「なんで子どもが欲しくなかったの?」上島竜兵さんを失った妻が抱く「本音をぶつけるべきだった」という後悔
プレジデントオンライン / 2023年10月17日 13時15分
※本稿は、上島光『竜ちゃんのばかやろう』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■夫婦揃って手続全般が苦手だった
結婚して28年間、我が家は、ふたりとも、手続き関係は苦手でした。
仕方ないので、どちらかと言えば、まだましな私の方が、手続き全般を一手に引き受けていました。
竜ちゃんがやることといえば、例えば書類関係なら、ほぼ、本人が書かなくてはならない署名のところだけでした。でも、飲み歩いてまともに帰らないことが日常的に続いていたので、署名をもらうのも簡単ではありません。
経験を積むうちに、そんなときは、数日前から署名をして欲しいと予告しておくことにしたのです。
起き抜けに書いてもらうのですが、「朝からごめんねー、すぐ終わるからね」とご機嫌を損ねないように気を遣っていました。
ご機嫌を損ねたら仕事にも差し障るので、「はいよー」と機嫌よくサインがもらえたときには、心底ホッとしたものです。
竜ちゃんが旅立ったあとも、煩雑な手続きが次から次へと襲ってきました。
それは、体力的にも精神的にも追い詰められた私にとって、逃げ出したいほどの大きな負担となりました。
■葬儀会社からもらった手順一式をいつも持ち歩いていた
手続きには、葬儀会社さんから頂いた、葬儀前後のあれこれが書いてある厚みのあるファイルがとても役に立ちました。どこの葬儀会社でもこういったものがあるのかはわかりませんが、葬儀の手順から葬儀後の手続きまでがわかりやすく書かれていて、いつも持ち歩いて何度も読み返しました。
そのファイルによると、葬儀後はまずは「役所の手続き」ということでした。
区役所に行き、世帯主である配偶者が亡くなった旨などを伝え、窓口の人の言うとおりに行った手続きは、30分ほどで終わりました。
ずいぶんと早く終わったと安堵(あんど)して帰宅しましたが、うっかり抜け落ちていた手続きがあり、その後も何度か区役所に行くことになりました。
■芸能人はニュースで逝去が報じられると口座が凍結される
次は「年金の手続き」。これも厄介でした。年金事務所に行くと、待っている人がいなかったのでスムーズに手続きができると思ったのですが、現実はそう甘くありませんでした。
コロナ禍のために、予約なしでは手続きができず、数週間先でないと予約が取れないというのです。見た目はガラガラなのに手続きができないとは、ずいぶん変なシステムだと思いながら、3週間先の予約をして出直すことにしました。
続いては、「銀行関係」です。ここでも想定外のことが待っていました。
人が亡くなると銀行に連絡することによって、故人の銀行口座が凍結され、使えなくなることは知っていました。ところが、芸能人や著名人の場合は、ニュースなどで逝去が報道されると、すぐに口座が凍結されてしまうのです。
竜ちゃんの場合もそうでした。窮地を救ってくれたのは、メインバンクの担当者からの電話でした。
葬儀費用などすぐに必要なお金があれば、おろせるということを教えてもらい、口座凍結も銀行に出向くことなく手続きができ、このあと相続で使う必要書類等もすぐに送って頂くことができました。その1度の電話のみで済み、だいぶ時間の節約にもなり、助けられた思いがしました。
■家族カードも使用できなくなって支払いに追われた
さらに必要なのは、「カード会社」への連絡です。
我が家でメインに使っていたクレジットカードは竜ちゃんが本会員で、私は家族会員でしたので、紐づけされていた私のクレジットカードとETCカードも使用できなくなりました。
カード会社にはまだ連絡していませんでしたが、竜ちゃんが亡くなってから、忙しさに追われて、自分の家族カードも使えなくなることを考える余裕がありませんでした。
電気、ガス、水道代の公共料金などはクレジットカード払いに設定しているものも多かったので、契約者の名義変更と支払い方法の変更を行い、口座凍結で引き落としできなかった代金は、コンビニで支払いました。
そのため、何かしらの支払い用紙が毎日のように届き、「また支払わなきゃいけないのか……」と嫌になりそうでした。
忘れないうちに支払うというのを繰り返しているうちに、今、何のお金を支払っているのか、よくわからないようなときもありました。
クレジットカードは、ほかにデパートの外商部の家族カードがあり、そのカードも使用できなくなりました。デパートからすれば、頻繁に買い物をしていたわけではないので全然お得意様でもなんでもないのですが、「一家の主がいなくなると、残された者はただのオマケで、信用もなく、世間から放り出されてしまうのか……」と、少し寂しく感じたことを覚えてます。
■携帯ショップの偶然の出会いで気合を入れ直す
また、竜ちゃんの「携帯電話の解約」と、私が使用している携帯も竜ちゃんの名義になっていましたので、名義と支払い方法を変更しなくてはなりませんでした。
これまで携帯を機種変更する際には、毎回2時間くらいかかっていたので、携帯ショップに行くことがストレスになり、竜ちゃんから携帯を買い替えたいと言われていたのに機種変更を先延ばしにしていたくらいでした。
ネットで予約した日時に、必要書類を持って携帯ショップに行ったところ、担当してくれた方が付けている名札が、ふと目に留まりました。
名札には、「鬼海」さんと書いてあります。なんと読むのか、「おにうみ」なのか、「おにかい」、もしくは「きかい」なのでしょうか。私にとっては、初めて目にする苗字で、これから自分が行く末を示しているかのように思いました。
「そうか、私はこれからひとりで、鬼のいる海さえも渡らないといけないのだな」
その方には申し訳ないのですが、その瞬間、脳裏に浮かんだのは、真っ暗な海の上、荒波の中におっかない顔の大きな鬼が私の乗った船を掴んで、大きく揺らしている光景でした。
「なにくそ、鬼のいる海になんて落ちないぞ。家族カードを取り上げられたことなんて取るに足らないこと。なんだったら実家にはお供の犬だっているじゃないか」
愛犬のモモのことを思い出し、「桃太郎」のように勇敢に前に進もうと、自分で自分を励ましました。
■「家族をひとり失うと、こんなに大変なのか」
さまざまな手続きはかなり手間もかかり、家族をひとり失うと、こんなに大変なのかと驚くことばかりでした。
その一つひとつに対応するごとに、途方に暮れる思いがしましたが、現実と向き合っていかなくてはならないことを痛感しました。
過ぎ去った日々を取り戻すことなんてできません。これからはひとりで、鬼のいる海も渡っていかなくてはならない。もう竜ちゃんはいないのだから……。
その覚悟を持たなくてはならないと、自分に何度も言い聞かせました。
■「せめて子どもがいれば……」相続で感じた後悔
家族と永遠の別れをした人にとって、頭の痛い問題のひとつが、「遺産相続」です。
わが家の場合、子どもはいなかったので、今、これを読んでいる読者の方の多くが「残したお金などの財産は100%、奥さんのものになるのだろう」と思うのではないでしょうか。
実は、子どもがいない夫婦のどちらかが欠けた場合、法律では、配偶者がすべてを相続できるわけではないのです。
故人と血縁のある親族(親や兄弟姉妹)がいる場合は、そちらにも相続権があると法律に定められています。
例えば、故人に父母がいる場合は遺産の3分の1を父母が相続し、配偶者は残りの3分の2を相続することになります。故人に父母がいない場合は、遺産の4分の1を故人の兄弟姉妹が相続し、配偶者は4分の3を相続することになります。
こう書くと、かなりため込んでいたのではないかと誤解されそうですが、実は恥ずかしいほどの貯金しかなく、すぐに生活に困るわけではありませんでしたが、竜ちゃんが遺してくれた貯金でずっと生きていくことなど不可能でした。
だから、法律で決まっているとは言っても、まだ健在な義母に幾ばくかの遺産を渡すことは、正直言って大きな経済的負担でした。
生きている間に万が一のことを考えて、遺言書を書いておけば、その意思を反映することができます。
ただ、遺言書がある場合も、最低限の遺産の取り分である「遺留分」は渡さなくてはなりません。
せめて子どもがいれば……と、後悔しました。子どもがいれば竜ちゃんの遺産を、子どもと私がすべて相続できたからです。
■何度「書いて」と言っても書いてくれなかった遺言書
でも結婚直後、竜ちゃんから、「子どもはいらない、作らない」と宣言されていました。私としては、そういう大事なことは結婚する前に言ってほしかったのですが、子どもの話になるたび、竜ちゃんは「作らない」と、いつも頑なに言い切って、まったく考えようとしないのです。
「子どもを作らないのだったら、きちんと遺言書を書いてよね。私のほうが10歳年下だから、あとで私のほうが残る可能性が高いんだから」と、繰り返し伝えてきました。
![遺言書](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/b/1200wm/img_5b54e53c73ec4e7bbcfad7a80980e6f1405277.jpg)
いつも竜ちゃんは、「自分の財産は全部、ヒーチャンに渡したい」と言っていましたが、口頭ではなく、遺言書という形にしないと、法的に認めてもらえないことは誰もが知っていることです。
だからこそ、しつこいくらいに遺言書を書いてほしいとお願いしてきたのですが、結局は書いてくれませんでした。
相続については専門の知識が必要なので、弁護士さんに依頼して、きちんと法律に則って遺産分割を行いました。
結果的に96歳の義理のお母さんも、希望どおり相続でき、竜ちゃんの最後の親孝行となって、よかったかなと思っています。
■なぜ子どもはいらないのか、話し合ったことはなかった
それにしても、なぜ竜ちゃんが「子どもを作らない」と言っていたのか、これという理由を挙げていたわけでもないので、今となってはさっぱりわかりません。
竜ちゃんの知り合いと食事をしたとき、急に何の脈絡もなく、「上島家はどっちが子どもはいらないと言うんですか?」と聞かれて、びっくりしたことがありました。
すぐに竜ちゃんが、「ヒーチャンだよね?」と言ったので、私が怒って険悪なムードになり、帰宅した途端、大喧嘩になってしまったのです。
「子どもを作らないと言ったのは、竜ちゃんだよね?」と、問い詰めましたが、竜ちゃんの「子どもを作らない」という方針は、このときも変わりませんでした。
竜ちゃんが頑なに子どもを持ちたがらなかった理由とは、何だったのでしょうか。その理由について、竜ちゃんと真剣に話し合ったことはありません。
毎日忙しくてなかなか機会がなかったのもありますが、夫婦の重要な課題は、本当はお互いのホンネをぶつけ合って、理解しておくべきだったと思います。
でも、竜ちゃんの仕事が順調で機嫌よく生活できたら、もうそれ以上のことを欲しがるのは、違うのではないかと思い、何でもかんでも手に入れることを望むことは止めようと自分に言い聞かせていました。
■人一倍傷つきやすくて繊細な人だった
今回、本を書くにあたって改めて、子どもを作らないと言っていた理由を竜ちゃんの親友に尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。
![上島光『竜ちゃんのばかやろう』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/e/1200wm/img_4eda895aa1b44b973d0b36115bdedeca349213.jpg)
「竜ちゃんは不安症だったのかもしれない。『俺、大丈夫かな。面白いのかな? これから仕事はあるのかな?』と、しょっちゅう疑問を投げかけていたね。根本は真面目なので、ずっと不安を抱えていて、それで子どもを欲しがらなかったんだと思う。竜ちゃんは飲んだら将来への不安を語り、最後はいつも泣いていたから」
確かに、竜ちゃんは私の前でも、不安を語っては泣いていました。
人一倍傷つきやすく、繊細な人でしたので、私は日頃話す言葉にも気を付けて、ネガティブな言葉は口にしないようにしていましたが、仕事で縁起の悪い言葉を投げかけられたことも多々あったようで、酷く疲れたように帰宅した顔を思い出すと胸が締め付けられます。
竜ちゃんが四六時中、抱えていた漠然とした不安が、「子どもを作らない」という発言に繫がっていったのかもしれません。
■おりると思った生命保険が…把握していなかった新規契約
また、相続の問題だけでなく、専門知識が足りずに苦心したのは、「生命保険」も同じでした。保険に入る際、保険会社の人から説明を受けて署名はしたものの、約款を読むどころか、どんな内容の保険に入っているのか、きちんと把握していませんでした。
もちろんそれは、私のケアレスミスでもあります。
生命保険がおりるはず……と思って連絡したところ、これまで加入していた保険を1年半前にいったん解約し、同時に新規で同様の契約をしていたことを説明されました。
保険の契約条項などをまとめた約款には、加入してから2年間は、竜ちゃんの亡くなり方の場合には保険金を支払わないという免責条項が記載されていました。
「そんなバカな……」
その事実を把握していなかったため、愕然としてしまったのです。
私は生命保険会社の人が言うとおりに署名はしましたが、保険を解約して新たに契約した認識はなく、10年以上前に加入してから、ずっと継続していると思っていたからです。
保険会社の人と話し合いを続ける中で、免責期間でも、鬱病などの精神障害だったと認められる場合は、保険金が支払われるという説明を受けました。
竜ちゃんには、鬱病と思われる症状がありましたが、病院で診断書をもらったわけではありません。
ただ亡くなる直前の状況から鬱と推定しうると証明できるか、保険会社の専門部署が調査して判断してくれることになり、実はまだ話し合いの最中で結論は出ていません。
保険会社の人は丁寧に説明をして、できる限りの力を尽くそうと誠意を見せてくださっています。本が出る頃には解決していてほしいと願っています。
■唯一良かったのは、把握していない財産がなかったこと
多岐にわたる手続きに追われて大変でしたが、唯一、良かったことは、竜ちゃんに私の把握していない通帳や貸金庫、株、会員権などがなかったことです。
それらを持っている故人の遺族は、所有している資産の存在や暗証番号が不明なために、財産調査に大変な労力を費やすと聞きますので、そこについては幸いでした。
インターネットにも消極的で、LINEをはじめSNSをやらない人でしたから、デジタル遺産に手を焼くこともありませんでした。
これを読んでいる皆さんには、私の経験を生かしていただくためにも、万が一の場合に備えて、遺言の重要性やどんな保険に入っているのかを、理解しておくことをおススメします。
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タレント
1970年10月6日生まれ。高校時代から芸能界を志し、88年にフジテレビ系「発表!日本ものまね大賞」で優勝し、芸能界入り。94年に上島竜兵さんと結婚し、結婚後は一時、主婦業に専念するが、その後、ものまね番組や情報番組のリポーター等で活動。芸名は広川ひかる。
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(タレント 上島 光)
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