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ジャニーズタレントが好きな私も「加害者」なのか…喜多川氏とも対面したジャニオタ男子がいま考えること

プレジデントオンライン / 2023年10月18日 11時15分

10月2日、記者会見に出席した東山紀之氏(右)と井ノ原快彦氏 - 撮影=阿部岳人

■オーディションでジャニー喜多川氏と対面した

自分の詳しい分野が社会問題になると、こんなにも社会の歪み、報道のいい加減さ、世間の危うさ……といったものがくっきりと見えてくるものなのだということを日々実感している。

筆者は、小学生のときにジャニーズのタレントに憧れ、今もファンを続けている。2009年には“ジャニオタ男子”として初めてメディアに登場し、2019年には『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)という書籍を執筆している。

2004年にはジャニーズJr.のオーディションを受けたこともあり、その日はジャニー喜多川氏と対面を果たした。

ジャニーズのタレントになるという夢を叶えることはできなかったが、その後も彼らを人生の指針とし、ジャニーズのエンターテインメントを浴び続けてきた。

先に断言しておけば、ジャニー喜多川氏の性加害に関しては巨悪だと強く認識している。オーディションを受けた当日に被害にあったという証言もあり、自分が夢見た未来の先に被害を受ける可能性もあったかもしれないと考えると恐ろしくなることもある。

ただそれでも、“反ジャニーズ事務所”に一方向に一気に流れる風の勢いに、また別種の恐怖を感じる。先日の会見に参加した際には、一部記者による“正義”の名の下に対象を盲目的に追い詰めるような姿や、他人の夢を嘲笑する悪意に直面し、気分が悪くなってしまったほどである。

本稿では、決してファンを代表しようというわけではないが、いちファンとして、この現状に対して考えていることを綴(つづ)っていきたい。

■性加害は絶対に肯定できないが、タレントは応援したい

冒頭から恐縮だが、この話は非常に伝わりにくい話だと認識している。筆者は、雑誌やWEB媒体・自身のSNS上で関連することを発信しているが、この騒動が大きくなればなるほど、ネット上で「ジャニーズを応援している」と言うと、「性加害を肯定するのか!」といった言葉を浴びることが増えた。

実際、ジャニーズ事務所のファンクラブからは会員向けに、タレントを応援していることを理由にSNSで誹謗(ひぼう)中傷を受けるファンへのおわびのようなメールも届いていることから、他にも同じような経験をしている人は多いのだろう。

ただ、筆者を含む多くのファンは「性加害を肯定するわけではない」が「ジャニーズタレントの応援をしている」という人が大半を占めるはずだ。

ジャニー喜多川氏のした性加害は絶対に肯定できないが、ジャニーズのタレントが好き――。それだけのことなのだが、ネット上では理解されることが難しいようだ。

おそらく、その根底にはジャニーズ事務所自体が、良くも悪くもジャニー喜多川氏個人の才能に直結した形で誕生し、大きくなっていったという構造があるだろう。

■少年への執着が性加害につながった

現在、多くのジャニーズタレントが活躍していることと、ジャニー喜多川氏の性加害は、同じ種から咲いた“善の華”と“悪の華”である。

その“種”とはジャニー喜多川氏であり、さらにいえば、ジャニー喜多川氏の少年への執着といってもいいだろう。

現在デビューして活躍するジャニーズタレントは全員が、ジャニー喜多川氏の審美眼によって選ばれ、指導を受けてきた者たちである。「僕には10年後の顔が見えるんだよ」という発言に象徴される氏の人を見る目に関しては拙著で詳述したが、その根底には少年への興味・関心があったはずである。

それがいい方向に作用すれば、少年時代からあれだけの輝きを放てるタレントたちの創出につながり、悪の方向に作用したときに性加害につながってしまった。

ジャニー喜多川氏が性加害という“魂の殺人”を行ったことも事実であれば、氏の創り出したタレントやステージが、多くの人の心を救ってきたこともまた事実である。

ジャニー喜多川氏が行ったことは“すべてが善”でもなければ“すべてが悪”でもない。

その区分けができない人は著名人の中にも多くいて、それがジャニーズの文化そのものを中傷するような動きになっているのではないだろうか。

ジャニーズ事務所は分割され、10月17日より被害者への補償を目的とする新会社「SMILE-UP.」がスタートした
撮影=阿部岳人
ジャニーズ事務所は分割され、10月17日より被害者への補償を目的とする新会社「SMILE-UP.」がスタートした - 撮影=阿部岳人

■なぜ「ジャニーズの長男」と呼ばれるのか

その中傷はもはや“ジャニーズという人種への差別”といっていいほどのものである。その個人が何をしたかではなく、その血をひいているだけで中傷の対象になってしまう。

人種・血という言葉に何を大げさな、と思う人もいるかもしれない。事務所と所属タレントという契約関係に、そのような強い結びつきがあるものかと疑問を感じる方もいるだろう。

だが、ことジャニーズ事務所に関していえば、この言葉は成立すると思っている。メディアは「ジャニーズ事務所の長男・東山紀之」と、タレントまで含めて家族であるような形容をしてきたし、その自覚は本人たちの中にもあっただろう。

ジャニー喜多川作の舞台を死後、KinKi Kidsの堂本光一が演出するようになった『DREAM BOYS』に出演した際、Sexy Zoneの菊池風磨はこのような表現をしている。

「言葉で伝えなくても光一くんが言わんとすることがわかる時があるんです。それは、ジャニーさんの元で育って、おこがましいですけど『同じ血が流れている』からこその感覚」(週刊朝日2021年7月23日号)

少年時代に同一人物にエンターテインメントの真髄を叩き込まれた彼らには同じ血が流れている。そして言語化する必要もなくコミュニケーションをとれる“血”こそが、他事務所に追随を許さない、いや真似をすることができない、唯一無二のエンターテインメントを創出してきたのである。

■被害を受けたかを公の場で聞くべきではない

その血が成立させる家族感こそがジャニーズの魅力のひとつでもある。1回目の会見後、CM契約をしていたクライアント等から「タレントは事務所を移籍するべき」との声が上がった。それはビジネスの論理からすれば正解なのかもしれないが、ファンからすればその実“家族の解体”を迫るものであり、大きく的はずれで暴力的とすらいえるものであった。

彼らが“家族”であるという観点からいえば、“ジャニーズ叩き”が理不尽なものである理由がもうひとつ浮かび上がってくる。

そもそも、ジャニーズのタレントたちは、ジャニー喜多川氏の性加害に関して“被害者”である可能性を有する人たちである。彼らに被害を受けたかどうかを会見で聞くなどはもってのほかで、むしろ加害することがないよう慎重に対峙(たいじ)すべき人たちであることは明白だ。

さらに、彼らが“家族”であるという観点からすれば、彼らは“加害者遺族”でもある。具体例を挙げるまでもなく、この国では大きな事件が起きたときに、その加害者本人だけではなく、家族までも生きづらくさせるような空気ができあがる。それは報道加害といっていいものだろう。

会見場で待機する報道陣
撮影=阿部岳人
会見場で待機する報道陣 - 撮影=阿部岳人

9月の会見で、新体制となったジャニーズ事務所は、ジャニー喜多川氏という“父”の罪を認めた上で、ジャニーズという名前を残す選択をし、自分たちの“家族”を守ろうとした。

だが、その後の世間のバッシングによって、社名変更からの廃業という、家族の離散まで強要された――そう映ってしまうのである。

■メディアも事実より“空気”を優先させている

そして、過熱する報道自体も、正当性があるか疑わしいものも多い。

例えば、ジャニーズ事務所が文藝春秋社に対して名誉毀損(きそん)だとして起こした民事裁判の判決についても、東京新聞は文藝春秋社が「勝訴」という明らかな誤報を出していた。

2003年の高裁判決では文春側が4つの争点で敗訴し、文春側に賠償金120万円の支払い命令が下っており、ジャニー喜多川氏による行為については「真実相当性が認められる」としている。「真実相当性」という判決を「真実」という言葉に回収して語るコメンテーターもいる。

性加害は容認できないとはいえいくら何でもいい加減な報道であり、この国では事実よりも空気のほうが重要視されるのでは、と感じてしまうほどである。

筆者自身は「刑事裁判で有罪判決が出ていないから、ジャニー喜多川氏に罪はない」と言うつもりはない。法律で裁かれていない悪事も世の中には存在するだろう。だが、少なくとも、裁判で法的な責任が科されたわけではないにもかかわらず、「法を超えて」被害者を救済すると自ら宣言したジャニーズ事務所の対応は、そこまで責められるべきなのだろうかという疑問は強く抱いている。

そしてその“誠実さ”がカモにされているようにも感じるのである。

■被害者救済の妨げになってしまっていないか

「性加害を認めろ」「社長やめろ」からはじまり、事実として認定し、藤島ジュリー景子社長が辞任すると今度は「社名を変えろ」「タレントを移籍させろ」「私財を投じろ」、社名を変えてエージェント制への移行を発表し、税金の納付を約束すれば、責めるところがなくなったのか、コンサル会社が作っていたNGリストを理由に難癖をつける……。

ジャニー喜多川氏の犯した罪だけではなく、理由はなんでもいいからジャニーズ事務所を叩けばいいと考えているかのような報道の連鎖。責めること自体が目的化しているようにも見えるその行為は、実質的に被害者救済の妨げになってしまうのではないだろうか。

10月2日、記者会見に出席した東山紀之氏(右)と井ノ原快彦氏
撮影=阿部岳人

ジャニーズ事務所が今月9日に発表した報道各社に十分な検証を要望する声明は、その妨げへのせめてもの抵抗にも感じた。

これまで、事務所に批判的な視点も含めてコメントをしてきたKAT-TUNの中丸雄一も、2回目の会見後には「この会見って第一の目標は、被害に遭われた方がこの後、どうなっていくのかを社会で見守っていきましょうということだと思う」

■簡単に“正義”の側に立とうとする危うさ

「(再発防止)特別チームの提言以上のものを発表したと僕は思っているので、それがしっかりと報じられなかったのは残念」(日本テレビ系『シューイチ』10月8日放送)と語っていたのも、この流れへの危機感によるものだろう。

この流れの中では、少なくとも、当の被害者である元ジャニーズJr.の橋田康さんが、タレントや藤島ジュリー景子氏を慮って「実害的なものとは別として、全員が被害者の状態」(日本テレビ系『news every.』2023年9月7日放送)と語るような視点はどのメディアも持ち合わせていないようである。

もしくは、被害者側が加害者側を慮る、加害者側のジャニーズ事務所の中にも被害者としての要素があるという白と黒が混ざる複雑な事態を説明する力を持ち合わせていないのかもしれない。

本稿も、性加害を肯定していると曲解されかねないが、この複雑さを説明するには、こうして言葉を尽くさなければいけないのに対し、今はジャニーズ事務所を糾弾すれば簡単に“正義”の側に立つことができる。

国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会や、再発防止特別チームからも、マスメディアにも責任の一端があると指摘されているが、この状況を鑑みると、ジャニーズ事務所を責めることで彼らを“唯一の悪”にして、自分たちはインスタントに正義の側につこうとしているようにすら見えるのである。

■「死にたい」「ファンだと公言しづらくなった」

最後に、この状況を受けてファンの心情について付記しておきたい。

報道が過熱するにつれ、筆者のもとにも見知らぬファンの方から「死にたい」「眠れなくなってしまった」というメールも届くようになり、報道初期にあった性加害の事実自体への動揺以上に、ジャニーズ叩きの空気への苦しみのほうが重いかのようでもある。

そして、ファンの中には自身にも加害意識を感じる人もいる。「ファンも共犯だ」「なぜ声を上げなかったのか」といった声をSNS上で目にし、自責の念を感じている。

ジャニー喜多川氏の性的嗜好は、氏の舞台を観れば演出やセリフから察することができた。ただ、確かな証拠はない。ましてや、その嗜好が性加害行為につながっていたことは知る由もない。今回、ファンも再発防止特別チームの発表で初めて公式に「性嗜好異常」という言葉で氏が「思春期少年を性愛対象」にしていたことを知ることになった。

ファンは、先の表現を使えばジャニーズの“善の華”しか見てこなかった。確証がない段階で何かいえば、仮に加害行為がなかった場合、それは氏の性的嗜好だけを勝手に晒(さら)す下劣な行為になる。そこまでは誰も踏み込めなかったのではないだろうか。

2023年10月2日、東京都千代田区(フォーシーズンズ ホテル大手町・グランドボールルーム)でのジャニーズ事務所会見
撮影=阿部岳人

■「現場さえあればいい」という人も

ただ、実際の知人の範囲内では「ファンだと公言しづらくなった」という人はいたものの「ファンをやめようと思う」という人は皆無だった。

エージェント契約への移行に伴い、グループの形が変わる可能性があること、それに関連する報道には、大きく不安を抱いている。

一方、CMの契約解除やテレビ出演が減少するという報道に対しては「ショックではある」ものの「現場(コンサートや舞台などの実際にパフォーマンスを見られる機会=筆者注)さえあればいい」というスタンスが主流だった。

むしろ、この状況を受けて「さらに応援しなければ」と言う人も多くいて、それは例えば、YouTubeの『ジャにのちゃんねる』の登録者数が、更新の一時休止を発表したにもかかわらず増加したり、2年前に発売された、なにわ男子のデビュー曲『初心LOVE』がここにきて売り上げを伸ばすといった数字にも表れているようである。

■“好き”とすら言えないこの空気が恐ろしい

対称的に、これまでメディア上でファンを公言してジャニーズのコーナーまで持ち、キー局を退社後もYouTubeチャンネルでジャニーズについて語っていた男性アナウンサーが急に言葉少なになってしまっている様子を見ると、結局はビジネスやファッションとしての“好き”だったのかと訝しがってしまうとともに、自分の“好き”すら言えないほど、一方向に流れるマスメディアの空気は強いものなのかと怖くなってしまう。

逆に、純粋なファンたちの、ビジネスではない真の“好き”の強さにも触れると、彼らの“血”は実はファンの中にも入っていて、それは今後、事務所の名前や形が変わっても残っていくものなのではないかと感じている。

そう、なによりファンクラブの名前はジャニーズファミリークラブである。ファンのひとりとして、その血は自分の中にも流れていることだろう。16日をもって、ジャニーズの名前は消えてしまった。ただ、名前は消えても、流れている血は消えることはない。そう信じている。

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霜田 明寛(しもだ・あきひろ)
作家/チェリー編集長
1985年生まれ・東京都出身。早稲田大学商学部在学中に執筆活動をはじめ、『面接で泣いていた落ちこぼれ就活生が半年でテレビの女子アナに内定した理由』(日経BP社)など3冊の就活本を出版。企業講演・大学での就活生向け講演にも多く登壇する。4作目の著書『ジャニーズは努力が9割』(新潮新書)は6刷・3万部突破のロングセラーとなり、『スッキリ』(日本テレビ系)・『ひるおび』(TBS系)等で紹介された。静岡放送SBSラジオ『IPPO』準レギュラーをはじめ、J-WAVE・RKBラジオなどラジオ出演多数。Voicy『シモダフルデイズ』は累計再生回数200万回・再生時間15万時間を突破している。

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(作家/チェリー編集長 霜田 明寛)

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