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「英語はネイティヴに習ったほうがいい」とは限らない…英会話スクールの謳い文句にダマされてはいけない理由

プレジデントオンライン / 2023年10月22日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Prostock-Studio

海外でも通用する英語力とはどんなものか。立教大学異文化コミュニケーション学部の中田達也教授は「ネイティヴ・スピーカー並みに話せるようになることに憧れる人は多いが、その必要はない。世界では外国語として英語を話す人のほうが、母語として話す人よりもはるかに多い」という――。

※本稿は、中田達也『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

■ネイティヴだから教えられるとは限らない

「ネイティヴ・スピーカー講師から授業が受けられる」ことを売りにした英会話スクールは多くみられます。その背景にあるのは、「英語はネイティヴ・スピーカーに習った方が良い」という信念でしょう。しかし、これまでの研究をふまえると、そのような信念は必ずしも正しくないようです。

その最大の理由は、母語話者であるからといって、その言語についてうまく説明できるとは限らないことです。専門的な話になりますが、言語に関する知識は、「宣言的知識」(declarative knowledge)と「手続き的知識」(procedural knowledge)とに分けられます。宣言的知識とは、言葉で説明できる知識のことです。例えば、「複数形の名詞を作るには、単数形の語尾に-sをつける」などの知識は、宣言的知識の一種です。一方で、手続き的知識とは、実際に何かができることを指します。例えば、英作文で複数形の名詞を実際に使える場合、この文法事項に関する手続き的知識があると言えます。

英語の授業では、まず複数形や過去形に関する文法ルールを明示的に教えることが多いでしょう。これは、宣言的知識を教えていることになります。その後、文法ドリルなどの練習を通して、そのルールが実際に使える状態を目指します。これは、手続き的知識の習得を目指しているといえます。

■母語だからこそ「言葉で説明できる知識」を教えるのが苦手

外国語学習者の場合、優れた宣言的知識を持っていても、手続き的知識には結びついていないことが多いようです。例えば、「複数形の名詞を作るには、単数形の語尾に-sをつける」というルールは知っているけれど、英語を話したり書いたりする際には、つい-sをつけ忘れてしまうことは珍しくありません。この場合、複数形の-sに関する宣言的知識はあるものの、手続き的知識の習得が不十分といえます。

一方で、母語話者の場合、手続き的知識を持っていても、宣言的知識を持っていないことが多くあります。例えば、「仮定法過去と仮定法過去完了のルールについて説明してください」と言われて、即答できる英語の母語話者は多くないでしょう。しかし、実際の会話や英作文では、彼らは問題なく仮定法を使えます。つまり、仮定法に関して手続き的知識を持っていても、宣言的知識を持っていないのです。

このような現象は、何も英語の母語話者に限った話ではありません。日本語でも、「『食べる』という動詞は五段活用ですか? 下一段活用ですか?」「『楽しい』と『うれしい』はどう違いますか?」「『は』と『が』はどう違いますか?」ときかれて、即答できる人は多くないでしょう。しかし、このような質問に答えられなくても、日本語母語話者であれば、「食べる」を正しく活用し、「楽しい」と「うれしい」を使い分け、「は」と「が」を適切に使いこなせます。

■たった3日のトレーニングで教壇に立つ講師も珍しくない

ここまでの説明でおわかりの通り、母語話者の多くは、母語について手続き的知識を持っていても、宣言的知識を持っていないことが多くあります。もちろん、言語学や言語教育について専門的なトレーニングを受けた母語話者であれば、十分な宣言的知識を持っていることもあるでしょう。しかし、英会話スクールで教えている講師の中には、英語教育とは関係のない分野で大学を卒業し、ごく短期間のトレーニング(例:3日~1週間程度)を受けただけで教壇に立つ人も珍しくないようです。

ですから、「分詞構文のルールを教えてほしい」「不定詞の用法について教えてほしい」と希望するのであれば、母語話者ではない英語教員の方が適切に答えてくれる可能性が高いでしょう。母語話者であるからといって、その言語についてうまく説明できるわけではないため、「英語はネイティヴ・スピーカーに習った方が良い」とは限らないのです。

さらに、英語を外国語として苦労して身につけた経験がある非ネイティヴ講師の方が、英語を母語として自然に身につけたネイティヴ講師よりも、実体験に基づいた的確なアドバイスができることがあります。

だからといって、母語話者から英語を習うのがまったく無意味なわけではありません。例えば、「ネイティヴ講師は英会話の練習相手と割り切って、文法に関する説明は非母語話者の講師にしてもらう」などの棲み分けをすれば、両者の強みを生かせるでしょう。

英語を母語話者から学ぶことの利点と欠点をふまえ、「講師は全員ネイティヴ・スピーカー」といった宣伝文句に惑わされないようにしましょう。

■母語話者のようにならなくても英語は使いこなせる

ネイティヴ講師に習いたい方が後を絶たないのは、「ネイティヴ・スピーカー(母語話者)のように英語を話せるようになりたい」と夢を抱く方が多いからかもしれません。しかし、2歳~10代後半頃までに英語圏に移住しないと、母語話者のような英語力を習得するのはきわめて困難になることが示されています。

でも、悲観する必要はありません。これまでの研究では、母語話者のような英語力がなかったとしても、英語を十分に使いこなせることが示唆されています。

例えば、成人の英語母語話者は2万程度の英単語を知っていると言われていますが、映画や会話などの話し言葉は6000~7000語程度、小説・新聞などの書き言葉は8000~9000語程度を知っていれば理解できます。文法に関しても、映画で使われている文法事項の多くは日本の中学校で習うものであり、高校で習う文法事項はほとんど使用されていなかったという研究があります。

さらに、大学入試問題の約80%が中学英文法の知識だけで解答できるという報告もあります。これらの研究結果を考慮すると、母語話者のような英語力を目標とすることは、現実離れしているだけでなく、その必要性もないといえます。

■今や外国語として英語を話す人のほうがはるかに多い

「ネイティヴ英語」を目指すべきでない理由は他にもあります。英語は今日事実上の国際的な共通語として用いられており、外国語として英語を話す人の方が、母語として話す人よりもはるかに多いと推定されています。非母語話者が主流で母語話者が少数派なわけですから、ネイティヴ・スピーカーのような英語力を目指すのは時代遅れでしょう。非母語話者が母語話者に近づこうとするだけでなく、母語話者が非母語話者の英語を尊重し、それを理解しようと歩み寄ることも必要です。

とはいえ、日本語訛りの発音にコンプレックスがあり、「母語話者のようなきれいな発音で話したい」という憧れを持っている学習者は少なくないようです。しかし、これまでの研究では、訛りが強いからといって、伝わりにくくなるとは限らないことが示されています。

また、「母語話者のように英語が話せれば、コミュニケーションには困らないだろう」と考えがちですが、母語話者でも意思疎通がうまくいかないことは珍しくありません。筆者はニュージーランドの大学院に留学していましたが、「アメリカの会社に電話をかけたが、こちらの発音が通じず困った」とニュージーランドの方が言っていたのを聞いたことがあります。

■ひとくくりにできないほどバラバラな「ネイティヴ英語」

一口に「英語」と言っても、米国・カナダ・英国・オーストラリア・ニュージーランド・インド・シンガポール・南アフリカ英語など、様々な変種があります。また、日本語にも方言があるように、同じ国内でも多くの異なる英語があります。そのため、母語話者同士でも誤解が生じるのは珍しくありません。

発音だけでなく、語彙(ごい)の違いが原因で誤解が生まれることもあります。例えば、「消しゴム」のことを米国ではeraserと言いますが、英国やニュージーランドではrubberと言います。ニュージーランドの学校に通っていたアメリカ人の生徒が、クラスメイトからHave you got a rubber?(rubber持ってる?)ときかれて、困惑したという話を聞いたことがあります。rubberには「(ゴムで出来た)避妊具」という意味もあるからです。

このように、発音や語彙の違いにより、母語話者同士でも誤解が生じることは珍しくありません。皆さんも、同じ日本語で話しているのに意思疎通がうまくいかなかった経験をされたことがあるのではないでしょうか。ですから、母語話者を神格化し、「ネイティヴのように英語を話せれば、何不自由なくコミュニケーションがとれるのに」と母語話者を目指すことにあまり意味はないでしょう。

ビジネスマンのグループ
写真=iStock.com/Giuseppe Lombardo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Giuseppe Lombardo

■大多数の英語学習者は母語話者レベルを目指す必要はない

「英語圏でスパイとして働きたいので、日本人であることがばれるとまずい」といった特別な事情があるのであれば、母語話者を目標にしても良いでしょう。それ以外の大多数の学習者は、母語話者レベルを目指す必要はありません。

中田達也『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』(KADOKAWA)
中田達也『最新の第二言語習得研究に基づく 究極の英語学習法』(KADOKAWA)

Never make fun of someone who speaks broken English. It means they know another language.(片言の英語を話す人を馬鹿にしてはいけない。彼らは別の言語が話せるということだから)という名言もあります。自分のことを「英語が不十分にしか使えない非母語話者」ではなく、「日本語に加えて英語も使用できる複数言語使用者」とポジティブにとらえましょう。

なお、「母語話者」(native speakers)や「非母語話者」(non-native speakers)という用語には差別的なニュアンスがあるため、代わりに英語の「第一言語使用者」(L1 users)や「第X言語使用者」(LX users)などの用語を使うべきだという意見もあります。問題が指摘されていることも事実ですが、ここでは便宜上「母語話者」「非母語話者」という用語を用いました。

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中田 達也(なかた・たつや)
立教大学教授
東京大学大学院修士課程修了後、ヴィクトリア大学ウェリントンにて博士号(応用言語学取得)。立教大学異文化コミュニケーション学部・異文化コミュニケーション研究科教授。著書に『英語は決まり文句が8割 今日から役立つ「定型表現」学習法』(講談社)、『英単語学習の科学』(研究社)などがある。

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(立教大学教授 中田 達也)

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