「もう死のうとおもいます…」凄腕起業家が"優秀な人"より"仕事や人生に疲れ切った人"を採用するワケ
プレジデントオンライン / 2023年10月14日 15時15分
※本稿は、北原孝彦『たった4年で100店舗の美容室を作った僕の考え方』(横浜タイガ出版)の一部を再編集したものです。
■やる気があって、そこそこ実績もある人は採用しない
次にぶち当たった問題。それは「ブランド力」の問題でした。
FC展開をしようと言っても、そもそも当時のディアーズは2店舗しかなく、ブランド力がありませんでした。
ですから、FC展開をしようと思っても、そのためのオーナーを募るのは容易ではありません。
ブランド力がない中で、いかにしてFCのオーナーを集めるか?
それが、僕に課された次の課題でした。
僕がまず考えたのは、「どんな人なら、うちのFCオーナーになってくれるだろうか」という点です。
どんな人をターゲットに設定して、FCオーナーを募るべきか?
おそらく普通に考えるのは「やる気があって、そこそこの実績もあって、お店の業績を伸ばしてくれそうな人」ということになるでしょう。
でも、僕はFCのオーナーを募る時点で、「そういう人は絶対にダメだ」ということが明確に分かっていました。
いったい、なぜでしょうか?
なぜかと言うと、そういうタイプの人は、仮に1店舗目がうまくいくと、「2店舗目は自分のスタイルでやってみたい」という形で、どんどん自分の色を出そうとするからです。
そして、その姿勢はやがて離脱(独立)へと繋がっていきます。
■ボロボロの赤字経営になっているか
こうした「独立の法則」は社員だけでなく、FCオーナーにも当てはまるはずだと僕は考えていました。
何より僕自身が「自分のやり方」で勝負をしたくて、最初に就職したお店を離職しているわけですから、できる人というのは、やはり「自分の力」を試したがるものなのです。
だからこそ、「やる気があって、そこそこの実績もあって、お店の業績を伸ばしてくれそうな人」は、ディアーズのFCオーナーには絶対にそぐわないということが、僕には明確に分かっていました。
ですから、そうした人たちとは「正反対の人」を僕はFCオーナーにしようと考えました。
失礼を承知で、具体的に言うと、次のようなタイプの人たちです。
■ボロボロの赤字経営になっている
■そろそろ美容室を畳もうと考えている
■人生に疲弊し切っている
そうした方こそが、ディアーズのFCオーナーにふさわしいと考えました。
すでに経営状態が火の車であれば、ディアーズのブランド力を気にする余裕もないはずです。
そこで、次の課題になります。
では、そうした人たちを集めるには、いったいどうしたらいいのでしょうか?
■深夜に届いたメール「死ぬことを考えています」
そこで僕が考えたのは「美容室」「赤字」「撤退方法」などのキーワードを使って、ブログなどで記事を書くことでした。
記事の最後に、僕は必ず次のような文言を付け加えました。
「赤字で撤退を考えている人は、ぜひ一度、ご相談ください」
すると、言わば「瀕死(ひんし)状態の人たち」から「もう死にたい」といったリアルで悲痛なメールがたくさん届くようになりました。
そしてブログを書き始めて、ある日のこと。
深夜に、ある男性から次のようなメールが届きました。
「今日、北原さんに相手にしていただけなかったら、もう先がないので、死のうと思います」
驚いた僕は、急いでそのメールを書いた男性が住んでいるエリアに向かおうとしたのですが、とうに終電の時間は過ぎています。
そこで車を飛ばして、彼が住んでいるエリアに向かいました。
現地に着いた頃には夜中の2時を過ぎていましたが、彼とはそれから朝の5時ぐらいまで、ゆっくり話をすることになりました。
いざ話を聞いてみると、奥様の反対を押し切って自分の美容室を開業したものの、うまくいかず、親戚からもいろいろと言われて、家に居場所がないとのことでした。
彼との会話で印象的だったのは、次のような言葉が出てきたことです。
「北原さん。人間って本当に困ると、おなかが鳴っても、おなかがすかないんですね……。寝たくても、全然眠れないんですね……」
僕が思ったのは、「このまま放っておいたら、この人は本当に死んでしまうのではないか」ということでした。それほどまでに、彼は疲弊し切っていたのです。
だから、僕は言いました。
「もしよろしければ、お店の看板を変えてみませんか? どうせ撤退するなら、3カ月間だけでいいので、僕に運転させてください。それでダメだったら、うちの社員にします。借金も一緒に返していきましょう」
すると、彼は「ぜひお願いします」と言ってきました。
こうして深夜に突然メールを送ってきたこの男性が、記念すべきディアーズのFC1号店のオーナーになったのです。
■ブランド力のないお店がFCオーナーを集める「逆転の発想」
ブランド力のないお店が、いかにしてFCオーナーを集めるか?
おそらくFCでの展開を考えているほとんどの会社、ならびに社長が直面する問題ではないかと思います。
普通のやり方では、まずFCオーナーは集まりません。
かといって、「ブランド力を構築してからFC展開」というプロセスを辿ろうとすると、莫大(ばくだい)なお金がかかりますし、何より時間がかかりすぎてしまいます。
この問題をどうやってスピード解決すべきか?
僕が考えたのは、「店舗救済」という形で「救いの手」を差し伸べれば、ディアーズにすがってくれるのではないかということでした。
借金を一緒に返すぐらいの姿勢で臨めば、僕からFCのお願いをするのではなく、逆に相手の方から、僕にすがってくれるのではないかと考えたのです。
こうした言わば「逆転の発想」で、僕はこの問題をスピード解決しました。
この時のエピソードを人に話すと、次のように言われることがあります。
「ダメだったらうちの社員にするとか、借金を一緒に返していこうとか、初対面の人に対して、どうしてそこまで言えたんですか?」
理由は簡単で、「必ず黒字化できる」という確信があったからです。
彼のお店は家賃10万円ほどで、うちの美容室の家賃と同じ水準でしたし、何より、うちのお店よりも人口が多いエリアで出店をしていました。
ですから、やり方さえ変えれば、必ず黒字化できるという確信がありました。
あとは彼に対して、「新しい挑戦」を促すだけです。
新しい挑戦にはリスクが伴いますから、誰しもが恐怖心を持つものです。
ですから、人間は何かと「やらない理由」を考えて、新しい挑戦を回避しがちです。
そこで、僕は「失敗したらうちの社員にする」「借金を一緒に返そう」と提案しました。
そこまで言われれば、彼からすると、やらない理由がなくなるからです。
はたして、彼は新しい挑戦の道を選びました。
その結果、1カ月間の売上が約20万円だった彼のお店は、3カ月後に売上80万円に急成長しました。
現在、彼はディアーズで3つの店舗を持つFCオーナーとして活躍中です。
奥様から「次の店舗はいつ出すの?」と毎日ケツを叩かれているそうで、「赤字ばかりで、なんで独立なんかしたの……」と小言を言われる日々から、大逆転の人生を送っています。
■固定概念にとらわれずにFC展開を広げたセブン‐イレブン
このように僕自身は「逆転の発想」でFCでの展開を始めましたが、今、振り返ってみて思うのは、「固定概念にとらわれてはいけない」ということです。
現在の日本には様々なFCがありますが、固定概念にとらわれずにFCを成功させた事例として、とりわけ身近なのは、コンビニエンスストアであるセブン‐イレブンではないでしょうか?
ここで、セブン‐イレブンがどのようにしてFC展開を始めたのかについて、簡単に経緯を振り返ってみましょう。
時は高度成長期。
大型スーパーが全盛の時代で、イトーヨーカ堂は出店を加速させていましたが、その一方で、地元の商店街にある中小の小売店からは「イトーヨーカ堂が来たら売れなくなる」と猛反発を受けるようになっていました。
幹部として、地元の商店街と交渉にあたっていた鈴木敏文さんは「商売はやりようだ。大型店と中小小売店は必ず共存共栄できるはずだ」と考え、その道を模索していたそうです。
そんな中、鈴木さんがアメリカで出会ったのが、セブン‐イレブンでした。
最初は「アメリカにもこんな小売店があるのか」としか思わなかったそうですが、帰国後に調べてみると、サウスランド社が北米で4000店のチェーンを展開している超優良企業でした。
鈴木さんはセブン‐イレブンを日本に持ち込めば、「大型店と中小小売店の共存のモデルを作ることができる」と考えたそうです。
社内からは猛反発を受けました。
「商店街のお店の多くが衰退している中で、セブン‐イレブンのような小型店舗が日本で成り立つはずがない」というわけです。
■23歳の青年から届いた一通の手紙
しかし鈴木さんは反対を押し切り、FCの1号店を豊洲にオープンさせました。
なぜ、第1号のお店をFCにしたのか?
その時のエピソードが鈴木さんの著書『変わる力 セブン‐イレブン的思考法』(朝日新聞出版刊)に書かれていますので、以下に引用させていただきます。
1号店は、セブン‐イレブンの看板で独立した商売をするフランチャイズ店にしようと決めていました。他のメンバーはノウハウを実地で身につけるためにも、最初の数店は直営店でやろうと言いましたが、セブン‐イレブンの創業目的が「小型店と大型店の共存共栄」「既存小売店の活性化」にあることを示すためにも、私はこれを押し通しました。
そのようなとき、新聞記事を見た東京都江東区在住の山本憲司さんという23歳の青年から、私たちのもとへ「やってみたい」と手紙が届きました。
彼は、お父様が亡くなられたため大学を中退して家業の酒屋を継いだばかり。酒販店は免許制で保護されているため儲かってはいるが、酒類は公定価格のようなもので、今後大きな売上増は望めません。結婚したばかりの妻や、妹弟を支える大黒柱として、このまま酒屋をやっていていいのだろうかと考えていたときに、新聞記事に載っていたセブン‐イレブンという新しい店に「ひらめき」を感じたそうです。
店はアメリカの3分の1の広さしかなく、決して人通りの多い立地ではありませんでしたが、彼の責任感と、新しいことに果敢に挑戦しようという熱意に胸を打たれ、「ぜひ一緒にやりましょう。もし3年後に失敗していたら、私が責任を持ってお店を元通りにしてお返しします」と、約束したのです。
1974年5月15日、日本初の本格的コンビニエンスストア、セブン‐イレブン豊洲店がオープンしました。準備期間は3カ月間。急ピッチで山本さんの店舗を改装し、並行して彼自身にも「コンビニエンスストア」の運営ノウハウを学んでもらう研修をするなど、慌ただしい日々を共に過ごして迎えたオープンでした。雨模様の日でしたが、目新しさもあって、多くの人が来店してくれました。最初のお客様は男性。購入してくださったのは、800円のサングラス。今も忘れられません。
いかがでしょうか?
こうして「うまくいくはずがない」という社内の反対を押し切り、1店舗目のFCをスタートさせたセブン‐イレブンがその後にどうなったのかは、あえて書き記すまでもないでしょう。
■コンビニ以上の5倍多い美容室業界で継続的に成長できた理由
セブン‐イレブンとは経緯が違いますが、現在、僕も数多くのFCを抱えるディアーズグループの代表です。
その代表として、この本を読んでいるあなたに何よりも伝えたいのは、次のメッセージです。
やりようによっては、必ず勝てる。
美容室業界は「レッドオーシャン」(血で血を洗うような激しい競争が行われている既存市場のこと)と言われますが、厚生労働省の統計によると、2018年度の店舗数は全国で25万軒を超えているそうです。
一方、日本フランチャイズチェーン協会の調べによると、2018年度の全国のコンビニエンスストアの店舗数は5万8340店となっています。
コンビニエンスストアの店舗数と比べてみても、美容室がいかに競争の激しい業界であるかが分かるでしょう。
しかし、それを嘆いてみたところで、状況は何も変わりません。
先ほどご紹介した鈴木さんの著書には、次のようにも書かれています。
ビジネス上、ライバルは少ないほうがいいと思いがちですが、競合他社、あるいは競合店がないと、往々にして事業がうまくいかなくなることが多い。小売業で言えば、周りに競合店がないと、お客様は他に店がないために来てくれていることに気づかず、変革する努力を忘れてしまうためです。
商売がうまくいかないときは、誰かのせいにすれば楽です。しかし、楽のあとに成長はありません。己の欠点を受け止め、改善する努力を怠らず、新しいことに挑戦し続ける。そうした地道な取り組みなくして、継続的な成長はないのです。
鈴木さんのおっしゃるとおりだと思います。
僕自身が「レッドオーシャン」と言われる美容室業界で、たった数年で店舗を急拡大できたのは、ディアーズが変革と挑戦を怠らなかったからです。
「これからどうしていけばいいのだろうか……」
そのように悩む美容室経営者は、全国の津々浦々にいらっしゃいます。
そうした美容室経営者の受け皿となり、業界をより活性化していけるよう、ディアーズは変革と挑戦を続けています。
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Dears(ディアーズ)グループ代表
1983年長野県生まれ。理美容専門学校を卒業後、長野県の美容室へ。入社3年で店長に抜擢され、ブログやメルマガを活用して新規集客を拡大。同時に独自でWEBメディアを運営し、アフィリエイターとしても活躍。勤めていた美容室を退社後、2015年5月に美容室「Dears(ディアーズ)」1号店を地元に開業。2020年12月には全都道府県出店。美容室にとどまらず、エステ、アイラッシュなども展開し、2023年10月時点260店舗出店。その他にも年商8億規模の通販サイト、300社以上が登録するHP事業、美容商品卸事業、シェアオフィスなど、複数の事業を運営。また、160社の顧問でもあり、経営者、起業家に日々様々な助言と改革を行う。現在は新規事業の立ち上げや2000名以上が本気で学ぶビジネス勉強コミュニティ「北原の精神と時の部屋」の運営に注力。
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(Dears(ディアーズ)グループ代表 北原 孝彦)
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