「増税メガネ」岸田首相は財務省に洗脳されてしまった…政権を操り増税を進める「財務省」という組織の正体
プレジデントオンライン / 2023年10月18日 9時15分
■「増税メガネ」「増税クソメガネ」から「増税クソレーシック」へ
「X(旧Twitter)」でトレンド入りして以降、岸田首相のあだ名は「増税メガネ」で定着したようだ。
「増税クソメガネ」、さらには「増税クソレーシック」というあだ名まで飛び出している。
報道によると、岸田首相本人は「まだ何も決まってないのに『増税だ』と言われるのはおかしいだろ!」といらだちを見せているという。
批判がこたえたのか岸田首相は9月25日に記者会見を行い、「経済対策の5本柱」について説明、10月下旬からの臨時国会において補正予算の成立を目指す考えを示した。
5本の柱とは「物価高対策」「賃上げ」「国内投資促進」「人口減少対策」「国土強靭化(きょうじんか)」だが、どこにも「減税」の文字はない。
■「金融所得課税」と「分配」はどこへ行ったのか
そもそも、岸田政権の発足当初は「新しい資本主義」を掲げ、「金融所得に課税するなど、富裕層の負担を増やし、分配する」と言っていた。
それがいまや「資産運用特区を作り、資産運用立国を目指す」と言っている。手のひらを返すとはこのことで、当初とまったく異なる政策を推し進めている。
前述の経済対策は官邸の官僚が書いたと言われているが、岸田政権になって以来、官邸官僚の多くが財務省出身者で占められている。
よって、岸田政権が増税の方向に突き進んでいるのは当然というほかない。
■インボイス制度は実質的な増税
岸田首相には増税をしている自覚がないようだが、政権発足以降、さまざまな増税が実施、あるいは実施に向けた議論が進んでいる。
この10月1日からは「消費税インボイス制度」が導入されている。これまで消費税の免税事業者だった個人事業主にとって実質的な増税であるのは間違いない。財務省はインボイス制度によって約2500億の税収増を見込んでいるという。
酒税についても、ビールの税率が下がったとはいえ、発泡酒の税率が上がったのは、庶民にとって実質的な増税と言えよう。
また、政府税制調査会においてサラリーマン増税が議論されたことも記憶に新しい。年末の与党税調で決定されれば、新たな増税が決まることになる。
ほか、岸田首相肝入りの「異次元の少子化対策」についても、経団連が「少子化対策の財源として消費税増税を」と主張したばかりだ。
防衛費の増額にともなう「防衛増税」についてもまだ消えたわけではない。
これだけ「増税増税」と繰り返しているのだから、「増税メガネ」いや「増税クソメガネ」と言われるのは当然だ。それが分からないほど視力が落ちているなら、岸田首相は本当にレーシックを受けたほうがいいだろう。
![岸田首相はものすごい勢いで財政を引き締めている(2023年10月12日、首相官邸)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/8/1200wm/img_08d4609e4cca76c97c285f0408388291445521.jpg)
■増税の一方で「70兆円ボロ儲け」
岸田首相は単に「増税メガネ」なだけではない。「緊縮財政メガネ」でもある。
岸田政権になって以来、日本はものすごい勢いで財政を引き締めているからだ。
コロナ禍が始まった2020年度の日本政府の財政赤字(決算時)はプライマリーバランスで見て約80兆円もあった(この数字は財務省にとって都合が悪いのか、財務省の資料にほとんど出てこない)。
一方、2023年度のプライマリーバランスでの財政赤字(予算時)は約10兆円。
たった3年で政府の赤字は70兆円も減っているのだ。
財務省から見れば「70兆円も財政赤字を改善した」ということになるだろう。だが、われわれ国民から見れば「政府が70兆円もぼろ儲けした」のであり、その分の需要が減り、景気の悪化を心配しなければならない。
70兆円もボロ儲けしながら、ガソリン税の減税すらやらず、社会保障を削り、インボイス制度で個人事業主・中小企業いじめをやっている。
岸田政権・財務省の経済オンチぶりには呆れるほかない。
■「15兆円の補正予算」で消費減税できる
いま岸田首相は「補正予算」に向けて動いているらしいが、補正予算の規模について自民党の世耕参議院幹事長は「最低でも15兆円、できれば20兆円」と語っている。
ただ、15兆円の財政出動ができるなら、消費税を半分の5%に減税できるはずだ。消費税収は約30兆円(地方税部分を含む)なので、5%に下げても15兆円しかかからない。15兆円、20兆円という規模の補正予算を組むよりも安くつくはずだ。
補助金の支出だと特定の層だけに恩恵が行くという問題があるが、消費減税なら広く公平な措置であり、その効果は世界的にも実証されている。
自民党の「積極財政議連」が消費税の5%への減税措置を訴えているものの、岸田政権が取り上げる気配はない。消費減税だけは絶対に議論させたくない、というのが財務省の意志だからだろう。
■岸田首相が知るべき「通貨発行益」
岸田首相は、「政府は財政を均衡させなくていい」という経済の大原則を理解すべきだ。
一般の家庭や企業、地方自治体等であれば、「収入と支出を一致させる、あるいは支出が収入を下回るようにする」のは当然のことだ。
だが、通貨を発行できる政府は通貨発行益を得られるので、収入以上に支出することができる。
明治維新の際、明治政府は「太政官札」という貨幣を発行し、その発行益で様々な改革を推し進めた。
その後も、第2次世界大戦を戦う際、その戦費は戦時国債を日銀に引き受けさせて捻出(ねんしゅつ)した。
戦後、米軍が沖縄を統治した際は「B円」という軍票を発行し、その発行益で基地を整備した。
このように、政府は家計と違って通貨発行益を活用できるのだ。
![政府は通貨発行益を得られる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/1/1200wm/img_e1e7aa380dd64bcc0e8e427acf8e8845480746.jpg)
■日本はまだまだ財政拡大できる
政府支出の制約となるのは「インフレ」であり、今世界中がインフレで苦しんでいるのは、コロナ禍で各国が政府支出を拡大したことも一因である。
日本でも物価上昇率が上がっているが、円安・原油高によるコストプッシュ型のインフレであり、原油価格の下落にともなって国内のインフレは落ち着いてきている。
日銀が金融緩和を続けていても、コロナ禍で約80兆円もの財政赤字をばらまいても、諸外国のようなインフレは起こらない。それが日本経済の現状だ。
だから増税をしてまで財政を立て直す必要は全くないどころか、日本経済にとって有害だ。
■安倍元首相が語った「財務省の策略」
私が知る限り、もともと岸田首相は増税派というわけではなかった。むしろ首相になってから、財務省に食い込まれたとみるほうが正しいだろう。
直接その光景を見たわけではないが、財務省の人間が朝から晩まで岸田首相のもとを訪れ、「日本のために国民から嫌われる政策が必要なんです。できるのはあなたしかいません」と説得され、「洗脳」されてしまうのだろう。
![岸田首相は財務省に洗脳されてしまった](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/1/1200wm/img_3127001cf7e53071c14b34e37eb66b90344798.jpg)
安倍元首相が『安倍晋三 回顧録』(中央公論新社)の中で、「森友問題」について「私の足を掬うための財務省の策略の可能性がゼロではない」と述べている箇所がある。
安倍元首相は第2次安倍政権以降、財務省を遠ざけて、日銀による金融緩和とともに財政出動を行い、消費税引き上げを見送ろうとしていた。
だが、「森友問題」が浮上し、政権転覆を恐れた安倍元首相は消費税の引き上げを余儀なくされたのである。
■ジャニーズ事務所問題と同じ構造
『ザイム真理教』(三五館シンシャ)という本で詳しく説明したが、財務省という組織は、たとえ日本経済にどれほど悪影響があっても、財政均衡と増税を目指す組織であり、そのための「布教活動」を絶え間なく行っている。
TVのコメンテーターや、経済評論家といった人々は、この事実をみな知っている。
![森永卓郎『ザイム真理教』(三五館シンシャ)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/7/1200wm/img_07f30219ae1ff4e42e6f1aab1d0855f7465101.jpg)
だが、「財務省が間違っている」と言うと干されると思って本当のことを言えないのだ。
ジャニーズ事務所の性加害問題が話題となっているが、あれとよく似た構造がある。ジャニー喜多川氏による加害について、芸能界の関係者はみな薄々知っていたが、ジャニーズ事務所の報復を恐れて忖度(そんたく)し、マスコミ各社は沈黙していた。
このような構造を許さないために、一人一人の国民がマクロ経済について正しく理解する必要がある。国には通貨発行益があり、財政均衡は必要ないどころか、不景気・デフレ時には有害だ。このことをきちんと認識し、経済に明るい政治家を国政に送り込まなければならない。
「れいわ新選組」など消費減税を掲げる政党も徐々に拡大しているが、こういった新興勢力が永田町の勢力図を塗り替えてくるようでないと、「財務省による支配構造」はなかなか変わらないだろう。
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経済アナリスト、獨協大学経済学部教授
1957年生まれ。東京大学経済学部経済学科卒業。専門は労働経済学と計量経済学。著書に『年収300万円時代を生き抜く経済学』『グリコのおもちゃ図鑑』『グローバル資本主義の終わりとガンディーの経済学』『なぜ日本経済は後手に回るのか』などがある。
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(経済アナリスト、獨協大学経済学部教授 森永 卓郎)
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