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"スパムおにぎり2個"さえ買えない貧困一直線…知れば誰もが戦慄走る「日本の稼ぎ=名目GDP」のドル建て額

プレジデントオンライン / 2023年10月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bhofack2

現金給与総額は増えているものの、物価上昇率を考えると「実質所得」はずっとマイナスの日本。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「日本経済はコロナ明けのインバウンド需要で表面的には回復していますが、日本全体の稼ぎ=名目GDPのドル建て額は、為替の影響もあり、コロナ前5兆ドルが4兆ドルを切っている」という――。

■「スパムおにぎり2個1000円」にたじろぐ日本人

昨年の秋に日本のテレビニュースで、ハワイに行った人が、「スパムのおにぎりを2つ買ったら1000円した」という話をしていました。今と同じくらいの1ドル=150円程度の円安の時期です。今でも、ハワイに行く人は同じ感覚を持っているでしょう。円安で円や日本人観光客の購買力が落ちているからです。

実はこうしてハワイで起こっていることが、日本国内でも起こっているのですが、それに気づいている人は少ないと思います。なぜなら、表面的にはインバウンド観光客の増加などで、景気は回復しているように見えるからです。ところが、その根底ではハワイを訪れた観光客が感じている程度以上に大変なことが起こっているのです。

■表面的には回復している日本経済だが

図表1は、最近の街角景気(景気ウォッチャー調査)の数字です。この数字は、経済の最前線にいて景気に敏感な人たちに、景気が良くなっているか悪くなっているかを内閣府が各地で毎月調査しているものです。具体的にはタクシーの運転手さん、小売店の店頭にいる人、ホテルのフロントマン、中小企業経営者などに聞いています。変わったところではハローワークの受付にいる人にも聞いています。

【図表】街角景気(景気ウォッチャー調査)

「50」が良いか悪いかの境目ですが、ここ7カ月は「50」を超えた状態が続いています。感覚的には景気は悪くないのです。

同様に、10月に発表された日銀短観でも、企業の回復傾向が読み取れます。表にあるのは、大企業の製造業と非製造業ですが、どちらも回復基調です。この数字は業況が「良い」と答えたパーセントから「悪い」と答えたパーセントを引いて計算しているもので、中間的な答えも認めています。その中間的な答えを除いて計算しています。「20」を超えているとかなり良い数字です。

製造業のほうは、まだ十分な回復とは言えませんが、年初からは徐々に回復しています。非製造業はサービス業が中心ですが、コロナ明けのリベンジ消費やインバウンド需要でかなり好調です。

■消費は弱い

しかし、名目GDPの55%程度を支える家計の支出はかなり弱いのが現状です。図表2は家計(2人以上世帯)の支出ですが、このところはインフレを調整した実質では前年比マイナスが続いています。

【図表】家計(2人以上世帯)の支出

理由は簡単です。同じ表に一人当たりの賃金を表す現金給与総額を載せてあります。現金給与総額は一見増えているように見えますが、物価上昇率を考えると、「実質所得」は長い間マイナスです。このところのインフレ率は3%を超えた状態ですから、物価上昇分を賃金の上昇はまるでカバーしていないのです。

一見、好調に見える日本経済ですが、実は足腰が弱く、国内で働いて賃金を得ている人の生活は苦しくなっているのです。

■ドル建てで考えると…

さらに、その裏ではもっと深刻な問題があることに多くの人は気づいていません。

図表3は、日本の名目GDPの数字を円建てとドル建てで載せてあります。最近2四半期の数字は年換算です。円建ての数字を見ると、コロナ前の2018年頃に556兆円だったのが、最近では590兆円近くにまで回復しているのが分かります。

【図表】日本の名目GDP(円建てとドル建て)

名目GDPは、企業などが作り出す「付加価値」の合計です。付加価値とは簡単に言えば、企業では売上高から仕入れを引いたもので、その企業で生み出された価値です。国全体の稼ぎと言っていいでしょう。そして、その半分以上が給与として払い出されています。名目GDPは国全体の稼ぎで、給与の源泉なのです。

ですから、名目GDPが増えているということは、国の稼ぎが増え、給与が増えやすいということなのでとても良いことなのです。しかし、先にも見たように、給与の伸び率は、物価上昇に追い付いていないのが現実です。ですから、消費が伸びないのですが、もっと深刻な問題があります。

表には、ドル建ての名目GDPが出ていますが、こちらを見ると愕然とします。

コロナ前の名目GDPはドル換算で見ると約5兆ドルです。当時の為替レートは110円程度でした。それがこの4~6月期では4.3兆ドルです。もし、さらに円安が進んでいる現状の為替レート(148円)で計算すると4兆ドルを切るまでに下がっています。

なぜ、ドルで換算する必要があるのかという質問を受けることがありますが、日本ではエネルギーの大半を輸入しています。それもほとんどがドル建てです。名目GDPは国の稼ぎですから、ドルで見た場合の購買力が極端に落ちているということなのです。

これは、冒頭で述べたハワイに行く日本人観光客と同じことが国内で、しかも大規模に起きているということなのです。

■稼げない日本

2010年に中国は日本の名目GDPを抜き、世界第2位の経済大国となりました。この当時は、85円程度の円高でしたから、日本の名目GDPも5.9兆ドル程度ありました。それが、現在では中国は18兆ドル程度、日本は先ほども述べたように4兆ドルへと後退しています。

このままでは、近いうちにドイツやインドにも抜かれることになります。ひとり当たりの名目GDPを見ても、シンガポール、香港にはおおきく水をあけられていますが、ここにきて台湾とほぼ同じ状況です。先ほども述べたように名目GDPは国の稼ぎで給与の源泉ですが、日本は稼げなくなっているのです。日本人は世界の中で、どんどん貧しくなっているという認識が必要なのです。

■やるべきは短期金利を上げること

こうした状況を打破するには、長期的には国家の成長戦略を策定し、教育や産業インフラなどを強化することですが、その効果が出るには長い時間がかかりますし、今の政権ではそれを期待するのも難しいです。

この際、私は、短期金利を上昇させるのが、解決策ではないかと考えています。

金利上昇により、日米金利差が原因の円安はある程度は解消されます。どこまで円高に振れるかは不明ですが、現在5%以上ある短期金利の差を埋めることは有効なはずです。

さらには、2100兆円ある個人金融資産の約半分は預貯金ですから、それに金利が付きます。仮に1%の金利が付けば、10兆円です。約20%の税金を考えても8兆円が個人に還元されます。

現在は3%のインフレで、年に3%現預金の価値が低下しているので、金利を付けることでその目減りを抑えられます。インフレ率と同じ3%の金利が付けば、現預金の価値低下が防げ、預貯金の金利として30兆円(税引き後24兆円)の資金が家計に入るのです。

もちろん、金利上昇はインフレを抑制する働きもします。

金利を上昇させると、国債を1000兆円以上発行している政府が大変になるという話を聞きますが、国債の半分以上は日銀が保有しているので、国債の金利を政府が吸い上げれば、この問題の多くは解決します。

金利上昇で日銀は保有国債の価値下落で実質的には債務超過になるとの懸念もありますが、日銀自体が言っているように、日銀は国債を満期保有するということを主張し続ければ、こちらも当面は問題がありません。

金利上昇は、負債の多い企業などに負担を強いますが、日本全体から見れば、経済を活性化するためにも必要な策だと考えます。日銀は政府におもねることなく、思い切って短期金利を上昇させるべきです。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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