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"ちょっとおかしくなった"わが子を温泉に連れて行ったら…灘→東大合格してすぐにAI起業の恐るべき成長曲線

プレジデントオンライン / 2023年10月20日 11時15分

Almondo代表取締役の伊藤滉太さん 出典=『プレジデントFamily2023秋号』 - 撮影=植田真紗美

日本のAI技術の研究開発・人材育成・社会実装の第一人者である東京大学教授・松尾豊さんが率いる松尾研究室のスタートアップ、「Almondo」が注目を集めている。CEOは同大学教養学部に在学中の伊藤滉太さん。小4まで外遊びが大好きでワンパクだった少年がなぜ灘高校へ進み、東大1年生にして起業したのか。『プレジデントFamily』編集部がその素顔を取材した――。

※本稿は、『プレジデントFamily2023年秋号』の一部を再編集したものです。

■超行動力の秘密は⁉ 東大生AI起業家の素顔

東京大学の文系に入学しながらも、1年生にしてAI(人工知能)の分野で起業したのは、株式会社Almondo代表取締役の伊藤滉太さんだ。

「さまざまな分野の企業が抱える“ちょっとめんどくさいなあ”という業務上の問題をAIを使って解決する方法を一緒に考えたり、プロダクトを開発したりする仕事をしています。今年の2月に創業して、12〜13人のメンバーと活動しています。“学生クオリティーなんでしょ?”と思われるかもしれませんが、東大のAI研究の第一人者・松尾豊教授が率いる松尾研究室(以下、松尾研)で、これまでに数多くの企業事例を扱ってきています」

身分を隠し、企業研究と称してアルバイトをすることもあるほど市場研究に熱心な伊藤さん。松尾教授も技術顧問として就任するなど、会社は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長中だ。

「もともと家が転勤族だったこともあり、先が読めない遊牧民的な生き方が好きです。AIも5年後、10年後がまったく想像できないという点で同じで、面白いなと。自分が社会にどう貢献できるかが楽しみです」

そう目を輝かせる伊藤さんだが、子供時代には「自分のしたいことがわからない」と、約1年引きこもるように過ごし、親に心配をかけた時期もあったという。伊藤さんのこれまでを追った。

■悩む息子を「温泉」へ

「佐賀で生まれて、岡山、岩手、岐阜、島根、兵庫ときて今は東京に住んでいます。島根に親戚が多く、ほとんどが高卒。誰も僕が東大に入るとは思っていなかったと思います」

岐阜県で過ごした小4までは外遊びが好きで、先生にちょっかいを出すわんぱくな子だったという。

「小5のときにしばらく島根にいるかもと親に言われて、島根には親戚も多くいるし、この機会にまじめキャラに“キャラ変”するかと。軽い気持ちで勉強を始めたら、それなりにできて。そうしたらそれまでは落ち着きのない人扱いだったのに『勉強ができてすごいね』と友達や先生に言われるようになったんです。嬉しくて勉強を頑張るようになりました」

家から近いという理由で島根大学教育学部附属中学を受験して進学後、それまで2年スパンで転校してきた伊藤さんに異変が起きた。

「島根にいることに飽きてしまったんです。環境が変わらないのが退屈で。とにかく県外に出たくて、親も納得するようなレベルの進学校を受験して下宿することを考えました。それで灘高校に目をつけたんです」

灘高受験を決めた伊藤さんは親にその決断を話す前に、「力試しがしたい」と口実をつけ、夜行バスに乗り県外の模試を受けに行った。

「いい成績が取れたので、『実現性があるから灘に行こうと思う』とテスト結果を根拠に親を説得しました。父は『いいけど、灘ってどんなところかわかってる? 日本一の進学校だよ?』と困惑していましたが、決心は揺らぎませんでした」

しかし、灘高対策のできる大手塾のない島根で、ひとりで受験に挑むという環境が伊藤さんを不安にさせた。

「独学するしか手がないなか、島根で買える参考書はやりつくしてしまいました。やることがなくなったところで、駿台模試では上位1桁に入り、偏差値は20上がった。学年でも常に1位を取るようになったら、周りの僕を見る目が変わってきて。『まぁ、伊藤は頭がいいもんね』と、褒めてくれなくなったんです。だんだん『なんで勉強するんだろう』『いや、でも、僕は褒められるためだけに勉強していたのか?』と自問自答するようになってしまいました」

自問自答は1年続き、その間は休日も勉強せずにただ寝て過ごすだけになった。急に引きこもるようになった伊藤さんを見て両親は心配したが、特に何か言われることはなかったという。

「勉強をやりすぎておかしくなったと思ったそうです(笑)。だから、とにかく休ませて、見守ろうと。息抜きに、各地の温泉に連れていってくれました」

自問自答に結論が出たのは、湯船の中からだった。

温泉のある客室
写真=iStock.com/shirosuna-m
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shirosuna-m

「結局、悩んでも答えは出ない! という結論にいたりました。どちらにせよ県外に出たいという気持ちは変わらなかったから、悩むなら灘に行ってからにしようと。独学を再開し、無事灘に合格することができました」

■懇親会でチャンスを摑む

灘でも、悩む前に行動! の精神で突き進み、ディベート大会やビジネスコンテストに参加。好成績を収めるなど精力的に活動した伊藤さん。

「面白い同級生がいっぱいいて、とても楽しかったです。コロナ禍で制限されたものもありましたが、その中で精いっぱい活動していました」

そのような活動の一環で、東大の工学系のOBと知り合った。そこからのつながりで、たまたま日本のAI研究の最前線を行く東京大学の「松尾研」が開催していた、データサイエンスの大学生・大学院生向けの研修(高校生にも開放)を受けたところ、700人中10人の優秀修了生に選ばれた。このことが東大進学後の運命を大きく変えることになる。

「東大合格後、優秀修了生と松尾教授の懇親会が開かれることになったんです。松尾研で起業の話に触れて楽しそうだと思ったので、具体的に起業するプランがあったわけではないのですが、起業したい! と相談してみることにしました。懇親会では松尾教授に話しかけまくって、食事会も同じテーブルに座って、とにかくやる気を見せました。そうしたら松尾研の関係会社へのインターンを紹介してもらえたんです」

『プレジデントFamily2023秋号』(プレジデント社)
『プレジデントFamily2023秋号』(プレジデント社)

インターンの仕事は営業だった。電話や手紙で営業をかけるなど泥くさい作業だったが、楽しかったと伊藤さんは振り返る。

「面白い仲間がたくさんいて、居場所のように思えたんです。転勤族だったためありとあらゆる場所で僕は“外部の人間”として扱われていたところがあった。だから、自分で関係を築けるあたたかい場所として会社をつくることっていいんじゃないかと思うようになりました」

その後、インターンでエンジニアとして働くうちに起業への関心はより強まっていき、松尾教授に起業している先輩を紹介してもらうところまでこぎつけた伊藤さん。しかし、ここでまた自問自答が始まってしまう。

「たまたま条件が揃って起業ができそうだからする、というのは動機が弱すぎる。自分は本当に起業がしたいのだろうか? と悩んでしまいました。それで、中学の頃に親がしてくれたように、今度は一人で全国の温泉宿を旅することにしたんです」

九州、四国など全国を歩きながら自問自答を続けた。

「結局自分が大切にしたいものはなんなのかということを考え続けながら旅をしました。今振り返ると、このときの僕は起業の覚悟を固めたかったんだと思います」

大学1年生の12月に決心し、翌年2月には松尾研の懇親会で一緒だったメンバーを口説き落としてAlmondoを設立する。

Almondoのメンバーと一緒に。ワークスペースを借りて活動している様子。
撮影=植田真紗美
Almondoのメンバーと一緒に。ワークスペースを借りて活動している様子。 出典=『プレジデントFamily2023秋号』 - 撮影=植田真紗美

「起業したことは両親には事後報告でした。『そうなんだ、まあ頑張りなさいね』と淡泊な反応でしたね。灘受験も東大合格も全部事後報告でしたが、両親はいつも『滉太なら大丈夫』と信頼してくれているようでした」

■父と母がくれたもの

親から与えられたものはたくさんある、と伊藤さん。

「父は旅が好きで、もともとよく一緒に温泉に入っていたんです。銀行員だった父は、温泉につかりながら仕事での失敗談や人生訓をそれはたくさん聞かせてくれました。大人になってから“あのとき父が言っていたのはこれか!”と思うことが多々ありました」

母親からの影響も大きいという。

「僕が幼い頃のホームビデオを見返す機会があったのですが、旅行先などで母が『楽しい?』『これどう?』などと、たくさん問いかけをしてくれていたのが印象的で。問いかけをされたら自分で考えて意見を言わないといけないので、それを繰り返すことで何が好きで何が嫌いかなど、思考や価値観の軸が育っていったのだろうと思います」

自分への問いかけ、つまり自問自答を幼い頃から繰り返していた伊藤さん。自分のように悩んでいる子供がいたらどう声かけするか聞いた。

「好きなだけ悩めばいいと思います。僕が自問自答していたときは最終的に“なんで生きているんだろう”“なんで勉強するんだろう”“自分は何が好きで何が嫌いなんだろう”というような問いが出てきました。答えはその場で出さなくてよくて、問いが出てきたことが重要なんです」

問いは解決しなくてもいい、と伊藤さん。

「難しい本を読む中で解決した問いもありますが、本の中で理解できない部分はまた新たな問いとしてとっておける。考えて行き詰まったら問いを違う方向から投げかけるなどして自分と対話をするようにしています。AIに問いかけたら何が出てくるかわからないように、人間だって、まずは問いかけてみないと何と返答がくるかわかりません。出てきた答えにフィードバックを行うと性能が上がっていくところも似ています。だから子供にはどんどん自分に問いかけろと言いたいですね。そうするうちに、少しずつでも自分のしたいことや好きなことが見えてきて、主体性も育っていくと思うんです」

そして、問いかけは親自身も怠ってはいけないという。

「“子供がいい学校に行くとどう幸せになるのか?”“今子供にやらせていることは幸せにつながるのか?”などと問いかけてみるといいと思います。問いかけのいいところは、考えることで自分が選んだ選択肢に確信が持てるところです。子供と一緒に考えて『これだけ考えたんだからこの道は合ってるよね』と合意を形成できれば、親子にとって良い選択になるのかなと思います」

Almondoのメンバーに聞いた伊藤さんの印象
撮影=植田真紗美
Almondoのメンバーに聞いた伊藤さんの印象  出典=『プレジデントFamily2023秋号』 - 撮影=植田真紗美

松本悠秀さん Sales Engineer(写真左)
東京大学在学。松尾研究室のGCIで優秀賞を受賞し講師も務める。42Tokyoカリキュラムを日本最速で進める。

神田慶樹さん Biz Dev(左から2番目)
慶應義塾大学理工学部 物理情報工学科在学。2020年KBC SEEDsでYJ capital賞を受賞し、EdTech領域での起業を経験。

志田遥飛さん Algorithm Engineer(左から3番目)
鶴岡工業高等専門学校創造工学科在学。大規模事前学習や自動運転等の深層学習領域の研究に従事。

伊藤滉太さん Almondo 代表取締役
東京大学教養学部在学。高校在学時に東京大学松尾研究室主催のGCIで優秀賞受賞。大学入学後は、松尾研究室発AIスタートアップで営業・事業開発、松尾研究所で企業提案と共同研究に従事。2023年に起業

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伊藤 滉太(いとう・こうた)
Almondo 代表取締役
東京大学教養学部在学。高校在学時に東京大学松尾研究室主催のGCIで優秀賞受賞。大学入学後は、松尾研究室発AIスタートアップで営業・事業開発、松尾研究所で企業提案と共同研究に従事。2023年に起業。

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(Almondo 代表取締役 伊藤 滉太 文=土居雅美)

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