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いつかマツコと有吉に食べさせたい…テレビで「味付けしてない里芋」と酷評されたドラゴンフルーツ農家の叫び

プレジデントオンライン / 2023年10月24日 15時15分

上間充信さん - 筆者撮影

沖縄では複数の農家が熱帯果樹「ドラゴンフルーツ」を栽培している。完熟した果肉は甘く、自慢の農産物だが、国内では鮮度の悪い輸入品が流通しており、「味にがっかりする果物」と誤解されている。最近ではマツコ・デラックスさんと有吉弘行さんから「味付けしてない里芋」とテレビ番組で酷評されたこともあった。「いつか2人に食べさせたい」と訴えるドラゴンフルーツ農家の思いを、ジャーナリストの山口亮子さんが取材した――。

■テレビで「味付けしていない里芋」と酷評

「マツコ・デラックスと有吉がテレビ番組で、ドラゴンフルーツを食べて『味付けしてない里芋』って言うんだよ。腹が立ってね」

「琉球紅龍果(ドラゴンフルーツ)研究会」代表の上間(うえま)充信(みちのぶ)さんは、こう言って唇を尖らせた。「ドラゴンフルーツ名人」の異名をとり、読谷村の33アールで、ドラゴンフルーツを栽培する。

上間さんの両脇からは、その背丈と変わらないくらいに成長したドラゴンフルーツの木がしな垂れかかっていた。茎を激しくくねらせながら上間さんの方に向かって伸ばすさまは、その発言に「そうだそうだ」と同調しているようにも見える。

ドラゴンフルーツは国内では主に沖縄県や鹿児島県の奄美地方で栽培されるサボテン科の果実。その果皮は紫がかった鮮やかな赤色をしており、龍のウロコのような形をしていることから、名前が付いた。果肉は白いものと赤いものがあり、さっぱりした甘さで果汁が多く、みずみずしい。

■輸入品は完熟前のもので鮮度も悪い

国内の年間生産量は100トンほどでそこまで多くなく、国産のほとんどは生産地で消費される。ここ数年で関東のスーパーにも並ぶようになったが、それらの多くはベトナムなど東南アジアからの輸入品だ。

店頭に並ぶまでのタイムラグを考慮し、未熟なまま収穫するため、味が薄くなりがちで、輸送に時間がかかって味が悪くなりやすい。筆者もかつてベトナム産のドラゴンフルーツを食べたことがあるが、国産のものと比べると明らかに果肉の水分量が少なく、おいしくはなかった。

上間さんの栽培したドラゴンフルーツ
筆者撮影
上間さんの栽培したドラゴンフルーツ - 筆者撮影

■「とろろ」「味がしない」と批判の嵐

冒頭で上間さんが話した番組は、2020年7月17日に放送されたテレビ朝日「マツコ&有吉 かりそめ天国2時間SP」。見掛け倒しで食べると味にがっかりする果物が話題になった後、出演者がスタジオに用意されたドラゴンフルーツを食べた。

ドラゴンフルーツを口にした有吉さんはしばらく沈黙した後「(味の方向性を)ビシッとしろよ!」と痛烈にツッコミ。マツコさんも「なんかやっぱり……」とお気に召さない様子だった。

他の果物については「おいしい」との意見がある中、ドラゴンフルーツについてはその後も「とろろ食ってんじゃねえんだから」「(他の果物の後に食べて)余計味がしなくなった」とバッサリ。最後には「味付けしてない里芋」との感想が飛び出し、酷評の嵐だった。

■「国産を食べたらもう輸入品は食べられない」

上間さんは、番組が輸入品を用意したのだろうと推測する。

著者撮影
上間さんが読谷村で栽培しているドラゴンフルーツ - 著者撮影

「ドラゴンフルーツは木になった状態でしか完熟しません。輸入品は、完熟しないものを早くに収穫して持ってきているので、おいしくないのは当然」

収穫後に追熟しないので、鮮度の良しあしが味を大きく左右する。

ドラゴンフルーツの生産が盛んなベトナムでは、鮮度がよく完熟したものが流通する。東南アジアを旅行して食べたドラゴンフルーツがおいしかったから、帰国して買って食べたらまずかったという話をよく聞くと上間さんは話す。

「本土のスーパーに輸入品が並ぶのは、物珍しさで買ってもらえるから。僕らのような国内の生産者が作っている鮮度のいいものを一度食べたら、輸入品は食べられない」

国産の価値は、完熟したものを鮮度の高い状態で供給できることにある。だが現状は流通量が極めて少ない。上間さんの作るドラゴンフルーツはおいしいと評判で、地元の売り場に出せばすぐ売り切れる。

いつかマツコさんに食べさせたい。そのことに加えて、上間さんは壮大な夢を思い描いている。沖縄をドラゴンフルーツ王国にしたい――と。

■農業未経験からドラゴンフルーツ栽培を始めた

上間さんは、ドラゴンフルーツと関わって四半世紀になる。もともと琉球政府の公務員で、農業は未経験だった。亜熱帯にあり平均気温が23度という沖縄の強みを発揮できる作物を探していて、ぴったりだったのがドラゴンフルーツだった。どうせやるなら自分で栽培しなければと50代で一念発起した。

糸満市で1ヘクタールほどの農地を借り、大規模な栽培に挑戦する。栽培の盛んな台湾に渡って技術の習得にも努めたが、失敗した。読谷村で再起を期し、栽培面積を徐々に増やして33アールまで広げた。

ドラゴンフルーツの生産を広めようと、栽培を希望する人に自らのノウハウを伝え、苗を譲り渡してきた。20代の若者が2人技術を学びに来ていて、近く30代の1人が加わる見込みだ。

2023年は新たに農地を拡張する予定で、今後、沖縄の生産者としては、最大級の生産量に達するはずだと見込む。

著者撮影
箱詰めされた上間さんのドラゴンフルーツ。読谷村のふるさと納税の返礼品にも選ばれている。 - 著者撮影

ドラゴンフルーツなら、33アールを家族で経営したとして、1000万円以上の売り上げを立てられるという。ドラゴンフルーツは生命力が旺盛で、沖縄の気候に適している。水や肥料などにかかる経費は「高が知れている」という。

「露地栽培で生産費を抑えておいしいものを作って、全国に提供する。物珍しさで売っちゃダメで、誰でも食べられて、おいしいものにする。ドラゴンフルーツは、読谷村の代表的な作物にできるんじゃないか」

上間さんはこう期待している。読谷村も、村長が上間さんの畑を訪れたり、ドラゴンフルーツをふるさと納税の返礼品に加えたりと支援する姿勢をみせる。

■沖縄行政はドラゴンフルーツの普及には消極的

一方で、ドラゴンフルーツに対して、沖縄の行政の動きは概して鈍い。

「沖縄はいま、ドラゴンフルーツを語るほどの資料も実績もないですね。県は品種を開発して力を入れてはいるけど、市町村がほとんど動いていないです」

上間さんは、悔しげに話す。

同県内での栽培面積は2020年に5ヘクタールに過ぎなかった。

ドラゴンフルーツは、茎の一部を切って植えれば増やすことができる。上間さんは、大きな実を結ぶ優良な株を選抜して増やしてきた。

「ドラゴンフルーツの生態について、学術的に解明されていないんです。地元の大学の先生に研究してくれませんかと話したら、予算がおりて研究費が付く研究しかできませんと言われて」

その研究者が当時対象としていたのは、沖縄のとある伝統野菜だった。地元で細々と流通するものの、「マーケットがいくらもないようなもの」。ドラゴンフルーツが広まれば、沖縄の少なくない農家の所得が向上すると考える上間さんにとって、その研究は趣味の延長線上にあるように映った。

上間さんの畑
筆者撮影
上間さんの畑 - 筆者撮影

■「サトウキビだけでは沖縄農業は危ない」

沖縄で行政による予算が最も投じられる作物が、基幹作物であるサトウキビだ。農家の収入に占める国からの交付金の割合が3分の2という高さに達する。

上間さんの目に、その補助金頼みは危うく映る。

「国からの補助金がない、サトウキビの本当の売り上げだけでは、農家は成り立たない。それなのに、サトウキビがなぜいまも沖縄の農業の主力なのか」

こう疑問を呈する。

「サトウキビはおそらく20年以内に消滅するでしょうね。国も財政が苦しくて、補助金を出し続けられないですよ。本来、そんなに金があったら、こういう沖縄に適した作物や、牛などの優位性のあるものにつぎ込んで、研究すればいいのに」

■「ドラゴンフルーツは沖縄農業を支える作物」

現実には、沖縄はドラゴンフルーツを盛り上げる機運に乏しい。だからこそ、上間さんは自ら栽培を広めてきたし、今後一層事業を拡張するつもりだ。

ドラゴンフルーツの色の鮮やかさを生かし、加工品を製造したいと考えている。

「あと4、5年したら、六次産業化を図ろうと考えているんですよ。ゼリーやジャム、ワインも考えられるかもしれない。スムージーやジェラートとか」

さらに、観光農業の素材としても持ってこいだと考えている。

ドラゴンフルーツは、同じサボテン科の「月下美人」によく似た大輪の花を咲かせる。成人男性の手のひらよりも大きく開き、月下美人に比べて花弁がより重層的になっている。

「見ごたえがあります。夜10時ごろの満開になる時間を狙って、畑にわざわざ見に来る人もいるくらい」

それだけに、観光客を相手に花の鑑賞といった体験プログラムを作ることができるかもしれない。

ドラゴンフルーツの木
筆者撮影
生命力の旺盛さを感じさせるドラゴンフルーツの木。昼間に訪れたため、花はしぼんでいた - 筆者撮影

栽培という一次産業、加工という二次産業、観光という三次産業を含めた六次産業化。これをドラゴンフルーツを起点に作りたいと構想を描く。

「ドラゴンフルーツは、これから沖縄の農業を支え、六次産業化を実現する元だと思っている。でも、誰も、盛り立てることをやらんわけね。いずれ、こちらが力を付けたら状況は変わる」

そう信じて、上間さんは日々ドラゴンフルーツと向き合っている。

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山口 亮子(やまぐち・りょうこ)
ジャーナリスト
京都大学文学部卒、中国・北京大学修士課程(歴史学)修了。雑誌や広告などの企画編集やコンサルティングを手掛ける株式会社ウロ代表取締役。著書に『人口減少時代の農業と食』(ちくま新書)、『誰が農業を殺すのか』(新潮新書)などがある。

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(ジャーナリスト 山口 亮子)

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