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ガソリン税は高いままで、石油元売り会社には補助金6兆円を投入…岸田政権の「国民いじめ」は常軌を逸している

プレジデントオンライン / 2023年10月21日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yusuke Ide

ガソリン価格の高騰を受け、岸田政権は年内で期限が切れるガソリン補助金を2024年3月末まで延長する見通しだ。テレビプロデューサーの結城豊弘さんは「行き当たりばったりの対策をいつまで続けるのか。ガソリン代を抑える奥の手であるトリガー条項を発動すべきだ」という――。

■3年半前のガソリン価格は124円/Lだった

車を運転する方は、ガソリンスタンドの電光掲示板の毎日の値段がとても気になることだろう。車をあまり運転しない私ですら、地方で車に乗っているとガソリンの値段表示につい目をやってしまう。

9月の頭には、レギュラーガソリン180円/L超えは当たり前。地域によっては、190円が目前のところもあった。160円台だったのは、いったいいつだっただろうか。記憶を辿れないほど遠い昔のように感じる。

資源エネルギー庁の資料を調べてみたらレギュラーガソリン1リットルあたりの小売現金価格(全国平均)は、2020年5月が一番安く、124.8円だった。

【図表1】レギュラーガソリン価格 全国平均推移(円/リットル)
資源エネルギー庁「給油所小売価格調査」より編集部作成

そこから2020年は、それでも130円台で推移。2021年の2月に141.4円にじわり上昇。4月に150.4円。そして、その年の10月には、160.0円に上がってしまった。

ウクライナにロシアが侵攻した2022年2月24日。直後の2月28日に行われた調査結果では、全国平均は172.8円になっていた。

■8月に最高値を記録、地方からは怒りの声

今年8月7日の調査は、180.3円と180円を超え、9月11日調査では182.2円になってしまった。同じ調査で長崎県のガソリンの平均価格は、なんと192.5円に達していた。鹿児島県でも192.4円。もう200円が目の前という状況だった。このガソリン価格は、ドライバーや流通業界には大変に厳しい値段だ。

「コロナの感染がやっと収束して、どんどん旅に行ってくれと言われても、こんなに高いガソリン代では、遠くに家族でドライブに行けるわけがない」

「物価も上がっているのに、運搬費がこんなに上がってしまっては、会社をやっていけない。お客さんには申し訳ないが、また商品に転嫁し値上げするしか手がない」と、私の生まれ故郷の鳥取県境港市の商店主や漁業関係者は、私にボヤキ節を浴びせる。

大阪や取材で訪れた秋田や北海道でも不満は同じだった。特に地方の方が、生活において車は、生活の必需品。車が無いと商売も通勤もできないという人も多い。それだけに、怒りのボリュームは大きかった。

このガソリン高騰は、政府や自民党に大きな焦りを呼んだことは言うまでもない。

8月28日には、レギュラーガソリンの小売価格は全国平均で185.6円となった。これは現在の方法での調査(資源エネルギー庁)での、1990年以降では最高値を更新した。この時、前週比でいうと1リットルあたり1.9円も上昇したのだった。

■価格上昇の最大の理由は「補助金の縮小」

なぜ、ガソリン価格がこんなに上昇したのだろうか。

その理由は簡単だ。

円安影響で原油の輸入価格を押し上げたこと。また、長期化するロシアのウクライナ侵攻で、原油価格が下がらず、またまた上昇傾向にあること。そして最大の理由が、政府が石油の元売り各社に支援補助してきた補助金が、徐々に縮小してきたことだ。

補助金の額は、原油価格の動きに連動する形で決まる。昨年の2022年4月〜12月には、1リットルあたり35円の補助金が入っていた。原油価格の高騰へ対応し、ガソリン価格上昇を食い止めるためだった。

しかし、その後、原油価格が少し落ち着きを取り戻し、今年6月以降は、下降傾向をみせていたため補助金が減っていく。

WTI(West Texas Intermediateの略。米国の代表的な原油で先物取引が行われ、原油価格の代表的な指標となっている)の先物価格は、今年に入って1バレル60ドルまで値下がりすることもあったが、8月には、80ドルあたりまで値上がり。サウジアラビアの自主的減産やコロナ後の世界的な経済の回転影響とロシアへの経済制裁などの複合的な影響で、原油は再び上昇傾向になっている。

そこにまた突然降ってきた、イスラエルとパレスチナ・ハマスとの戦火は、中東情勢に新たな不安定と怨嗟を巻き起こし、産油国サウジアラビア、エジプト、イランの動向が世界のオイルマネーに影響するのではないかとの懸念が広がる。実際にじわじわと原油価格も上昇傾向を見せているのが不気味だ。

■国民は燃料節約のために努力しているが…

値段が上がるのは、ガソリンだけではない。それはそうだ。原油が上がるのだから仕方がない。例えば石油由来のプラスチック製品や日用品、トラックの燃料となる軽油も上がる。そうすれば物流費、配達費にも影響が出る。そして、灯油も上がる。

先日まで気温30度以上の日々が続いていたのに、秋が突然やってきた。北海道でも今年は、記録的な猛暑で10月頭でも30度近かったのに突然秋がきた。10月9日のスポーツの日には、北海道の各地の気温は軒並み20度以下になってしまった。そして、さらには、もう雪の便りも聞こえ始めた。ということは、北海道のみならず、日本中で灯油が必要になる日ももうすぐだ。そうなると、より国民の負担は増えることになる。

少しでも燃料費を減らそうとして、トラックの走行距離が短くなるように配達ルートや走行ルートを見直すなど、配達業者や運送会社もいじましい努力をしている。アイドリングを短くし、急停車をできるだけやめたりなどの工夫をし、燃料の節約を行っている。

この記事を読んでいるタクシーの運転士さんやトラックの運転士さん、そして普通のドライバーの皆さんも、きっと「節約運転を強いられているのに、ずっと高いガソリン代のまま。いったいいつになったら安くなるのだろう」と不満タラタラなのではないかと思う。私も同感だ。

■いつまでガソリン補助金に税金を投じるのか

政府は、そんな国民の怒りと不安に応えるために、当初9月末までに終わる予定だった燃料価格の負担軽減策を見直し、年末までの継続に舵を切った。

全国平均で、レギュラーガソリンの小売価格を175円/L程度に抑えるために、段階的に石油元売り各社への補助金拡充を明らかにし、9月7日以降、段階的に補助金を入れている。ちなみに、9月までに補助に投じた予算総額は6兆2000億円にも上る。

岸田総理は、これで10月中旬までには、なんとかガソリンの1リットルあたりの全国平均小売価格を175円以下に抑えると意気込んだ。10月18日公表データでは174.7円/Lとギリギリで目標達成したが、国民が「これで助かった」と喜ぶような価格でないことは明らかだろう。

ガソリンスタンドでレギュラーガソリンを給油しようとしている人の手元
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

この補助金注入の特別措置だが、12月年内末までだったのが、またまた延長し、来年3月末までは継続する方向だというのだ。しかし、もし原油価格が下がらなければ、そのあとは一体どうなるのだろうか? 大きな傷口に何度も何度も絆創膏を貼っていても傷は治りにくい。抜本的な治療をしない限り治療費がかさむだけではないか。それと同じだ。

先ほど北海道の話をしたが、冬の暖房に欠かせない灯油や、農家のビニールハウス、漁船の燃料に使われる重油、トラック燃料の軽油もどうなるのだろうか。

政府は、このままずるずると臨時措置を延長し、石油元売りへの補助金継続をするに違いないと私は思う。ここは予言をしておこう。絶対にそうなる。補助金はそう簡単には、やめられない。ある意味、麻薬だ。

そんな行き当たりばったりの政策で本当にいいのだろうか。

石油価格を安定させ、物価上昇を抑えるためにもガソリン代や税の抜本的な改革が、今こそ必要なのではないだろうか。政治家や政府はもっと真剣に考えてほしい。

■沖縄の離島では200円/Lを突破している

実は、ガソリン代高騰でもっと深刻な地域がある。それは沖縄だ。沖縄県の離島ではレギュラーガソリンの店頭価格が、なんと200円/Lを超えているという。

私と一緒に番組を作っているスタッフが、9月末に沖縄の宮古島や石垣島の状況を報告してくれた。

「石垣島で取材のためにレンタカーを借りたら、ガソリン代が高いのに驚いた。レギュラーで1リットル202円ですよ。一瞬見間違いかしらと思いました」と。

これでは普通に車の使用に躊躇が生まれる。

しかし、日々の営業やタクシー、運搬、医療、介護の車、あるいはホテルへの送迎バス、公共交通機関などは、車の使用を控えるといってもそこには限界がある。冒頭にも書いたが、地方にとっては、車は、生活の大切な足だ。電車やバスの発達している都会よりも話はもっともっと深刻だということを忘れてはならない。

■ガソリン税に消費税がかかる二重課税問題

国民民主党の玉木雄一郎代表が9月10日のBS フジテレビのプライムニュースでこんなことを言っていた。

「ガソリン代は、もともとガソリン本体の代金に、ガソリン税などの税金が課税されている。その上に支払いの時には、合計金額に、さらに消費税がかけられる。これは二重課税ではないのか」と問題提起した。

まったくもって指摘はその通りだと私は思った。玉木氏によれば本来の消費税はガソリン1リットルあたり11円位。しかし、実際は16円になっている。ということは5円ほど余計に支払っているという。

その上、玉木氏は、ガソリン税の暫定税率は「当分の間の暫定」だと言っているが1974年から続いているとも指摘した。

■トリガー条項を発動すれば25円/Lも安くなる

腑に落ちない点はまだある。トリガー条項をなぜ発動しないのか。トリガー条項とは、そもそも、ガソリンの1リットルあたりの小売価格の平均が160円を3カ月連続で超えた場合にガソリン税が1リットル28.7円に引き下げられるというもの。2010年の税制改正で導入された。しかし、2011年の東日本大震災で復興財源確保を優先するため一時凍結されている。

ガソリン税には、そもそも揮発油税と地方揮発油税の二つが含まれ、これを総称して「ガソリン税」と呼んでいる。現在1リットルあたり53.8円がこのガソリン税だ。その上に「石油石炭税・温暖化対策税」2.8円まで乗っかっている。まさにガソリンは税金の塊。つまりは、ガソリンの1リットルに支払うお金のうち、約4割は税金なのだ。

これに玉木氏指摘の消費税がかかっていく。「税金を取りすぎじゃないか」との疑問が国民から上がっても不思議ではない。

【図表】ガソリン小売価格の内訳(1リットル当たり174.7円の場合)
編集部作成

国税庁の見解では、消費税は「課税資産の譲渡等の対価の額」を基準に計算。この「対価の額」には、ガソリン税が含まれているという。で、なぜかというと税金は石油メーカーが納税し、その価格が商品価格に含まれているという説明だ。納税義務はガソリンメーカーにあり、製造コストとして商品のガソリンに価格反映されているから二重課税ではないという。

この説明、何度聞いても私は納得がいかない。だって税金が二重に課せられているのは、事実ではないか。

■政府がトリガー条項を発動しない本当の理由

その上、ガソリンの値上がりを抑えるための奥の手として設けられた「トリガー条項」は、法律が作られてから、結局のところいまだかつて一度も発動してことがない。これを発動するためには、発動そのものを止めている「震災特例法」を改正するしかないからだ。

ガソリン高騰を受けて、今年8月には自民党や野党でトリガー条項の発動が議論されたが、結局、見送られてしまった。

その言い訳は、ガソリン価格の動向が不透明で、補助金ベースで対応できるからというものだったが、「民主党政権下で作られた法律だし、一度使ったら、何度も使わないといけなくなるかもしれず歯止めが効かない。税収も減るし運用が難しい」というのがトリガー条項の発動に躊躇した政府の本音だ。

しかし、せっかくガソリン代を抑える有効な法律があるのだから、使うべきではないのかと私は考える。もっと真剣に対策を考えなければ、今後ずっと、傷に絆創膏を貼り続けることになりかねない。そのほうが、消費にも物価にも悪影響をもたらすだろう。

だいたい、補助金は国民の税金である。すでに6兆円超もの補助金を注入して、ガソリン代を抑制してきたが、いつまで続くのかは不透明だ。いつ補助金が打ち切られるかわからない状況では、会社の予算計画を立てにくく、運送コストの見通しも立ちにくい。

■岸田首相の政策は「みせかけ」ばかり

2022年度は、補正予算で31兆6232億円の支出追加を行った。しかし、決算段階では使わなかった金額(差引剰余金)は、21兆3439億円になった。31兆円も追加で予算を増額しておきながら、21兆円も使い残す。いったい予算はどうなっているのだろうか。使わずじまいの予算は、まるで買うものがないのに、おねだりするだけの駄々っ子のようだ。

「景気対策に使うぞ」と威勢良く補正予算で財政出動を演出しておいて、みんなの注目の薄れる年度末で使わずじまいの多額の予算が出る不思議。なんとなく分かったような分からないような、ふんわりとした説明が続く岸田政権。その「みせかけ政策」と反対論を煙に巻く巧みな手法は、しっかりとチェックするべきだ。

物価高騰を見据え、地方の悲鳴にももっと真摯(しんし)に耳を傾けてほしい。ガソリン代の高騰はその氷山の一角だ。岸田政権には、経済の好循環を生み出すためにも、ガソリン代を下げる努力を怠らないでいただきたい。

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結城 豊弘(ゆうき・とよひろ)
テレビプロデューサー
1962年鳥取県境港市生まれ。駒澤大学法学部卒業。元読売テレビ報道局兼制作局チーフプロデューサー。「そこまで言って委員会NP」「ウェークアップ!ぷらす」「情報ライブミヤネ屋」の取材・番組制作を担当した。現在はBSテレビ東京「石川和男の危機のカナリア」の総合演出や、プロデューサーとして各局の番組制作を続ける。その他、鳥取大学医学部付属病院特別顧問と境港観光協会会長を務める。合同会社ANOSA CEO 。著書に『オオサカ、大逆転!』(ビジネス社)、『吉村洋文の言葉101』(ワニブックス)、共著に『“安倍後"を襲う日本という病』(ビジネス社)がある。

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(テレビプロデューサー 結城 豊弘)

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