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「ハイフ打ち放題1万円」はリスクが高すぎる…消費者庁が警告するほどハイフ事故が急増している背景

プレジデントオンライン / 2023年10月24日 9時15分

千里中央花ふさ皮ふ科ホームページより

■強力な超音波を集めて熱エネルギーを与える治療法

今年3月、消費者庁の消費者安全調査委員会が、エステサロンなどでたるみやしわの改善を目的として行われている「HIFU(ハイフ)」について調査報告書を発表しました。調査報告書ではHIFUの施術によって、顔面の麻痺や、急性白内障、熱傷(やけど)などが起こった事例が報告されています。

HIFU(ハイフ)とは、「高密度焦点式超音波」の英語表記(High Intensity Focused Ultrasound)の頭文字をとったものです。体の内部の1点だけに焦点を合わせて強力な超音波を集めて熱エネルギーを与える治療法で、虫眼鏡を使って光を集めるイメージに例えられます。元々は前立腺肥大の治療に使われていましたが、美容にも応用されるようになりました。

肌は表皮層、真皮層、皮下脂肪層、SMAS層(筋膜)、筋肉層で構成されています。この中で顔の筋肉を支えるSMAS層に熱エネルギーを与え、いったん破壊し、再生を促すことで、引き締めようとします。肌がたるんでしまう原因の多くは、加齢によって真皮から肌のハリを保つコラーゲンやエラスチンが失われてしまうことです。そこでSMAS層に熱エネルギーを与えて破壊することで、コラーゲンやエラスチンの再生を促します。

■「1万円でハイフ打ち放題」を謳うエステサロンも

従来のたるみ、しわ対策改善を目的とした美容医療は「フェイスリフト」や「糸リフト」など、外科手術が必要で患者さんの負担も大きいものでした。そんな中、HIFU施術は通常、手入れができない皮下組織にメスを入れることなくアプローチできることから、アンチエイジング対策として広まりました。

肌質改善やたるみ予防、小顔対策で始める人も増えており、若年化が進んでいます。最近は芸能人やモデルの方の「こういう施術をした」という発信がきっかけになるなど、SNSの普及で美容医療の敷居が下がっていることを実感しています。

HIFU施術が一般的になる一方、費用の安さを謳(うた)ったエステサロンや美容専門のクリニックが増えていることも特徴の一つです。例えばエステサロンではトライアルキャンペーンと銘打って「小顔ハイフ30分打ち放題1万円」というメニューを見かけます。一部のクリニックでも、初回は5万円の施術で、回数を重ねるごとに費用が安くなるプランもあるようです。

私のクリニックでも2020年からHIFU施術を行っていますが、当院では1回の施術費用が初回トライアルが8万8000円、その後単回が11万円、3回コースが26万4000円です。施術を行うのは国家資格を有し、十分な知識と技術を持つ医師あるいは看護師です。また高出力で施術できるハイフ本体の機器代、チップなどの消耗品代もより高額なため、エステサロンよりも価格帯が高くなります。

■なぜ顔面麻痺や白内障が起きるのか

なぜHIFU施術で顔面の麻痺、急性白内障などのトラブルが起こるのかというと、SMAS層の近くに多くの神経が通っているため、照射するポイントを誤り、神経を傷つけてしまったり、目の近くを施術してしまったりしたことが原因だと考えられます。また、やけどについては、機器の密着が甘いと、通常より浅い部位に焦点が合ってしまうため、皮膚表面がやけどしてしまうために起こってしまいます。

今回の調査報告書は「エステサロン等での事故」となっていますが、現在、HIFU施術が行われているのは、エステサロンのほか、当院のような美容医療も行う皮膚科専門医・形成外科専門医のクリニック、美容専門のクリニック、内科・眼科などの皮膚科・形成外科以外のクリニックなどです。

当院や他の多くのクリニックで使用している機器は「高密度焦点式」で、医薬品・医療機器等法の下、医師個人の自己責任で個人輸入した医家向け医療機器です。一般的に医療用HIFUとよばれているのはこの機種を使った施術です。

■「医療行為」なのか明確な判断がない

一方、エステHIFUとよばれているものは、「蓄熱式」という熱エネルギーの加え方をする機種が多いようです。「蓄熱式」では比較的弱い超音波を面で照射し、徐々に熱エネルギーを蓄積させて、肌内部の温度を上げていきます。出力自体は医療用の「高密度焦点式」ほど強くなく、また出力が強くなりすぎないよう制限がかかっていることも多いため、仕組み上、効果がマイルドな反面、やけどのリスクが少ないと考えられていました。

しかし、調査報告書ではHIFU施術の実態として、医師のいないエステサロンなどでも照射出力の高い機器が使用されていることが指摘されています。

医療機関であるクリニック、エステサロンの両方で行われている代表的な施術に脱毛があります。脱毛の中でも永久脱毛の効果を得られる高出力の医療脱毛レーザーの照射については医療行為にあたると医師法で定められており、医療機関で医師または医師の指示を受けた看護師のみが行わなければいけません。

しかし、HIFUに関しては施術が医師法における医療行為に当たるかは明確な判断が示されていないのが現状です。

■解剖学の知識のない人間が行っていいものではない

今回の調査報告書では、HIFU施術は神経や血管の位置などの解剖学の知識を有する者が、機器の特性や施術方法を熟知して行う場合を除いては、人体に危害を及ぼすリスクが高いとして、厚生労働省に「施術者を原則医師に限定すること」を求めています。実際、施術には解剖学を熟知した医師が施術あるいは、施術のトレーニングを受けた看護師が、医師の指示の下に施術すべきと考えます。

また、現時点ではHIFUの機器が薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)上の医療機器に該当するかの判断が明確ではなく、国内には美容医療を目的としたHIFU機器で承認されているものはありません。

ただ、国内未承認の医家向け医療機器を医師個人の自己責任で個人輸入することは医薬品医療機器等法で認められており、先述したように私のクリニックでもアメリカやヨーロッパ、韓国で承認を受けている機器を国内販売代理店を通して入手しています。

HIFU施術を行っているクリニックでは、医師がこのように海外で承認された機器を導入しているのが現状です。当院でも機器については日本人に対する安全性を最優先に機器の選定を慎重に行い、医師・看護師のトレーニングをしっかり行った上で患者さんに施術しています。当然ですが、メンテナンスについても購入した業者のアドバイスの下でしっかり行っています。

肌の状態を気にする女性
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

■クリニックであってもリスクはゼロではない

トラブルの増加に伴い、今後は施術者や機器についての法整備が進むことが期待されます。しかし、HIFUの施術がクリニックの医師に限定されれば安心というわけではありません。調査報告書でも約6割の利用者が施術のリスクを認識していなかった実態が記されていますが、HIFU施術に限らず「リスクがゼロの施術はない」ということを改めて理解すべきでしょう。

実際、調査報告書ではエステサロンだけでなく、医療機関である美容クリニックでの事故も報告されています。私のクリニックでも導入後3年間で、HIFUの施術で2人の患者さんに数カ月の間、茶色い跡形が残ってしまうようなやけどをさせてしまったことがあります。

その時は塗り薬や飲み薬で跡形を薄くする治療を行いました。本来ならやけどを患者さんにさせてしまうのはあってはならないことです。やけどさせてしまった後に院内で再発防止のために再度研修を行いました。

■施術の前に、本当に必要か考えてほしい

また、効果についても個人差があることを知っておく必要があります。実際、HIFU施術後、「リフトアップできた」と喜ばれる方がほとんどですが、「思ったほどではなかった」とおっしゃる方も一部にはいらっしゃいます。丸顔の人は効果を実感しやすいのですが、面長の人はかえって顔がこけて見えるケースもあります。施術に伴う痛みも少ないといわれているものの、人によっては痛みを強く感じるなど個人差があります。

美容医療に携わる者として、「きれいになりたい」と思って取り組んだ美容医療がかえって患者さんの悩みを深めるきっかけになってしまうような事態はあってはならないと考えています。

そのためにも施術の内容、リスク、万が一、事故が起こった時の対応についてしっかりと説明してくれるクリニックを選ぶことはもちろん、本当にそれが今の自分に必要なのかを考え、納得した上で施術を受けてほしいと思います。

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花房 崇明(はなふさ・たかあき)
皮膚科医(医学博士)
医学博士(大阪大学大学院)、日本皮膚科学会皮膚科専門医、日本アレルギー学会アレルギー専門医、日本抗加齢医学会専門医、難病指定医。2004年大阪大学医学部医学科卒業。大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学博士課程修了(医学博士取得)、大阪大学大学院医学系研究科皮膚科学特任助教、東京医科歯科大学皮膚科講師・外来医長/病棟医長などを経て、2017年千里中央花ふさ皮ふ科開院。2019年医療法人佑諒会理事長就任。2021年より近畿大学医学部皮膚科非常勤講師兼任。2021年分院として江坂駅前花ふさ皮ふ科を開院している。

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(皮膚科医(医学博士) 花房 崇明)

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