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なぜ日本生命は「年収最大5000万円」を決断したのか…日本のサラリーマンは「勝ち組とそれ以外」に二分される

プレジデントオンライン / 2023年10月16日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ooyoo

■「新卒一括採用、年功序列、終身雇用」の終わり

ここにきて、わが国の労働市場は変わりつつある。一部の企業は高い給与を提示して、ITやファイナンスなど専門人材の獲得を急ぎ始めた。保険会社大手の日本生命保険は、最高5000万円の年収を提示すると報じられた。

長い間、わが国では“新卒一括採用、年功序列、終身雇用”からなる雇用慣行が続いてきた。個々人の役割や能力、実績に直接関係なく、給与はほぼ一定だった。その状況が、変わりつつある。

要因として人手不足は重要だ。“2024年問題”に直面する物流業界など、人手確保は企業の存続に直結する問題になりつつある。2024年問題とは、人手不足と労働時間の短縮(来年4月からトラックドライバーの時間外労働上限は年960時間)による、国内の物流が停滞する懸念を指す。

労働力の獲得、より効率的な事業運営のために、企業はより高い賃金を提示し、専門人材を確保しなければならなくなる。転職、キャリアの変更を目指す人は増えるだろう。労働市場の変化のスピードも加速化する。ある意味で、それはわが国の経済全体として良い変化だ。

今後、自分の能力を高めることができれば、より多くの報酬を手に入れる可能性は高まる。より高い評価・給与を得られる職場に移る人は増え、労働市場の流動性も向上する。わたしたちはそれを理解し、自らの能力の向上に励むことが必要だ。

■M&AのプロやIT技術のプロに最大5000万円

現在、わが国の雇用慣行は徐々に崩れ始めた。その一つの兆候は転職する人が増えていることだ。わが国の大手企業より、待遇の良い外資系の金融機関やコンサルティングファーム、IT先端企業に就職する学生も目立ち始めている。働きながら社会人大学院でファイナンスやマーケティングなどの理論を習得し、より給与水準の高い企業や業種に移る人も目に付く。

わが国の労働市場の流動性は、徐々に高まる兆候が出始めた。賃金の体系も柔軟になりつつある。日本生命はM&A(企業の合併、買収)などのプロに最大5000万円を支払うことを含め、専門人材採用の準備を進めていると報じられた。

資金運用などの職種では、若いころから高い運用の利得を実現した人に、高い給与を支払う考えを示す企業もある。入社の年次によって賃金が決まるシステムから、個々人の実力、成果に応じた能力給にシフトしなければならないことに気づく企業は増え始めた。

■65歳以上の転職&年収アップも増加している

内閣府が公表した「令和5年度 年次経済財政報告」(以下、経済財政報告)は、そうした労働市場の変化を詳細にまとめた。2013年以降、転職者の割合(過去1年以内に勤め先を変えた者が就業者全体に占める割合)は緩やかに上昇した。世代別に推移を確認すると、20代、30代に加え、足許では65歳以上の転職も緩やかに増加した。転職の前後で年収も増加した。

どのような職種で求人が増えているかを確認すると、IT・通信分野でのエンジニア、企画や管理などの職種に対する需要の増加は顕著だ。賃金の水準に着目すると、男女ともに年収800万円を超える場合の転職も増加した。

労働市場の流動性が向上する兆しが出始めた要因として、人手不足の深刻化は大きい。少子化、高齢化によってわが国の生産年齢人口は減少した。また、バブル崩壊後、わが国の経済は長く停滞した。旧来の雇用慣行で高い成長を目指すことは難しくなりつつある。

また、コロナショックなどをきっかけに、世界のデジタル化は加速した。事業の継続に必要な人員、特に、今後の成長に欠かせないデジタル関連分野でのプロを獲得するために、企業は賃金を積み増さなければならない。そうした現実を理解する企業トップは増えている。

■データが示す転職する人の“2つの特徴”

これまでの年功序列の賃金体系では、組織の中で個人がどれだけ高い成果を上げたとしても、周囲を大きく上回る給与を手に入れることは難しかった。その対価として、雇用そのものは安定している。従来の雇用慣行が長く続いた結果、年功序列、終身雇用が普通の状態との認識はかなり定着していた。

ただ、最近、それが徐々に変化し始めた。労働市場の流動性が徐々に高まったことにより、企業への貢献に従って、柔軟に給与が増えることに気づく人は増えた。それは労働市場の変化がわたしたちに与えた最大の影響といえる。

経済財政報告は、この点に関しても重要なデータを記載した。転職を促進する要因にはさまざまなものがある。その中でも経済財政報告は、教育の修了レベル、自己啓発の有無に関する重要な点を指摘した。前者に関して、大学の学部卒業者よりも院卒者のほうが転職の確率は高まった。また、自己啓発に励む人のほうが転職の可能性は高まった。

■働きがいを実感している人はたったの5%

共通するのは、より高い専門的な知識や技術を身につけたほうが、より高い賃金を手に入れる確率は高まることだ。また、転職した人の感想として給与のみならず、働くことへの満足度も高まった。

その意味は大きい。米ギャラップの調査によると、2022年、わが国で働きがいを実感している人(熱意を持って働く人などを意味するワーク・エンゲージメントとも呼ばれる)の割合は5%だった。イタリアと並んで世界で最低の水準だった。イメージとして、わが国では成長の期待と事業運営の効率性が高まりづらい企業、業種に労働力が塩漬けにされた。

しかし、その状況は徐々にではあるが変わり始めた。自ら新しい理論などを学びなおして世の中の変化に対応し、より効率的に付加価値を生み出すスキルを発揮することによって、賃金を増やすことができる。さらに高度な理論に習熟し企業への貢献度を高めることができれば、より高い給与を手に入れる可能性も高まる。それに気づく人は増えつつある。

オフィスで話す人たち
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■高年収を提示できない企業は淘汰される恐れ

今後の展開を予想すると、人手不足と優秀な人材の不足、2つの掛け算によってわが国の労働市場の変質は加速するだろう。これまでの年功序列などの価値観は崩れ、能力主義は徹底されるだろう。

それに伴い、同じ業種内で、より高い賃金が得られる企業に移る人は増える。在来分野から成長期待の高い分野へ、業界の垣根を飛び越えてキャリアチェンジを目指す人も増える。文系と理系の境界線も曖昧になる。文系出身者がデータ分析の分野で活躍したり、理系出身者が企画や業務管理などの分野で存在感を発揮したりするケースも増えるだろう。

企業経営者は実力あるプロ人材を増やすために、これまで以上に賃金の引き上げを真剣に考えなければならなくなる。反対に、魅力ある賃金の水準を提示できない場合、企業が淘汰(とうた)される恐れは高まる。

経済全体として考えた場合、それは本来あるべき方向に労働市場が向かいつつあることを意味する。資本主義の経済では、市場の価格メカニズムによって、より効率的に付加価値を生み出せる企業、産業にヒト、モノ、カネが集まる。

■労働市場は今後二極化していく

そうしたケースが増えれば、より多くの人が自己研鑽や学びなおしの重要性に気づくだろう。学びなおしによって、より成長期待が高く賃金水準も高い分野での就業を目指す人も増える。そうした労働市場の環境を整備するために、政府はリカレント教育や職業訓練、働く意欲が低下した人への就業の意識づけなどに向けた取り組みを強化すればよい。

一方、2024年問題に直面する物流業界のように人手確保が困難になる企業、分野も増えるだろう。配送の混乱、遅延などの負の影響を抑えるために、政府は省人化投資の支援や規制緩和の実施なども急ぐべきだ。

わたしたちに求められることは、弛(たゆ)むことなく能力を磨き、より有効に実力を発揮できる分野を見つけることだ。それは、給与だけでなく、自らのやりがいや満足感を高め、より良い人生を送ることにつながる。そうした観点から、流動性の上昇などわが国の労働市場が変わりつつあることは重要だ。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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