「ちょっと顔が濃くて言動がウザい人」を演じたら日本最強…ムロツヨシが老若男女から愛される本当の理由
プレジデントオンライン / 2023年10月22日 13時15分
■ドラマ、映画、CMと引っ張りだこの人気俳優に
この2週間強、彼のことばかり考えている。気分は黄金原聡子。NHKのコント番組「LIFE!」で、シソンヌのじろうが演じた熱狂的なファンの女性である。誰のファンかというとムロツヨシだ。あまりに考えすぎて、念が歪んで飛んでしまったのか、「ムロツヨシが腹膜炎で入院」のニュースが流れてきた。快復を祈るばかり。
「カタカナ5文字」、「愛嬌(あいきょう)あるほくろ」、「友達多そう」。ムロツヨシは、いまや主演も務め、老若男女だけでなく動植物や有機物からも好感をもたれる勢いの人気俳優だ。
NHK大河「どうする家康」では晩年に老害と化した豊臣秀吉を怪演、10月期は芸能マネージャーからパラリーガルに転職したワケアリ男として「うちの弁護士は手がかかる」(フジ系、毎週金曜21時~)で主演、来年2月には主演映画『身代わり忠臣蔵』も公開予定。引っ張りだこの彼がいかにしてスターダムに上り詰めたのか、軌跡を振り返ってみる。
■ハマり役は「ちょっと顔が濃くて言動がウザい人」
最も古い記憶は「なんか変な人」。讃岐うどん宣伝映画『UDON』(2006年)で東京から来た浮わついた観光客の役だ。タンクトップなのに首にマフラーを巻いた男がムロツヨシだった。セリフはなかったと思うが、「矛盾してんなぁ」と記憶に残った。
その後、ドラマ『プロゴルファー花』(2010年・日テレ系)で、チンピラ金融(佐藤二朗)の弟分役で悪ふざけする姿に笑った。ヤッターマンで例えるならばボヤッキー&トンズラー的立ち位置。とにかく軽妙なコメディでじわじわと着実に幅を広げていき、特に福田雄一作品で知名度は爆上がり。
テレ東の『勇者ヨシヒコ』シリーズで演じた金髪マッシュボブの魔法使い・メレブ役は適役で当たり役だ。絶妙なアシストの陰で巧妙な功名心や嫉妬を全開、「ただのいいヤツ」では絶対に終わらせない脇役の矜持を感じた。どこにでもいそうな、ちょっと顔が濃くて言動がウザい人の役をやらせたら右に出る者はいない、そう思わせた。
賛同する人が少ないが、ムロツヨシはパーツイケメンである。誰が何と言おうとパーツは二枚目。何かとほくろを強調したり、天然パーマを悪目立ちさせる役を演じるのも、そもそも美形だからだ。そのおかげで二枚目役は皆無。二枚目役と積極的かつ意図的に競合しない、という盤石の防御策が功を奏したとも思っている。
■ムロの好演が光る映画4作
劇中、顔や残す印象は濃くても、軽くてゆるい存在感。逆に、真摯(しんし)な立ち位置や重苦しい場面でも、うっすら滑稽みや哀愁をもたらしてしまう。でも、「綺麗事ばかりじゃない、そこに人間のリアルがある」と考える作り手からすれば、ムロの起用には納得がいく。そんなリアルを追求しているのはやはり映画が多い気がする。
ということで、近年の出演作品でムロの吸引力が強かった4作に触れておこう。
まず忘れることのできない、みっともなさと哀しさを表現したのが『ヒメアノ~ル』(2016年)だ。主演(森田剛)の同級生・岡田(濱田岳)の職場で微妙に先輩風を吹かす安藤の役だ。
好きな女性(佐津川愛美)が岡田に好意を抱いていると知り、1週間欠勤&ひきこもり。世の中に3万人くらいいそうな、ひとりよがりで思い込みの激しい男性を好演。一挙手一投足が想像以上に独善的で矮小(わいしょう)。同情や共感を1ミリも抱かせないまま、激痛の惨劇に見舞われる役だった。痛々しいムロツヨシベスト1と思っていたが、さらにもう1作、激痛必至の作品がある。監督は同じ、吉(つちよし)田恵輔だ。
■痛々しい中年男役がすばらしい
『神は見返りを求める』(2022年)では、飲み会で知り合ったパッとしないYouTuber・優里(岸井ゆきの)の撮影を手伝うことになった中年男・田母神の役。
優しくてお人好し、面倒見がいい田母神は見返りも求めず、下心もないといえばない。ところが、優里は人気が出るにつれ、傲慢(ごうまん)になっていく。優里から煙たがられて嫌悪されていく田母神の姿はあまりにも切なすぎる。でも、これ、現実ね。若い女が中年男を踏み台にする構図は、古今東西の物語の定番であり、普遍的な法則でもある。
恩知らずな優里にブチ切れた田母神は、YouTube上で優里を貶め始める。凄絶な喧嘩に発展するのだが、実にリアリティのある展開で心がヒリヒリした。若さは凶器だとわかっていない中年男の悲哀と悲劇。吉(つちよし)田監督が「この痛々しい中年男の現実をさらけ出せるのはムロツヨシの他にいない」と思ったかどうかはわからないが、求めるモノを見事に体現したのではないか。
父娘のお涙頂戴と思ったら大間違いなのが、金井純一監督の『マイ・ダディ』(2021年)だ。妻(奈緒)が事故死して8年、一人娘(中田乃愛)を育てる牧師の役。神に仕える身ではあるが、決して裕福ではない。娘が白血病に倒れたことを機に、苦悩と試練を与えられる。牧師なのに神の存在を疑いたくなるような不運と絶望に襲われるムロツヨシは、実に健気な父親をまっとうしていた。
■引く手あまたになるのもよくわかる
もう1作、荻上直子監督の『川っぺりムコリッタ』(2021年)では、主人公(松山ケンイチ)の隣人・島田役。ちょい体重増で挑んだと思われるこの役は、「穏やかなワントーンがもたらす無類の図々しさ」を発揮。
孤独な主人公の生活にズカズカと侵入するも、ひどく傷ついた経験があり、優しさと弱さも持ち合わせている。厄介の一歩手前、適度な距離を保ったお節介にムロツヨシはぴったりだった。
しょっぱい現実に必要なのは、現実に圧し潰される無様な姿も、現実を見ようとしない図太さや浅はかさも醸し出せる役者だ。予算もコンプライアンスもスポンサー対応も、何もかもがいろいろとしょっぱい令和においては、作り手が欲しがる人材であり、引く手あまたになったのも納得がいく。
■「大人だけど少年のような人」
とにかく役者の友達が多い印象で、関係が長く続いている様子もうっすら伝わってくる。
仲良しといえば小泉孝太郎が有名だ。旅番組「小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅」(フジ系)も不定期だがレギュラー化。北海道でヒグマに遭遇したり、戦闘機F15に乗ってマッハ1や7.3Gを体験したり、沖縄でパラセーリングを楽しんだり。
5回目の放送(10月11日)ではアメリカで話題の大谷翔平の練習風景を見学したりして。とにかく自然体で、ウケを狙うこともなく、面白いことを言うでもなく、おっさんふたりで旅を楽しむだけ(ムロ本人も「おれら楽しんでるだけだぞ?」と言及)。
政治家の家に生まれたがゆえの苦悩と複雑なコンプレックスを抱えているらしいお坊ちゃんの孝太郎(意外とやさぐれ系)を、さらっと流してしれっといなすムロツヨシの平面(フラット)外交。
サプライズゲストの俳優が軒並みムロツヨシと仲良しなのに、孝太郎は「初めまして」が多い。つまり企画の半分はムロ人脈の広さで成立しているということだ(父・小泉純一郎は別)。ふたりが独身であることをネタにさせられている感には正直辟易するが、気負わずに観られる旅番組として人気も高い。そういえば、ムロはアメリカの占い師に「大人だけど少年のような人」と言われていたっけ(そのまんまだなとは思ったけれど)。
![フジテレビ「小泉孝太郎&ムロツヨシ 自由気ままに2人旅」公式サイトより](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/9/1200wm/img_5973d7ef0ac6b4b1ede22f27c7a6389f398513.jpg)
■「健全な交友関係の長さ&広さ」がもたらすもの
ここ数年、性加害や暴言暴力、薬物、交通事故の隠蔽(いんぺい)などで(不倫も入れとこか)、数多くの俳優が一瞬にしてキャリアを失って表舞台から消える姿を見てきた。好事魔多し、人気も実力もこれからというときには調子こいてしまうものなのか。
しかし、健全な交友関係の長さ&広さ、そして人を見極める目をもつムロツヨシは盤石だ。所属俳優がムロツヨシと本多力だけの事務所で、悪事に加担するほどの権力もなさそうだし。リスクマネジメント特A、起用する側にも安心感がある。
■ムロによるムロの舞台もいい
また、10年近くライフワークとして続けてきた『muro式』は、ムロツヨシがやりたい役者とやりたい脚本をやる舞台だ。
2018年に活動休止したものの、2021年に『muro式.がくげいかい』で再開。作り手の矜持もある。
特にヨーロッパ企画との親和性が秀逸だと思っている。本多力と永野宗典と組むトリオはホントにおかしい。いい年こいた3人の知性と幼稚性の掛け算が凄い。すべてを観たわけではないが、個人的には『muro式.10 シキ』は最高傑作だと思っている。「スノーモービル・ハイ」はウイットに富んだ速度と完成度の高い舞台だったし、ムロが亡くなった愛犬・黒船に扮する「オワリ。」では大笑いした後、不覚にも泣かされた。
ムロツヨシの定番である、「おぃ」と「わ」の連続発声、「わ」の5段活用(わぁわぃわぅわぇわぉ)、神業クラスの舌ったらず、コヒルイマキ縛りなど、安心してどっぷり堪能するなら、この舞台なのかもしれない。
■軽妙・リアリティ・安心感の行く末
主演作も増え、恋愛ドラマの主人公も朝ドラ出演も大河での大役も務め、声の仕事もCMもこなし、東京スカパラダイスオーケストラとのコラボも果たした、安全・安心・盤石なムロツヨシ。「毎日スケジュールがいっぱいになる」ことを目指してきたと話していたが、今まさにその状態ではないか。
今後は、ぜひ持ち前の美形パーツを活かした渋い二枚目も演じてほしい。往々にして、二枚目俳優は年齢とともにどこかで飽きられる。正しくて清い二枚目だけ演じてきた人はよほどのゴリ押しがあるか、様式美かレジェンドにならない限り、出番が減っていく。若さ礼賛のこの国では「清く正しく美しく+若く」が求められるからだ。それゆえ、二枚目から三の線へ、正義から邪悪へ、主役から脇役へ、転向して成功する俳優もいる。ムロツヨシは逆をいけると密かに期待している。
また、徹底的に悪、性根の腐った悪役も観てみたい。「クズだけどどこか憎めない、人間味のある悪役」ではなく、一億人から総スカンを喰らう級の極悪人を。
脳内では平幹二朗や津川雅彦、あるいは長門裕之を想像しているのだけれど、どうかな。「どうする家康」での秀吉のくたばりっぷり(第39回)を観て、ふと思ったので。病を治し、激忙を乗りこなして、さらなる活躍を願っている。
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ライター
1972年生まれ。千葉県船橋市出身。法政大学法学部政治学科卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。医療、健康、下ネタ、テレビ、社会全般など幅広く執筆。2010年4月より『週刊新潮』にて「TVふうーん録」の連載開始。2016年9月より東京新聞の放送芸能欄のコラム「風向計」の連載開始。テレビ「週刊フジテレビ批評」「Live News イット!」(ともにフジテレビ)のコメンテーターもたまに務める。
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(ライター 吉田 潮)
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