小6の43%が誤答「8人に4Lのジュースを等しく分けると1人何リットル?」迷いなく8÷4と立式する子への教え方
プレジデントオンライン / 2023年10月17日 11時16分
※本稿は、『プレジデントFamily 算数が大得意になる 2023完全保存版』(プレジデントムック)の一部を再編集したものです。
(前編:「間違いやすい文章題その1」から続く)
■意外とムズい? 小6の4割が間違えたジュースの問題
例題2
8人に4Lのジュースを等しく分けます。
1人分は何Lですか。
▼誤答例
式 8÷4=2
答え 2L
▼正解(6年生の正答率 56.7%)
式 4÷8=0.5
答え 0.5L(2分の1L)
これは6年生を対象にした2021年度「全国学力・学習状況調査」の算数で出された問題です。
式と答えを書くという形式の問題だったのですが、正しく、4÷8=0.5(もしくは2分の1)と解答できた子はわずか56.7%でした。
その一方で、8÷4と計算して間違えた子が36%もいたのです。
6年生でも3割以上が、「わり算」の意味を正確に理解できていないことになります。
これを間違えた子は、「(等しく分けるのだから)わり算だ」ということはわかったのでしょう。ところが「わり算は大きい数を小さい数で割る」という誤った思い込み(スキーマ)を持っていた可能性があります。
そこで深く考えずに、問題に出てきた数字のうち大きい8を4で割ってしまったのです。
同様に「かけ算は増えるもの」「わり算は減るもの」という思い込みをしている子が高学年でもいます。実際には、0.5など1未満の数を掛けると数は減りますが、自然数だけを対象としていた低学年のころのスキーマが強く身についているのです。
これらのスキーマを持っていることは、それまでの自分の経験を一般化できているわけで、ある意味賢いということもできます。実際に、低学年のうちは、かけ算をすれば答えは大きく、わり算をすれば答えは小さくなっていました。
しかし、小数・分数を習うと、これまでのルールと食い違い、混乱がおきます。それまでの思い込みが強く定着しているほど、新しい知識と関係づけて修正していくことが難しくなるのです。
■大人に「正解」を教えられても頭に入らない
算数では、こういった「後だしジャンケン」のような、言葉の概念の修正・追加が多くあります。特に分数や割合など、それまでのスキーマを修正する必要がある学習については、長い目で見ましょう。大切なのは、子供が自分で気がつくこと。自分のスキーマにとらわれているうちは、正しい解き方を説明されても、ほとんど頭に入ってきません。
また、今の小学校の現場で、「これまでは大きい数を小さい数で割っていたけれど、これからは違うよ」といった、子供各人のスキーマを修正する指導は難しいでしょう。
家庭でできるとしたら、子供が気づくのをサポートしてやることです。自分で手を動かして、この例題のような問題に取り組むなかで「どうやら小さい数を大きい数で割ることもあるのだな」と気づくのが理想です。
■なぜ「5時間10分」を510にしてしまうのか
例題3
えりさんは、山道を5時間10分歩きました。
山をのぼるのに歩いた時間は、2時間50分です。
山をくだるのに歩いた時間は、何時間何分ですか。
▼誤答例
式 510−250=260
答え 3時間
▼正解(3年生の正答率 17.7%)
式 5時間10分−2時間50分=2時間20分
答え 2時間20分
この問題を解くには、二つのポイントがあります。「山道を歩いた時間」は、「山をのぼるのに歩く時間」と「山をくだるのに歩く時間」の合計であり、くだるのに歩いた時間を出すためには、ひき算をする必要がある、と正しく類推できること。そして、時間の単位が生きた知識となっていることです。
ところが、4年生で74%、5年生でも46%の子がこの問題を間違えました。
![11時58分を指す時計](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/e/1200wm/img_feee5b31df20a1d023b67c6aa9ae0b63211172.jpg)
ひき算をすることが正しく推論できず、「5時間10分+2時間50分」とたし算をしてしまう子もいました。
また、ひき算だとわかっても「510-250=260」といった式を立ててしまう子もいます。この子は、全体から部分を引けば残りが出る、という類推はできたのですが、基本的な時間の単位の理解ができていないのです。
5時間10分を510としているため、1時間は100分だと勘違いしているかのようですが、こういう誤答をする子も「1時間は何分?」と聞かれれば60分と答えられる場合が多い。
生きた知識となっていないため、知ってはいるものの、自由に使うことができないのです。
時間の単位で間違えてしまう子は、3年生で13%、5年生で18%もいました。5年生のほうが間違える子が増えているのが気になります。時間の単位が生きた知識となる経験がないため、習った直後よりも正答率が落ちているのです。
■繰り下がりを避けて勝手に読み替える
ほかにこの問題の誤答で多かった例は、繰り下がりを回避して勝手な計算をしてしまうというものです。
典型的なのが「5時間10分-2時間50分=3時間40分」というもの。時間のほうは「5-2」で3として、分の計算は「10-50」ができないので、勝手に「50-10」と読み替えて計算してしまっているのです。
繰り下がりが必要で計算がしにくいから、恣意(しい)的に数字の順番を変えてしまう。計算力が不十分なうえに、数字についての理解が欠けていることも考えられます。
たし算・ひき算・かけ算・わり算の、計算の仕方は知っていても、互いの関係性や原理原則が身についていないのです。簡単な計算問題なら表面的な理解でも解けるかもしれません。ところが、文章題では、文章を解読するために思考の負荷が大きくなり計算に対応できないのです。
また、あとで見直せば気づくはずであることから、客観的に認知をするメタ認知能力も欠けていることがわかります。
■文章題ができるように…生きた知識を家庭で育てる方法
これまで見てきたように、文章題ができない原因は、言葉が「生きた知識」になっていないこと。また、解答の筋道を立てたり文章に書かれていない部分を補ったりする「推論」の力が足りないことです。
では、そうした言葉の力と考える力を身につけるために、家庭でできることはあるでしょうか。
![『プレジデントFamily 算数が大得意になる 2023完全保存版』(プレジデントムック)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/c/1200wm/img_acf801eca2e596d8cefd9dc90e549e2d150064.jpg)
生きた知識や推論する力は多様で豊富な経験をするなかで身につきます。
まずは家庭の日常での言葉を教科書の言葉とつなげてやることが有効でしょう。「誕生日は3日後だよ」「今、時速30kmだね」「それは1.5倍だね」などと、毎日の会話で意識して使うようにするのです。
ただし、くれぐれも、学校の授業のように教え込もうとはしないでください。数字や単位を嫌いになってしまっては元も子もありません。
家庭環境の学力への影響を調べた研究でも、家庭が言葉や数字に興味・関心を持つ環境であることが有効だとわかっています。さらに、親が言葉や数字を「教える」よりも、子供が自分で気がつく環境であることとより強い相関関係がありました。
テストの文章題を解くときだけ、大人から見ると「どうして?」と思うような読み間違いをしてしまうのは、“問題を解く必然性がないし、楽しくもない”から本来の能力が働かないのだと思うのです。
楽しむという意味では、たとえば親子で一緒に料理をすることなどがいいでしょう。
レシピサイトに載っている4人分の材料をわが家の3人分にするだけでも、高度な算数が必要です。おいしい料理のためなら、計算する気になるかもしれません。
スポーツが好きな子なら、打率や防御率などの数字に興味を持つでしょう。大谷翔平選手の打率が3割9分などという割合の数字も、好きなことなら面白いはずです。
どちらも、数字の二つの意味のうち、「モノを数える数字」だけではなく、高学年で習いつまずきやすい「割合としての数字」に触れる機会になります。
数字に慣れる経験という意味では、トランプ遊びなどもおすすめです。
気をつけたいのは、大人にとっては当たり前の「数字」や「単位」は、子供にとってはかなり難しいものだということ。間違いを指摘したり直したりすることよりも、経験を増やしてやる環境を意識してください。
1年生なら数を数えることも結構、難しい。「早く100まで数えられるようにしなくちゃ」などと焦るのではなく、まずは感覚的に数や量を把握できることが大切です。
ままごとやお店やさんごっこなどの遊びには、モノを数える作業がたくさんあります。公園で花びらの数を数えるだけでも、子供はそれを遊びと思い、楽しみながら数の数え方を覚えていきますよ。
【日常会話で数字・単位を使おう】
① 「ケーキをみんなで分けよう」
→「ケーキを3人で分けよう。1人分は3分の1になるね」
② 「もうすぐクリスマスだね」
→「クリスマスまであと12日だね」
③ 「早く出ないと遅刻しちゃうよ」
→「あと何分後に出れば7時46分の電車に間に合うかな?」
④ 〈野球が好きな子なら〉
「大谷選手は打率3割9分だよ!」
「それって、100打数のうち何回ヒットを打ったってことかな?」
⑤ 〈料理で楽しく割合に触れる〉
ホットケーキの材料(4人分)
小麦粉 100g
ベーキングパウダー 4g
砂糖 20g
……
「わが家で3人分をつくるには、小麦粉は何gにすればいいかな。小麦粉が4人で100gということは、1人何g? この袋に入っている粉で足りるかな? 買い足さないといけないかな?」
慶應義塾大学環境情報学部教授。著書に『親子で育てる ことば力と思考力』『ことばの発達の謎を解く』『学びとは何か』、共著に『算数文章題が解けない子どもたち』など。
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慶應義塾大学環境情報学部教授
1987年慶応義塾大学大学院社会学研究科に在学中、奨学金を得て渡米。1994年ノースウェスタン大学心理学部博士課程を修了、博士号(Ph.D)を得る。専門は、認知・言語発達心理学、言語心理学。2007年より現職。著書に『ことばと思考』『学びとは何か 〈探求人〉になるために』『英語独習法』(すべて岩波新書)、『ことばの発達の謎を解く』(ちくまプリマー新書)など。共著に『言葉をおぼえるしくみ 母語から外国語まで』(ちくま学芸文庫)、『算数文章題が解けない子どもたち ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)など。最新刊で秋田喜美氏との共著『言語の本質 ことばはどう生まれ、進化したか』(中公新書)は大きな話題となった。
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(慶應義塾大学環境情報学部教授 今井 むつみ 構成=プレジデントFamily編集部)
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