なぜ子供は「親の財布からお金を盗む」のか…なんでもウソでごまかす子供を一変させる"最高の一言"
プレジデントオンライン / 2023年10月27日 14時15分
■親の財布から1万円を抜き取った小学6年生
誰もいない家の中でサッカーのリフティングをして、陶器の人形を割ってしまったユウセイ。ごまかすために人形を捨ててしまいました。
「あの人形、どこにいったのかな」との母親からの質問に、「知らない」と返すユウセイ。母親は察して、「嘘をつくんじゃありません! 本当のことを言いなさい」と問い詰めました。最近嘘が多いので、父親にも厳しく叱ってもらいました。
ある日、ユウセイが学校から帰ってくると、テーブルの上に母親の財布が置かれていました。持って出るのを忘れたようです。ユウセイは財布を開き、そっと1万円札を抜き取りました。
「嘘つきは泥棒の始まり」という言葉があります。
確かに、ユウセイは嘘をついたことをきっかけに、財布からお金を盗む「泥棒」になってしまったように見えます。しかし、これは嘘をついたから泥棒になったのではありません。親に「嘘をつくんじゃありません!」と叱られ続けることで、不安とストレスが高まったことから攻撃性・衝動性が生じたのです。
■なぜバレバレなウソをついたのか
子どもが嘘をつく理由は、多くの場合、本人ではなく親にあります。子どもは、親に「怒られる」「悲しまれる」「否定される」などと思うから嘘をつくのです。これは、親によく思われていたい、嫌われたくないという不安な気持ちの表れです。
子どもの嘘に気づいたとしても、その場で指摘するのではなく、「泳がせる」ことをおすすめします。そして、また似たような嘘をついたときに、「あのときもさ、本当はそうじゃなかったよね?」などとさりげなく切り出すのです。
子どもが「ひょっとしてバレてる⁉」という顔を見せたら、「悪いけど、お母さんには全部お見通しだよ」と伝えましょう。「嘘をついてもすぐバレる」と子どもが思ったらしめたものです。「お母さんにはかなわないや。どうせ、嘘をついてもバレるんだから」と思うようになり、嘘はつかなくなるでしょう。
■「嘘」をついても泥棒になるわけではない
人間は誰しも清廉潔白ではありません。ところがなぜか、親になると、「私は嘘をつきません。完璧な人間です」という心持ちになってしまう方がいます。
これは、「嘘つきは泥棒の始まり」の呪縛があるからだと思われます。小さい子の小さな見え透いた嘘に、無意識にその子の将来像を重ねて「この子は犯罪者になってしまうのでは?」と怯える親御さんをたくさん見てきました。
![財布の中のお札](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/7/e/1200wm/img_7ec21bb66c4a9c0b58e92be55f97774b407400.jpg)
でも、よく思い出してみてください。親御さん自身にも心当たりはありませんか? 幼い頃「つい」ついてしまった小さな嘘……でも、泥棒になってはいませんよね。
「嘘も方便」という言葉もあります。むしろ、大人になってから「方便」の嘘を上手につくことで、人間関係を円滑に築いてきた部分もあるのではないでしょうか。
たとえば体調があまりすぐれない、気分がそれほど乗らないときに友人との約束を「ごめんね、今日、どうしても家の手伝いを頼まれて断れなくて」と言ってキャンセルできたりすることは、実は「ペアレンティング・トレーニング」ではとても大切だと考えます。
外の社会の人間関係も大切ですが、その前にまず自分のからだの状態を健康に保つために、家庭生活を整えるのを優先することを強く推奨します。そのためには「嘘も方便」は一つのスキルになりえます。
■不安があるから嘘をつく
「子育て科学アクシス」で学ばれている親御さんの成功事例をご紹介しましょう。
KUMONに通っているノリカ(小4)。「ちゃんと宿題やってるよ!」といつも口では言うのですが、プリントを確認してみると毎回、全然やっていません。もうすでにバレバレなのですが、「ペアレンティング・トレーニング」を学んでいるお母さんは、しばらく「泳がせる」ことにしました。
そしてある日――。白紙のプリントをノリカに見せながら、「真っ白で何も書いてないように見えるんだけど、あぶりだしたら文字が浮き上がってくるのかな~?」とついに聞いてみました。「何だ、バレてたんだ!」と呆気にとられるノリカ。その後は、「今日も宿題やってない!」と正直に話すようになったそうです。
お母さんが「何で正直に言うようになったの?」と聞くと、「嘘をついてもお母さんにはすぐにバレることがわかったから、やめた」とノリカ。嘘がバレてからというもの、「宿題を全然やって行かないから、今日も先生に怒られたんだよね~」などということも普通に話すようになったそうです。
子どもは、本当は嘘なんてつきたくないのです。親に怒られないか、嫌われないかと不安だから嘘をついてしまう。「嘘をついてもすぐにバレる」とわかれば、親に嘘をつくメリットはなくなります。嘘の根底にあるのは、子どもの不安なのです。
■不安を抱えた子供に「頑張れ」と言ってはいけない
「しんどい」とすぐに弱音を吐いてしまうヒナコ。父親はその度に、「大人の世界はもっと大変なんだぞ。頑張りなさい」と叱咤(しった)激励します。そして毎回、「会社員になると、通勤ラッシュが当たり前で、残業もあって、休みも少なくて……」と、自分の仕事の大変さを滔々と語り始めます。
そんなある日――ヒナコは、学校で「将来の夢」という作文を書きました。そこには、「私は将来に夢を持てません。お父さんが働いているのを見ていると、社会に出たら少しもいいことがあるように思えないからです」と書かれてありました。
「大人の世界はもっと大変なんだから」も、親が子どもに言いがちな言葉です。「大人の世界は……」という言葉をよく発するのは、私たちが知っている限り、父親が多いようにも思います。
しかし、「子どもの世界」と「大人の世界」は別物です。ヒナコが感じている大変さと、父親が感じている大変さは、同じレベルで語られるべきものではありません。ヒナコの父親は、「頑張りなさい」と言っていますが、子どもが「しんどい」と不安に感じているときに「頑張れ」と言うのは逆効果です。
![通りを歩く女子高生](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/1/1200wm/img_115e8d06ddcf111c669939318fe903b6386539.jpg)
■親が正論、アドバイスを言っても意味がない
親は励ますのではなく、子どもの言葉に耳を傾けるべきです。「どんなことが大変なのか教えて」と言葉をかけて、不安を受け止めてあげましょう。ようやく子どもが不安を語り始めても、正論やアドバイスはNG。そこはじっと我慢で、「オウム返し」に徹しましょう。
子どもの気持ちが落ち着いてきたら、正論やアドバイスをするのではなく、自分が子どもと同じ頃に悩んでいたことなどを語るのがいいでしょう。
「お父さんも同じくらいの年頃に、どうしても学校へ行きたくなくて、学校へ行くふりをして公園で時間をつぶしていたことがあるんだ」などと話すと、「へえ、お父さんもそんなことがあったの!」と子どもの不安はさらに消えていきます。
エピソードは、必ずしも実話である必要はありません。子どもの悩みに合う題材を選んで話してあげるのが、「一枚上手」である親の役割です。
■仕事の悩みを子供と共有するのがいい
「大人の世界は……」という言葉は使ってほしくありませんが、その前置きさえなければ、父親が自分の仕事の大変さを語るのは、そんなに悪いことではないと思います。むしろ、「会社でこんなことがあってね」と仕事上の悩みを子どもに話してみましょう。
たとえば、「上司にギリギリのスケジュールを組まれると、急がないといけないからみんな疲れてしまって、いい仕事ができなくなってしまうんだ。そうすると、また上司が怒って……。やっぱり仕事はギリギリでなく、余裕を持って進めないとダメだよね」という感じです。
父親がどんな仕事をしていて、どんなふうに大変かを知ることは、大人社会を知ることです。知らない世界について知ることは、子どもの脳への刺激となり、脳を豊かに育ててくれます。
■父親が言い過ぎたら、母親の出番
しかし、ヒナコの父親は、「適度に」仕事の大変さを語るのではなく、自分の仕事の大変さを「過剰に」語ってしまいました。
もし、父親が子どもに「言い過ぎてしまっている」と感じたら、母親の出番です。とはいっても、父親に「お父さん、そんな言い方はしないで、もっといいことも言ってあげて」と面と向かって言うのでは、夫婦ゲンカになってしまうと思います。母親は、その場ではなく、後でさりげなくフォローしましょう。
![成田奈緒子、上岡勇二『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(SB新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/3/1200wm/img_83a3b52550388391a1d6964b8be937d6324327.jpg)
ヒナコは中学生なので、前頭葉がかなり育ってきています。中学生になったら、もう子どもとして会話するのではなく、「年の離れた友達」として接するのがいいでしょう。
たとえば、「お父さんは毎日遅くまで大変な仕事をして、この家を支えるためにお金を稼いでくれているよね。社会人として、責任感のある立派な大人だね」と伝えた上で、「お父さんはああ言ってるけど、結構休みも取れる仕事なんだよ。
独身の頃は、お母さんとデートだってしていたし、今も仕事を休んでゴルフへ行くこともあるしね。子どもの前だと思ってちょっと盛り過ぎてたよね~」などと、ユーモアを交えながら、働くことのポジティブな面も伝えてあげるのがいいと思います。
■子供の成長は親の声かけ次第
最近、将来に夢や希望を持っている子どもたちが少なくなっていると感じます。将来の夢を聞くと、「特にない」「考えられない」などと答える子どもたちばかりです。子どもが夢や希望を語れない世の中になってきているのは、大人の責任だと思います。夢や希望を持ってもらえるように、私たちは知恵を使って言葉がけをしましょう。
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文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表
小児科医・医学博士。公認心理師。子育て科学アクシス代表・文教大学教育学部教授。1987年神戸大学卒業後、米国セントルイスワシントン大学医学部や筑波大学基礎医学系で分子生物学・発生学・解剖学・脳科学の研究を行う。2005年より現職。臨床医、研究者としての活動も続けながら、医療、心理、教育、福祉を融合した新しい子育て理論を展開している。著書に『「発達障害」と間違われる子どもたち』(青春出版社)、『高学歴親という病』(講談社)、『山中教授、同級生の小児脳科学者と子育てを語る』(共著、講談社)、『子どもにいいこと大全』(主婦の友社)など多数。
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公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ
公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ。1999年、茨城大学大学院教育学研究科を修了した後、適応指導教室・児童相談所・病弱特別支援学校院内学級に勤務し、子ども達の社会性をはぐくむ実践的な支援に力を注ぐ。また、茨城県発達障害者支援センターにおいて成人の発達障害当事者や保護者を含めた家族支援に携わる。2014年より現職。
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(文教大学教育学部 教授、「子育て科学アクシス」代表 成田 奈緒子、公認心理師・臨床心理士・子育て科学アクシススタッフ 上岡 勇二)
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