「同じ釜の飯を食った仲」を英語で言うと…AI翻訳の専門家が「ChatGPTが英語アレルギーを救う」と断言するワケ
プレジデントオンライン / 2023年10月22日 12時15分
■従来の機械翻訳では「伝わる英語」なのかがわからない…
「私たちは同じ釜の飯を食った仲だ」
たとえば、この文章を英語で友人に伝えたいとします。パソコンやスマホで機械翻訳に入れてみましょう。出てきた答えは、“We all ate from the same pot”。
──これは本当に伝わる英語なのか? 誤訳ではないか? というか、私は英語力がないから判断できない。そもそも英語アレルギーなのだ……。
たちまち行き詰まってしまいます。これは、従来の機械翻訳の限界です。結局のところ、機械翻訳の英語が正しいのかどうかを判断するためにも、使う人の側に英語力が求められるのです。
これは、ある意味で、矛盾で悪循環です。たとえるなら、自動運転が安全運転できているのかを確認するために、運転免許証を持った人間のドライバーが見張っていなければならないような状況です。
■ChatGPTは最良の英語パートナーになる
しかし、大規模言語モデルはまったく違います。とくにChatGPTでは、出てきた英語が通じるのかどうかを、日本語で質問をして訊(き)いてみればよいのです。
以下のようにプロンプト(指示)を出して質問してみましょう。
[質問]
「私たちは同じ釜の飯を食った仲だ」という日本語の表現を英語話者の友人に伝えるのに、ある機械翻訳は“We all ate from the same pot”と訳しました。これは通じるのでしょうか?
[回答]
「私たちは同じ釜の飯を食った仲だ」という表現は、日本語の特有の慣用句であり、直訳すると英語話者にその深い意味が完全には通じない可能性があります。この表現は、単に同じ食事を共有したという意味だけでなく、同じ経験や苦労を共有して、仲間意識や絆(きずな)を深めたという意味も込められています。
したがって、“We all ate from the same pot”では、その精神的な側面まで表現しきれないかもしれません。もし、このフレーズを英語で表現するなら、“We've been through thick and thin together” や “We've shared the same hardships”といった表現が近いかもしれません。
これらの表現は、共に経験や苦労を共有し、絆を深めたことを意味しますので、言いたいことをより正確に伝えられるでしょう。
たとえば、こんな答えを返してくれるでしょう。
この例からもわかる通り、ChatGPTは単なる翻訳ツールではなく、私たちのコミュニケーションパートナーともいえる存在となりました。
英語での発信をサポートしてくれるだけでなく、私たちが英語での意思疎通を通じて世界に羽ばたくお手伝いをしてくれます。
■AIへの指示=プロンプトが鍵を握る
上で見たように、「私たちは同じ釜の飯を食った仲だ」を“We all ate from the same pot”と翻訳するのは誤訳ともいえます。
しかし、ChatGPTに、それが「英語で通じるのか」、「誤訳はないか」、「英語でどう伝えたいのか」をプロンプト(指示)で指示すれば、柔軟かつきめ細やかに対応してくれます。
まさに自分の代わりに英語を生成してくれるツールなのです。
そのための鍵となるのが、「プロンプト(指示)」です。ChatGPTに何かをしてもらいたいときには、プロンプト(指示)を書く必要があります。プロンプトは日本語で書けるので、英語アレルギーの人にも問題ありません。
■プロンプトはレストランでの注文のようなもの
プロンプトとは、料理でたとえるなら、レストランでの注文です。ステーキを食べたいのであれば、肉の種類、焼き加減、サイドメニュー等を伝えます。
同様に、ChatGPTに自分が言いたいことを英語にしてもらいたい場合は、どうすればよいでしょうか。
レストランでステーキの焼き加減を指定するために、「レア」「ミディアム」「ウェルダン」のような言葉を知っているとより便利なのと同じように、言葉を説明できる言葉、すなわちメタ言語を知っておくと便利です。
■言葉を構成する2要素:「命題」と「モダリティ」
言葉は大きく分けて、2つの構成要素で成り立っています。「命題」と「モダリティ」です。コミュニケーションは、「言いたいことを伝える(命題)」と「それをどう伝えるのか(モダリティ)」の2つの要素で成り立っています。英語の文も同様に、命題とモダリティに分けられます。
つまり、「伝えたい内容」と、「伝える相手」「伝える目的」をプロンプトに指定するのです。
伝えたい内容はあなた自身が言いたいことです。伝える相手とは、仕事場であれば、上司であったり、日常的な場面であれば、友達だったりします。
ここで重要なのは、話し相手によって、言葉の丁寧さ(モダリティ)が変化するということです。上司に話しかけるのであれば敬語で話すでしょうし、友人との会話ではカジュアルな言葉遣いかもしれません。つまり、プロンプトにどのような英語のモダリティにしたいのかということを指示しておくことが重要です。
このモダリティのように、言葉を説明するための言葉を「メタ言語」といい、それを使いこなす能力を「メタ言語能力」といいます。
![AIプロンプトのデジタルイラスト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/8/1200wm/img_08e63b5da32a30fad59b5043a54d6037382088.jpg)
■メタ言語を使ってAIに指示を出す
メタ言語能力とは、すなわちどのような英語にしたいのかということを、言語化できる能力と換言することもできるでしょう。
以下にプロンプト例を記します。
[プロンプト]
下の【伝える内容】の日本語を英語に翻訳してください。その時に、【伝える相手】と【伝える目的】を考慮してください。
【伝える相手】ビジネスでの顧客の担当者
【伝える目的】無礼のない丁寧に伝える英文メールにする
【伝える内容】今週の木曜日に予定されていた会議を延期したいです。今までマイケル様とは何度もやりとりをして、せっかく決定したスケジュールだったのに本当に申し訳ありません。ご都合を教えてください。
[回答]
Subject: Request to Reschedule Thursday's Meeting
Dear Michael,
I hope this message finds you well. I regret to inform you that I must request to reschedule our meeting planned for this Thursday. I sincerely apologize for any inconvenience this may cause, especially given our prior arrangements.
Could we explore alternative dates that suit your schedule? I appreciate your understanding and flexibility.
Warm regards,
[Your Name]
プロンプトに合わせて、ChatGPTが英語メールの雛型を作成してくれました。
■日本人は英語を流暢に使うためにAIを使おう
上の例文で見たように、ChatGPTが生成する英語のモダリティの精度の高さと、その的確な説明力について理解できたでしょう。ChatGPTの英語の流暢(りゅうちょう)性はとても高く、ネイティブの英語話者のような表現ができます。
熟練した英語学習者であっても、ネイティブ話者のような流暢な英語を書くのは困難です。TOEIC900点以上の実力があったとしても、流暢性に関してはChatGPTにはかないません。
つまり私たちは、英語を流暢に使うために、AIを活用すべきなのです。逆に、ChatGPTが出力した英語の流暢性を修正しようとしても、私たちの英語力では及びません。
となると、ChatGPTを活用するためには、言いたいこと(命題)をクリアにすることに、私たちは時間と努力を費やしたほうが得策だということです。
■英語でも伝え方が9割
伝え方は、実際のコミュニケーションでは、重要な役割を果たします。
『伝え方が9割』という本が人気になったことから推察されるように、現代社会では、「伝え方」「言い方」(すなわち「流暢性」)が、とても重要なのです。
これは、当然ながら英語で伝えるときも重要です。
■ChatGPTで伝え方を磨いた英文を作る
ChatGPTを使えば、プロンプト1つで、同じ原文から、平易な英文も、格式高い英文も作れます。上で学んだプロンプトの応用例を見てみましょう。自分の英語レベルに合わせた表現も作成してくれます。
[プロンプト]
次の日本語の【原文】を英語に訳してください。そのときに、【伝える相手】と【伝える目的】を考慮してください。また英語のレベルを日本人の高校1年生くらいに設定してください。英語訳を2種類ください。
【伝える相手】私の会社の上司と、その家族
【伝える目的】クリスマスパーティーにおいて口頭で伝える
【原文】12月になってからとても寒くなりました。どうぞお体にはお気をつけください。また来年一緒に旅行に行きましょう。
[回答]
英語訳を2つご提案いたします。メッセージはシンプルで、高校1年生の英語レベルにも適しています。
### 英語訳1:
“December brought the cold, didn't it? Please make sure to stay warm and healthy. How about we plan another trip together next year?”
### 英語訳2:
“It's become so cold since December started! Please take good care of yourselves. Let's go traveling together again next year, shall we?”
#### 説明:
──英語訳1では、“December brought the cold, didn't it?”(12月が寒さを運んできましたね?)と、一緒に冷え込みを体験している感じを出すために疑問形を使い、コミュニケーションを和やかにしています。
──英語訳2では、“It's become so cold since December started!”(12月が始まってからとても寒くなりましたね!)と、一言目から明るく元気なトーンを出して、元気なムードを作っています。
両方とも、続く文もややカジュアルな言い回しをしており、上司やその家族との関係性がアットホームであることを想定しています。フレンドリーながらも、相手を敬っている言葉を選びました。
■AIから英語を学ぶ時代の到来
プロンプトを駆使することで、流暢な英語を生成することができることを学びました。ただ、1つ懸念があるとすれば、大規模言語モデルに頼りきりになって、私たちの英語力が低下してしまうのではないかということでしょう。
![山田優『ChatGPT翻訳術 新AI時代の超英語スキルブック』(アルク)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/1200wm/img_7ed4b674d492d6cd44fb339415bc47ef268164.jpg)
しかし、これも使う人次第です。
一昔前では考えられなかったことですが、いまや機械翻訳や大規模言語モデルの英語を手本と見立て、よりよい英語表現を学ぶGood Modelという学習スキームも定着し始めています。
上で紹介したようなプロンプトを応用して、ChatGPTから身の丈にあった英語表現、時には自らの英語レベルよりも高い表現を生成してもらい、それを覚えて、自分で使える英語表現になるように学習してみてください。
本稿で紹介したChatGPTへのプロンプトについては、『ChatGPT翻訳術 新AI時代の超英語スキルブック』で詳述しています。ご興味のある方はご参照ください。
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立教大学異文化コミュニケーション学部教授
米国ウエストバージニア大学大学院修士(言語学)。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科博士(異文化コミュニケーション学/翻訳通訳学)。フォードモーター社内通訳者、産業翻訳者を経て、翻訳ラボを設立。八楽チーフ・エバンジェリスト。オンラインサロン翻訳カフェ主宰。日本通訳翻訳学会(JAITS)理事、一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)理事歴任。共著書に『自動翻訳大全』(三才ブックス)、『Metalanguages for Dissecting Translation Processes』(Routledge)、近著に『ChatGPT翻訳術 新AI時代の超英語スキルブック』(アルク)がある。
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(立教大学異文化コミュニケーション学部教授 山田 優)
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