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なぜ過去最高益なのに株価が急落したのか…「記録的好業績」の裏でセブン&アイを悩ませる根本課題

プレジデントオンライン / 2023年10月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

セブン&アイ・ホールディングスが発表した2023年3~8月期連結決算は、営業利益が2411億円と過去最高を更新した。企業アナリストの大関暁夫さんは「セブン&アイは好業績にもかかわらず、株価が伸び悩んでいる。この背景には、井阪社長の現状維持路線への厳しい評価がある」という――。

■「小売の神様」肝いりの買収

百貨店としては61年ぶりの労働組合によるストライキ決行で、禍根を残したままそごう・西武を外資系ファンドに売却したセブン&アイ・ホールディングス(以下セブン&アイ)。流通業界の雄であるセブン&アイが、なぜこのような失態を演じてしまったのか。その理由を突き詰めていくと、セブン&アイの根底にあるマネジメント面での危うさが浮かび上がってくるのです。

セブン&アイは、2000年に倒産したそごうと債権放棄を受けて経営再建中の西武百貨店(以下西武)の統合で設立されたミレニアムリテイリングを06年に買収しました。これは、グループ内に百貨店の顧客層を新たに取り込むことで、顧客基盤拡大を狙ったものでした。

当時の会長(兼CEO)で、コンビニ最大手セブン‐イレブン・ジャパンの生みの親、鈴木敏文氏が「流通の各業態を複合的に結びつけ、グループとしてのシナジーを生ませる」と胸を張る、自信に満ちた戦略だったのです。

■そごう・西武が「お荷物化」した理由

三越、高島屋、伊勢丹、大丸、松坂屋などの大手百貨店各社は、老舗名門呉服店をその発祥とする成り立ちゆえに、大口取引先である富裕層が確固たる存在として経営基盤を支えています。しかし、中小呉服店を発祥とするそごうや電鉄系の西武は、そのような存在に乏しいまま、バブル経済に躍った庶民層の購買力により急成長してきました。

そのため、バブル崩壊後は経営に行き詰まります。両社が経営統合して誕生したそごう・西武は、いわば負け組連合でした。「小売の神様」と言われたカリスマ鈴木氏でも、長引くデフレ経済と急速な流通のデジタル化は想定外だったのか、買収後の立て直しには苦戦を強いられてきました。

そごう・西武が明らかに「お荷物化」したのは、16年にセブン&アイ内部でのいざこざ(詳しくは後述)から鈴木氏が退任し、現社長の井阪隆一氏に交代して以降のことです。井阪氏は1980年にセブン‐イレブン・ジャパンに入社し、コンビニ一筋でそのキャリアを歩んだ人物です。結果として、そごう・西武とのシナジーを生むことはできませんでした。そごう・西武は、統合時の28店舗から10店舗にまで縮小し、衰退の一途を歩んでいったのです。

■外資系ファンドへの売却を巡る混乱

この流れを受けて、物言う大株主である米バリューアクト・キャピタルが早期の部門売却を求めました。アクティビストとの対立を避けたい井阪セブン&アイは、22年2月にそごう・西武の売却交渉を開始。複数のオファーの中から、同11月に米投資ファンドであるフォートレス・インベストメント・グループ(以下フォートレス)に売却するということで基本合意しました。

しかし、フォートレスのバックに家電量販のヨドバシホールディングスが存在し、買収後に旗艦店である西武池袋店はじめ大型店舗のメインテナントをヨドバシカメラとする計画が分かると事態は急転します。池袋周辺の街づくりの観点から、まず豊島区が反対の狼煙を上げ、そごう・西武の労働組合もヨドバシ出店後の雇用継続に対する不安から売却契約の破棄を求めたことで、フォートレスへの売却は遅々として進まなくなったのです。

最終的には、フォートレスから圧力を受けたセブン&アイが強引な幕引きをはかりました。その結果、冒頭に触れた61年ぶりのストライキ決行を招き、経営も労働者も顧客も地域住民も後味の悪さばかりが残る売却決着となったわけなのです。

池袋駅東口
写真=iStock.com/y-studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/y-studio

■経営の根底に見え隠れする「歪み」

この結末の背景には、セブン&アイの経営の根底に見え隠れする「歪み」に起因するマネジメントの弱さがあると見ています。その「歪み」を象徴する出来事が、16年のトップ人事を巡るいざこざでした。

セブン‐イレブンというコンビニ事業の導入でグループを大躍進に導き、カリスマ経営者として絶対的な地位にあった鈴木敏文会長は、セブン‐イレブン・ジャパンの井阪社長(当時)に退任を命じました。しかし、これを不服とした井阪氏が鈴木氏と確執のあった創業者でオーナー家の伊藤雅俊氏を味方につけて形勢を逆転させ、鈴木氏を退任に追い込んだのです。

伊藤氏は、セブン‐イレブンの大成功で社内を思いのままに支配するようになった鈴木氏を快く思っていなかったと言われています。両者間の確執の存在は、鈴木氏自身が退任会見で認めています。これは見方を変えれば、カリスマ創業家の存在というガバナンス不全リスクであるともいえます。

■求められる「イトーヨーカ堂の切り離し」

そんなガバナンスリスクを抱えた井阪セブン&アイが、そごう・西武問題と同様にアクティビストから改善を求められている課題が、イトーヨーカ堂の切り離しによるコングロマリット・ディスカウントの解消です。2015年に米サード・ポイントがヨーカ堂の切り離しを求めていますが、井阪体制下で遅々として進まぬ改革への取り組みに対し、しびれを切らしたバリューアクトが、コンビニ事業のスピンアウトという形で22年に再度同じ要求を突き付けたのです。

度重なるアクティビストからの改善要求に対して今年3月に井阪氏が出した答えは、不採算店舗の閉鎖、アパレル事業からの完全撤退と「食」への集中などからなる、「ヨーカ堂の切り離しはしない」という改革案でした。

ここで驚くべきは、ようやく出された改革案の中身が、20年前に瀕死(ひんし)の状態にあったダイエーが打ち出したスーパー事業改革案とそっくりだったことです。ダイエーはご存じの通り、この改革案では窮地を脱することができず、ほどなくイオン傘下となっています。

■創業家に対する忖度が指摘されている

井阪セブン&アイがヨーカ堂の切り離しを渋る背景には、創業家に対する忖度(そんたく)があると海外ファンドなどから指摘されています。今年3月、ヨーカ堂創業者の伊藤雅俊氏が他界しましたが、直後に故人の次男・順朗氏がセブン&アイ代表取締役に就任し、ヨーカ堂の事業を統括すると発表されました。創業者亡き後もヨーカ堂は創業家とともに守る、というトップのメッセージとも受け取れる人事でした。

セブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長
写真=時事通信フォト
決算説明会で不振に陥っている百貨店・スーパー両事業の構造改革を発表するセブン&アイ・ホールディングスの井阪隆一社長=2019年10月10日、東京都渋谷区 - 写真=時事通信フォト

バリューアクトは当然、改革案に納得せず、経営陣の交代を求める株主提案を提出しました。セブン&アイはこの株主提案をなんとか退けましたが、株主からの評価は厳しく、井阪社長への信任は約76%と前年の約95%から約20ポイントも下げてしまいました。

2019年にはセブンペイ事業の撤退という大きな痛手もありました。同年7月にスタートした独自のデジタル決済サービスは、セキュリティの甘さから不正利用が相次ぎ、わずか数日で実質利用停止。3カ月でサービス廃止に追い込まれました。

事業撤退の実損は約30億円とされていますが、これにより同社はデジタル戦略で大きく出遅れたわけで、損失の大きさは計り知れません。

■23年3~8月期決算では過去最高益

このような状況下でもセブン&アイの業績そのものは好調です。直近の23年3~8月期決算では、売上5兆5470億円、純利益はそごう・西武売却による特別損失があり802億円にとどまったものの、営業利益で過去最高の2411億円を計上しています。

しかし中身をみれば、国内外のコンビニ業績に支えられた一本足状態です。国内コンビニ事業はインバウンドの回復もあって客数が増加。商品価格の上昇で客単価も伸びています。

問題はこの好調がいつまで続くのかがわからない点です。海外は昨年来の急激な円安とガソリン高の恩恵が引き続きあり、売上のかさ上げに貢献しています。一方でガソリン高の一服感もあって、先行きには不透明感も漂い始めています。

加えて米国のガソリン事業は、EV化の進展によって大きく影響を受けることが必至であり、同社にとっては早期に米コンビニ事業のテコ入れをはかっていくことが重要な課題となっています。

■セブン&アイと対照的に高く評価されるイオン

したがって、最高益でも株価の反応は悪く、発表翌日は4%以上も株価を下げて終わっています。ライバルのイオンも同じく3~8月期決算を発表し、営業利益で最高益を計上しました。こちらはセブン&アイとは対照的に株価の反応が良く、発表翌日は決算内容を好感して約3%株価を上げています。

両社の株価の値動きは、市場からの期待値が反映されていると言っていいでしょう。

イオンは独自の経済圏確立が高く評価されています。具体的には、マックスバリュ、マルエツ、カスミの持ち株会社化以降、強化を続けてきた食品スーパー群と総合食品スーパーのイオンリテールとの相乗効果、イオンリテールを核店舗として各地で強い集客力を発揮しているイオンモール、スーパー業態との相乗効果を見込んで子会社化したウエルシアホールディングス、さらにはコンビニ業態を持たないイオンが食品事業という強みを活かした小型食品スーパー「まいばすけっと」の拡大展開などがあります。

イオン札幌店
写真=iStock.com/winhorse
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/winhorse

■「凡人経営者」井阪社長の次なる一手は

一方、セブン&アイに対する市場の評価は厳しいようです。ヨーカ堂改革問題、次世代デジタル戦略、海外コンビニのテコ入れに加えて、国内コンビニにおいても24時間営業の是非や人手不足問題、都心部で食品に特化するヨーカ堂との競合など、課題は山積しています。

米国で見た小売りのセルフサービス方式をいち早く取り入れ、ヨーカ堂のチェーン展開で事業を躍進させた創業者・伊藤雅俊氏と、米国発のコンビニをフランチャイズ方式で拡大し流通革命を起こした中興の祖・鈴木敏文氏。井阪セブン&アイはこの7年間、二人の名経営者が築き上げてきた遺産で暮らしてきたといえます。

井阪社長は、鈴木敏文氏を「天才」としたうえで、自らを「凡人経営者」と評価しています。アクティビストから「NO」を叩きつけられ、株主の信任も揺らぎつつある今、過去の延長ではない「脱凡人」としての一手が求められているのではないでしょうか。

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大関 暁夫(おおぜき・あけお)
企業アナリスト
スタジオ02代表取締役。1959年東京生まれ。東北大学経済学部卒。1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門のほか、出向による新聞記者経験も含めプレス、マーケティング畑を歴任。支店長を務めた後、2006年に独立。金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。

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(企業アナリスト 大関 暁夫)

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