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「迷惑車両を自分の車で閉じ込める」はやらないほうがいい…無断駐車への「仕返し」がはらむ法的リスク

プレジデントオンライン / 2023年10月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TommL

私有地などへの無断駐車にはどう対抗すればいいのか。弁護士の阿部由羅さんは「SNSでは自分の車をギリギリまで横付けする『仕返し』の動画を見かけるが、むしろ相手から損害賠償請求される恐れがある。司法手続きを踏まない『自力救済』は避けたほうがいい」という――。

■無断駐車は「犯罪」に当たるケースが少ない

私有地への無断駐車は、法律に基づく対処が難しい問題の一つです。

「レッカー移動してしまえばいいのでは?」
「自分の車を横付けして出られないようにしたらどうか?」

いろいろな対策が思いつきますが、法的にはどこまで認められるのでしょうか。

本記事では、私有地に無断駐車する迷惑車両への対処法について、法的な観点から解説します。

1.私有地への無断駐車は犯罪か?

私有地への無断駐車について対処が難しい理由の一つは、犯罪に当たるケースが少ないため、警察の捜査が及びにくい点です。

私有地への無断駐車のうち、ごく一部のケースでは住居侵入罪などが成立しますが、大半のケースは犯罪ではなく、不法行為が成立するにとどまります。

■無断駐車が罪に該当するケース

1-1.住居・邸宅・建造物の敷地への無断駐車:住居侵入罪などに当たる

正当な理由がないのに、人の住居または人の看守する邸宅・建造物(・艦船)に侵入する行為には住居侵入罪などが成立します(刑法130条)。

住居侵入罪の対象となる住居・邸宅・建造物には、それに付属する囲繞地(いにょうち)(※)も含まれると解されています(最高裁昭和51年3月4日判決)。

※囲繞地:建物に接してその周辺に存在する付属地であり、管理者が門塀などを設置することにより、建物の付属地として建物利用のために供されるものであることが明示されているもの。

したがって、一般的な住居・邸宅・建造物の敷地への無断駐車については、住居侵入罪などが成立すると考えられます。

この場合、被害届の提出または刑事告訴をすれば、犯罪として捜査してもらえる可能性があります。

■不法行為は犯罪ではなく私人間の問題

1-2.月極駐車場などへの無断駐車:犯罪ではなく、不法行為が成立するのみ

一方、住居・邸宅・建造物の囲繞地(敷地など)に当たらない私有地への無断駐車には、住居侵入罪などが成立しません。その他の罰則規定も存在しないため、犯罪には当たらないことになります。

無断駐車によって、私有地の所有者は一定の損害を被るため、駐車した人は所有者に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法709条)。

しかし、不法行為は犯罪ではなく、あくまでも私人間の問題です。そのため、警察に解決を求めることはできず、当事者間の交渉や訴訟などを通じて解決しなければなりません。

■レッカー移動などの「自力救済」は原則禁止

2.無断駐車された車両をどかす方法は?

無断駐車された車両をどかしたいとしても、レッカー移動などで強引にどかすことは不可とされています。

あくまでも平和的に交渉や訴訟などで解決する必要がありますが、正式な裁判手続きには時間がかかるケースが多いため、私有地の所有者は難儀しがちです。

2-1.「自力救済」は原則禁止:レッカー移動などは不可

訴訟などの司法手続きによることなく、実力で権利を回復することは「自力救済」と呼ばれています。無断駐車のケースでは、私有地の所有者がレッカーなどを手配して、強引に車両をどかす行為が自力救済の典型例です。

故障した車を牽引するレッカー車
写真=iStock.com/ThamKC
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ThamKC

私人間のトラブルは司法手続きによって解決すべきであるため、自力救済は原則として禁止されています。

自力救済が認められる余地があるのは、違法な権利侵害に対して現状を維持することを不可能または著しく困難とする、緊急やむを得ない特別の事情が存する場合のみです(最高裁昭和40年12月7日判決)。

※最高裁昭和40年12月7日判決

飲食店の店舗が建っている土地の貸主(所有者)が、その土地に板囲いを設置しました。土地の使用貸借契約はすでに終了していたため、店舗に入れないようにすることが目的でした。

土地の借主である店舗所有者は、板囲いを強引に撤去・破壊しました。そこで土地の貸主は、店舗所有者に対して、板囲いの撤去・破壊に関する損害賠償等を請求しました。

最高裁は、私力の行使(=自力救済)は原則として禁止されているものの、違法な権利侵害に対して現状を維持することを不可能または著しく困難とする、緊急やむを得ない特別の事情がある場合のみ、必要の限度を超えない範囲内で例外的に許容され得るとしました。

しかし本件においては、店舗所有者がすでに旧店舗へ復帰して営業を再開しているなどの事情から、板囲いの撤去を行うべき緊急の事情が認められず、法律に定められた手続きによるべきであると判示しました。

その上で、貸主側の損害賠償請求等を認容した原判決を支持し、店舗所有者側の上告を棄却しました。

一般的に私有地の無断駐車は、たとえ放置したとしても、私有地所有者が直ちに著しい損害を被るものではありません。そのため、レッカー移動などの自力救済は認められないと考えられます。

■民事訴訟は時間も費用もかかる

2-2.自発的にどかしてもらえれば早いが……

無断駐車車両が自発的にいなくなれば、無断駐車が再度行われないように何らかの対策を講じることができます。退去を求める警告書などを張っておけば、数日以内に退去するケースも多いです。

しかし月極駐車場などでは、長期間にわたって無断駐車車両が放置されるケースもあります。

その駐車スペースの契約者に迷惑がかかりますし、契約者がいない場合でも、本来であれば貸し出せるはずの駐車スペースを貸し出すことができません。

ナンバープレートなどから無断駐車車両の所有者を特定して連絡しても、全く返信がないということもあり得ます。この場合は、訴訟などの法的手続きをとるほかありません。

■判決が確定しても強制執行の申し立てが必要

2-3.正式な裁判手続きは大変:時間もかかる

無断駐車車両の退去を求める際には、最終的に民事訴訟を提起することになります。

民事訴訟では、裁判所に証拠書類を提出して、無断駐車によって土地の所有権が妨害されていることを立証しなければなりません。

民事訴訟のルールに則って書類を作成・提出することは、それだけでも大変な作業です。弁護士に依頼する場合は、弁護士費用もかかります。

また、民事訴訟は時間がかかることも難点の一つです。無断駐車に関する訴訟が複雑にこじれるケースはまれですが(無断駐車が違法であることは明らかなため)、それでも判決が確定するまでには数カ月を要します。

さらに民事訴訟の判決が確定しても、実際に無断駐車車両をどかすためには、裁判所に強制執行を申し立てる必要があります。強制執行の申立てには費用がかかりますし、時間もさらに長引いてしまいます。

このように、大変な思いをして裁判手続きを利用することについて、私有地所有者の方が尻込みしてしまうのは当然でしょう。

■「仕返し」を目的とする横付けは違法行為に

3.無断駐車された車両に、自分の車を横付けして出られないようにするのはOK?

レッカー移動がダメなら、無断駐車の「仕返し」に、自分の車を横付けして出られないようにするのはどうでしょうか?

たとえば住居の私有地に無断駐車されているケースで、その場所でなければ自分の車を敷地内に停められない場合には、無断駐車車両に横付けすることもやむを得ません。

仮に「仕返し」の目的があったとしても、その場所に停めざるを得ないのですから、正当な私有地の利用行為であると認められる可能性が高いでしょう。

その一方で、「仕返し」の目的しかない場合には、正当な理由がない自力救済として違法と判断されるおそれがあります。

たとえば駐車場において、通常は車を停めない場所に不自然な形で横付けした場合には、「仕返し」の目的しかないと判断される可能性が高いでしょう。この場合、無断駐車をした人から、逆に損害賠償を請求されるおそれがあります。

また、無断駐車をするような人は、横付けされた状態でも強引に車を出そうとするかもしれません。その場合、自分の車が壊れてしまう可能性があります。

無断駐車車両の運転者に対して、壊れた車の修理費などの損害賠償を請求することは可能です。しかし、損害賠償請求には手間がかかる上に、無保険の場合は回収できない場合もあります。

「仕返し」の目的で無断駐車車両に自分の車を横付けすることは、余計なトラブルを招く原因になりかねないので避けるべきでしょう。

駐車場
写真=iStock.com/Dumitru Ochievschi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Dumitru Ochievschi

■そもそも無断駐車をさせない予防が一番

4.無断駐車への有効な対策は?

犯罪に当たるケースを除き、無断駐車に対する有効な対策に乏しい現状は、現在の法制度の限界を示しています。自力救済を原則禁止し、司法制度を実効化する観点からそうならざるを得ない部分があるため、短期間のうちに法整備が行われることは期待しにくいでしょう。

無断駐車に対抗するためには、そもそも無断駐車をさせないための予防策が重要です。具体的には、防犯カメラやロック板を設置するなどの対応が考えられます。

なお、無断駐車の予防策として「無断駐車は金○万円申し受けます」などと書かれた看板を設置している駐車場をよく見かけますが、法的な有効性には疑問があるところです。無断駐車をした人に請求できる損害賠償の金額は、実際の損害額に沿って算定されると考えられます。無断駐車による実際の損害額は、たとえば近隣のコインパーキングの料金や、無断駐車していた時間などを考慮して算出することになるでしょう。

万が一無断駐車をされてしまったら、正当な手段で根気強く対応するほかありません。

警告書によって速やかに退去するよう求める、ナンバープレートを手掛かりに身元を突き止めて連絡するなどの方法が考えられます。どうしても解決できない場合には、訴訟の提起も検討しましょう。

レッカー移動や自分の車の横付けなどは、そうしたくなる気持ちは分かりますが、リスクの高い行為であるため避けましょう。

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阿部 由羅(あべ・ゆら)
弁護士
1990年生まれ。東京大学法学部卒業、同法科大学院終了。2016年に弁護士登録後、西村あさひ法律事務所入所。不動産ファイナンス(流動化・REITなど)・証券化取引・金融規制等のファイナンス関連業務を専門的に取り扱う。民法改正・個人情報保護法関連・その他一般企業法務への対応多数。2020年11月、ゆら総合法律事務所を開設。

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(弁護士 阿部 由羅)

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