この話を聞いても経営者になりたいと言えるか…渋々サラリーマンを続けてチャンスを掴む"起死回生法"がある
プレジデントオンライン / 2023年10月17日 17時15分
※本稿は、蝶野正洋『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』(春陽堂書店)の一部を再編集したものです。
■それでもあなたは経営者になりたいか
30代、40代というのは常に山あり谷ありで、仕事でもプライベートでも成功と失敗とか、出世と左遷とか運・不運をパタパタ、パタパタと繰り返す人が多いと思う。しかし、俺のように60代に入ってくると健康でさえあればラッキーとなる。まして、ちゃんとした給料が入ってくる会社であればね。
人生100年時代だけに後半生で起業を考えている人も多いと思うが、個人経営となると、いつ金が入ってくるかわからない。人生の中でそこまで体も心も削りながらやる必要が果たしてあるのか。それは慎重に考えたほうがいいと俺は切実に思う。
自分の経験だけじゃないんだ。
資金繰りひとつ考えても眠れない日が続くなんて当たり前のように起こる。経営者としてのプレッシャーは想像をはるかに超える。結局、橋本選手も三沢光晴選手もそういうことも原因のひとつで亡くなったのかなと俺は感じるんだ。
俺も今なら、一番大切なのは首をはじめとするけがの治療だとわかっている。だけど、一歩間違えば経営者の業務に追われて治療の時間がとれないまま、試合の合間に必死に営業していたかもしれない。あの2人はその典型だったと思う。
だからこそ俺はすごいショックだった。2人が亡くなったとき、次に俺、武藤さんがいつ死ぬんだろうとかまで考え込んでしまったよ。
みんなは、業界ナンバーワンのレスラー・三沢選手が亡くなったことがショックだったと思うけど、俺も思いは同じで「三沢社長が……」と。ノアの経営状況も聞いていたし、テレビ局との契約も切れ、いよいよ人員削減もしなきゃいけない、お客さんも思うように入っていないという状況を知っていたうえでの、突然の訃報だったからね。
俺も、その当時は新日本プロレスの現場監督をやりながら、自分の会社も経営していた。そうなると、もう眠れないわけだよね。しかも、自分の金を会社につぎ込んで……ということをやっている立場だったから。
橋本選手も同じような状況だったと思う。
団体の経営は最初からおかしかったみたいだけど、そこから団体内でクーデターがあって、橋本選手は2、3年で追い出される形になった。体調もものすごく悪い。そしてそのまま亡くなってしまった。
これもやっぱり独立したストレス、経営者のストレスだと俺は思っている。だからこそ、2人の最期を知って「これは俺も無理だな」と悟った。会社を2つ切り盛りして、プラスでタレント業務もやっていたから、自分自身の行く末を思うと本当に怖かった。
■経営者はバスガイド。真っ先に落ちていく
経営者というポジションは、誰もが一度は憧れる。自分の考えひとつで、みんなに指示を出せるからね。
でも、指示を出すのって、たとえたらバスガイドのようなものなんだ。
後ろ向きで「はい、こっち。次はこっち」と旗を振る。断崖絶壁に気づかず、後ろ向きのまま社員を誘導していたら、真っ先に落ちるのは経営者。ダンプカーが突っ込んできたら、最初の犠牲者になるのも経営者。そんなポジションなんだよね。それを見て、みんなは「危なかった! ギリギリセーフ!」って止まれるけど。
バスガイド役をやるべきか、やらざるべきか。
俺の個人的な意見は、別にやらなくてもいいし、やる必要もないんじゃないかな、とさえ思う。会社経営によっぽどの思いがあれば別だけどね。
もし、何となく憧れるという程度だったら、バスガイドの後ろについて「進行が遅い!」とか「もっといい場所に連れていけ!」と文句を言うだけにするとか、「ここより、あっちのほうが面白そうだ、楽しげな夜の街に連れていってくれそうだ」と観光バスを乗り換えるだけにしておいたほうがいいと、俺は思う。
■会社に渋々残ってもチャンスは必ずまた来る
同級生の会社社長から聞いた話だが、大企業もまだ60歳定年が多く、雇用延長制度もあるにはあるが残る人は給料70%減も当たり前らしい。また、省庁の人と会った際に、「省庁はもっと減額ですよ」とも聞いた。
年金受給のタイミングとして60歳から65歳のはざまにいる人の扱いは本当にひどいと思う。給料70%減ということは100万円もらっていた人が30万円ぐらいになっちゃう。最初は、元の給料の7割に減額だと思っていた。それが、7割減。問答無用だよな。
給料はすずめの涙みたいな額になったけれど、お飾り的な役職をもらえる人もいる。まあ、精神衛生上は役職があったほうがいいだろうね。ポジション的には管理職、監督職みたいなものかな。
でも、翌月から1円も金が入ってこないことを考えると、給料が50万円から20万円、15万円に下がったとしても、そこにとどまるのもひとつの勇気だし、その勇気を俺はすごいと思う。どうしたって屈辱的だし、社内の扱いだって想像がつくしね。
とどまるか。去るか。
早期退職なんかを含めると、50代、60代の人たちにとっては難しい人生の選択になるけど、勇気をもってとどまって、もう一度、自分にとってやりたい仕事、有意義な仕事をやらせてもらえるようアピールし続けたら、絶対またチャンスが来ると思う。
プロレス界でも、ここ止まりかなと思っていた選手が起死回生のイメチェンや言動で、いきなり輝きだす例はたくさんあるからね。
サラリーマンに置き換えるなら、長いキャリアで培った人間関係や根回しも駆使して、「この人なら、まだ任せられる」と思わせるだけの自己プロデュースが必要になってくるかもしれないね。
![オフィスで朝の挨拶をするシニア男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/4/1200wm/img_f456e0e315228379846d69b04e173d38189980.jpg)
■自己プロデュースでやってはいけないこと
自己プロデュースのコツをよく聞かれるんだけど、俺からひとつ言えるのは、あまり自分のやり方や考えに固執せず心を柔軟に保っておいたほうがいいということだ。自分に固執すぎると途中で引き返せなくなり、どんどん突っ走っていってしまう。
晩年の橋本選手がそうだった。自分の会社、事業を立ち上げて最初はよかったけど、途中からおかしくなった原因は本人にあるんだ。遊びすぎた。そこから女とかに走っちゃって、がまんの限界となった社員がクーデターを起こした。
それでも、本人は一国一城の主という気持ちが強かったから、どうしても城を乗っ取られたという思いがあり、一方で体はボロボロになっていった。
その状況の頃に俺は橋本選手に正直な思いを伝えた。
「経営者の橋本真也にこだわりすぎている。でも、今やらなきゃいけないことはプロレスラー橋本真也の顔を出すことだろう」
![蝶野正洋『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』(春陽堂書店)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/5/1200wm/img_15d72438fef0a17b4268d42c2cca1234134491.jpg)
本当は2005年5月、新日本プロレスの東京ドーム大会に、橋本選手を呼ぼうとしたんだ。でも彼はまだ経営に執着していた。本来は経営者としての彼の顔なんてファンは誰も見ていなくて、みんなプロレスラー橋本真也を待っていた。
だから、復帰戦に向けて会場でアピールするなり、ファンの期待に応えるアクションをしたほうがいいと思っていた。でも、実際は前年の12月に手術をした肩の回復が思わしくなかったらしくて、リングに上がることはなかった。そして、東京ドーム大会から2カ月後の2005年7月、帰らぬ人となってしまった。
なりたい自分に向かって突っ走るだけではなく、時には周りから見られている自分がどこにいるのかというのを確認しておかないと、ということだよね。
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プロレスラー、実業家
1963年9月17日、父の赴任先である米国ワシントン州シアトルで生まれる。2歳のときに日本へ帰国。1984年に新日本プロレスに入門、同年10月5日にデビュー。1987年に2年半にわたる海外遠征に出発。遠征中に武藤敬司、橋本真也と闘魂三銃士を結成する。1991年、第1回G1クライマックスに優勝し、同年マルティーナ夫人と結婚。以後、G1クライマックスでは過去最多(2023年現在)の5回優勝。1992年8月には第75代NWAヘビー級王座を奪取。1996年にnWo JAPANを設立して大ブームを起こし、その後、TEAM2000を結成。2002年に新日本プロレス取締役に就任した。2010年に新日本プロレスを離れてフリーとなる。2014年に一般社団法人ニューワールドアワーズスポーツ救命協会を設立。消防を中心に広報啓発の支援活動を行う。
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(プロレスラー、実業家 蝶野 正洋)
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