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小3算数「1列14人でAの前に7人。後ろに何人?」大人にはわからない3年生の7割が誤答する理由

プレジデントオンライン / 2023年10月17日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Issaurinko

「なぜ、うちの子は文章題だと解けないのか」。計算問題は大丈夫なのに、文章題だとわからない、間違えてしまうという子は多い。慶應義塾大学教授の今井むつみさんは「子供がつまずくのには原因がある。うちの子は苦手だからと決めつける前に、まずは、子供なりの理屈を知ることから始めるといい」という――。(前編/全2回)

※本稿は、『プレジデントFamily 算数が大得意になる 2023完全保存版』(プレジデントムック)の一部を再編集したものです。

■「65の前の数は?」と聞かれ「66」と答える子の心理

計算はできるのに文章題だと間違えてしまうという子がいます。それは当然で、文章題を解くには、計算問題で求められる力とは別な力が必要なのです。それは、「言葉の力」と「考える力」です。

まずは「言葉の力」。文章題を読み解くためには、言葉を知っているだけではなく、その言葉をさまざまな場面や文脈で十分に使いこなせる「生きた知識」として身につけていることが必要となります。

たとえば「太郎さんの前に5人」「10日後」などと使われる「前」「後ろ」という言葉。当たり前のように使っているかもしれませんが、実は難しいのです。

「65の前の数は?」と聞かれ「66」と答える子もいます。その子は数が大きいほうを向いて「前」ととらえていたのかもしれません。大人だって、「前向き駐車してください」と書かれていても、壁に向いていたり通路に向いていたりしますよね。「進行方向に前向きということだな」などと、書いた人の基準を推測する必要があるのです。「右」「左」などの言葉も同じです。

算数の文章題には、こういった「時間」や「空間」を表す言葉が多く使われます。慣れていない子供にとっては、言葉の示す意味を読み解くことも難しいのです。

もう一つは「考える力」です。文章題を解くために必要な考える力にはいろいろな能力がかかわりますが(文末参照)、なかでも核となるのは「推論」をする力です。

関係性を見つけて見当をつけたり、共通するパターンを新しい状況に応用したりするための能力です。

たとえば「りんごが6つあります。妹に2つあげたらのこりはいくつですか」という問題。正しく立式するためには、「全部で6つ。そのうちの2つを妹にあげたのだから、のこりは『全体』から『あげた数』を引けばよい」と推論することが必要なのです。

また、文章題だと間違えるやっかいな理由は、子供一人一人が、これまでの経験から素朴な思い込み(専門的にはスキーマといいます)を習得しているということです。

わかりやすい例は、「数はモノを数えるためのもの」というスキーマです。「数」には、モノを数えるほかに、割合を示すという意味があります。ところが小学校低学年までは、りんごを数えるなどもっぱら前者を扱います。

分数を学び始めたときに、2分の1より3分の1のほうが大きいと間違えるのは、「数はモノを数えるためのもの→数が大きくなると量が増える」というスキーマを持っているから、分母の数字が増えると量が増えると思ってしまうのです。

分数・小数や割合が難しいのは、それまで築いてきた「モノを数える」数の役割とは違う概念が入ってくるからなのです。

このように、子供の間違いには原因があり、その子なりの理屈があります。

次のページからは、具体的な問題を示しながら、なぜ文章題を間違えるのかを説明します。

■誤答率7割「1列14人でAの前に7人。後ろに何人?」

例題1
子どもが14人、1れつにならんでいます。
ことねさんの前に7人います。
ことねさんの後ろには、何人いますか。

▼誤答例
式 14−7=7
答え 7人

▼正解(3年生の正答率 28.1%)
式 14−7−1=6
答え 6人

1列に並ぶ、14人の子供たち
写真=iStock.com/.
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/.

■「問題文にある数字を使えば解ける」という思い込み

この「列の並び順問題」は小学1年生の教科書で習うものですが、算数教師の間でも、子供がつまずきやすい問題として有名です。

間違える子の多くが7人と答えますが、それには理由があるのです。

間違える原因の一つ目は、問題文を正しく読まず(あるいは読むことができずに)出てくる数字を使って思いついた計算をしてしまっているということ。

前ページで説明したように、子供は、それまでの経験から素朴な思い込み=スキーマを持っています。この間違いをする子は、たとえば次のようなスキーマを持っていることが考えられます。

「問題文に出てくる数字で計算すれば文章題は解けるはずだ」
「答えが小さくなりそうなときはひき算をすればいい」

その思い込みのルールの通りに、14-7=7と計算してしまうのです。

それでも、見直しをすればあるいは間違いに気がついたかもしれませんが、自分の答えを客観的に見るためのメタ認知能力(文末参照)が十分に育っていないのでしょう。

正解するためには、「全体の14人から前にいる7人を引いた数には、ことねさんが含まれるので、さらに1人を引く」と筋道を追って類推する必要があります。問題文にはない「1」という数字を導き出して計算することが必要ですが、それはとても高度なことなのです。

■「前」「後ろ」という言葉が身についていない

この問題が難しいもう一つの理由は、多くの子は、「前」「後ろ」という言葉が生きた知識になっていないことです。

この例題では、全部で14人いる→ことねさんの「前」に7人いる→ことねさん(1人)がいる→ことねさんより「後ろ」には何人いるか

という関係がイメージできなくてはなりません。

日常生活のなかでも、前・後ろ、右・左などの言葉を多く使うことが、生きた知識とするために有効です。そのときに「誰の右かな」「どっちが前かな」などと方向や基準点を意識させるようにするのもいいでしょう。

(後編では、間違いやすい文章題その2、3を紹介します。関連記事:後編 小6の43%が誤答「8人に4Lのジュースを等しく分けると1人何リットル?」迷いなく8÷4と立式する子への教え方)

■「3+5=□」はできても「3+□=8」ができない理由

文章題を解くために必要な力① 言葉の力

たとえば、「足す」が「生きた知識」になっているとは、数と数を合わせることだと定義を知っているだけでなく、たし算とひき算がどういう関係にあるのかといった理屈・関係性も理解していること。「3+5=□」はできても「3+□=8」だと答えられないのは、生きた知識となっていないから。教えられた通りならできるが、問題の形式が少しでも変わると答えることができない。

スキーマとは

スキーマとは、生活や学習の経験のなかで培ってきた、枠組みとなる知識のこと。誤ったスキーマが文章題を解くときに邪魔となる。以下は算数に関する誤ったスキーマの例。

「数はモノを数えるためのもの」→割合を示す数がある
「すべての数は自然数だ」→小数や分数がある
「数が増えるときはかけ算を使う。減るときはわり算を使う」→小数、分数の計算では違う
文章題を解くために必要な力② 考える力

5つの能力が必要となる。

『プレジデントFamily 算数が大得意になる 2023完全保存版』(プレジデントムック)
『プレジデントFamily 算数が大得意になる 2023完全保存版』(プレジデントムック)

▼推論

関係性を見つけて見当をつけたり、共通するパターンを新しい状況に応用したりする能力。論理的に筋道を立てて思考する力。文章題を解くうえで核となる。

▼実行機能

必要な情報にのみ注意を向けること。また、文脈に合わせて柔軟に注意をシフトできること。この力が弱いと、前の問題でかけ算を使うと引きずられて次もかけ算を使ってしまうことも。

▼作業記憶能力

情報を頭のなかに保持する。計算のときは、数字を覚えておき(短期記憶)、すでに習った演算方法(長期記憶)に照らし合わせて操作をする。

▼視点変更能力

自分中心ではなく、他者の視点でものごとを見ることができる力。算数の文章題では、時間や空間などを扱うときに重要となる。

▼メタ認知能力

自分の行動や知識の状態を客観的に認知する力。ありえない答えになったときに、本当にそれが正しいかを考えることができる。

教える人 今井むつみさん
慶應義塾大学環境情報学部教授。著書に『親子で育てる ことば力と思考力』『ことばの発達の謎を解く』『学びとは何か』、共著に『算数文章題が解けない子どもたち』など。

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今井 むつみ(いまい・むつみ)
慶應義塾大学環境情報学部教授
1987年慶応義塾大学大学院社会学研究科に在学中、奨学金を得て渡米。1994年ノースウェスタン大学心理学部博士課程を修了、博士号(Ph.D)を得る。専門は、認知・言語発達心理学、言語心理学。2007年より現職。著書に『ことばと思考』『学びとは何か 〈探求人〉になるために』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)など。最新刊で秋田喜美氏との共著『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)は大きな話題となった。

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(慶應義塾大学環境情報学部教授 今井 むつみ 構成=プレジデントFamily編集部)

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