「早期リタイアは絶対ダメ」首のけが、糖尿病、グラグラの膝…60歳・蝶野正洋が満身創痍でも働き続けるワケ
プレジデントオンライン / 2023年10月18日 17時15分
※本稿は、蝶野正洋『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』(春陽堂書店)の一部を再編集したものです。
■50代でビジネスをリタイアしている人には男の魅力を感じない
俺たちの世代って、30代、40代あたりで成功を収めて、早めに引退することがステータスみたいなところがあったんだ。俺もご多分に漏れず、40歳くらいまでに、ある程度のものを残して、人生後半は好きなことをやるのが理想のレスラー像だと思っていた。でも、実際には現場の競争から外れた50代くらいの人たちが退屈に見えたんだ。
IT関連で起業して成功した人にも何人かお会いしている。
資産をつくって早々にリタイアした人って、いくらでも好きなものを飲み食いできるんだけど、裏を返せば飲み食いくらいしかすることがなくなるんだよね。そういう人たちって、異業種との接点など外の世界とのつながりがなくなっているから、正直、見ていてあまりカッコよく見えないし、男の魅力を感じなかった。
本人たちも、仕事こそが自分にとって社会との接点であり、生きる活力だと早々に気づくようで、しばらくしたらまた別の事業を始めている人がほとんどだ。
そういえば、周りを見渡すとビジネスで成功している人はおしなべて、よく言えばアクティブ、悪く言えば全然じっとしていない。でも、60代、70代になっても、年齢相応にビジネスに携わっている人のほうが、ちょっとキツそうではあるけど、やっぱり完全リタイアした人とは違って見えるし、俺の目にはカッコよく映る。
それを考えると、仕事って何だろうと改めて考えるよね。
金を稼ぐツールというだけじゃない。というか、主眼はそれじゃない。社会の中で活動している証しとでもいうのかな。間違いなく、その意味合いはあると思う。
■100%が理想だが80%でもよしとせよ
俺にはいろいろな顔がある。全部ビジネスとするなら、今のテンションはどれくらいかというと、頑張っても8割。そんなに努力したくないからね(笑)。
100%やれる性格だったら、また違う成功をしていたと思うけど。そこを目指せるところにはいけたとしても、肝心かなめの“欲”がないんだと思う。だとすると、欲、欲望というのは、目指すゴールにたどり着く、その最後の一歩なんだろう。
もちろん、出すべきタイミングでは全力の100%出したほうがいいに決まっている。俺の生き方は決しておすすめできない。でも、この世の中、俺みたいな考え方の人のほうが多いんじゃないかな。
それに、実はこれって、会社の中でもけっこう大切なスキルだと思う。
手の抜き方がわかっているヤツは、1割、2割の余力を残して「限界です」と白旗をあげる。常に限界まで頑張るヤツは、ガッツがあるように見えて、結局は仕事を途中放棄してかえって周りに迷惑をかけたりもする。
たとえば、「全力でサンドバッグを100回蹴ってみろ」を言われて、1回目から全力でやって80回で限界が来るヤツと、100回まっとうすることを優先して、そこそこの力で蹴り続けるヤツ。スポーツの世界では前者のほうがよしとされるかもしれない。
でも、ビジネスの世界では? たいがいは、与えられた仕事をまっとうするほうだろう。「与えられたタスクで、自分に今求められていることは?」と、常に仕事を受ける意味を考えておくべきだ。まあ、80パーセント人間の開き直りかもしれないけどね(笑)。
■満身創痍で生きる
俺の今の生き方、考え方を大きく左右した「けが」の話をしよう。
首のけがは新人時代と、1992年の2度目のG1クライマックス制覇のとき、そして1998年のnWo JAPAN時代。3回目もIWGPヘビー級で初めてチャンピオンになったタイミングだ。自分の中でムリをすると、限界を超えて古傷が出てきてしまうという流れだったよね。
最初に頸椎(けいつい)を痛めたのは、デビューから2、3カ月の頃。それがもとで1カ月くらい、約2シリーズほど休むことになってしまった。痛みはなかったけど、立ちくらみが止まらなくなってしまったんだ。長年にわたる首との闘いがそこから始まった。
プロレスラーは首、腰、膝、肩……全部痛めている選手ばかり。俺も腰椎の痛みが出てきたのは、膝の負傷で全身のバランスが崩れて背骨が側弯したことが原因だ。膝も左の前十字靱帯(じんたい)と内側靱帯が切れてしまった。外側と裏十字の腱(けん)は残っているけど、今、この瞬間にも膝に痛みが出ている。病院に行くと「グラグラですね」と言われる始末だ。
関節まわりのどこか1カ所に不具合が出ると、それをカバーしようとしていろんなところにガタが来るんだよね。
■起こったことは淡々と受け入れる
プロレスラー蝶野正洋の全盛期を知っている人には、今の姿はがっかりかもしれない。それは俺自身だって思うよ。この年齢ではさっそうと動きまわって、こんなことをしたい、あんなこともといった青写真を漠然と描いていたけど、それとはかけ離れたコンディションだからね。
でも、振り返ってもしょうがない。
ひどい症状を押して頑張ったからこそ、みんなが認めてくれる今の自分がいるんだし、もし、あのとき無理をせずに諦めていたら、健康は残ったけど名誉にはあずかれなかったかもしれない。
どっちがいいかは死ぬまでわからないけれど、現役でやっている以上は自分の中である程度は覚悟しながらやっていた。2度目のG1クライマックス優勝のときは痛み止めを打ちながら、何とか最後まで闘い抜いたしね。
健康に関しては、試合をこなしているときは食べないと体重がキープできない体質だった。もともとは90キロで、食事とトレーニングで20キロふやして試合をしていた。だから、食べないと減ってくる。
30代後半になると食べなくても体重は減らなくなってきたけれど、20代は食事に連れていってもらってさんざん食べて、寝る前にもラーメンを1杯、2杯。常に24時間、胃に何かを入れている状態だった。
それもあって、40歳手前くらいで糖尿病の気が出てきちゃったけど、まあ、それも、いわば職業病の一種でしょうがないかな。糖尿病に関しては、尿酸値が一般の人の倍以上というのが続いて、そうなるとふらふらしてしまうんだよね。
それが首のけがも治りが悪かったりする要因のひとつらしい。最近はようやく基準値の7.0mg/dL以内に落ち着いてきたけど、50代に突入してから、特にそういうのがいろいろ出てきたんだよ。
■40歳になったら、今の自分の生活を見直すべき
50代っていうのは、それまでの不摂生や暴飲暴食とか、むちゃな生活のツケが人それぞれ、いろんな形で出てくる時期なんだろう。俺の場合、体の不調については、実は40代に入ったあたりから実感があった。
まず、試合の疲れがなかなかとれない。
若い頃は、試合をやって巡業先で朝まで酒を飲んで、そのままバスで移動して、到着したらすぐに練習というのが全然平気だった。
それが、30代前半くらいからちょっとキツいなと感じるようになり、35歳を越えたあたりからは「これはもう休んだほうがいい、明日のために」と、荒っぽい生活に対して及び腰になってくる。そして、40歳になったらもう外に出たいと思わなくなるよね。「だったら飯を食って早く休もう」と。
サラリーマンでいうと、営業なら夜のつきあいとかで不規則な生活や内臓に負担をかけっぱなしの生活をどうしてもやめられない。デスクワークにしても、長時間同じ姿勢でやっていたら、首、肩、腰への負担は計り知れないし、内臓系の動きも不活発になる。運動不足による生活習慣病の危険もある。
断言するが、どんな仕事に就いている人も40歳になったら、今の自分の生活を見直すべきだ。そのまま40代、50代と生活を改めずに突入すると、いざ自由に使えるお金と時間を手に入れたとしても、それを謳歌(おうか)する健康な体を失い、毎日体のどこかに不調を感じながら過ごすことになりかねない。それって、とてつもないストレスだよ。
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プロレスラー、実業家
1963年9月17日、父の赴任先である米国ワシントン州シアトルで生まれる。2歳のときに日本へ帰国。1984年に新日本プロレスに入門、同年10月5日にデビュー。1987年に2年半にわたる海外遠征に出発。遠征中に武藤敬司、橋本真也と闘魂三銃士を結成する。1991年、第1回G1クライマックスに優勝し、同年マルティーナ夫人と結婚。以後、G1クライマックスでは過去最多(2023年現在)の5回優勝。1992年8月には第75代NWAヘビー級王座を奪取。1996年にnWo JAPANを設立して大ブームを起こし、その後、TEAM2000を結成。2002年に新日本プロレス取締役に就任した。2010年に新日本プロレスを離れてフリーとなる。2014年に一般社団法人ニューワールドアワーズスポーツ救命協会を設立。消防を中心に広報啓発の支援活動を行う。
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(プロレスラー、実業家 蝶野 正洋)
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