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60代がプログラミングを学び、20代が昭和のヒット曲を歌う…"年相応"が急に崩れてきた意外な理由

プレジデントオンライン / 2023年10月28日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/loveshiba

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは博報堂生活総合研究所著『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』(インターナショナル新書)――。

■イントロダクション

60代でもSNSを使いこなし、プログラミングの勉強を始めたり、アイドルを推したりする。一方で20代が昭和のヒット曲をカラオケで好んで歌ったり、堅実な金銭感覚を持っていたり。

そうした従来の「年相応」の感覚が通用しない現象が近年目立つ。その傾向をデータで検証し、名付けられたのが「消齢化」である。

本書では、生活者の意識や好み、価値観などについて、年齢による違いが小さくなる「消齢化社会」の特徴や背景、未来予測などを、30年に及ぶ膨大な生活者データをもとに、有識者へのインタビューをまじえ詳細に解説している。

消齢化が「発見」されたのは、著者としてクレジットされている博報堂生活総合研究所が1992年から2年に1回行っている長期時系列調査「生活定点」(2022年は首都圏と阪神圏の20~69歳の男女3084名を対象に行われた)の30年に及ぶデータの分析過程だった。消齢化の背景には、日本社会において「できる」が増え、「すべき」が減ったため、誰もが「したい」を追求するようになったことがあるという。

著者は、博報堂の企業哲学「生活者発想」を具現化するために1981年に設立されたシンクタンク。人間を、単なる消費者としてではなく「生活する主体」という意味で捉え、その意識と行動を研究している。

はじめに ~さよなら、デモグラ。~
1.消齢化の発見
2.消齢化の背景
3.消齢化の未来
4.有識者と考える「消齢化社会」
5.発想転換のための8つのヒント
おわりに 消齢化発想で、新市場創造を。

■1992年からの30年間で年代間の違いが小さくなっている

はじまりは、2年に一度実施し続けている「生活定点」調査でした。調査をはじめた1992年から30年の節目となる2022年、これまでに集まった膨大な生活者データを見返していた私たちは、あることに気づきました。

たとえば「将来に備えるよりも、現在をエンジョイするタイプである」という生き方についての項目の回答。「生活定点」調査の対象者である20~69歳の男女全体の回答を示したグラフを見ると、1992年時点では39.0%、最新の2022年の調査では41.4%です。その間の数値を見ても40%前後で、30年間ずっと変化していません。

ですが、このグラフを年齢に注目して見てみると……。若年層(特に20代)で「今をエンジョイしたい」という意識が減少する一方で、高年層ではその意識が増えていて、結果的に年代間の違いが小さくなっています。

■年代ごとの特徴が薄らいでいく「消齢化」

このように、年代の違いが徐々に小さくなっていく変化が、いくつものデータにみられたのです。これらのグラフが示すこと。それは、30年という時間をかけて、生活者の年代に基づく価値観や意識の違いが徐々に小さくなっているということなのではないかと、私たちは考えました。

1992年から2022年の30年変化を見ると、年代による違いが大きくなっている項目は7項目。対して、年代による違いが小さくなっている項目は、なんと10倍の70項目でした。

次に注目したのは、NHK放送文化研究所が行っている「日本人の意識」調査。1978年から2018年の40年変化を見ると、年代による違いが大きくなっている項目は22項目。対して、年代による違いが小さくなっている項目は71項目でした。

このように、私たちは2つの長期時系列データを通じて、年代による違いが小さくなり、年代ごとの特徴が薄らいでいく、という現象を確認することができました。これは、無視できない大きな潮流なのではないか。ようやくそう確信し、私たちはこの現象を「消齢化」と命名しました。

3世代家族
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

■寿命70年時代の70歳と、100年時代の100歳は感覚的に同じ

消齢化の背景を探るために、年齢による違いが小さくなっているグラフすべてを見直してみたところ、変化の仕方に、あるパターン(型)を見つけました。各年代が増加しながら近づいていくパターン(上昇収束型)、各年代が減少しながら近づいていくパターン(下降収束型)、中央に集まるかたちで近づくパターン(中央収束型)という、3つのパターンが見つかったのです。

「上昇収束型」のグラフの項目を並べてみると、なんとなく共通しているものが見えてきました。どの年代も焼肉やハンバーグを好んで食べるようになったり、スマホを駆使したり……。私たちはこれらのパターンから生活者の気力や体力、ないしは知識の面で年齢による違いが小さくなっていることが、日本の消齢化の背景にあるのではと考えました。

議論していたとき、作家の山根一眞さんがかつて唱えた「人生ゴムバンド」という考え方に、一人の研究員が言及しました。「人生ゴムバンド」とは、たとえば寿命が70年だった時代の70歳と、寿命が100年の時代の100歳は、年齢の感覚的にだいたい同じであるという考えです。

■生活インフラの充実は年齢による生活の違いを小さくする

また、調理済食品をはじめ、コンビニや100円ショップ、ファストフードなど、安くて便利な衣食住の生活インフラは、昔と比べて大きく充実しました。近年は、スマホで知りたい情報に難なくアクセスでき、ネット通販や宅配サービスなども簡単に使えます。これらの生活インフラは、若い人から高齢の人まですべての人の使いやすさを考えて作られていますので、年齢による生活の違いを小さくする効果があるといえるでしょう。

野菜の入った段ボール箱を持つ女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

長寿化が進むなかで、高齢の人たちが、気持ちでも体力的にも、相対的に若くなっていること。暮らしを便利にしたり、楽しむためのインフラが、年齢に関係なく開放されていること。それらから私たちは、昔に比べ生活インフラの充実により生活者の「できる」が増えたことが、年齢による違いが小さくなっている背景にあると、結論づけました。

■家族のあり方や仕事へのスタンスが柔軟になった

次に、下降収束型のパターンについて。例えば、「子どもは親の老後の経済的な面倒を見る方がよいと思う」という項目が、このパターンです。下の年代だけでなく自分自身の老後がせまった上の年代までもぐっと減少し、全体的に下降しながら近づいています。

仕事への意識を問う「家庭生活よりも仕事を第一に考える方だ」という項目では、2012年では最大値であった60代の数値が顕著に減少していき、2022年の結果を見ると19.6%にまで減少しています。全年代の平均値である18.2%と、かなり近い数値ですね。

全年代で、家族のあり方や仕事へのスタンスが柔軟になったり、しきたりを重視しなくなったりしてきている。つまり社会から「すべき」が減り、皆がそれにとらわれずに暮らすようになった。これが消齢化のもうひとつの背景ではないかと、私たちは結論付けました。

さらに、中央収束型のグラフに見られるのは、いわば生活者の「嗜好(しこう)や興味、関心」について、上の年代と下の年代とが互いにすり寄るような形で違いが小さくなっているということなのではないかと、私たちは考えました。

■全年代を通じて生き方の選択肢が広がっている

若い生活者も上の年代の生活者も、以前の時代と比べて生き方へのしがらみが減り(=「すべき」が減った)、自由な生き方への手段は増加しました(=「できる」が増えた)。これは言い換えれば、全年代を通じて、生き方の選択肢が広がったということ。生活者たちは、一人ひとりの状況や欲求に合わせて、「年相応」や「適齢期」といった固定観念に縛られず、自分の「したい」を追求しはじめたのです。

ところで、そもそも現代は、生活者の嗜好や価値観がどんどん多様化して、「個の時代」や「多様性の時代」と言われています。私たちは、個に向かう時代の流れと消齢化は少なくとも同時に進行している動きであり、矛盾しているものではない、と考えています。

生活者が型にはまった「年相応」にとらわれず、自分の「したい」を追求しはじめた結果、「若者は、お酒が好きで、ファッションに関心が高い」「高齢者は、健康のためお酒は控え、ファッションへの関心は薄い」かつて言われていたような、そんな年代による好み・関心の違いや特徴は、消えつつあります。個人が自由に「したい」を求める動き、すなわち、一人ひとりの「個」の追求が、奇しくも年代間の好みや関心の違いを小さくすることにもつながったのです。

■「消齢化」市場では「タテ串」の発想が重要だ

日本が消齢化する前、年代によってライフステージも好みも違いが目立っていた時代。商品ポートフォリオの構築は、下の年代から上の年代までターゲットとなる生活者を積み上げ、それぞれを横に切り分けて、各年代層にフィットする商品を当て込むという、いわば「ヨコ串」の発想によって行われていました。

博報堂生活総合研究所著『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』(インターナショナル新書)
博報堂生活総合研究所著『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』(インターナショナル新書)

しかしこの先、消齢化によって各年代の好みや関心の違いが小さくなっていくならば、思い切って複数の年代を一気通貫して考える「タテ串」の発想こそが、有効性を増していくといえるでしょう。ひとつの年代の中では少数派だと捉えられてしまう意見や趣味・嗜好も、年代の壁を取り払えばひとつの大きなまとまりになり、新たな市場となるかもしれません。

たとえば、店舗やモールのフロア構成も、性年代に依拠したゾーニングから脱した「タテ串フロア」が増加。さらに「親子コーデ」「母娘旅行」など2世代を対象としていた消費も、祖父母・親・子どもまでを一気に貫いて「3世代消費」や「3世代シェア」を狙える余地も大きくなっていきそうです。

個々の生活者に向けても、ひとつの商品に若年時から触れてもらい、老齢になっても使い続けてもらう「超ライフ・タイム・バリュー(SLTV)戦略」も有効性を増していくと考えられます。幅広い年代の誰もが使用する、ごくごくシンプルな機能だけに特化した「超ユニバーサル商品」への開発に力を入れる企業も増えていくかもしれません。

■コメントby SERENDIP

現在多くのユーザーを獲得している主要SNSでは、いずれも参加に年齢の上限を設けていない。ツイッター(現X)などでは、匿名で年齢を明かさず投稿する個人がほとんどだろう。さらにメタバースでは、アバターによって自分の好きな年齢、性別になることも可能だ。おそらく日本だけでなく、世界的にも「年齢」がますます意識されなくなるのではないか。また、本書では、消齢化が進むと、高齢者、Z世代といった「両端」の年代よりも、真ん中のミドル層が、生活者のベンチマークとして、また両端の年代をつなぐ、コミュニケーションの要として重要になるとも指摘されている。消齢化は、現時点でわれわれが思うよりも大がかりなパラダイムシフトになる可能性を秘めているのかもしれない。

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