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メールや電話で「すみません」と言う人は仕事ができない…ジブリ鈴木敏夫氏は「自分のために謝るな」と言った

プレジデントオンライン / 2023年10月25日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/west

怒っている相手には、どう対応すればいいのか。アニメーション映画プロデューサーの石井朋彦さんは「スタジオジブリでは鈴木敏夫プロデューサーから『自分のために謝ってはいけない』と言われたことが強く記憶に残っている」という――。

※本稿は、石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)の一部を再編集したものです。

■知らない番号からの着信を無視していたら…

ある作品の脚本制作中のことでした。ぼくは当時、プロデューサー補という立場で、スタッフに脚本会議の日時と場所を連絡する仕事をしていました。

脚本会議には、キャラクターデザイナーが同席することがあります。アニメーションにおいて、キャスト=俳優は手で描いたキャラクターです。監督、脚本家、プロデューサーと共に、ストーリーを組み立てながら、キャラクターのイメージをつくってゆくのです。

当日、キャラクターデザイナーと連絡がつかず、会議が始まりました。何度か携帯に着信があったのですが、登録していない番号だったので、営業電話かと思い、無視していたのです。

30分後、インターホンが鳴り、ドアを開けると、キャラクターデザイナーが真っ赤な顔をして立っています。

「あれだけ電話したのに、なんだ!」

ぼくは電話に出なかったことを謝りましたが、彼の怒りは収まりません。そもそも、会議の連絡自体を怠ったということにまで怒りは及びました。ぼくとしては、事前に何度も連絡をし、返信がなかったので多忙なのかと思っていたのですが、激高している彼は聞く耳を持ちません。

打ち合わせが始まりましたが、険悪な空気のまま。ぼくは何度も「すみませんでした」「申し訳ありませんでした」と繰り返しましたが、彼は許してくれません。

■「どうすべきだったか?」メールに書かれていたこと

その様子を、鈴木さんはじっと見ていましたが、大きな声で、こう言いました。

「石井、何度も謝らなくていい。○○(キャラクターデザイナーの名前)! お前もいい加減怒るのはやめな!」

鈴木さんの一声でその場は収まり、会議は終わりました。

週末、鈴木さんからメールが届きました。「どうすべきだったか?」というタイトルでした。

何がって、土曜のこと。○○くんが怒った件。考えてみた。

まずは、携帯がかかってきたとき、どうするか。
出るか出ないかは、そのときの話の内容次第。あの場合は、

1.○○くんに携帯の番号を伝えてあったのだから、想像力を働かせるべきだった。
2.電話に出る場合は、別の部屋に行く。

あのとき2度目の電話があった。その場合は、出るべきだった。なにしろ、同じ人からかかってきた可能性が大きい。
自分の想像力のなさを恥じるべき。

それと出ないと決めたときは、あらかじめ電源を切る、これも大事だと思います。
それと日頃から、みんなが携帯をどう使っているか、観察もするべし。

■その謝罪は、だれのためにしているか

それと謝り方。あのとき、○○くんはかなり怒っていた。

君は何度も謝った。
これは最低。

相手がどのくらい怒っているかは見極めて謝るべし。それも、1回で終わるように。
これ、訓練だからがんばるべし。つまり、相手の怒りの沈静を待つというやり方もあるのだ。

呼吸を勉強すべし。

こんなことにまでメールをくださっていたことを思い出すと、涙が出ます。

相手の怒りとどう向き合うべきでしょうか。先のメールの後半で鈴木さんは、「何度も謝らず、一度の謝罪ですませるように。相手の怒りの沈静を待つことも重要だ」と言っています。

この教えを、いまのぼくなりの言葉で表現すると、「自分のために謝るな」と言えると思います。

人を怒らせてしまったとき、だれかが思わぬ形で、自分に怒りを抱いていると知ったとき、激しく動揺します。

若いときは、その状態がとてもいやでした。嫌われたくない、誤解を解きたい、敵をつくりたくない。そうした不安に耐えることができず、ぼくはすぐ行動に移していました。その人のところに謝りに行ったり、メールを送ったり、電話を何度もかけたり。

もちろん、そうした誠意が通用することも多いので、迅速かつ誠実に謝るべきなのですが、相手の怒りが収まらない場合、それがかなわないことも多い。

■メールや電話で謝らないこと

こういうときぼくは、「自分のエゴのために謝っていた」のです。自分が悪い人間だと思われたくない。変な噂を広げられたくない。この、不安な状況から解放されたい。でも、本当に事態を冷静に見極める目を持っていれば、「待つ」という選択肢もあり得たはずです。

思い起こせば、鈴木さんは常にそうでした。決して感情的にならず、仮にだれかが怒っている状況下においても、取り乱さずに事に当たる。相手の怒りが収まるまで、じっと待つ。

ぼくのように、誠実に相手に対して向き合っていると「思いたい」人間は、実は自己中心的なのだということを、最近身にしみて感じます。

鈴木さんは、謝り方についても教えてくれました。

メールや電話で謝らないこと。必ず電話でアポイントメントを取り、会って直接、相手の目を見て頭を下げること。

「謝るときは、本気で謝らなければならない」

鈴木さんはよく、そう言っていました。

「会って謝ることのメリットってわかる? 人は、面と向かったら、怒りを相手にぶつけられないものだよ。その隙を突いて、本気で謝る。相手の目を見て、1回。真剣勝負。それで許してもらえなかったら、時間をおくしかない」

■自分がどれだけ申し訳なく思っているかは関係ない

作品の制作中、監督やスタッフの怒りを買ってしまったことが何度かありました。鈴木さんの教えどおり、仕事場や自宅まで行き、玄関前や喫茶店で、そこまで考えに考え抜いた謝罪の言葉を一発勝負で伝えました。

会って謝って、許してもらえなかったことは一度もありませんでした。一方、失敗も数多くありました。その多くは、メールや電話で謝罪をすませようとしたケースだったように思います。

編集者だった鈴木さんは、多くの作家との付き合いがありました。鈴木さんの若いころは、メールも携帯電話もありません。相手を怒らせてしまったときや、連絡が取れなくなったとき、その人の家で待つしかない。「家の前で待つ」ということには意味があって、「こんなに長い時間、自分のために時間を使ったんだ」という気持ちが伝わるのだ、と鈴木さんは言いました。

「自分がどれだけ申し訳なく思っているかは、相手に伝わらない以上、関係ないし、意味ないんだよ」

ぼくは、会社の若いスタッフに、「すみません」や「以後気をつけます」という言葉を安易に使うなと言っています。日ごろから謝ってばかりいる人は、謝罪の意思が軽くなります。簡単に謝れないと思えば、相手を怒らせないように、もっと考えるようになる。

そして、安易に謝らない人が本気で謝ったとき、相手から本当の信頼を得ることができると思うからです。

握手
写真=iStock.com/Sam Edwards
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sam Edwards

■「マイナスな状態から逃れたい」という考えを捨てる

すぐに謝るスタッフは、反省も少ない。以前「ホントスミマセン」と謝るクセのある若者がいて、「ホントスミマセン禁止令」を出したことがあります。「ホントスミマセン」という言葉のなかには、重さも、誠意もありません。「このマイナスな状態から早く『自分が』逃れたい」という利己的な感情だけがそこにあります。

失敗をして、恥ずかしい思いをして心から謝罪をする。この繰り返しが、学びになるのだと思います。

石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)
石井朋彦『新装版 自分を捨てる仕事術 鈴木敏夫が教えた「真似」と「整理整頓」のメソッド』(WAVE出版)

鈴木さんという師匠のもとで、あらゆる失敗を許してもらいました。

大きな失敗をして、ものすごく怒られた日のことも、いまだ痛みをもって思い出します。鈴木さんは、どんなに怒っても、翌日からはいつもどおり接してくれました。

ものすごく時間がかかるのですが、自分のやり方にこだわる若手に対しては、徹底的にそのスタイルを壊す必要がある。

「ホントスミマセン」を連発していたスタッフは、数多くの失敗を繰り返して、徐々に1本の作品を任せられるようになってきています。

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石井 朋彦(いしい・ともひこ)
アニメーション映画プロデューサー
鈴木敏夫プロデューサーに師事し、『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『君たちはどう生きるか』等のプロデューサー補を担当。著書に『思い出の修理工場』(サンマーク出版)がある。

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(アニメーション映画プロデューサー 石井 朋彦)

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