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なぜアフリカの国々は「プーチン支持」なのか…政権維持のためにロシア民兵の暴虐を見過ごす惨い構図

プレジデントオンライン / 2023年10月19日 9時15分

2023年3月22日、中央アフリカ共和国でのロシアと中国の駐留を支持するデモ行進中、バンギでロシアの国旗を掲げるデモ参加者 - 写真=AFP/時事通信フォト

■アフリカの「巨大利権」はプーチンに引き継がれる

ロシアの傭兵集団「ワグネル」を率いたエフゲニー・プリゴジン氏の死後も、ワグネルとロシアがアフリカを牛耳る構図には大きな変化がないのかもしれない。

海外各紙は中央アフリカなどで傭兵ビジネスを展開し、金鉱など天然資源の利権を牛耳るワグネルの事業をプーチン大統領が整理・引き継ぎを図っていると報じている。

ワグネルはこれまで、アフリカ、特に中央アフリカ共和国(CAR)で政府を対象とした警護サービスや武器の提供ほか、独自ブランドのアルコール販売などを通じ、ロシアのイメージ向上策を展開してきた。

米公共放送のPBSはこうした警護サービスについて、「ワグネルの帝国は広大であり、特にアフリカではロシアの影響力を広め、不安定さを助長するために、およそ12カ国に約5000人を派遣した」とする専門家による分析を報じている。

その結果、アフリカ諸国には、ワグネルやロシアに恩義を感じている政府が少なくない。こうした政府は、ワグネルの戦闘員がアフリカ現地で繰り広げている略奪や人権侵害からは目を背け、国を守る英雄として扱っている。

■アフリカの国々が「親ロシア」になった理由

ロシアがアフリカへの影響力を強めることで、国際政治のバランスにも影響を及ぼしかねない。国際協力機構(JICA)の坂根宏治・スーダン事務所長は、笹川平和財団が発信する国際情報ネットワーク分析IINAに寄稿し、ロシアによる国連への影響力増大に懸念を示している。

昨年3月3日に開かれた国連総会の緊急特別会合で、ロシアを非難し、軍の即時撤退などを求める決議が賛成多数(賛成141カ国)で採択された。アフリカ諸国は54カ国中、8カ国が欠席、17カ国が棄権し、1カ国が反対票を投じた。こうした動向に、坂根事務局長は「ロシアによるアフリカ諸国の軍事セクターへの関与とは無関係ではない」と指摘する。

アフリカではクーデターや軍部による騒乱が次々と発生している。2021年1月から2022年2月までに9件のクーデターなどが発生し、このうちマリ、チャド、ギニア、スーダン、ブルキナ・ファソの5件が「成功」している。2000年以降では最も高い発生件数に達しており、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、相次ぐ不測の事態が「クーデターの流行」にあたると述べ危機感を表明した。

ロシアの関与は、現地情勢を不安定化させているだけではない。国連に加盟するアフリカ54カ国は、全加盟国193カ国の3割近くを占める。文化的・軍事的影響を通じて親ロシア派の国家を増加させることで、国連決議にさえ影響与えかねない事態を招いている。

■欧米と一線を画し、現地政府の支持を得てきた

なぜロシアは、アフリカと関係を築くことができたのか。欧米諸国による支援とは異なるアプローチが、大きな要因として挙げられている。

ヨーロッパのオンラインメディアであるユーロ・ニュースは、ワグネルがロシアの利益を助長するために活動しており、結果としてアフリカ全土でロシアの影響力が増していると指摘している。

中央アフリカ共和国に派遣されたワグネル・グループの傭兵たち(写真=CorbeauNews/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)
中央アフリカ共和国に派遣されたワグネル・グループの傭兵たち(写真=CorbeauNews/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

欧米諸国であれば支援を提示する際、引き換えに、現地の人権問題の改善を要求するのが通例だ。一方でロシアは、見返りさえ確保されれば現地の政治事情には口出ししない。

フランスの独立系地政学シンクタンク「イースタン・サークルズ」は、ユーロ・ニュースに対し、「若者たちのダイナミズムを支持し、『あなたたちの行動を支持しますし、人権侵害があっても裁きません』と言っていることが(ロシアの)特色なのです」と語る。

ロシアは西側と異なるスタンスをとり、これによってワグネルが現地に巧妙に入り込んでいるのだという。武器供給のほか、政情不安が続く強権国家にとってワグネルは治安維持の頼れるパートナーになったからだ。

■強権政府を守るために、人々の生活を破壊してきた

だが、ワグネルは治安維持の英雄などではない。現地男性がCBSニュースに語った証言は、ワグネルがアフリカの一市民の生活を破壊したケースを克明に物語る。

ウスマンという仮名で取材に応じた中央アフリカのこの男性は、かつて家族で金の取引業を営んでいた。「とても裕福でした」とウスマン氏は振り返る。「家族全員の教育費を賄い、いい暮らしをしました。何も不自由はありませんでした」

2021年、家族が住む町にワグネルが進出したことで、状況は一変した。ウスマン氏の弟は殺害され、姉たちは強姦(ごうかん)され、そして金取引のビジネスはロシア人によって奪われたという。ウスマン氏自身は、ワグネルの基地にある仮設の監獄に連行された。何日にもわたる間拷問を受けたあと、やっとのことで脱出したという。

■繰り返された虐殺、処刑、レイプ…

肩を震わせ、泣き崩れながらウスマン氏は語る。「やつらが私の国にしたこと、私の両親の目の前でしたこと……男として役立たずだと感じました」「やつらは私たちの財産を盗み、家を焼き払ったのです」。一度、盗まれたバイクにまだウスマン氏の名前が書かれているままの状態で、ワグネルの兵士が乗り回しているのを見たこともあるという。

ウスマン氏は、ワグネルが治安維持に貢献しているとの見方に真っ向から反抗する。「ワグネルは国を守るためにここにいるのではありません」「誰が言ったか知らないが、そんなことは大嘘だ!」

CBSは「ワグネルはあらゆるところに目を光らせているのだ」と述べ、取材に応じたウスマン氏が完全に怯えきっていたと伝えている。ウスマン氏は「仮名を使い、身元を隠し、隣国カメルーンで会うという途方もないことを条件に」して、ようやく記者の前に姿を現したほどだったという。

ウスマン氏の事例は、中央アフリカで起きている悲惨な殺害・略奪のほんの一例だ。CBSは、ワグネルによる民間人の虐殺、処刑、レイプの事例を複数確認していると指摘する。

■利権を脅かす存在を徹底的に排除する

事業の邪魔になる存在は、何であれ徹底的に叩き潰す。それがワグネルの手口だ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、今年3月のある晩、中央アフリカで防犯カメラに捉えられたショッキングな一幕を報じている。

フランスの大手飲料会社・カステル社が現地で運営するビール醸造工場に夜間、ワグネルの集団が近づき、柵越しに火炎瓶を投げ込み火災を発生させた。商品のビールに引火し、出荷前の在庫の大部分が焼失した。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、この攻撃はロシアのワグネル・グループによるものであり、アフリカにおけるロシア対西側諸国の影響力争いが表面化した一例だと報じている。

ワグネルは1990年代から中央アフリカ共和国で製造されているカステル社のMOCAFビールに対抗する商品を製造するため、首都北部のバンギに新たなビール醸造所を設立した。新たなロシア製のビールブランド「アフリカ・ティ・ロール」として急速にシェアを拡大している。

軍事的支配だけでなく、このように商品や教育を通じたソフトパワーでも支配を強めているのが、ワグネルのアフリカ支配の実態だ。

アフリカが描かれた地球儀
写真=iStock.com/chrispecoraro
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/chrispecoraro

■ダミー会社で偽装…「ワグネル帝国」の全容解明は難しい

こうした事業のうち、ワグネルが関与を公にしているものはごく一部にすぎない。プリゴジン氏は多岐にわたる方法で、自身の行動やビジネスの実態を隠蔽(いんぺい)していた。偽装工作やペーパーカンパニーの導入、そして移動手段の隠蔽などを通じ活動を秘匿化していたと、ウォール・ストリート・ジャーナル紙が報じている。

商売の実態を掴まれにくくするため、手の込んだ手法を多用していた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、「プリゴジンの取引の多くは、厳重に管理された多数のダミー会社によって覆い隠されていた」と指摘する。この措置はワグネルに有利に働くのみならず、ロシアが影響力を隠蔽する目的も兼ねていたようだ。

記事は、「ワグネル・グループがロシアの影響力を増大させ、アフリカで親欧米政権に対する抗議を扇動し、制裁の回避を助け、クレムリンが(アフリカへの直接的な介入を)否認できるようにするための曇りガラスのようなものだった」と論じる。

同紙によると、商売の実態を不明瞭にするためにプリゴジン氏は、「いくつかの巧妙な手段」を用いていた。まず、取引の多くは、厳重な管理を受けたペーパーカンパニーを経由して行われた。

■見返りは現金払い、天然資源の利権で荒稼ぎ

また、協力者に対して常用された手段として、多くの労働者や傭兵から、料理人や学者に至るまで、報酬は好んで現金払いとした。政府から直接現金を受け取るため、自身のプライベートジェットで出向くことさえ厭(いと)わなかったという。

米超党派組織の外交問題評議会は、「ワグネルのサービスは、反政府勢力や政権を含むクライアントのニーズによって異なり、その資金源は直接支払いから資源の利権まで多岐にわたる」と指摘する。

たとえば2018年、中央アフリカのフォースタン=アルシャンジュ・トゥアデラ大統領政府を防衛するべく、ワグネルの兵士約1000人が中央アフリカ入りした。ワグネルの子会社は見返りとして、制限のない森林伐採権と、高い利益を出しているンダシマ金鉱の管理権を得た。また、2017年以降のスーダンでは、スーダン軍の訓練などの見返りとして、金の輸出を受けている。

こうして、送金記録による把握が難しい手段で見返りを受ける手法を常用していた。

ボツワナのダイヤモンド鉱山での採掘
写真=iStock.com/poco_bw
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/poco_bw

■無関係に見える金鉱も木材輸出も、すべてワグネルにつながっている

ダミー会社もプリゴジン氏お得意の手法だ。CBSニュースは、ワグネルとプリゴジン氏が暴力、偽情報、そして煙幕の役割を果たす「ペーパーカンパニーの銀河系」を駆使し、取引を隠蔽していたと報じている。

記事によれば、プリゴジン氏は中央アフリカの鉱物資源を支配し、それがワグネルの活動の財源になっていた。独立系情報会社のグレイ・ダイナミクスはCBSに対し、中央アフリカのンダシマ金鉱はワグネルの25年間の採掘権の下で運営されていると指摘する。だが、金鉱はプリゴジン氏が関与するペーパーカンパニーである、ミダス・リソースの名の下で運営されている。

さらに、採掘した金をロシア首都へと直接運び出す際にも隠蔽工作が施された。ワグネルは飛行機のトランスポンダーをオフにし、レーダー上での識別を困難にした。こうして税関の規制が緩いアラブ首長国連邦に降り立ち、貨物を積み替えていたという。

■ダミー会社で西側諸国からの制裁を逃れる

さらにCBSの取材により、木材の輸出に関してもダミー会社が用いられていることが明らかになった。伐採権を持つワグネル企業のボイス・ルージュ社は、表向きには木材を中央アフリカ国外に輸出していない。CBSが追跡した木材は書面上、カメルーンからウッド・インターナショナル・グループと称する企業が輸出したことになっている。

だが、調査の結果、ボイス・ルージュ社とウッド・インターナショナル・グループの登記上の住所は同一であり、許認可番号も同一のものを使用していることが発覚した。「調査を逃れるため、フロント企業の名前を変える。これもまたプリゴジンの裏技だ」と記事は指摘する。

CBSニュースは、プリゴジン氏とワグネルが多数の架空企業に関与しており、これらはクレムリンの戦略の一部だと論じている。ワグネルはアフリカ大陸で同盟の輪を広げつつ、天然資源をほしいままにし、西側諸国の厳格な制裁から逃れる新しい方法を模索している――との指摘だ。

エフゲニー・プリゴジン氏(写真=УлПравда ТВ/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)
エフゲニー・プリゴジン氏(写真=УлПравда ТВ/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons)

■ウクライナ戦争の資金源になっているとの指摘も

ワグネルの活動はウクライナ戦争の資金源になっているおそれがある。米CBSニュースは、ロシアがウクライナへの本格的な侵攻を開始して以来、最も血なまぐさい戦闘の多くは東部バクムート周辺で起きていると指摘。こうした戦闘員の多くはロシア兵ではなく、ワグネルから報酬を得ている傭兵だと述べている。

ワグネルが大量の傭兵を雇うには、相応の資金が必要だ。CBSニュースは独自に追跡調査を行ったうえで、ワグネルが中央アフリカの政府に味方し、見返りとして現地の金鉱の利権や木材伐採の許可などを取り付けていると報道。また、ワグネルは戦闘員をアフリカに派遣し、現地政府に対する騒乱の抑制をビジネスとして請け負うことで、ウクライナ戦争での「活動資金の大部分を賄っている」と記事は分析している。

■「アフリカの巨大利権」はプリゴジンからプーチンへ

プリゴジン氏の死後、ロシアの影響力はどう変化するだろうか。米CNNは「モスクワが放ちたいメッセージは、『平常通りである』ということのようだ」と指摘。アフリカにおけるワグネルの活動をロシアが引き継ぎ、中央集権化すべく整理が進められていると報じている。初期からの取引相手国のひとつ、中央アフリカでは、ロシア政府が戦闘員との契約を更新し、主要都市に集約することで運用コストを軽減するよう、再編活動を積極的に進めているという。

米ワシントン・ポスト紙も、中央アフリカ共和国の当局者による情報として、現地にいる1000人以上の傭兵をロシア政府が直接管理する体制に移行しつつあると報じている。

さらにプリゴジン氏の死後、ロシアのユヌス=ベク・エフクロフ国防次官と、軍参謀本部情報総局(GRU)で秘密作戦部門を統括するアンドレイ・アベリャノフ氏は、そろってアフリカ諸国を訪問している。ある西側政府当局者はワシントン・ポスト紙に対し、訪問の主な目的は、「プリゴジンの広大な帝国は、いまや政府の管理下にある」とのメッセージを発信することだろうとの観測を示した。

■プリゴジンの代わりはいくらでもいる

米公共放送のPBSも、ロシアの支配力は残るとの見方を取り上げている。現在のワグネルはより小規模な組織に分割されるが、引き続きロシア政府の下に置かれるという。

同局の報道番組「PBSニュースアワー」に出演した外交・防衛特派員のニック・シフリン氏は、「プーチン大統領はワグネル帝国を解体し、明らかに首を切り落としたようだ」と最新の話題に触れている。

続けて、「プリゴジンは自らを、人気者であり、必要不可欠な存在だと考えていた。そして、ウクライナであろうとアフリカであろうと、彼は個性と残忍さによってワグネルの多様な活動をまとめあげてきた」と、存在感あるプリゴジン氏を振り返る。だがその上で、「プーチン率いるロシアでは、ボス(プーチン氏)以外、誰一人として不可欠な存在ではない」と指摘。プリゴジン氏の代わりはいくらでもいるとの見方を示した。

共演した米シンクタンクのブルッキングス研究所のヴァンダ・フェルバブ=ブラウン氏も、アフリカ各国の政府はロシア依存から脱却できないとの見解を示した。ワグネルの今後についてブラウン氏は、ロシアはアフリカにおけるワグネル帝国を解体した方が管理しやすくなると指摘した。

ブラウン氏によると、複数の会社や人物に置き換えられる可能性が高いという。実際、例えばシリアでは、ワグネル部隊がロシア軍に編入され、ワグネルの指揮官がロシア軍の指揮官と交代しているという。ワグネルには政府への警護サービスから誤情報の流布までを一括して行う「スーパーマーケット」としての利点があったが、プーチン氏としては二度とこのような帝国の存在を許したくないだろう、とブラウン氏は語る。

■ワグネル依存を止められない中央アフリカ

中央アフリカでは、ワグネルとの関係は続きそうだ。現地ではワグネルへの依存が強く、にわかに関係から抜け出せない現状がある。中央アフリカ共和国のトゥアデラ大統領は、ロシアへの感謝を明確に表明している。ワシントン・ポスト紙は親ワグネル色が濃い理由として、内政不安の解消にロシアが貢献したことを挙げている。

トゥアデラ大統領は同紙のインタビューに応じ、2016年に大統領に就任した際、全土の90%が反乱軍に支配されていたと振り返る。政府は首都防衛のための兵器を必要としていたが、過去2013年に反乱軍が政府を転覆したことを受けて国連が禁輸措置を敷いており、入手が困難であったという。そこへ「親切にも援助を申し出た」のがロシアだ。

トゥアデラ大統領は「フランスやアメリカではなく、ロシアが『親切に』援助を申し出た」と強調する。2018年には、ロシアから指導者たちが兵器の使用方法を教育するために送り込まれ、のちにそれがワグネルであることが明らかになった。2020年に反乱軍が政府転覆をもくろんだ際は、さらに多くの兵員がワグネルから派遣された。こうした事情を経て、現在でも政府関係者たちは、ワグネルの戦闘員によって首都バンギが救われたと捉えているのだという。

■大統領顧問のTシャツには「私はワグネルだ」の文字

中央アフリカとワグネルの蜜月は続く。中央アフリカのフィデル・ゴンジカ大統領上級顧問は、ワグネルとの今後の関係を訊ねるCNNのインタビューに、「私はワグネルだ」と書かれたTシャツを着て臨んだ。ワグネルがPR用に配布しているものだ。

プリゴジン氏の訃報を耳にしたゴンジカ氏は、「悲しみ、私たちは泣いた。中央アフリカのすべての人々が泣きました」という。紛争が絶えない同国において反乱軍から身を護ってくれたワグネルに、感謝が尽きないとゴンジカ氏は語る。

CNNの記者が「アメリカは中央アフリカ共和国に、どの国よりも多くの人道支援を行っていますよね」と水を向けると、ゴンジカ氏は「しかし、それはまた別のことです」と応じた。「彼ら(アメリカ)はわれわれに食料を与え、ロシアは平和を与える。われわれは食料よりも平和を愛しているのです」

ゴンジカ氏はまた、「よく聞いてください。貧乏人に選択肢はないのです」とも語る。

「フランスに助けてもらいたかった。アメリカに助けてもらいたかった。彼らに頼んだが、助けることに同意したのはロシアだった。だから結局のところ、こうしてロシアにすがっているのです」

トップのプリゴジン氏が死亡したあとも、ロシアに頼らざるを得ない実情は変わらないだろう、とゴンジカ氏は語った。

■「ワグネル帝国」の解体を狙うプーチンの意図

政情不安が続くアフリカの強権国家の指導者は、人権問題への対応を先送りしてでも、自身の政府を守ろうとする意識が強く働く。こうした国々に、ワグネルは武器や防衛サービスの提供を通じて影響力を拡大してきた。ビールやウォッカなどの販売など民間ビジネスも提供し、文化面でも親ロシア派の市民を育みつつある。

このような活動はワグネルにとって資金源となっているだけなく、国連総会で54票を持つアフリカ諸国を票田と化す作用を生み、ロシアにとって有利に働いてきた。西欧諸国がロシアに制裁を強めるなかで、海外から支持を取り付ける抜け道として機能している。

プリゴジン氏の死後、ワグネルの存在を危険視するプーチン氏は、企業の部分的解体と影響力の抑制を図るだろう。それでもアフリカ諸国がロシア依存から脱却できない以上、ロシアの影響力は依然残るものとみられる。

米シンクタンクのカウンシル・オン・フォーリン・リレーションズは、ワグネルがアフリカに関与した結果、人権侵害が疑われ、当該地域の治安が悪化したケースが多数あると実例を挙げている。2019年のリビアではワグネルが民間人地域に地雷を仕掛けたとされたほか、最近リークされた情報によるとチャドではワグネルが反政府勢力に加勢し、暫定大統領の追放を試みているという。

■傍若無人に振る舞うロシアとワグネル戦闘員

欧米の支援を受けるには人権問題への対応が必須となるが、ワグネルやロシアはその条件を設けていない。結果としてアフリカ諸国は容易に支援を求めることができるが、その結果待っているのは、傍若無人に振る舞うロシアとワグネル戦闘員による支配と、国内の人権問題のいっそうの深刻化だ。

プリゴジン氏の死を受け、プーチン氏は強大で複雑に入り組んだワグネル帝国を解体し、ロシア政府による直轄化に動くとみられる。アフリカの資源を牛耳るだけでなく、国連総会での票をロシアの意のままに操る動きでもあり、国際社会への挑戦とも言えよう。プリゴジン氏の死後も続くロシアの暴虐が懸念される。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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