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なぜ10万円以上するはずのワンピースが5000円なのか…高級ブランドがユニクロとコラボする本当の狙い

プレジデントオンライン / 2023年10月21日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/carterdayne

ユニクロをはじめとするファストファッションブランドでは、一流デザイナーとのコラボ商品も手ごろな価格で買える。なぜそんなことが可能なのか。ライターの南充浩さんは「一流デザイナーたちは、顧客が限定的な高級ブランドだけでなく、大衆層にも認知を広げたい。このため高級ブランドの『入門編』としての役割がある」という――。

■一流ブランドのデザイナーがユニクロとコラボ

英国生まれのデザイナー、クレア・ワイト・ケラー氏とユニクロがコラボしたレディースライン「UNIQLO:C(ユニクロ:シー)」が9月に発売となりました。クレア氏はこれまで「プリングルオブスコットランド」「クロエ」「ジバンシィ」など有名ブランドのクリエイティブ・ディレクターを務めており、まさに世界的著名デザイナーの一人といえます。一般のマス層にはあまりなじみが無い名前だったと思いますが、今回のコラボで日本にもクレアという名前はある程度浸透したのではないかと思います。

ラインナップを見てみると、ワンピースやスカートが4990円、トレンチコートが1万2900円などと、一流デザイナーの商品とは思えない価格帯で商品が展開されています。これらをハイブランドで購入すると正価で10万円はくだらないでしょう。

コラボ商品はブランド物としては安くても、通常ラインよりは1.2~2倍ほど高くなります。通常商品よりも色や柄、素材などが少し凝っていたり、露骨にコラボ先のブランドロゴが入っていたりするので、見分けは付きやすいでしょう。またユニクロ、ジーユーのコラボ商品は通常商品よりも良い素材が使われていることが多くあります。これは特に綿やウールの天然素材で顕著で、機能性ではなく、風合いや生地の厚みが格上になります。

■なぜハイブランドと低価格ブランドのコラボは実現するのか

ユニクロが世界的な著名デザイナーとコラボをするのは今回が初めてではなく、過去にもジル・サンダー氏との「+J」、クリストフ・ルメール氏との「ユニクロU」(現在も継続中)、JWアンダーソン氏とのコラボライン(現在も継続中)などがあったので、そう珍しいと感じる人は少なくなっていて「恒例の風物詩」という印象すら抱いている人が多いのではないかと思います。またこれら以外にも、ユニクロはこれまでいくつものデザイナーズブランドとコラボしてきました。

ただ、デザイナーズブランドとのコラボは何もユニクロの専売特許ではありません。H&M、ジーユー、ZARAなどの各低価格ブランドもこれまで定期的にコラボを行ってきました(ZARAのコラボは後発で2020年前後からのスタート)。元来、高価格でステータス性を重要視するデザイナーズブランドと、マスに支持される大量生産の低価格ブランドとのコラボがなぜ継続し続けているのかについて今回は話を進めたいと思います。

■デザイナーズコラボは20年近い歴史がある

ファッション衣料にあまり興味の無い人にとっては、低価格ブランドとデザイナーズブランドとのコラボというと、真っ先にユニクロが思い浮かぶのではないかと思いますが、デザイナーズブランドとのコラボの歴史はH&Mのほうが古いのです。

H&Mは2004年に故・カール・ラガーフェルド氏とのコラボラインを発売しました。カール・ラガーフェルド氏というと、自身のブランドもさることながら、長年「シャネル」のデザイナーも担当していたということは非常に有名なのではないでしょうか。このコラボはH&Mが日本に本格上陸する前の商品となります。

ユニクロのデザイナーズコラボというと、2009年の「+J」が嚆矢(こうし)だと思われている節があるのを感じますが、こちらも歴史は意外と古く、2006年からすでに「デザイナーズ・インビテーション・プロジェクト」というコラボ企画をスタートさせています。H&Mに遅れること2年。この取り組みは個人的な推測ですが、おそらくはH&Mの2004年のラガーフェルド氏とのコラボをヒントにしてユニクロ内に取り込んだものだと思われます。H&Mは今から19年前、ユニクロは17年前からデザイナーズコラボに取り組んでいたということで、結構長い歴史があるのです。

■H&Mとコムデギャルソンのコラボで沸き起こった物議

ユニクロが「+J」を発売する1年前の2008年11月、H&Mはコムデギャルソンとのコラボラインを発売しました。ご存じの通り、日本人の大御所デザイナー、川久保玲氏が手掛ける世界的著名ブランド「コムデギャルソン」とのコラボは、H&Mからすれば「本格的な日本上陸記念」という意味合いもあったのではないかと思います。

その後、2009年と2012年と川久保玲氏がメディア上で低価格衣料品への非難を繰り広げたため、その言動不一致ぶりには一部からは「あきれた」という声も上がりました。私も同様の思いです。しかし、川久保氏は「それはそれ、これはこれ」と考えていたのではないかと推測できます。実際に2012年の朝日新聞のロングインタビューにはこんな一節があります。

――そのH&Mと数年前にコラボレーションをしました。葛藤はなかったのですか。

「全然なかった。たった2週間のイベントでしたが、私が手がける『コムデギャルソン』の服がマスマーケットにどうアピールできるかに興味があったので」

やはり「それはそれ、これはこれ」という考え方でH&Mコラボに臨んだのだろうと考えられます。

■「ブランドイメージの毀損」は杞憂だった

2009年にユニクロの「+J」が始まるわけですが、日本のマス層にはH&Mよりもこちらの方の認知度が高かったのではないでしょうか。

H&Mの各コラボ発表時、+Jのスタート時ともに業界関係者やメディア関係者からは「低価格ブランドとコラボをすることでブランドのステータス性が低下してブランドイメージが毀損(きそん)するのではないか?」という意見が多数挙がりました。また十数年経過した現在でもそのような意見を聞くことがあります。

しかし、これらの意見はほぼ杞憂(きゆう)に終わったといえるでしょう。コムデギャルソンにしろ、その他のブランドにしろ、2023年現在、ブランドイメージは全く毀損していません。むしろ、デザイナーズブランド側はH&Mやユニクロとのコラボによって一般大衆に認知度を高めたというメリットしかありません。今回のユニクロ:シーのクレア氏も同様です。

型紙を微調整しているデザイナーかパタンナー
写真=iStock.com/erikreis
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/erikreis

以前ユニクロのデザイナーズインビテーションに参加したデザイナーの知り合いにユニクロとのコラボの反響について尋ねてみたことがありました。

「もう何年か前のことになりますがユニクロとのコラボの成果はどうでしたか?」と尋ねると「服飾業界とは全然関係のない生活をしていて、私のブランドなんて関心を寄せていなかった学生時代の旧友や知人たちから『ユニクロとコラボするなんてすごいね』というメッセージを多数もらいました。ユニクロのマス層への影響力はすごいですね」という答えが返ってきました。

■高級ブランドは「入門編」で新規顧客を得たい

この時に、私自身もユニクロのマス層への影響力の大きさと知名度の高さを痛感したのと同時に、業界関係者がこれまで懸念していたような「ブランドイメージの低下ないし毀損」という状況は起きていないということを改めて痛感しました。

デザイナーやブランド側からすると知名度が高まるというメリットしかないということだったのです。だから、ユニクロにせよH&Mにせよ毎年さまざまなデザイナーズブランドとのコラボが可能なわけです。相手側が嫌がるのに無理にコラボを強制することはできませんから、相手側も相応のメリットがあると認識して契約しているということになります。

知名度が高くなることは単純にメリットですが、それ以外にもファンの裾野が広がり新規顧客獲得の可能性が高くなります。とくに低価格ブランドとのコラボ品を「入門編」と位置付ければ、購入のハードルが下がって買いやすいと感じる人は増えます。

■「ガチ勢」はどの業界でも敬遠されやすい

このことは他業界についても言えます。

最近、トレーニングジム業界では24時間営業の無人ジム「chocoZAP(ちょこざっぷ)」が爆発的に会員数を伸ばしており、年内に100万人に達するという見通しが出ていますが、その理由は①月額2980円(税別)という安さ、②無人なので手軽に利用でき、口うるさいマニア層がいないから初心者でも心理的に利用しやすい――という2点にあります。

先日、久しぶりに学生時代の先輩にお会いしたのですが、この人は長年、「ちゃんとしたジム」に通っているガチ筋トレ勢で「ちょこざっぷなんて絶対に認めない」という意見でしたが、こういうガチ勢がいないことが「ちょこざっぷ」に初心者が入門しやすい状況を作り出しているのです。仕様も価格も本格的な物を初心者にいきなり提示しても購入や契約に至ることは難しいものです。

筋トレに限らず、ファッションもその他趣味の分野もいかに価格や仕様で入門のハードルを下げることができるかが、その分野のファンの裾野を広げることにつながるのです。

一方、低価格ブランド側としては、著名なブランドとコラボをすることでブランドイメージを高めることができる点は言うまでもないので、実際のところコラボはウィンウィンな取り組みだといえます。

■今後もコラボ企画は続々と展開される

ユニクロは2004年から公言してファッション化に取り組み始めたので、2006年から始まったデザイナーズインビテーションもその流れを汲んでのことだと考えられます。2004年から数えて20年が経過する中で、低価格ブランドのファッション化がマス層にも認知されるようになったといえます。この20年間でマス層のファッションブランドへの接する姿勢も随分と様変わりしたといえます。

今後も大手低価格ブランドとデザイナーズブランドとのコラボは毎年のように継続し続けることになるでしょう。むしろ、知名度を高めたいと願う新進気鋭のデザイナーの方が大手低価格ブランドとのコラボ企画をより積極的に望むようになるでしょう。

■コラボ商品は「お買い得」なのか

最後になりますが、低価格ブランドのデザイナーズコラボ品はお買い得なのでしょうか。結論からすると、基本的にはお買い得だと思います。

UNIQLO:C 2023年 秋冬コレクション
UNIQLO:C 2023年 秋冬コレクション(出典=PR TIMES/UNIQLO)

低価格ブランドの通常ラインに飽きが来ている方には、デザインや色、柄に変化のあるコラボ品はアクセント、スパイスになるので気分転換になるでしょう。また、ユニクロに限って言うと、ほとんどのコラボ品は通常ラインよりも価格が数千円ほど高い分、綿などの素材もより良いものを使っていることがほとんどなのでこれも消費者にとってはメリットになります。普段はあまりハイブランドは着ないという人にも、デザイナーズブランドの入門編としても触れておいて損はありません。

一方、デメリットとしてはやはり大量生産・大量販売の低価格ブランド品なので、たまに自分と同じ服を着ている人を見かけてしまうことです。「かぶり」は間違いなくありますので、その辺りの判断は最終的には自己責任となります。

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南 充浩(みなみ・みつひろ)
ライター
繊維業界新聞記者として、ジーンズ業界を担当。紡績、産地、アパレルメーカー、小売店と川上から川下までを取材してきた。 同時にレディースアパレル、子供服、生地商も兼務。退職後、量販店アパレル広報、雑誌編集を経験し、雑貨総合展示会の運営に携わる。その後、ファッション専門学校広報を経て独立。 現在、記者・ライターのほか、広報代行業、広報アドバイザーを請け負う。

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(ライター 南 充浩)

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