調停で「お母さんが離婚だと言っているので…」何も決められないマザコン夫が家族LINEでした"ありえない報告"
プレジデントオンライン / 2023年10月24日 8時15分
■「年上だけど甘え上手」が魅力的だったが…
会社員のA子さん(30歳)は、会社の先輩と結婚しました。8歳年上の彼は会社では頼れる人ですが、交際すると甘え上手なところが魅力的で、「守ってあげたい」と思って結婚を決めました。
夫は有名私大のOBで収入が高く、夫の親や兄弟もみんな同じ大学のOBです。両親は裕福で品のいい人で、家柄の良さも結婚相手として安心に思えました。
ところが、結婚生活が始まってみると、A子さんと夫はささいなことで何かと衝突するようになりました。A子さんが夜にメイクを落とすと「すっぴんは見たくないからやめてほしい」と言われ、2人で寝ていると「いびきがうるさい」と起こされて深夜にけんかになります。
共働きのため家事の分担を提案しましたが、夫は実家育ちが長く、基本的な家事がほとんどできません。掃除や洗濯は教えたものの、料理だけはA子さんの担当になったのですが、夫は好き嫌いが非常に多く、「お母さんはこんな料理作らなかった」と言ってほとんど何も食べてくれません。
「育ちがいいから神経質なのかもしれない」と思って気を付けていましたが、A子さんが一番気になるのは、夫が義両親とA子さん夫妻のLINEグループに何でも報告してしまうことでした。
■料理もいびきも夫婦げんかも報告
A子さんが作った食事の写真をアップしては、「A子ちゃんの料理なんだけどどう?」と聞き、義母が「あまりおいしくなさそうね」「このおかずは○○君は食べられないわね」などと評価を返信します。また、夫がA子さんのいびきを録音してLINEグループに送信したこともありました。
夫婦げんかになると、毎回夫は義母に電話をかけます。「A子ちゃんが、僕が悪いって言ってるんだけど」「A子ちゃんに捨てられるかも」と聞こえよがしに言う姿は、とても30代後半の男性には思えません。
そのたびにA子さんは電話を代わり、義母に「どんな育ち方をしたらそうなるのかしら」「うちの子と結婚したんだからもっとちゃんとしてもらわないと」と言われては謝罪をしていました。
夫と2人だけで暮らしているのに、まるで夫の実家に住んでいるようで、A子さんは気詰まりな毎日を送っていました。
夫に「何でも実家を巻き込むのはやめてほしい、夫婦なんだから2人だけで向き合いたい」と話しても、「うちは家族仲がいいから何でも両親に相談する家で、兄弟もそうだよ」と取り合ってもらえません。
こんな人とは子どもを作れない、一度距離を置きたいと思って、A子さんは夫がいない日に荷物をまとめて、「お互い冷静になって話し合いたい」という置き手紙を残して実家に帰りました。
■勝手に離婚まで話が発展
夫が帰宅する時間が近づき、電話かLINEで連絡があるはずだと思っていると、義両親とのLINEグループの方の通知が鳴りました。
夫がA子さんの荷物がなくなった部屋の写真をアップして「A子ちゃん出て行っちゃった……」「ひどくない?」と投稿していたのです。すると義母は、「これはひどい」「離婚しかないわね」「うちの親戚に弁護士がいるから依頼しましょう」とどんどん話を進めていきます。
A子さんは愕然としました。私も入っているグループで、親にこんなことを相談するなんて……。しかも、A子さんの気持ちも聞かずに離婚まで話が発展していたのです。
そして数日後に、A子さんの実家に内容証明郵便が届きました。夫の代理人になった弁護士からの、「離婚するので交渉を行いたい」という連絡文でした。確かに夫と同じ名字で、検索すると、夫や親戚一同と同じ大学を出ています。
こうしてA子さんも弁護士に相談しようと考えて、私の事務所にいらっしゃいました。
A子さんはこれまでの経緯を話して、「距離を置きたいだけだったのに、夫は離婚しようとしている。疲れたので離婚に応じたい」と言いました。
■離婚の交渉がまったく進まない
依頼を受けて夫の弁護士と交渉を始めましたが、一向に話が進みません。夫が離婚を申し出たので、夫から離婚条件を提示するのが通常の流れですが、その提案が全くないのです。
かなり待ってようやく出てきたのは、「A子さんから夫に慰謝料300万円を払い、夫の実家に来て謝罪をする」という荒唐無稽な提案でした。こちらからは、離婚の交渉の前提として、双方の収入に応じた額の別居中の生活費(婚姻費用)を支払うように夫に請求しましたが、完全に無視されました。
話が進まない中、今度は夫が離婚調停を申し立てました。こちらからは、婚姻費用分担調停を申し立てて、離婚と婚姻費用の問題を並行して話し合うことになりました。
しかし、調停が始まっても、やはり話が進みません。
夫は毎回調停に出席するものの、調停委員に「なぜ離婚したいのですか」「婚姻費用を払えない事情があるのですか」「離婚するならどんな条件を出せますか」と聞かれても答えられません。すぐに調停室から出て、親に電話をしているそうです。
そして、「お母さんが離婚だと言っているので……」「僕は悪くないからお金を払う必要はないとお母さんが言っています」などと言うそうです。
夫の弁護士ももちろん同席していますが、あくまで「いるだけ」で、収入などの資料も提出せず、何でも「夫の両親に聞かないと」と言います。そもそも離婚が専門ではないらしく、婚姻費用などの知識もないようです。
夫は「お母さんの方がうまく話せると思うから調停に同席させたい」と言ったそうですが、調停に当事者以外の人が参加することはできません。調停委員がそう断ると、今度は義母が書いた長い陳述書を提出してきました。しかし、いかに息子を大事に育ててきたかがつらつらと書かれているだけで、離婚原因になるような内容は書いてありませんでした。
数回調停が行われてもこの調子で話が進まないため、調停委員は夫に、「調停を不成立にして裁判にしますか」と尋ねました。すると、夫は長時間電話をかけた上で、「裁判は一家の恥だからやめるようにとお母さんに言われた」と回答。そこで、過去の婚姻費用の清算をして、あっけなく離婚となりました。
こうしてA子さんは離婚できました。
■親が離婚問題に介入するケースが増加
昔はドラマの影響などで「マザコン夫」が話題になりましたが、今はマザコンという言葉は死語になりつつあります。両親と仲のいい男性が増えて、結婚後も実家と行き来があることが珍しくなくなったためです。
一方、結婚して夫の実家で同居する夫婦が減ったため、嫁姑問題の相談も減りました。
しかしそれに代わって増えたのが、両親が離婚問題に介入してくるケースです。
まず、相談希望のメールや電話も、本人ではなく親からということが少なくありません。
相談の時にも親が同席しますし、「私の方が詳しいから」と、子どもよりも親の方が夫婦の事情を熱心に話します。10代、20代といった若い夫婦ではなく、30~40代の夫婦の離婚に、親が積極的に関わろうとするのです。
不仲になった経緯として出てくるのも、夫婦と義両親が入ったグループLINEです。子どもの写真などを送るために作られたグループが夫婦げんかの場になり、さらには夫そっちのけで妻と夫の両親がけんかをしていることもあります。
そして、A子さんの夫のように、離婚に関する意思決定を、何もかも親に委ねてしまう人もいます。
実家に帰るかどうかや、両親が頭金を出したマンションをどうするかといった部分を親に相談することはわかりますが、婚姻費用はいくら払うか、財産分与は、養育費は……といったことまで、事細かに親に聞かないと決断ができないのです。
■親離れができていないまま結婚、離婚も「親任せ」
特に、A子さんの夫のように高学歴で高収入の人の場合に、親が介入してくるケースをよく見かけます。
多くは、反抗期を経ずに親の言うことを聞いて勉強をして、親の言う通りに、親戚にOBが多い大学に進学、親のつてで就職……という人生を送ってきた人です。成人してからも、何でも親に相談して生きてきたため、そのことに違和感を持たないのかもしれません。
A子さんの夫が、スペックのわりに甘え上手に見えたのは、親離れしていない、子どものままの男性だったからと言えます。
離婚を相談された親も、「大事に育ててきた息子の一大事」と乗り出してきます。親戚筋にも弁護士がいるため、親がすぐに依頼して、方針も親が決めます。
以前は「離婚は恥ずかしいことだから親に知られたくない」という人が多かったのですが、最近は男女問わず、結婚してからも親離れをしない人が増えて、今や「離婚も親任せ」という時代になったと言えるでしょう。
■親の介入で余計にこじれてしまう
とはいえ、親が何でも正しく判断してくれるということはありません。
親は、自分の子どもかわいさに「相手が悪い」と言いがちです。親の介入の度合いが大きければ大きいほど、条件の提示や妥協といった段階を踏むことができず、「息子は悪くないから何も払わない」「相手が謝るべき」といった主張に終始して話が進まなくなります。これは、夫が不倫している、いわゆる有責配偶者である場合も同じです。
妻の側も、夫の両親が離婚の話に乗り出してくるのを拒まない傾向にあります。特に、夫の家が裕福だと、「親が介入すれば息子を説得してくれそう」「お金を払ってもらって早期に離婚できそうだ」と思うためです。
しかし先ほど書いた通り、実際はその反対です。
親が息子の味方をするため、たとえ息子が不倫やモラハラをしていたとしても、肩を持って話がこじれたり長引いたりすることがほとんどです。
■味方をするつもりが不利に働くことも
また、A子さんの夫のように、婚姻費用を1円も払おうとしない、それも夫の親が「あんな嫁には払わなくていい」と止めていたというケースがありました。婚姻費用を払わないと、裁判所からの心証はとても悪くなるため、この親は息子の味方をしていたつもりが、息子にとって不利なアドバイスをしてしまっていたことになります。
離婚する時には、金銭面や生活環境の面で、実家の親の理解や協力が必要になることがあります。しかし、離婚はあくまで夫婦自身の問題です。
中年といえる年齢になっている人であれば、何でも親を頼るのではなく、自分で選んだ専門家にアドバイスを求めて、自分で意思決定をするようにしましょう。
親の側も、何でも決めてあげたい気持ちをぐっとこらえて、子ども自身に任せ、求められた時に協力をするという姿勢でいることが重要です。
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弁護士
北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。
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(弁護士 堀井 亜生)
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