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ありえない偶然はなぜ起こるか?

プレジデントオンライン / 2012年10月31日 9時30分

信州大学 人文学部准教授 菊池 聡 1963年、埼玉県生まれ。専門は認知心理学。

「論理じゃなく、直感力でやれば物事はうまくいく」。そう書かれたビジネス書をよく見かけますが、果たしてそれは正しいのでしょうか。たしかに、経営上の決断を、その人の直感力に頼って正しく判断できたケースもあるでしょう。ただ、忘れてはならないのは、「直感力に頼って潰れた会社も膨大にある」ということです。

ただの偶然とは思えないような神秘的な一致が起こることはしばしばあります。たとえばペニシリンは、実験中のシャーレに、偶然青カビが紛れ込んでいたのを見た科学者の、“直感”で発見された。こうした「偶然の一致」は、科学の発展の歴史にはなくてはならないものです。

ただ、発見というのは、科学者が常にそのことを考えていたからこそ生まれるわけです。偶然の一致が生み出す「発見」があまりに脚光を浴びてしまうがゆえに、科学のもう一つの重要な「正当化の文脈」――思いつきや発見が本当に正しいか検証し、裏付けする段階は見逃されがちです。この裏付けの段階を怠ると、単なる偶然の一致を特別な何かなのだと後で意味付けしてしまうのです。

背景に意味のある「偶然の一致」とそうでないものの違いを見分けるために、ビジネスの現場における「偶然の出会い」を例に挙げましょう。

たまたま会いたかった人に出会って、その人と一緒に仕事をする機会を得ることがあります。この場合、出会いそのものは偶然でも、もともと企画を温めていたり、出会いから触発されて企画したりすることによって偶然が「必然」に変わるわけです。これは意味のある「偶然の一致」です。

一方、何の裏付けもない「偶然の一致」はというと、偶然出会って、偶然仕事がうまくいっただけなのに、「あの出会いは運命の導きだった」というように、背景にまるで何かがあったかのように思い込み、なんとなくうまくまとめてしまう。

「こうやったらうまくいったから、今度もこうしよう」と誰だって思いますよね。冒頭で述べた「直感力」に頼る経営はこのケースに当てはまりがちです。

(PIXTA=写真)

たとえば、ダイエーの創業者・中内功氏は成功体験の中から背景にあるさまざまな事象を見出す目がありました。うまくいけばいくほど自分のやり方に自信をつけていく、これを「確証バイアス」――“成功体験の罠”といいますが、そんな確固たる自信と積み重ねのある人にとって、その前提が崩れたときが失敗のときです。中内氏の場合は、周囲の状況が大きく変化していたにもかかわらず、成功体験があることが“罠”になり、方向を修正できなくなってしまったのです。

人間は、自分のものの考え方や周囲に対する解釈を一貫させるため、例外が起こらないように考えを修正してしまいます。だから、間違いに気づかない。そのため、成功者は「成功している自分は失敗してはならない」と考えがちです。それ自体は悪いことではないのですが、そう考えがちになる自分がいることを認知しておくことが大切です。

「クールマインド・ホットハート」という言葉があります。新しいものを発見し、偶然の一致にいろいろな意味を見出そうとする前向きな動機づけを行うハートと、そこで生じる思考のバイアスを冷静に意識するマインドを持とう、という意味です。

このように、自分自身の心の動きを自分で認知し、よりよく制御しようという考え方は、心理学では「メタ認知」と呼ばれます。こうしたハートとマインドをバランスよく共存させうる人が、成功者になりうるのではないでしょうか。

(信州大学人文学部准教授 菊池 聡 構成=相馬留美 撮影=和田佳久 写真=PIXTA)

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