「ちゃんと片付けなさい」では全然ダメ…子供が嬉々として後片付けを始める"グレイトな声かけ"
プレジデントオンライン / 2023年10月16日 19時15分
※本稿は、内田舞『REAPPRAISAL 最先端脳科学が導く不安や恐怖を和らげる方法』(実業之日本社)の一部を再編集したものです。
■嫌な気持ちと向き合い「再度、評価し直す」方法
感情をコントロールするのは簡単なことではありません。私もそれは皆さんと同じで、日々起きた出来事になんとなく嫌だなとモヤモヤしたり、不安なことがあるとそればかり考えつづけたり、その結果、パートナーや子どもにイライラとした感情をぶつけてしまいそうになることもあります。
しかし、失敗はつきものだけれど、そんなときこそなるべく私自身が研究している脳と心の科学の知識を活かして自分の感情を見つめ直し、新しい視点を取り入れ、行動を変えることを心がけています。
ネガティブな感情が収まりそうにないときはどうすればよいのか。感情のコントロールの仕方にはいろいろな方法があるのですが、私の一番好きな方法が「再評価」という手法です。
再評価は「嫌な気持ちの扱い方」とも言えるかもしれません。具体的には今抱いているネガティブな感情に対して、正直に自分自身と向き合って、「どうして今このように感じているのか」や、「その背景にある考え方や自分の経験とはどんなものなのか」、そして「その感情や考え方から起きている行動を変えることはできるだろうか」と感情が湧いた状況を「再度、評価し直す」方法です。
モヤモヤ、イライラ、怒り、嫉妬、落ち込みといった感情はすべて自然な感情でありながら、溜まりすぎるとストレスとなって心身の不調につながる上に、感情的になりすぎると周囲の人との関係を破壊しかねません。
だからといって表面だけ無理やりポジティブに変えようとするのは、むしろ精神衛生においては逆効果になります。
■水をこぼした息子と一緒に「感情」「考え」「行動」を分析
ここで私自身が日常生活を通して実践した再評価の例をご紹介します。
再評価を実践する上で、私の日常生活の中ではなんといっても「子育て」というのは、親にとっても子どもにとってもいい学びの場になると実感しています。
これは、長男が3歳だった頃の話です。ある日私が仕事から帰宅したとき、息子は私に保育園で取り組んだ工作作品を見てほしかったようです。
でも、私は帰宅後やらなければならないことがあって、すぐに見てあげられず、息子は自分を最優先に扱ってくれないことに怒って、わざとコップの水を絨毯にこぼしました。
ここで余裕がないときであれば「なぜそんなことをするの!」と水をこぼした行いを注意していたと思います。
でも、そのときの私は息子を抱き上げて「今何が起きたか一緒に考えてみよう」と言いました。怒りという感情に任せるのではなく、息子と一緒に「今の状況を再評価してみよう」と試みたのです。
私は再評価をする際には、その状況に対して抱く「感情」、感情の元になっている「考え」、そしてその結果生じる「行動」に分けて分析するようにしています。
息子の気持ちを聞くと「(ママが見てくれないから)悲しかったし、怒りたくなった」と言いました。これはそのとき湧いた感情だとわかります。
さらに「どうして悲しかったの?」と聞くと「ママにとって自分は一番大切なものではないと考えたから」(考え)と答え、「だから水をこぼした」(行動)と話してくれました。
私は「ごめんね」と言った後、すぐに見てあげられなかった理由を説明しました。そして、息子の怒りや悲しみの感情に理解を示しながらも、息子の「考え」の部分は間違っていると伝えました。
「ママが帰ってきてから一番に対応しないからといって、あなたが大切じゃないということではないよ。どうしても一番にできなくても、順番が変わっても、ママにとってあなたは一番大切なもので変わらないよ。だから一緒に水を拭こう」と伝えました。
■感情に先導されず、一番大切なメッセージを伝える
一緒に水を拭く息子は心なしか、少し幸せそうな顔つきをしていました。
ここでは、息子の怒りや悲しみという感情につながった「考え」を訂正したことで、息子の「感情」と「行動」をポジティブな方向に変えることができたのです。
「忙しいのに、あなたは困らせてばかり!」などと私自身の感情に先導される形で叱っていたら、子どもがどんな気持ちだったのかを知ることはできなかったでしょう。
あるいは、もし私が息子の「ママにとって自分は一番大切なものではないと考えた」という言葉に反応して、私自身が悲しみや罪悪感で支配されてしまっていたら、一番伝えるべきメッセージの「ママにとってあなたは一番大切なもの」という思いも、うまく伝えられなかったかもしれません。
子どもの思いを聞き、コミュニケーションの中に再評価を取り入れることで、私自身も感情的にならずに、お互いがハッピーな気持ちで一日を終えることができました。
自分が大人になり、自分や他人のさまざまな感情を認識するようになると、感情が生まれる心理的・脳神経科学的な背景などを子どもの頃に学校などで学べていたらよかったのにとつくづく思います。
それゆえ、私は機会があるごとに子どもたちには感情やそのコントロールについてサジェスチョンするようにしており、私自身の再評価の過程をシェアすることも心がけています。
■「考え」を再評価することで自然と怒りの「感情」も収まる
再評価を研究に取り入れてから、私自身が日常的に意識して再評価を行うようになりました。イライラしているとき、怒りが収まらないときこそ「再評価、再評価」と自分に言い聞かせます。
自分の嫌な気持ちに向き合いつつ、違う視点を持てないか考え直し、ポジティブな考えを取り入れる練習を積み重ねていくと、案外うまく気持ちの切り替えができ、ネガティブな感情に素早く対処できることも増えてきました。
うまくいくことばかりではないですが、失敗も練習のうちと思い、繰り返し試みています。
私がどんなふうに再評価を取り入れているのか、もう一例ご紹介しましょう。
あるとき、子どもたちが発泡スチロールを使って工作をしていて、部屋中にバラバラになった発泡スチロールが散らばっていたことがありました。
私は「ちゃんと片付けなさい」と言ったのですが、遊びに夢中になっている子どもたちは片付けようとしません。
何度言っても一向に片付けないので、私のイライラは沸点に達しました。「子どもたちは私に敬意を持っていない」と考えだしました。子育て中の方にとっては、誰もが経験のある日常の風景ではないでしょうか。通常ならここで怒りに任せて子どもたちを叱ってしまいそうな場面です。
しかし、私はそこで立ち止まって、「自分のイライラを再評価してみよう」と思い、「感情」「考え」「行動」の順番に分けて再評価してみました。そこでまずは「今、私はこの気持ちを感じる必要があるのかな」と、自分に問いかけました。
すると「子どもたちが私の言うことを聞かないのは、本当に私に敬意がないからなのか? 単に遊んでいるのが楽しくてやめられないから、そして片付けが面倒くさいからであって、私に敬意を持っていないわけではない」と考え直すことができました。
「考え」を再評価することで自然と怒りの「感情」も収まっていき、怒鳴りそうだったにもかかわらず、その「行動」も変えることができました。
怒りの感情が収まると状況を冷静に整理することができるようになり、今必要なことは何が見えてきました。私の目的は「子どもたちに私の言うことを聞かせること」でも、「敬意を示させること」でもなく、そう、「部屋を片付けさせること」だったのです!
■人間は練習することで再評価がうまくなる
どうしたら「部屋を片付けさせる」という目的を達成できるかに意識を向けました。そこで私は子どもたちに「今から片付け競争を始めますよ。部屋の半分はママ、こっち半分はみんなで片付けて」と伝えました。
「どっちが早いか競争! よーいドン!」と言って私が片付け始めると子どもたちもすぐに取りかかってくれ、10分ぐらいで片付けが終わりました。
子どもたちもきれいになった部屋を見て「こんなにきれいになって気持ちいいね!」と笑顔で言い、達成感を得ているようでした。
あのとき、もし怒りを抑えられず、子どもたちを叱りつづけてしまったら、家の中は険悪な雰囲気に包まれ、子どもたちだけでなく私にとっても後味の悪いものになったことでしょう。
また、もし私の目的が「子どもたちに私への敬意を持たせること」にすりかわってしまっていたら、私が怒鳴って子どもたちに強制的に言うことを聞かせることで、その目的を達成していたでしょうか? 答えは言うまでもありません。
こんなふうにいつもすんなり解決というわけにはいきませんが、再評価によって自分の感情や状況を捉え直すことで、ポジティブな気持ち、そしてよいアウトカムに変えていくことは可能なのです。
加えて、うまくいった例を振り返って、「自分がこう考えることで自分の気分のコントロールができた」と気づいたり、あるいはうまくいかなかった例を振り返って、「ここで再評価するんだったな」と反省したりするといいでしょう。
人によって脳機能に生物学的な差異はあるとしても、人間は自分の思考を使って前頭前野を活性化させ、よりうまく「考える」脳部位である前頭前野と「感じる」脳部位の扁桃(へんとう)体の連携を鍛えることができますし、こういったことの反復で少しずつ再評価がうまくできるようになっていくということは私自身が実感しています。
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小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授
マサチューセッツ総合病院小児うつ病センター長。北海道大学医学部卒。イェール大学精神科研修修了、ハーバード大学・マサチューセッツ総合病院小児精神科研修修了。日本の医学部在学中に米国医師国家試験に合格・研修医として採用され、日本の医学部卒業者として史上最年少の米国臨床医となった。
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(小児精神科医、ハーバード大学医学部准教授 内田 舞)
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