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日帰りハイキングにも死亡リスクはある…実際の事故からわかった「秋の登山」の危険パターン

プレジデントオンライン / 2023年10月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/redtea

秋の登山ではどんなことに気をつけるべきなのか。ノンフィクションライターの羽根田治さんは「日帰りができるような低山でも、毎年遭難や死亡事故が起きている。とくに秋はクマとスズメバチの活動が活発化するので、注意が必要だ」という――。

■標高が低い山へのハイキングでも命を落とす可能性

史上最高といわれた猛暑が9月になってもおさまらず、例年になく秋の訪れが遅く感じられた今年だが、10月に入りようやく暑さが一段落した感がある。爽やかに澄んだ秋空のもとで標高の低い山を歩くには、これからがベストシーズンとなる。紅葉や秋の味覚、温泉などをプランに組み入れれば、より充実したハイキングが楽しめるだろう。

ただし、低い山だからといって、決して油断はできない。標高の高低に関係なく、どんな山にもなにかしらのリスクが必ず潜んでいる。山をナメると、痛い目に遭うばかりか、運が悪ければ命を落とすことになってしまうので、くれぐれもご注意を。

秋の山でまず気をつけなければならないのは、日の短さだ。「秋の日はつるべ落とし」と例えられるように、秋の日暮れは思いのほか早く感じられ、陽が沈むと間もなく真っ暗になる。まして山間部では、なおさら暗くなるのが早い。このため、日の入り時刻を考慮しておかないと、日没までに下山できなくなり、道に迷ったり行動不能に陥ったりしてしまう。

たとえば2022年10月9日、山梨県大月市の滝子山(1620メートル)で、20代の男性と50代の女性の2人パーティが下山中に道に迷い、救助を要請するという事故があった。2人はヘッドランプを持っておらず、下山前に陽が暮れて行動できなくなってしまったという。

■秋の登山の理想的な計画

秋の登山計画を立てるときには、行動時間が長くなるコースはなるべく避け、午後の早いうちに下山できるようにしたい。近年は昼前後に登山を開始するなど、出発時間が遅すぎて遭難するケースも目立つ。「早出早着」は登山の大原則であり、行動に余裕を持たせるためにも早いスタートを心掛けよう。

もちろんヘッドランプとツエルト(簡易テント)は必携。ヘッドランプがあれば陽が暮れても行動を続けられるし、万一、山中で一夜を明かさなければならなくなった場合には、寒さや風雨を防ぐのにツエルトが役に立ってくれる。

なお、アプローチに利用する交通機関、とくに最寄り駅~登山口(下山口)のバスは、夏のハイシーズンが終わると運行ダイヤが変わり、減便したり、土曜・休日以外は運休となったりすることもある。ダイヤは事前にしっかり確認しておこう。

■落ち葉で滑って右足首骨折

落葉広葉樹林の森では、紅葉が終わって葉が落ちると、見通しが良くなって地形を判別しやすくなる。しかしその反面、落ち葉が登山道を隠し、場所によってはコースがわかりにくくなっているところがある。うっかりしていると、いつの間にかコースを外れてしまうので、登山道がどの方向に続いているのか、注意深く観察しながら行動すること。

また、積もった落ち葉自体が滑りやすいうえ、地面の凹凸や石などを隠してしまうため、スリップや転倒を招くこともある。2022年11月12日には、長野県栄村の鳥甲山の標高約1150メートル地点で、単独行の40代男性が下山中に落ち葉で足を滑らせて転倒し、救助を要請するという事故も起きている。男性は出動した消防隊員らによって救助され、病院に搬送されたが、右足首を骨折する重症だった。

とくに片側が谷に落ち込んでいる狭い登山道に落ち葉が積もっているところでは、落ち葉で足を滑らすことが致命的な滑落につながってしまう。隠されたリスクをいち早く察知するのはなかなか容易ではないが、周囲の状況をよく観察して上手に回避したい。

■クマに激突して崖から転落死

秋に活動が活発化するクマとスズメバチにも警戒が必要だ。

2020年9月5日、群馬県中之条町の蟻川岳(853メートル)で、40代男性がクマに襲われて負傷した。男性は単独で下山しているときに、約20メートル前方から2頭のクマが歩いてくるのに遭遇。

あとずさりしたところ、小さいほうのクマに襲われ、頭部や顔面を引っ掻かれたうえ、左手に噛み付かれた。クマの退散後、男性は自力で下山。東吾妻町内の病院に搬送された。

2022年10月1日には、埼玉県秩父・二子山(1166メートル)の上級者向け岩稜ルートでもクマによる襲撃事故が起きている。

襲われたのは40代の男性単独行者で、西岳の山頂から切り立った岩稜を下っているときに、突如としてクマが駆け下りてきて飛び掛かられたのだ。

その最初の一撃はすんでのところでかわしたが、今度は下から攻撃を仕掛けてきた。男性は拳を振り下ろし必死で対抗し、20秒ほどの攻防の末にクマは退散していった(クマは子連れだった)。よくぞ助かったものだと思う。

その動画がYouTubeで公開されている。クマに襲われたときの男性の叫び声やしつこく襲ってくるクマの姿があまりに衝撃的だ。

ちなみにこの年には奈良県大峰山系の(1780メートル)近くの登山道で、40代男性がクマに体当たりされて、崖からクマ一緒に約30メートル転落し、命を落としている。この事故が起きたのが12月14日。クマは冬眠に備え、エサとなる堅果類などを求めて秋に活発に活動するが、堅果類の結実量は年によって豊凶がある。冬になってもまだ活動していることもあるので、安心はできない。

ヒグマ
写真=iStock.com/Thomas Faull
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Thomas Faull

■なぜ秋にスズメバチは活発なのか

スズメバチに関しては、働きバチが巣を拡大させる初夏から秋にかけて最も活動が活発になり、この時期に被害が多発している。

今年の9月11日に、福井県の一乗城山を訪れていた男女21人のグループのうち、8人がスズメバチに刺されるという事故があった。この事故では、8人のうち60代男性にアナフィラキシー症状が現れたため、防災ヘリで搬送された。幸い命に別状はなく、ほかの7人も自力で下山した。

 アナフィラキシーというのは、ハチ毒に対してアレルギーを持っている人に見られる過敏反応で、重症になると嘔吐や呼吸困難、全身の蕁麻疹などが引き起こされる。最悪の場合、死に至ることもあり、日本では例年10〜20人ほどが命を落としている。

2022年9月22日には、佐賀県有田町の竜門峡付近で登山をしていた60~70代の夫婦2組が、やはりスズメバチに刺されて病院へ搬送された。4人とも命に別状はなかったが、男性一人がハチを追い払おうとしたときに沢に転落し、腕の骨折という重症を負ったという。

お尻から針を出すスズメバチ
写真=iStock.com/SAIGLOBALNT
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SAIGLOBALNT

■クマと遭遇した時の対処法

もともと山はクマやスズメバチなどの野生生物の生息域であり、登山というのは彼らの生活圏に入り込んでいく行為である。彼らとの無用なトラブルを回避するには、なるべく遭遇しないようにするのがいちばんだ。

クマは本来、臆病な動物であり、人間の気配を感じれば、彼らのほうから逃げていく。山に入るときは、クマ鈴を鳴らす、笛を吹くなどして、こちらの存在をアピールしよう。新しい足跡や糞などの痕跡を見つけたら、速やかにその場から遠ざかる。自治体やビジターセンターなどでは、クマの出没情報を発信しているところもあるので要チェック。出没情報があるエリアには近づかないようにするのが無難だ。

もしクマと遭遇してしまったら、慌てて逃げ出したり、大声を出したりせず、ゆっくり後ずさりをしてその場を離れる。襲いかかってきた場合は、クマ撃退スプレーを用いて対抗するか、防御態勢(うつ伏せになって首のうしろで両手を組む)をとって攻撃に耐えるしかない。

■スズメバチに襲われたら全力で逃げる

スズメバチが人間を襲うのは、人間がうっかりして巣に近づいてしまったときが多い。山を歩いて数匹のハチが周囲を飛んでいたら、近くに巣があるかもしれないので、ゆっくりその場から離れよう。

スズメバチは黒い色や甘い匂いに反応する。野外では帽子をかぶり、黒色のウェアの着用は避け、化粧や香水、整髪料、制汗スプレーなどは使わないようにする。万一、気づかずに巣に近づいてしまい、ハチが集団で襲いかかってきたときには、全力で走って逃げるしかない。スズメバチの攻撃範囲は長くても80メートルほどといわれているので、攻撃してこなくなるまで遠ざかろう。

ハチに刺されてしまったら、傷口を強くつまんで毒液を絞り出しながら、流水で洗い流す。その後、抗ヒスタミン剤を含んだステロイド軟膏をたっぷり塗っておく。濡れタオルなどで患部を冷やすと痛みが軽減する。

ポイズンリムーバー(毒を吸引する簡易キット)については、エビデンスがないとされるが、実体験から効果を認める声も少なくない。症状が現れたら、進行を一時的に緩和するアドレナリン自己注射キット「エピペン」を処方するのがベストだが、ない場合は一刻も早く病院で治療を受ける必要がある

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羽根田 治(はねだ・おさむ)
ノンフィクションライター
1961年埼玉県生まれ。おもな著書に『ドキュメント 生還』『ドキュメント 道迷い遭難』『野外毒本』『人を襲うクマ』(以上、山と溪谷社)、『山の遭難――あなたの山登りは大丈夫か』(平凡社新書)、『山はおそろしい――必ず生きて帰る! 事故から学ぶ山岳遭難』(幻冬舎新書)などがある。

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(ノンフィクションライター 羽根田 治)

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