今回のiPhone15は乗り換えてもいい…「独自端子を廃止」と「絶対ピンボケしない最強カメラ」の価値
プレジデントオンライン / 2023年10月18日 11時15分
■ついにiPhone 15シリーズが発売された
Appleは9月22日、iPhoneの最新モデルとなるiPhone 15シリーズを発売した。標準モデルのiPhone 15に加え、大画面版のiPhone 15 Plus、上位モデルのiPhone 15 Pro、上位モデルの大画面版であるiPhone 15 Pro Maxの計4種類をラインナップする。
新要素の一部は、標準モデルでも上位モデルとほぼ同じものが組み込まれている。例年のiPhoneでは新機能がまずは上位モデルでデビューし、1年後に標準モデルに「降りてくる」パターンが多かった。米大手日刊紙のUSAトゥデイは、「興味深いことに、最もインパクトのある変更のいくつかは、iPhone 15の全モデルで利用可能だ」とも述べ、標準モデルのiPhone 15でも充電やカメラなどの新たな機能の恩恵にあずかることができると強調している。
ほか、iPhone 15シリーズは、より長く使い続けられるように改善されている。標準モデルが欲しい人はもちろんのこと、高額な上位ラインナップをねらっている人にとっても、買い換えの好機となりそうだ。
■独自のLightning端子からType-Cへの移行
大きな注目を集めたのは独自規格・Lightning端子の変更だ。iPhone 15シリーズの全モデルで廃止され、新たに共通規格のType-Cを搭載した。
2024年からEUで販売されるすべての携帯電話にType-C端子の搭載を義務付ける、EUの新しい規制に準拠した。対応期限が迫るなか、Appleとしても標準モデルを含め一挙に対応せざるを得なかった事情がある。
Lightning端子からType-Cへの移行をめぐっては、昨年からこの話題が盛りあがっていた。Appleのワールドワイド・マーケティング担当副社長のグレッグ・ジョスウィック氏は昨年10月、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙によるテック・ライブに登壇。Type-Cへの移行を迫るEU規制に準拠できるかと問いかける同紙テック担当のジョアンナ・スターン記者に対し、「私だってちょっとは譲歩できるかもしれませんよ」とユーモラスな口調で対応をほのめかした。
直球での回答を避けながらのおどけたニュアンスに会場が沸くと、センシティブな質問への対応を緊張した面持ちで見守っていたソフトウェアエンジニアリング担当副社長のクレイグ・フェデリギ氏も顔をほころばせた。
■iPhoneと周辺機器に11年間も使われてきたが…
ジョスウィック氏は続けて、規制はとくに邪険に思っていないとしながらも、EUのこれまでの対応をチクリと非難。(Lightningが登場した)10年前には、Micro-USBに移行するようEUが圧力を掛けてきていたという。
ジョスウィック氏は、今となってはMicro-USBへの移行など話題にも上らないと指摘。そうしたなかでAppleとしては、当時としてはさまざまなタイプのUSB規格が乱立するなか、可能な限り自社製品の規格をLightning1本に統一してきたと説明。無用なケーブルの削減に貢献してきたとの立場を示した。
Apple関連ニュースを報じる米9to5Macは、Lightningの登場が2012年9月のアップルイベントに遡ると振り返っている。ステージに上ったワールドワイド・マーケティング担当副社長(当時)のフィル・シラー氏は、「今後10年間使われるモダンなコネクター」として披露。Lightningは公約を果たし、実に11年間iPhoneと周辺機器の統一規格であり続けた。
■iPhone 15からほかの機器へと給電が可能に
なお、iPhone 15シリーズでは、iPhone本体をモバイルバッテリーとして使うことが可能になった。iPhone側のType-C端子に、Type-C to Lightningケーブルを差し込むことで、iPhoneからほかの機器へと給電する。
イギリスのテック系著名YouTuberであるMrwhosetheboss氏(登録者1640万人)が動画で実演しているように、たとえば自分のAirPodsや友人のiPhone 14以前がバッテリー不足の場合、電力を分けてあげることが可能だ。また、Type-C to Type-CでiPhone 15シリーズ同士を接続した場合、互いのバッテリー残量を自動で比較し、多い方から少ない方へと給電する。
■まるで一眼レフのボケ感…全モデル共通で4800万画素に
端子のほか大きな改善として、iPhone 15ではカメラの性能が全モデルで向上している。Appleによると、iPhone 14およびiPhone 14 Plusではメインカメラのセンサーが1200万画素だったところ、iPhone 15では全モデル共通で4800万画素となった。
単純に画素数だけで画質が決まるわけではないが、ひとつの数字としては標準モデルでも上位のiPhone 15 ProおよびPro Maxとまったく同一となる。センサーの画素数は、写真の精細感に影響する。画素数が向上したことで、布地の質感や肌のキメまでを、より繊細に捉えることが可能だ。
写真関連では、進化した「ポートレートモード」も全モデルに一挙に導入された。同モードは人物の写真を撮る際に背景を美しくぼかし、まるで一眼レフで撮影したかのような被写界深度効果を追加してメインの人物を引き立てる。
これまでは手動でモードを選択しなければ効果を発揮せず、せっかくの活用の機会にも存在を忘れがちだった。新しいポートレートモードはシーンを認識して自動でボケを加えるほか、背景ボケだけでなく前景ボケに対応し、より自然な表現が可能となった。
■ピント外れの写真に二度と悩むことはない
また、撮影後であっても、写真の任意の箇所をタップすることで、焦点の合うポイントを変更することが新たに可能となっている。Appleの発表イベントでは、すでに撮影が済んでいる写真のフォーカスを自在に変更する様子が披露された。写真に写る2人の人物のうち、手前の人物の顔をタップすれば手前に、奥の人物をタップすれば奥にと、焦点のあうポイントが変更される。
大切なシーンのピントがずれていたと、後日になって悔やむことは減りそうだ。このような特殊な操作は、従来であれば、専用のレンズを内蔵した特別なカメラでないと実現が難しかった。本機能はiOS 16以降を搭載したiPhone 13以降の機種にも遡って提供されるが、とくにそれ以前を利用しているユーザーにとっては、買い換えの大きな誘因となるだろう。
■「古いスマホを持っている人々にとって堅実なアップグレード」
標準モデルではこのほか、iPhone 14で上位モデルにのみ搭載されていた「ダイナミックアイランド」に対応した。画面上端の切り欠き(ノッチ)を廃止し、情報表示用の領域と統合することで、違和感を軽減する。チップは昨年のProモデルで採用されていたA16 Bionicチップに強化され、カメラのズームも光学1倍から2倍へ進化した。
標準モデルならではの利点もある。「カラーインフューズドガラス」による鮮やかなボディカラーは、彩色の難しいチタンを採用した上位モデルにはない、軽やかな印象を与える。重量はiPhone 15で171g、Plusで201gとなっており、Pro Maxの221gと比較して最大で2割以上軽量だ。
近年の新作iPhoneの例に漏れず、外観こそ革新的な変化はないものの、標準モデルであっても細かな改良が積み重なっている。USAトゥデイ紙は、「古い携帯を持っている人々にとって堅実なアップグレード」になると勧めている。
■さっそく乗り換えたCNN記者
一方、上位モデルのProやPro Maxの人気も高い。米CNNのヘンリー・ケイシー記者は、iPhone 12 Pro Max からiPhone 15 Pro Maxに乗り換えた。799ドル(日本価格12万4800円)の標準モデルに対し、1199ドル(同18万9800円)と1.5倍ほどの高値だが、決断の理由は複数あるという。その一つが重量だ。
iPhone 15 ProおよびPro Maxの筐体フレームには、iPhone X以来のステンレススチールに代わり、軽くて丈夫なチタンを新たに採用した。iPhone 14 Pro Maxの240gから、2割弱軽量化し221gとなっている。わずか19gの変化だが、ケイシー記者によると、「試してみた私の知り合いは皆、チタン製にすることでiPhoneが明らかに軽くなったと言っている」ほど変化を実感できるという。
素材の高級感も見事だ。CNNのマイク・アンドロニコ記者は、「すぐにその違いに気づいた」と述べている。「マットなブラッシュメタルの素材、カーブしたエッジ、そして軽量化されたiPhone 15 Proは、シンプルに言って持ったときの感触が良い」と驚く。
■ProよりもPro Max…追加で200ドル出す価値はある
ケイシー記者がProではなくPro Maxを選んだ決め手は、バッテリーだった。筐体の大きなPro Maxは、より大型のバッテリーを搭載している。Appleが公開しているビデオ再生時のバッテリー持続時間は、iPhone 15(20時間)、iPhone 15 Pro(23時間)、iPhone 15 Plus(26時間)、iPhone 15 Pro Max(29時間)の順に大きくなる。ケイシー記者は、「ProよりもPro Maxを選ぶことで、バッテリー駆動時間が推定26%長くなるなら、それだけでもPro Maxに200ドル追加で出す価値がある」と私見を述べている。
上位モデルはまた、A16 Bionicよりも高速なA17 Proチップを搭載する。モバイルゲームを楽しみたい際に最適だ。カメラの世界では「常に身につけているカメラが最高のカメラである」との金言がある。重くて常時は持ち歩けない本格派カメラよりも、最高の瞬間をその場で切り取れるという意味では、iPhoneなどのカメラさえ時として本格カメラに勝るとの見方だ。
これと同じようなことがゲーム機にも当てはまるだろう。常に持ち歩くことのできるiPhoneは、見方によっては最高のゲーム機の仲間入りをしている。A17 Proは量産SoCチップとして初の3nmプロセスで製造され、A16 BionicよりもGPUコア数を1つ増やし、より写実的な描写を可能にするレイトレーシングにハードウェアレベルで対応している。複雑なゲームシーンでも滑らかな描画に没入でき、スペック面でも携帯機としては不足がない。
■素早くカメラを起動できるアクションボタン
上位モデルのiPhone 15 ProとPro Maxにはこのほか、標準モデルよりも1レベル上の機能を備える。カメラの起動など特定の動作を割り当てられる物理ボタンの「アクションボタン」、より高速なデータ転送を実現するUSB 3.0、3つ目のカメラレンズなどだ。標準モデルでは光学2倍ズームとなるのに対し、Proでは光学3倍(換算77mm)、Pro Maxでは光学5倍ズーム(換算120mm)を搭載する。
iPhone 15 Pro Maxを購入したというテクノロジー・ライターのクリス・ニコルズ氏は、カメラ関連ニュースサイトの米ペタピクセルに寄稿し、素早くカメラを起動できるアクションボタンとiPhone 15の高性能カメラの組み合わせに満足したと表明している。さらに、スクリーンが従来比2倍となる2000ニットの輝度を屋外で発揮することから、「カリフォルニアの明るい太陽の下でも構図を決めやすいと感じた」と語る。
■カメラの性能は抜群なのだが…
抜群のカメラ性能がユーザーを満足させている一方で、Appleが行っているiPhone 15 Proの説明には、消費者の誤解を招きかねない表現が混じっている。
Appleは9月13日の発表イベントで、「iPhone 15 Proは史上最高のカメラシステムを備えています。さらに優れた写真と動画を撮れるのです。ポケットのなかに、パワフルな新機能と7本のレンズ相当が入るのです」と説明している。問題は「7本のレンズ」の部分だ。
ウェブサイトでも、「iPhone 15 Proでは、複数の焦点距離を使い分けることができます。7種類のプロ用レンズをポケットに入れて、どこへでも持ち運べるような感覚です」と説明がある。別の公式動画でも「まるで7本のプロ用レンズがいつでも準備万端な状態です」とし、7つのレンズを強調している。
画面にはマクロレンズおよび13mm~120mmの焦点距離のレンズの図が表示され、あたかもiPhoneの3つのカメラホールの奥に7種のレンズが格納されており、随時切り替わるかのような印象だ。焦点距離の異なる独立したレンズを複数設けた場合、超広角から望遠までの異なる画角を、センサー全域をフルに使ったノイズの少ない美しい画像で撮影できるメリットがある。
■「7本のレンズ」は言い過ぎではないか
だが、実際にiPhone Proおよび同Pro Maxが搭載するのは、3種類のレンズのみだ。Appleが「7本」と呼んでいるレンズの残りは、センサーの中央付近領域のみを使うことで、本来より狭い画角を擬似的に再現している。いわば切り抜き処理であり、画質は劣化する。
もっとも、iPhone 15シリーズは「ピクセルビニング」と呼ばれる技術で4つの(最低限必要な数よりも余分な)画素を1つの画素として扱っているほか、画像処理技術のDeep Fusionを通じて解像感を向上するため、画質の劣化は単純な切り抜きと比較して最小限に抑えられるだろう。
それでも、従来のAppleは、AIで月のクレーターを描き加えて「100倍ズーム」を謳ったサムスンと比べ、カメラ性能について公正な表現を堅持してきた。iPhone 15では十分にアップデートされたカメラシステムを搭載しているだけに、「7本レンズ」という紛らわしい表現を使ったことは残念だ。
■買い替えを躊躇するのはもったいない
細かな難点を挙げたものの、総じてiPhone 15はいつものiPhoneのように、後悔しにくく安心して購入できるモデルだ。円安で手を出しにくい状況ではあるが、来年が円高に傾く保証はない。迷っているならば買ってしまうのもひとつの手だろう。
iPhone 15はまた、長く使えるモデルになっている。待望のType-Cに対応したことで、当面は規格の変更タイミングを気にすることなく、数年は愛用できるだろう。
上位モデルでは、万一の修理コストが安く済む可能性がある点も見逃せない。iPhone 15 ProとPro Maxでは、背面パネルを分離して修理しやすい構造に改善された。これにより、例えばiPhone 14 Proで7万5800円だった背面ガラスの修理料金は、iPhone 15 Proでは2万5900円と大幅に安価に設定されている。
使用に伴うバッテリーの経年劣化も軽減される可能性がある。米テックメディアのヴァージが報じたところによると、iPhone 15シリーズでは新たな「バッテリーの最適化」のオプションが提供される。
最大充電量をほぼ常時80%に制限することで、満充電に近い状態で傷みがちなバッテリーの損耗を最小限に抑える。このほか、ユーザーから要望が高かった充電サイクル数(これまでに合計100%相当の充電を何回分行ったか)の表示に対応した。
■長く使いやすいモデルになった
スマホの高額化にともない、買い換えサイクルは長期化傾向にある。米市場調査企業のCIRPが実施し、9to5Macが報じた調査によると、iPhoneユーザーのうち1年未満で買い換える人々はわずか8%、2年未満も28%と少数派だ。ユーザーの38%は2年以上3年未満で買い換え、3年以上使い続けるユーザーも26%いるという。なかには4年、5年と愛用する人々もいるだろう。
iPhone 15シリーズはカメラや素材など目を引く改良とともに、Type-C搭載やバッテリー対応などで今後長く使いやすいモデルになっている。手持ちのモデルが購入からしばらく経っているのであれば、今年のiPhone 15が乗り換えの好機かもしれない。
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フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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