続させ、犠牲者を増やした。
そのマスコミとテレビ局のリポーターが、藤島、東山、井ノ原各氏に声を荒らげて、居丈高に、「質問」している。傍目から見ても、非常に気持ちが悪い。彼ら関係者に質問するマスコミとその模様を放送するテレビ業界のほうが、すべきことをしなかったという点で、それによって性被害を拡大させた点で、罪が重いのではないか。
■なぜアイドルがドラマや映画で重用されるのか
テレビ業界の共犯者のなかでも、特に罪が重いのは、テレビの音楽番組のプロデューサーたちだろう。つまり、音楽番組に誰を出すかをジャニー氏と談合して決める権限をもった人たちだ。彼らがジャニー氏の意向を出演者の人選に反映させたことが、ジャニー氏の絶大な影響力と権力の源となった。
そして、この背景には、日本独特のスターシステムがある。アメリカならば、音楽グループが俳優としてドラマにでることはまずない。彼らが映画に俳優として出てくることはもっとない。イギリスもこれは同じで、アーティストは、曲作りと公演とレコーディングで忙殺される。テレビはテレビで、映画は映画で、若いころから演技を磨き、経験を積み、キャリアアップしてきた俳優がでている。音楽とテレビと映画は別々になっている。
ところが日本は、音楽グループが、人気が出て、CMにでて、大衆に認知されると、ドラマや映画に起用される。いったん大衆に認知されると、歌や踊りが多少下手でも、テレビに出してもらえる。実力はあるが名前の売れていないアーティストを出すより、すでに認知されている音楽グループを出す方が、確実に視聴率がとれるからだ。
彼らは、テレビの音楽番組に登場し、それによってレコードやCDが売れ、相乗効果でさらに認知度が高くなって、テレビドラマ、映画と起用されていく。これが定式化されていく。
■アーティストを格付けするNHK紅白歌合戦
こうしてジャニー氏は、音楽番組だけでなく、ドラマやバラエティー番組のプロデューサーにとっても、そして彼らの上に君臨する番組編成者にとっても、欠くことのできない存在になっていく。テレビ局は、映画会社のように年に数本コンテンツを製作すればいいのではない。週に何十本ものコンテンツを制作しなければならない。ジャニーズ事務所のような大手音楽事務所の協力なしにそれはできない。
ジャニー氏がテレビ業界でこのような存在なので、ジャニー氏の引きがあれば、まったくの無名の青少年が、音楽グループのバックダンサーなどにしてもらい、ステージに立たせてもらい、やがてメジャーデューして、音楽番組、ドラマ、映画とスターダムを駆け上がっていく道が開ける。
では、この日本独自のスターシステムの中にNHKの紅白歌合戦はどのように位置づけられているのだろうか。音楽関係者にとって、この番組への出演は、アーティストが大衆の認知を得る絶好の機会であるとともに、彼らが格付けされ、地位を与えられる機会でもある。つまり、この年に一回の、多くの人びとが茶の間にそろって見る番組に、出たかどうかで、アーティストは残酷なまでに区別される。そして、その後は、すべての面において別格扱いされる。
■NHKと大手事務所との「黒い噂」
ところが、この紅白歌合戦の人選の不透明さがしばしば物議をかもしてきた。ちなみに、ジャニーズ事務所からは例年5~6組が出場しており、昨年はKinKi Kids、関ジャニ∞、King&Prince、SixTONES、Snow Man、なにわ男子と、白組22組中6組を占めた。
一体、選ぶ基準は何なのか、CDなどの売り上げなのか、アーティストとしての実力なのか、人気なのか、キャリアなのか、NHKの音楽番組への貢献なのか、曲の音楽上のカテゴリーなのか、さっぱりわからない。だから、NHKのこの番組制作者とジャニーズ事務所など大手の音楽事務所との「黒い関係」の噂が絶えなかった。
にもかかわらず、いったんこの番組に出演すれば、曲の売り上げも上がるだろうし、公演での観客動員も違ってくるだろうし、テレビ番組への出演の機会も増えるだろう。アーティストの将来はNHKの番組担当者とジャニー氏のような大物との談合によって決まるともいえる。
この点で、紅白歌合戦の担当者は、他の民放の音楽番組担当者よりも、ジャニー氏が影響力と権力を持つうえで貢献したと見ることができる。担当者はこのようなことを知らないどころか、熟知していて、ジャニー氏との関係の親密さを自慢さえしていたという。ジャニー氏はこうして得た影響力と権力を背景として青少年に性加害を行い、それを隠蔽(いんぺい)してきたのだ。
■「共犯者」が二次被害者を制裁するのはおかしい
この罪重きNHKが、今年の紅白歌合戦には、ジャニーズ事務所に所属するアーティストを出場させないと言っている。なんという自己中心的本末転倒だろうか。これまで述べてきたようにNHKはジャニー氏の共犯である。その罪は、民放より重いといえる。まして、NHKは「公共メディア」を自称し、民放とは違って、国民から受信料を強制徴収している。
ジャニーズ事務所に所属していたアーティストのほうは、NHKのような共犯者ではない。性加害の一次的被害者ではないとしても、とばっちりを受けて仕事を干された二次被害者になるだろう。将来ある若者たちだ。その彼らから、NHKが、キャリア上のブレイクに繋がるかもしれない貴重な機会を奪うというのだ。
何らかの形で反省の意を示したいというなら、ジャニーズ外しではなく、今年の紅白歌合戦は自粛する、つまりやらないというのが筋ではないのか。なぜ、共犯者が被害者に責任を転嫁するのか。
■10~40代はスマホで音楽を楽しんでいる
とはいえ、私はもとより、受信料廃止、NHK解体論者だ。ジャニー氏はじめ大手音楽事務所との癒着の温床になっている紅白歌合戦などなくなったほうがいいと思っている。
出演機会を失ったアーティストたちも、このように腐った番組ではなく、別な場にチャンスを求めたほうがいい。あくまで、筋論で、紅白歌合戦の出演者選考において、共犯者のNHKが、被害者であるアーティストに制裁を科すのはおかしいといっているにすぎない。
そもそも、メディア論的に見ても、紅白歌合戦はコンテンツとしてとっくの昔に「オワコン」(誰も見たいとは思わないコンテンツ)だ。過去の記事でも詳述したように、社会の中心となっているミレニアル世代とそれに続くZ世代は、テレビを見ない世代だ。
彼らにとってのメディアは、今や普及率90%を超えるスマホだ。スマホの使い方で多いのがYouTube視聴で、YouTubeで一番見られているのが音楽コンテンツ、つまりアーティストの曲のPR映像や曲そのものの映像だ。彼らは、毎日何度も、飽和状態になるくらい、ひいきのアーティストの音楽と映像をスマホで楽しんでいる。
■国民に見られていない紅白は廃止でいい
その彼らが、いまさらオワコンの紅白歌合戦で推しのアーティストが出演するのを見たいと思うだろうか。そうだとしても、タイパ(タイムパフォーマンス)を重んじる彼らが、そのアーティストが出演する数分間のために、前後半合わせて4時間25分もの間、テレビの前にじっとしているだろうか。
こう考えれば、この番組の視聴率が落ち続けるのも当然だとわかる。そもそも視聴率とは、全世帯にテレビがあることを前提としているが、ミレニアル世代やZ世代では、テレビを保有しない世帯が増えてきている。また、NetflixやAmazonプライムのように視聴率では把握できない動画配信の視聴時間も激増している。視聴率はもはや一般大衆の視聴実態を示していない。ようするに、紅白歌合戦は、視聴率が示すほどには見られていないのだ。
大晦日に一家が揃って、遠くにいる家族も帰省してきて、一緒に紅白歌合戦を見るというのはもはや昭和レトロの世界だ。令和では、仮に一家が揃っても、スマホでSNSをやるか、ユーチューブを見るか、テレビ機器で見るのもNetflixかAmazonプライムの動画だろう。もともとオワコンで、音楽事務所との黒い関係の温床となっているとすれば、NHK紅白歌合戦は廃止でいいのではないだろうか。
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早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究)
1953(昭和28)年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。東北大学大学院文学研究科博士課程単位取得。2016年オックスフォード大学客員教授。著書に『原発・正力・CIA』『歴史問題の正解』『日本人はなぜ自虐的になったのか』『NHK受信料の研究』(新潮新書)など多数。
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(早稲田大学社会科学部・社会科学総合学術院教授(公文書研究) 有馬 哲夫)
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