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「子どもを公立に行かせる」と言い出せない……世帯年収1150万円で新築タワマンを買った共働き夫婦の悲劇

プレジデントオンライン / 2023年10月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jeffbergen

世帯年収1000万円以上の家庭でも、経済的・精神的負担を抱えている人たちがいる。そうした夫婦の相談を数多く受けてきたオンライン投資スクール「Global Financial School」校長の市川雄一郎さんは「都心のタワマンに住み、子ども2人を私立に通わせようとすると、自分たちの老後が破綻する可能性もある」という――。

■タワマン、お受験、周囲との競争で家計破綻の危機に突入

「夫婦で働き続ければなんとかなる」と、35年ローンで手に入れた憧れの東京・渋谷の新築タワーマンション。共働きを続け、子ども2人を育てながら自分の思い描くような家庭を築いてきたK子さん(36歳)だが、最近はそこはかとない将来への不安が心に広がっていると漏らす。

きっかけは有名私立小学校へ通う長男のママ友からしきりに「○○ちゃんもここに入学させるの? それともお嬢さま学校の○○に?」と聞かれるようになったこと。

近隣には有名私大や国立大の付属校が点在し、同じマンションや保育園でも教育熱心な家庭が多かった。引っ越してきた当初からそんな周囲に触発され、競うように長男の“お受験”に力を入れ、見事、めざす小中高・大学までの私立一貫校へと入学させることができた。

大手メーカーに勤める夫(40歳)は年収800万円以上、事務職のK子さんは350万円ほどだが、世帯年収は1000万円を優に超えている。だが、自分の給料の大半は子どもの習い事や塾代、ベビーシッター費用に消えてしまう。習い事の付き添いをするときは、ママ友たちが見つけてくるおしゃれなカフェで過ごし、交際費もかなりの額だ。「仕事もしていないのに、なぜこんなに優雅に暮らせるのだろう……」と、ママ友たちと自分を比べては自己嫌悪に陥る。夫の給料は生活費と住宅ローンに回しているが、車好きの彼が週末に乗るマイカーの駐車場代や維持費もかさむ。毎月の家計は決して楽ではなかった。

長男に続き、下の娘も私立校へ入れたら、この先教育費はどのくらいかかるだろう。背伸びして買ったマンションのローンはあと30年近く払い続けなければならない。思うように貯蓄もできないもどかしさもあり、K子さんの心配はますますつのる。

「はたしてこのまま家族の生活を維持していけるのか。ママ友たちに『娘は公立に』と言えずにいるのも苦しい。子どもの教育だけじゃなく、私たち夫婦の老後も考えなければならないけれど、まったくお金を貯められない……このままでは家庭だけでなく、私の人生そのものが破綻しそうで不安でたまらないのです」

■ムダを把握するには家計の洗い出しは必須

K子さんは悩んだ挙げ句、夫を伴って来談されました。家庭のお金に関する相談を受ける際は、夫婦で来てもらい、家計の中身を洗いざらい全部話してもらうことから始めるのが基本です。夫婦それぞれ異なる意見があると思うので、ウソ偽りなく話していただいたうえで、問題点を少しずつ整理していく。そうすると自分たちが気づいていなかった問題点が必ず出てきます。

家計の洗い出しをしたところ、K子さんの場合は母親同士の交際費が非常に多かったので、こうした無理な付き合いを減らしていく決意が必要だとアドバイスしました。また、夫の趣味の車は、週末に乗るだけなのに高い駐車場代と維持費がかかっていました。月に数回乗るだけならレンタカーを借りれば、ローンや維持費を節約できます。「ママ友との関係を悪くしたくない」「レンタカーは対面的にちょっと……」などと言っているうちはお金も貯まりません。

赤ちゃんを連れた友人と一緒にカフェ
写真=iStock.com/JGalione
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JGalione

さらに生命保険、学資保険、損害保険などなど、家族に掛けている保険の見直しもアドバイスしました。これはK子さんのケースに限らず、誰にとっても必要です。過去に相談を受けた事例では100点といえる家庭は一軒もなく、ムダな保険に入っているケースも見受けられました。医療保険の保障が重なっているなど、内容をよく把握せずに勧められるまま複数入っているケースが多いのです。保険は一回入ってしまうとそのまま見直しをしない人もいますが、年に一度はどういう保険に入っているかを確認したほうがいいでしょう。そもそも保険とは、出産や転居など家族の生活環境が変わったときに保障の内容を見直すべきものだからです。

また、35年ローンの返済プランの見直しも提案。住宅ローンは、初期の段階で繰り上げ返済をしていくことが大切です。毎月の返済額の目安は貯蓄できるぐらいの金額が適正で、どんなに多くても年収の30%程度に抑えましょう。元利均等でローンを組むと、最初の10年ほどは利子分だけ払っている状態ですから、繰り上げ返済をして利息の負担を減らし、元本を早めに返したほうが得策なのです。

そのうえで今度は資産設計をすることをお勧めしました。K子さんの家庭はこのままいけばおそらくあと10年ほどで家計が逼迫(ひっぱく)することが予想されました。大学進学を前に子どもが私立校をやめなければいけない状況も危惧されます。支出が削れたぶんは貯蓄に回せますし、基本的に長期的な運用をしていけば、リスク性がある金融商品でもそんなに心配するようなことはないので、少しずつシフトしていくといいのです。

家計管理をしていない家庭では、日常生活を当たり前のように送っていると支出のムダに気づかないケースが多い。例えば、家族全員のスマホもプランを見直せば、月額を抑えられます。家計を見直しながらちょっとしたムダを削っていくことが大切なのです。

■高所得世帯の子の奨学金は無利子ではない

世帯年収1000万円を超えるのは全国でも約1割。そのため裕福だと感じる人も多いでしょうが、必ずしもそうとは言えません。夫婦二人ならある程度は貯蓄もできるし、比較的余裕をもって暮らしていくことは可能です。しかし、お子さんがいる場合は一概にそうとは言えず、子どもが多くなるほど余裕がなくなっていく家庭が多いのも事実です。

※2021年厚生労働省「国民生活基礎調査」より

アパートの窓から夕日を眺めている少女
写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

一般的に、小学校から大学まで公立校へ通う場合の子どもの養育費は1人当たり約3000万円かかるといわれています。学費や習い事、教材費などの教育費、そして育て上げるためにかかる費用など、すべて加算した金額です。一方、私立校へ通った場合は、その1.5~2倍になります。つまりすべて私立であれば、子ども1人の養育にかかるお金が、4500万〜6000万円近くなるということ。年収が高い世帯ほど子どもの教育にお金をかける傾向があり、人知れず精神的な負担につながっている方も少なくありません。

親が資産設計をしっかりしなければ子どもの人生に負担をかけることになりかねません。大学へ進学しても親の援助は望むべくもなく、奨学金を借りるなどで、子どもが長い期間返済をし続けないとならなくなります。世帯年収が1000万円以上の高所得世帯であれば、奨学金は有利子となるので返済負担もさらに増します。親が一歩間違うと子世代、孫世代の負担として積み重なっていくこともあり得るのです。

子育て世帯では、教育費に加えて住宅ローンも抱える時期が特に大変ですから、子どもが小さいうちから資産設計をしていくことが望ましいのです。

会計専門家
写真=iStock.com/Worawee Meepian
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Worawee Meepian

資産設計で大事なポイントは、将来に備えたライフプランを見据えられるかということ。人間は弱い生き物なので、明確な目標がないとそこに向かって行動することができないものです。例えば、自分たちがいつリタイアしたいと思っているのか、それまでにお金をどう貯めたいのかなど、目標がないとお金は貯まりません。

■お金が貯まる家庭、貯まらない家庭の特徴

私はさまざまな富裕層の世帯を見てきましたが、お金に関する意識はおおむね2つに分かれます。お金が貯まる家庭というのは計画性があって、ムダなところにお金を使わない。決してケチということではなく、使うべきところには多少大きい額でも使い、ムダなものには1円も払いたくないという考え方です。一方、お金が貯まらない家庭とは、家計管理がズボラなんです。何にお金を使っているかをあまり把握しておらず、ムダなものにお金を使い過ぎてしまうのです。

お金の管理ができていないということは、自分たちの将来も見据えていないので、何かあったら一気に生活が傾いてしまいます。いくら年収が高くても、計画的に貯蓄や資産運用をしていない家庭は、お金が回らなくなった段階で崩壊しますから、家計管理は欠かせないのです。

■家計を把握するために大切なのは家計簿

年収が高い世帯ならではの危ないお金の使い方もあります。その一つが不動産投資。お金に余裕が生まれると、別荘やリゾートマンションを購入したいと考える人もいますが、土地の将来性をしっかり検討することが大事。有名別荘地でも高齢化が進んで廃れていく地域では、不動産価値がどんどん下がってしまうからです。アパート経営する場合も、地方で若い人が減っている地域では将来の保証がないので、場所を見極めることが欠かせません。不動産の場合は売りたいと考えても、買い手がつかなければお金に換えられません。固定資産税や高い管理費を売れるまで払い続けなければならない難点があります。まさに「負動産」となって、経済的にも精神的にも大きな負担でのしかかってくるのです。

そうならないためには、やはり家計の把握をしてくださいということです。自分のお金がいくらあって、毎月どのくらい出ているのか、出費の内訳もちゃんと把握してほしいと思います。「家計簿は面倒」だと言う人もいますが、今はゲーム感覚で取り組める家計簿アプリもあるので、少しずつ習慣づけていくといいでしょう。

販売台帳に記入する日本人女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/mapo

資産運用をする場合は自分でまず勉強すること。株や投資信託などの金融商品もちゃんと理解したうえで選び、よく知らないものにはお金を投じないということです。

そしてご家族がある場合は、必ず夫婦であるいは子どもを交えてお金について話し合わなければダメです。それぞれの思いを一回ちゃんと整理すること。お金のことは夫婦で中身を把握しておかないと後でもめることがあり、それは歳をとってからのほうが結構きつい(笑)。今のうちからちゃんと話し合って、同じ方向を向いて進んでいくことが必要です。

これからどんな生活をしていきたいのか、家族のライフプランを描いてみる。それで終わりではなく、年一回くらいは定期的なメンテナンスも忘れずに。

人はお金がある分だけ使ってしまう生きもの。無くなってから慌てるのではなく、普段から収支を把握することが大切です。

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市川 雄一郎(いちかわ・ゆういちろう)
投資教育家/Global Financial School校長
CFP/1級ファイナンシャル・プランニング技能士(資産設計提案業務)。日本FP協会会員。日本FP学会会員。日本のFPの先駆者として資産運用の啓蒙に従事。ソフトバンクグループが創設した私立サイバー大学で教壇に立つほか、金融機関の職員や顧客に対する講義や講演も行う。またラジオNIKKEI『投資のベースキャンプ』のパーソナリティー、TBSドラマ『トリリオンゲーム』の投資監修などメディアでも活躍。主な著書に『投資で利益を出している人たちが大事にしている45の教え』(日本経済新聞出版)、最新監修書籍『0からわかる!株超入門』(ソシム)がある。

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(投資教育家/Global Financial School校長 市川 雄一郎 構成=歌代幸子)

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